Dominance&Submission
Suite
トイレから、今度はバスルームに連れて来られる。 枷とクリップが外され、僚は男に抱えられるようにして浴室に入った。 静かにシャワーを浴びせる男から目を逸らし、僚は思いつめた面持ちで立ち尽くしていた。緊張を強いられていた身体に、温めの湯はとても心地良かった。 段々と気持ちが落ち着いてくる。 だが、恥ずかしさだけはどうしても抜け切らなかった。そのせいで男の顔をまともに見る事ができず、僚は眉根を寄せて俯いていた。 思い出す度に頬が熱くなる。排泄しながら、射精してしまったのだ。 しかも男の目の前で。 直前に囁かれた言葉がきっかけだったとしても、自分が興奮していた事には変わりがない。 排泄を強制され、なのに許されない状況に興奮していたのだ。 ぎりぎりまで追い詰められ、恥を忍んでトイレに行きたい理由を口にする自分に酔い痴れていた。 情けない姿を男に晒す自分に、勃起するほど興奮してしまったのだ。 それをからかわれ、排泄と同時に極まりを迎えた。羞恥よりも、快感の方が強かった。ねっとりと絡み付く、毒々しい官能に身体が震えた。 だが、こうして冷静さを取り戻した今、さっきまでの自分に身悶えるほどの羞恥を覚える。 なんて恥ずかしい事をしてしまったのだろう。 僚はますます顔付きを険しくした。 横に立って、神取は苦悩する僚の引き結んだ唇にそっと口付けた。 瞬間はっとしたように口を開きかけ、僚は慌てて顔を背けた。心なしか、頬が赤く染まる。 神取は笑みを浮かべると、石鹸に手を伸ばし、僚の身体を洗い始めた。 横から腕を伸ばし、シャワーを浴びせながらゆっくりと石鹸で肌を撫でる。少し強張った感触が手のひらに伝わってくる。 腕から肩、首筋にかけて石鹸を滑らせ、洗い流しながら徐々に下腹へと這いおりる。 へその辺りにさしかかったところで、僚の身体がぴくりと反応を見せた。 神取は口端を緩めた。尚も手を這わせる。 「いっ……自分で…洗う……」 顔を背けたまま僚は言った。聞き入れてもらえない事を承知の上で。 案の定、それで男の手が止まる事はなかった。 神取はシャワーヘッドを浴槽の中に置いて両手を空けると、石鹸を擦り合わせて充分に泡立たせ、背後から抱きすくめるようにして僚の下部に両手を滑らせた。 「っ……」 喉を鳴らして息を飲む。 敏感な部分を覆い隠すそれを上下に撫でながら神取は丹念に石鹸を塗り込めた。柔らかい肉を下からすくって揉みしだくと、そこでまた僚の口から吐息がもれる。 必死に声を殺そうとしているのがたまらなく愛しかった。 神取は肩越しに見下ろし、時折耳に届く僚の吐息を愉しみながら執拗にそこを責めた。 だが、直接中心に触れる事は避け、周りの際どい部分や柔肉だけにとどめる。 それでも僚の下腹は次第に変化を始め、少しずつ頭をもたげてくる。 それにつれて僚の息遣いも次第に乱れていった。切なげに呻いて喉を上下させ、下腹を弄る手に合わせて腰を揺する。 そうして僚が無言で誘っても、中心部は単純に洗い清めるだけにとどめ、それ以上の刺激を与える事はしなかった。 「僚…鏡を見てごらん」 自分の肩を見つめ、押し殺した喘ぎをもらす僚の耳にそっと囁く。 「見るんだ」 羞恥に震え、一度では従わない僚に再び静かな口調で促す。 おずおずと、僚は鏡に映る自分に視線を向けた。 「ろくに触ってもいないのに、ほら、もうこんなになっているよ」 くすくすと愉しそうに笑う男の吐息が耳にかかる。言葉と同時に柔肉を弄ばれ、僚は頬を赤らめて俯いた。と、男の手がするりと離れ、今度は後方に触れられる。 「んっ……」 尻の奥、小さな口の表面を指先で撫でられ、僚はがくがくと膝を震わせた。 男は何度も指を滑らせ、それからゆっくり、じれったいほどゆっくりと指先を後孔に埋めていった。 「く、う…ん……」 少しずつ侵入してくる男の指に、僚は切なげなため息をもらした。知らず内に後孔を締め付け、もっと欲しいと言外にねだる。 それを無視して、男は焦らしながら指先を進めた。 完全に根元まで埋め込まれた指を何度も締め付ける。僚は途切れ途切れに喘ぎ、いっそめちゃくちゃにかき回して欲しいと男を見上げた。言葉に出来ないお願いを眼差しで訴える。 「どうした」 しかし神取は、僚のお願いに気付かぬ振りを装い意地悪く聞き返した。 「……身体を洗っているだけなのに、感じてしまったのか?」 羞恥に瞳を揺らし、僚はかすかに頷いた。 「そんな風に触ったつもりはないのに、感じてしまうなんて。恥ずかしくはないのかい?」 言葉を代えて淫乱と言われた事に眉根を寄せ、僚は顔を伏せた。 それを強引に上向かせ、神取は目を覗き込んだ。目を逸らそうとするのを一言で禁じ、しばらく目を見合わせる。 僚の瞳は、羞恥と隣り合わせの快感に潤み小刻みに震えていた。扇情的な色に染まった眼差しが憐れに震える様に、魅了される。 「恥ずかしくはないのかい?」 そう言って指を引き抜き、また根元まで埋め込む。内部には一切触れず抜き差しを繰り返す。 僚は甘い吐息をもらしながら、苦しそうに顔を歪めて恥ずかしいと答えた。 「ここをこんなにして、恥ずかしい?」 今にも泣きそうな顔で頷く。これ以上苛めないで欲しいと心の中で祈るが、無駄だった。 「触ったらすぐに、いってしまいそうだね」 男は尚も言葉を続けた。 「いきたいかい?」 意識して締め付ける僚の後孔をこじ開けて指を突き刺し、根元まで埋め込んでから静かに引き抜く。ねっとりと絡みつく内部が触って欲しいと誘うのを無視して、神取は執拗に無愛想な抽送を繰り返した。 曖昧な刺激に、頭がどうにかなってしまいそうになる。快楽に溺れかける自身を必死に食い止め、僚はこくりと頷いた。 「まだ、駄目だよ。我慢しなさい」 にっこりと微笑み、穏やかな口調で神取は言った。 半ば予想していた応えに、僚はぐっと奥歯を噛み締めた。 「何でも言う事を聞くと、言っただろう。今は我慢しなさい。その代わり……後で嫌と言うほど、いかせてあげるよ」 底なしの快楽を、味わわせてあげよう 最後は声を潜め、僚の耳元で囁く。 全身がぞくりとざわめく感覚に、僚は震えを止められなかった。 この後に待ち構える底なしの快楽に、怯えと期待が交錯する。 「僚、一つ教えてくれないか」 僚の身体を優しく洗い流しながら、神取は静かな口調で問い掛けた。 「排泄しながらいくのは、どんな気分だ?」 最も聞かれたくない事を口にされ、僚は咄嗟に耳を塞いだ。 神取は喉の奥でくっと笑い、耳を塞ぐ手の甲に唇を寄せた。見ると、眦に新たな涙が浮かんでいた。 あまりの愛しさに、思わず僚を抱きしめる。 「答えないなら、お仕置きをするよ」 それでも僚は、頑として口を閉ざしていた。 肌を通して伝わってくる僚の鼓動に、更なる欲望が膨れ上がる。優しくしてやりたい気持ちと、もっと涙を飲みたい欲求とが複雑に絡み合う。 腕の中で身体を強張らせる僚の額に口付け、神取は口端に薄く笑みを浮かべた。 |
洗面所の大きな鏡の前に立ち、僚は、自分の身体を丁寧に拭う男の姿を視界の端に映していた。男の手が身体に触れる度、下腹は熱く疼いた。 洗面台の鏡とは別の、全身を映す鏡に晒された自身のそこが、刺激を受ける度目に見えた反応を示す。 すぐ後ろに立っている男が、それに気付かないはずがない。だのに続く沈黙が、いっそ消えてしまいたいほどに重く圧し掛かってくる。 出来るだけ鏡を見ないよう俯いて、僚は息を顰めた。目を閉じる事は出来ない。目を閉じると、先刻指を抜き差しされた後方までが疼きだして、欲望が溢れ出てしまいそうになるからだ。 今でさえ完全に、内股が引き攣るほど硬く勃起しているのに、目を閉じて思い出せばそれだけできっと射精してしまうだろう。 もしそんな痴態を晒したら、それこそ男に何を言われるか。 僚は出来るだけ刺激から意識を遠ざけ、視線の先にある壁紙の模様を目で追って熱を鎮めようとした。 だが、それは無駄な抵抗に等しかった。 たとえ視界から完全に男を追いやっても、自分に触れている手が誰のものなのか認識すれば、逃げる事はかなわない。 自分を追い詰め、自分を溺れさせるのは誰なのか。 散々弄られ、ほぐされた後孔の疼きが僚を苛む。耐えようとしても、気付けばまた無意識に腰を揺らしていた。 鏡の中で、男に身体を弄られ扇情的に腰をくねらせる自分に目眩を覚える。 何度も、喉まで出かかった拒絶の言葉は、今日の始まりに思わず口走ってしまった一言によって何度も打ち消される、そして、恥ずかしいという思いが快感にすりかわるえもいわれぬ感覚に、無意識の内に酔い痴れていた。 次第に、意識がぼんやりと霞み始める。 寝室の扉が閉まる音で、僚ははっと我にかえった。 気が付けば、いつの間にか寝室にたどりついていた。少し離れた場所には、ガウンをまとった男がこちらを向いて立っていた。 穏やかな視線に、かっと頬が熱くなる。 衣服の一枚も身に着けず、熱く疼く自身のものを晒したままここまで歩いてきたのかと思うと、あまりの恥ずかしさにいっそ消えてしまいたくなる。 「ベッドに乗りなさい」 寝室の隅で所在無く立ち尽くす僚に、そう言ってベッドを指し示す。 ごくわずか頷いて、僚はベッドに向かった。 屹立した自身のものが、足を踏み出す度にゆらりと揺れるのを恥じ入り顔を赤く染めたまま、僚はおそるおそるベッドに乗り上げた。どんな姿勢を取ればいいのかわからず、ほんの端で膝立ちになって身体を硬直させる。 神取はクロゼットのチェストから二、三の性具を取り出すと、それを手にゆっくり僚に近付いた。 びくびくと肩越しに振り返る僚に軽く笑いかけ、手にした一つを目の前に置く。 「これはいつもの馴染だね」 目にした途端眦をほんのり染め、僚はさっと顔を背けた。そっぽを向いたまま、小さく頷く。ほんの数センチの、つるりとしたピンクのプラスチック。 わかっているなら口に出す必要はないが、恥ずかしそうにしながらも律儀に答える僚に心の中でそっと笑う。 そっと、愛でる。 「ではこれが何か、分かるかい」 ベッドサイドのテーブルにローションのボトルを置き、僚の手のひらにのせる。 僚はそれをしげしげと眺め、訝しげに眉根を寄せた。指先ほどの小さな黒いそれは、見たままを言えば、何かの部品、ねじの一つに思えた。組立家具に使われるような、留め具の一種。 しかしこの場において、男が差し出すものがそんな、単なるねじのはずがない。 であれば何かとは、皆目見当もつかなかった。 もう片方の手に携えられているものなら、すぐに答えは言える…口にするのはどうしてもためらわれるが。 すると心を読んだかのように、男はもう一方の手にあるもので僚の胸元をくすぐってきた。 僚はくっと眉根を寄せた。 反応に満足げに笑い、男が訊く。 「これは、どこに入れるもの?」 大小の球が連なるそれも、お馴染みのものだ。 何度も泣かされた記憶のあるそれに知らず知らず身体が熱くなる。 僚はわずかに喉をひくつかせ、口を噤んだ。言葉で言えない代わりに、ごくわずか膝を開く。 使われる箇所を、男に示す為に。 条件反射のように疼き出す身体が、しようもなく恨めしい。 「そう、正解だ。いい子だね」 いっそ優しい声に、僚は目を潤ませた。恥ずかしさからか、それとも。 「ではこれは、どこだと思う?」 男が四つ目を見せてきた。 形は、先のそれと酷似していた。大きさは段違いだが。圧倒的に小さいのだ。 芯棒に球状のでこぼこを組み込んだ、スティック状の黒いそれを一番目に見せられたなら、恐らく、マドラーかと答えたかもしれない。 「!…」 しかし、先ほど見せられたアナルビーズの後では、嫌でも、正解が分かってしまった。 これほど細いもので後孔を弄る事はないだろう。しかしこの細く小さなものも、しっかり使い道はあるのだ。 ちゃんと、身体に備わっているのだ。 それがどこなのか、これはどこを苛める為のものなのか、僚は悟った。 「じゃあ、これも……?」 手のひらに目を落とし、男を見やる。 「さすが、君は察しがいいね」 神取は笑って応えた。強張った眼差しを向けてくる僚からついと目を逸らし、テーブルのボトルを手に取る。 「水をすくうように、両手を合わせて」 僚は言われた通り、黒い小さな性具を手にのせたまま、何かを貰う時のように手の縁を合わせた。 神取はそこに少量のローションを垂らした。黒い性具が溺れかける。ボトルをまたテーブルに戻し、後ろから抱き締めるようにして僚の身体に腕を絡めた。 「んっ……」 微かな声が、震える唇から零れた。 男の両手が勃ったままの性器を包み込んできたのだ。十本の指が滑らかに動き、先端を、竿を優しく刺激してくる。 柔肉をゆるゆると撫でられ、僚はたまらずに腰をくねらせた。 男は執拗に先端を嬲った。 「やっ…そこばっか、やだ…あ……」 もっとも敏感な箇所を親指の腹がじっくりと舐める。擦られる度ぴりぴりと脳天が痺れ、声が止まらない。 「ここをこうして擦られるの、好きだろう?」 「あっ……んん」 「僚、答えて。好きじゃない?」 「す、すき…でも……」 刺激が強すぎて、少し辛くもある場所。 神取はにこりと笑い、腕の中で可愛らしく踊る少年を堪能する。 「正解が分かったところで、僚、ここを責められた事は?」 腕に抱いた身体がびくりと跳ねる。 小刻みに震えを放つ様は、いつもと違って思えた。 「ない……」 ごく微かな吐息が、そう答えた。 それは嬉しいと満足しかけた時、しゃくり上げるようにして僚は言葉を続けた。 息が大分引き攣っていた。 「ほんとうに、ないです……ないから」 初めての事に怯えている、それほど怖がらせてしまったかと、神取は、一度宥める為に抱き直した。 「大丈夫だ、僚。それほど悪いものでもないよ」 静かに頭を撫で、頬をさすり、落ち着かせる。 「ほんとうだから…鷹久――神取さん……」 以前を思い出させる呼び方。男は手を止めた。頬をさする指に、零れてきた涙の滴が触れる。 思考がしばし停止する。 ゆっくり動き出した頭で考え、恐らく僚は、自分が、以前の行為を咎めたと、そう勘違いしたのだろうと推測する。 「ご、ごめんなさい……」 今にも消え入りそうな声が、辛うじて男の耳に届く。 そんな事はない。出来るだけ穏やかに応える。 「僚、大丈夫。君が謝る必要なんてない」 悪い事なんて、何もしていない。 彼の心に未だわだかまる過去の出来事を、ゆっくりとした言葉で溶かしてゆく。 この時ばかりは支配者の貌を控えさせ、彼を慰める事に集中する。 「大丈夫だよ、大丈夫。僚、君は私のものだよ」 ここにちゃんと証拠がある。 指先で、左耳のピアスをすくう。そして背後からしっかりと抱きしめ、彼が望んでいるひと言を手渡す。 君は私のものだ。 一拍置いて、深いため息がもれた。笑ったようだった。 「俺は、鷹久の……」 あんたのもの。 小さく頷きながら、僚は呟いた。 「そう、やっと手に入れたんだ」 再び頬を撫でる。どうやら涙は止まったようだ。呼吸も穏やかなものになった。 「……ごめん」 いつもの声音を聞き取り、男は安堵する。 「いいんだ。そんな君が好きだよ」 頬に口付ける。そして、律儀に両手を揃えたままでいた僚のそこから、ローションに濡れた黒い性具を摘まみ上げる。 「小さいし細い、それにほら、柔らかい。初心者用のものだ。怖い?」 肩越しに僚のそれを見下ろし、顔に目をやる。 僚もわずかに顔を向け、少し、と答えた。 しっとりと濡れた睫毛が、小刻みに震えていた。 「でも、鷹久は怖くないから」 まっすぐに見つめてくる少年に、男はゆっくり笑みを浮かべた。そっと囁きかける。 「僚、キスして」 潤んだ目で熱心に見つめられて、たまらなくなった。男はねだった。 同時に、今し方のショックで下を向き始めた僚の性器を片手ですくい上げる。 「……あっ」 「キスして」 唇の上で囁く。 眦を朱に染めて、僚は小さく口を開いた。待ち構える男の唇を舌先でぺろりと舐め、深く重ねる。 「んんっ!」 男の手が動き出す。ゆっくりと、上下に扱き始める。 互いの口の中で鳴き、僚は舌を絡めた。しばし耐えるが、巧みに刺激を送り込んでくる手に耐え切れなくなり、顔を背けて喘いだ。 「あぁー、あ…あぅっ……ん、そこ!」 いつしか僚の腰が、男の淫撫に合わせてくねり出す。 どこがより感じるか知り尽くした手が、的確に僚を責める。そしてすっかり硬く反り返ったところで、一旦手が離れる。 はあはあと胸を喘がせながら、僚は男を見た。 目を見合わせ、引き連れるようにして男は視線を落とした。 ぐっと、男の手が少し強めに性器を掴む。 もう片方の手には、狙い定めた性具があった。 「やだ……」 僚は息を詰めた。 覚悟は出来ていたが、いざ入れられるとなると恐怖が過ぎる。 「あ……ごめ、ん」 半ば混乱した様子で僚は口走った。 「大丈夫。決して、君を傷付けたりしないから」 「う、ん」 凝視したまま、僚は何度も頷いた。 わかっている、心から信頼している。 何でも、許せてしまえる。 この男だから。 それでも、未知の行為に身体が強張る。 「うぅ――!」 狭い器官に入り込んでくる異物に、僚は歯を食いしばった。実際のところそれほどひどい痛みはないのだが、思い込みに縛られ、過剰に声を上げてしまう。 「もう大丈夫だ僚、息をして」 根元まで埋め込み、手を離す。ぎこちなく目を向ける僚に安心させるように笑いかけ、神取は胸をさすってやった。 悲しげに、恐ろしげに自身の下部を見つめる様を見ていると、更なるいたずらを仕掛けたくなる気持ちがむくむくと湧いてきた。 「どんな感じだい? ひどく、痛む?」 「……痛くは、ない。へいき。でも広がったような、変な感じが……」 未だ手を揃えたままの僚に笑いが込み上げる。本人は、初めての体験にどうしていいか分からないと戸惑っているのが、またおかしかった。 神取は、僚の手に残ったローションを自分の手にも塗り付けると、彼の手首を取り、下部に導いた。 「え、いや……」 「試したい事があるんだ。力を抜いて」 「た、かひさ……やだぁ……」 「ほら、怖くないから触ってごらん」 やや強引に、自身のものを握らせる。 僚は言われた通り、おずおずと己の性器に触れた。しかし、指が強張って上手く動かない。 神取はその上から包むように手を重ね、僚のそれを握らせた。 「痛い?」 「へいき、だけど……なにを?」 今にも泣きそうに顔を歪め、妖しく笑う支配者に尋ねる。 そのまま、自分のいいように擦って自慰をしてごらんと、神取は言った。 「そ、そんなの……」 呟き、僚は俯いた。 「怖い?」 やや置いて、彼は頷いた。 「恥ずかしい?」 もう一度頷く。 神取は口端を緩めた。 「君の、恥ずかしそうにしている顔を見るのが、一番好きだよ」 耳元で囁くと、僚の顔がわずかに弛緩する。 ともすれば残酷な言葉も、好きという一言で許せてしまう。 僚はごくりと喉を鳴らした。 何より、好きだと言わせている事に誇りさえ感じる。 自分が言わせているのだと思うと、それだけで全てを許せてしまえるのだ。 見れば、ひどい違和感があるだろうにもかかわらずそこは少しも萎えていない。 神取は愉しげに目を細めた。 「君とこうしている時が、一番楽しい」 「……あっ」 ローションに濡れた手で、尻奥を弄る。もう片方は僚の手を誘導する。 「さあ、ほら……動かして」 ぬるつく手で僚の手を撫でる。 「う、ん……」 やがてぎくしゃくと、僚のほっそりとした指が性器を弄り始めた。 併せて男は後孔に中指を埋め、同時に煽った。内部に潜む一番いいところを狙い定めて抉る。 高い声で鳴き、腰を浮かせる僚を逃すまいと言葉で制し、前後に同時に刺激をもたらす。 「や、だめっ……そんなに、したら……」 「いきそう?」 「す、すぐに…、でも……」 僚は悲痛な眼差しで自分のそれを見やった。的確に追い上げてくる男の指が、猛烈な勢いで射精欲を煽る。しかし、自分のそこには栓を噛まされている。このままでは出せない。そうなったら、この身体は、どうなってしまうだろう。 「だ、から…おねが……」 はっはっと喉を引き攣らせ僚は懇願した。 「大丈夫、ほら……我慢せずにいきなさい」 耳元に口を寄せ、囁きを流し込む。 「やだぁ……」 僚の身体がぶるぶると大きくわなないた。 直後、極まった呻きが低くもれる。びくびくと腰を蠢かせ、嬲られた先端から白いものを吐き出した。通常の射精とは勢いも違うが、たらたらと、達した証を溢れさせた。 「え、あ……」 そして本人も、それなりに満足感を得られたようだ。戸惑った顔をしているが、息遣いはそれほど乱れてはいない。 「中が空洞になっていてね、ちゃんと、通せるようになっているんだ。気分はどうだい?」 問いかけると、乱れた自分を見せたのが恥ずかしくなったのか、僚は肩を竦め俯いた。 彼が隠したがる恥ずかしがり屋なのは知っているが、余計な無理だけはさせたくない。神取は頬に手を当て、確かめようとした。 するとほぼ同時に、僚が抱き付いてきた。ガウンをきつく握り込み、縋ってくる身体を、神取は愛おしげに抱きしめた。 「すこし…きついだけ」 「それはよかった。なら、まだ楽しめるね」 「…まだ、する……?」 「まだ、お仕置きが残ってる。それに、何でもすると、そう言ったろう?」 優しく投げかけると、やや置いて僚は顔を上げ、潤んだ瞳を男に向けた。 「俺は、あんたのものだから……」 その顔には、うっとりとした笑みが浮かんでいた。 「いい子だ。愛してるよ、僚」 深く唇を重ねる。 言葉の代わりに、僚は激しい口付けで応えてきた。思いが全て詰まった勢いに、ややもすると男は圧倒される。 全身で挑んでくるのをしっかり受け止め、神取はそのまましばしキスに溺れた。 一つに溶け合った錯覚に、溺れた。 |