本当にうるさい

 

 

 

 

 

 最初は互いの唇の柔らかさを確かめるだけだったのが、段々と相手の中へと侵入していく。
 斉木さんはそうしながらオレの肩に捕まり跨ってきた。そして、キスしたまま股間を擦り付けてくる。
 斉木さん…それまずいっス、このままだとオレ海パンの中に出しちゃいます。
 それは情けない。
 でも。
『しないのか?』
 遠回しにはっきり聞いてくる斉木さんに、頭の芯が痺れたみたいに熱を持つ。
 そりゃ、する。
 今すぐしたい。
「でもここ、斉木さんのお気に入りなんスよね。だから、その…やった、記憶残していいのかなって」
『むしろ寄こせ』
 斉木さんの熱い舌が口の中に伸ばされる。
 なんだ、オレがぎりぎりで堪えていたように、斉木さんも同じようにぎりぎりだったのか。
 斉木さんも、オレの事欲しくてたまらないって思ってたのか。
 それで全て合点がいった。
 ロッカーであんなにせっかちになってたのも、ここにオレと二人で来たかったからだ。
 一秒でも早く二人きりになって、それから。
 オレは噛みつくように斉木さんの舌を求めた。
 それ以上に激しく、斉木さんに吸い付かれる。
 普段は性欲とは一切無関係で、下手すると何もついてませんそれを超越した生き物ですなんて風に見えるけど、とんでもない、この人はとんでもなく強欲だ。
「さいきさん……!」
 上手く喋れない。
 喉が引き攣るほどの興奮に見舞われる。
 押しやるように海パンをずらして、斉木さんのも片脚脱がせて、もうすっかり雄の形になった互いのそれを擦り合わせる。
「あぁー……」
 上擦った自分の声が恥ずかしくて顔が熱くなるが、気持ち良さが上回ってどうでもよくなる。
 入れたい入れたい、オレもう入れたい。
 早く斉木さんに食べてもらいたい。
 斉木さんの中、熱くてうねうねして、最高に気持ちいいんだ。
 早く早く、ねえ早く。
 そんなオレを笑うように、斉木さんはわざと大きく腰を動かしてオレを翻弄してきた。
 くそ、もう、なんて事するんだ。なんでこんな可愛い事するんだちくしょう。
 本当に欲張りでどうしようもない人だな。
 いいよもう、痛がったって、やめてやらないからな。
 ほぐしていない後ろに自分をあてがうと、斉木さんの身体が一気に強張った。
(ゆっくりしますから)
『いい……早く』
(でも絶対痛い)
『いいから早く……鳥束』
 斉木さんの余裕のない声に、目の前がちかちか明滅した。

 

 行為の際中、斉木さんは貪欲に快楽を求める。
 どこをどうしてほしいのか、気持ちいいのかよくないのか、はっきり伝えてくる。
 時には自分から腰を振る事もあった。
 すっかりとろけ切った顔と、頭の中で響く斉木さんの気持ちいいの声は、この上ない幸福感を与えてくれる。
 ぎゅうっとしがみ付いてくる熱い腕も、忙しない息遣いも、全てが興奮材料になる。
「ここ、いい?」
『うん、うん……気持ちいい、気持ちいい』
 普段の、冷酷で澄み切った顔がここまでだらしなくとろけるなんて、何度見てもたまらない。
 それだけでオレはいきそうになるが、何とか堪えて、もっとと欲しがる斉木さんに応える。
 へそに力込めて踏ん張って、そこにもっと欲しいって言うものを与え続けると、斉木さんはとうとう口からかすれた声を出すまでになる。
 喉元までで留めていおけなくなって声が出るようになると、ほどなく斉木さんは射精する。
 だからオレももうひと踏ん張りだ。
 初めてした時は、鼓膜を震わす斉木さんの肉声に堪えきれず射精してしまった。
 それほどに色っぽく、破壊力が高い。
(やべ……!)
 今だって、思い出すだけでこのざまだ。
 慌ててキスで口を塞ぎ、斉木さんをいかせることに専念する。
 一緒に上り詰めることだけを考える。
『あぁ…鳥束、とりつか』
 とりつか
 斉木さんの声が頭の中で反響する。口の中で響き渡る。
「斉木さん、さいきさん……好き、好きだ」
 斉木さんの腕がオレの頭を抱いてくる。べちゃべちゃと唾液を絡めるキスをしながら、合間に好きだと告げる。斉木さんはただ頷くだけだった。
 欲しいも気持ちいいも驚くほど素直に表すのに、好きのひと言はまだ言わない。
 聞けばちゃんと頷いてくれるんだ、何度でも、どんなにしつこく聞いたって。
 でも、自分からは好きと言わない。
 そんなとこが、オレは好きだ。
 言葉もそりゃ欲しいけど、なくたってかまわないってくらい斉木さんは全身で好きをぶつけてくる。
 骨がきしむほどオレを抱きしめて、なりふり構わず腰を振って、オレを飲み込んだそこを締め付けて、気持ちいいと歌ってくれる。
「斉木さん、大好きだ……!」
「っ…っ……あ!」
 高く上ずった声がして、斉木さんはとうとう欲望を吐き出した。
 その声があまりに色っぽくて、オレも我慢せず斉木さんの中で爆発させる。
 受け止める斉木さんの身体が、小刻みな痙攣を繰り返すのを、オレはぼうっと霞む頭で見つめていた。

 

 綺麗な喉元を惜しげもなくさらして仰け反り、うっとりと射精の余韻に浸った顔を見ていると、またもしたくなってきた。
 斉木さんは上向いていた顔をゆっくりオレの方に戻すと、ちらりと繋がった部分を見下ろして笑った。
 オレもつられてそっちに目を向ける。
 互いの胸や腹に斉木さんの出した白いものが飛び散っていて、なんていやらしいんだろと目が潤んで仕方なかった。
 もったいなくて、オレは半ば無意識に指で擦り取って舌になすり付けた。
 斉木さんはその手を掴んで、ぐいっと引っ張った。
 明らかに怒っている顔がそこにはあり、なんでだとオレは驚いた。
 理由は、そのすぐ後に理解出来た。
 理解してまた驚いて、きゅうっと胸が疼いた。
 この人、自分の出したものにまで嫉妬したんだ。
 オレの気がそっちに向くのが嫌で、だからあんな乱暴に手を引っ張ったんだ。
『……違う』
「違わないっス」
 怒った、拗ねた顔でオレを睨む斉木さんに、唇を寄せる。
 一瞬逃げる素振りをしたけど、追いかけると素直になって、身を預けてきた。

 

 なんなんですか、あんたのそういうところ本当にたまんないですよ。
 おののく斉木さんの腰に腕を回して固定して、オレは無我夢中で腰を動かした。
 好き、ああ好き、大好き斉木さん。
 もっとよくなって、ねえここ好き?
 オレとするの、好き?
 奥の方擦られるのと、前扱かれるの、どっちが気持ちいい?
 どっちも好き?
 じゃあ先っぽと根本とどっちがいい?
『うるさい……鳥束うるさい』
「なんスか、うるさいのがいいんでしょ、好きなんでしょ、ねえ斉木さん」
 ぐいぐい突き上げながら、オレは縋るように聞いた。
 斉木さんは今にも泣きそうに顔を歪めて、揺られるに任せてがくがくと頭を振った。
『だからもっと、僕が狂いそうなほどうるさくしろ』
 言われなくたって、頭の中はいつだって斉木さんの事で一杯だよ。
 身体も心も、魂まであんたで一杯になってるよ。
 斉木さん、あんたと一緒だよ。
『一緒じゃない……!』
 力任せに肩を押され、支えきれずにオレは仰向けに倒れた。
 まっすぐ向かってくる斉木さんの目はとても勝ち気で、お前なんか到底僕に及ばない…そう物語っていた。
 くそ、と負けん気が起こり、それ以上に、こんなにも想われている自分が幸福で、世界一幸せで、だから斉木さんをもっと幸せにしてやりたいと気持ちが膨らむ。
(あ……も出る)
『いく……!』
 とりつか
 たまりにたまった欲望が破裂して、目の前が真っ白に染まる。
 オレの肩にしがみ付き、ふうふうと息をつく斉木さんを大事に抱きしめ、オレは目を閉じた。

 

 

 

 本当に何か爆発したのかもしれない。
 二人してレジャーシートに寝っ転がって、事後の心地よいかったるさに浸っていると、斉木さんがのっそりと起き上がり、島の奥の方を振り返った。
 オレはそんな斉木さんを下から眺めて、ああこの角度もいいなあなんてぼんやり幸せを感じていた。
 やってしまった、そんな呟きを拾ったのはその時だった。
 耳にして少し経ってから、オレははっと目を見開いた。
 島の奥へ目を向けたまま斉木さんは気まずい顔をしていた。
 んん……まさか、え、まさか?
 段々はっきりしてくる意識で、オレは聞き間違いでなかった場合の心配事を心の中であれこれかき混ぜた。
 やってしまったって何をやった?
 てかやっちまったって言ったよね、言ったよね間違いないよね?
 何やっちまったんスか斉木さん。
 大丈夫なんスか、おーい。
『鳥束、うるさい』
「いやいやいや斉木さん、何やっちまったんスか」
 じろりと斉木さんの目玉が自分を向く。目付きや表情から推測するに、それほど手遅れとか取り返しつかないってものじゃないのがわかってちょっとホッとしたけど、果たして何をやってしまったというのか。
 斉木さんの焦り顔とか中々珍しいですもん、気になる。
 もうなにその顔、可愛いにも程がある。
『本当にうるさい』
 開き直ってそっぽを向くところも可愛いです。

 

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