おやすみなさい良い夢を
ループ絡みで少しお疲れの斉木さん。

甘える

 

 

 

 

 

 四月、最後の週初め。
 以前に比べたら月曜日は全然嫌な日じゃなくなったが、そうは言ってもやはり昼休憩後の授業は少しばかりかったるい。
 腹一杯で眠くなてきて、このまま昼寝出来たらさぞ気持ち良いのになって思ったところで授業が始まるのは、なかなか辛い。
 ので、オレはエロ本片手にこそっと教室を抜け出し、屋上へ向かった。
 以前に比べたらサボり癖も随分減ったが、やはり時々は出てきてしまう。
 今日はちょっと風が強くて、でもいい陽気で、外に出たオレは思い切り伸びをした。
 見つからないよう階段室の陰に回り込むと、意外な先客がいた。
 斉木さんだ。
 立膝で座り込んだ斉木さんが目に入り、オレは小さく驚いた。

 あら珍しい、というかアンタもサボったりするんスね。
 そんな事を思いながら近寄ると、きつい目付きで睨まれた。
 え、え、それってサボるなって意味の睨み付けっスか?
「サボり仲間なんだし、仲良くしましょうよ」
 笑いかけるが、斉木さんは無言だ。いや、喋らないのはいつも通りだけど、テレパシーも送ってこないなんてどうなってんだ。
 そんなに怒んなくてもいいじゃないっスか。
 ここで静かに大人しく読書してますんで、アンタの邪魔はしないんで、そう睨まないで下さいよ。
 愛想笑いで何とかしのぐ。
 そんなオレに、自分はサボりじゃない、自習の課題は済んだから自由時間なだけだ、とかなんとか斉木さんが云う。
 それもある意味サボりじゃないかなーって頭で思ってると、異様なほど殺意を込めた目で見据えられ、オレは身も細る思いを味わった。
 宥めつつ、オレは隣にお邪魔して同じように座り込む。

 なんか今日、変なの。
 でも思い返せば、朝通学路で会った時も、さっき一緒に昼食べた時も、確かにちょっと違ってたかもしれない。
 改めて斉木さんの顔を観察する。
 オレが顔を向けてから少しして、斉木さんも目を向けてきた。いかにもギロッて感じの、おっかない目付きでオレを向く。
 なに、オレ、何かやらかしちゃった?
 さっきの昼休み、嫌な事言っちゃった?
 もしもそうならいつもみたいに遠慮なく、変態クズだの死ねだの言わないのも不自然ですよ、我慢しなくていいっスよ。

 斉木さんは強張った目付きをよそへ向けると、ぽつりぽつりと説明してくれた。
 今日は少々虫の居所が悪いらしく、そんな自分に苛々するので、極力抑えてるのだそうだ。
 ああ、そうなんスか。
 うん、まあね超能力者も人間だものね、今日はなんだか意味もなくイライラするなぁとか、あったっておかしくないよ普通だよ。
 でも斉木さんはそんな自分が嫌だと首を振った。
「ねえ、斉木さん」
 それってもしかしてさ、イライラじゃなくてムラムラじゃない?
「抜いてスッキリしたら変わるかも」
 右手を軽く上下させてたら、復元が必要なほど殴られた。
 痛みも何もないけどオレはショックを受け、腹を押さえて青ざめた。
『……すまん』
 自己嫌悪に陥る斉木さん。
「い…いいっスよ」
 見ての通り無傷だし、ゲスい事言ったオレが悪いんだし。
 どってことあったけど、いつも通りなんでどってことないっス。
 というか、こんなくらいで悪かったとか謝るなんて、アンタ、今日はホントに調子悪いんスね。

 落ち込んで俯く斉木さんを見ていられず、オレはぐいっと肩を抱き寄せた。
『今しがた殺されかけたってのに。お前、頭おかしいな』
 うわ、辛辣だなあ!
「はは、すんません。そりゃまあすげぇ衝撃はありましたけど、別にどってことないっスよ」
 何よりね、恋人が落ち込んでたら励ますのが当然ですし。
 苛々してる分身体に力が入ってるけど、斉木さんは特に抵抗する事なくオレの腕に収まっていた。
 甘えられてると思うと、胸がきゅーんとなった。
 もう斉木さん、大好き!
「ね、上向いて、キスしよ斉木さん」
 上向かせると目が少し潤みがちで、オレは思わずドキッとした。
 ねえそれ、一体何の感情が出たがっているんですかね、斉木さん、
 涙がこみ上げるほどの激しい感情って、何なんでしょう。
 いたわりを込めて見つめる。
 オレの気持ちは残らず流れ込んでいるだろうに、斉木さんはごまかすでも、拭うでもなく、そのままにしていた。
 慰めろ、って事なのだろうか。
 オレはそっと頭を撫でながら顔を近付けた。
 避ける素振りもないので、そのままキスをする。
 あんまりしつこくして癇に障ったらいけないと思い、重ねるだけに留めてオレはすぐに離れた。
 それを追って斉木さんは、より深く唇を重ねてきた。

 

 階段室の壁に寄りかかって座ったオレにもたれる形で、斉木さんが眠っている。
 オレも、もうほぼ目蓋がくっつきそうになっていた。
 キスの後、入れはしないが互いに一回抜くまではした。
 立ったままズボンも下着も足首まで下げて、キスしたままむき出しになった性器をくっつけて、いくまで擦った。
 昼日中に、学校の屋上で、下半身丸出しで…って、とんでもなく興奮した。
 だからか、あっという間にいってしまった。
 だってまさか斉木さんが、あの斉木さんがこんな事に乗ってくれるなんて思ってもなかったから、脳みそ茹るくらい頭がほてった。
 身体中がカッカと熱くなってたまらなく気持ち良かった。
 一気に上り詰めたものだから、終わった後の落差がまたとんでもなかった。
 後悔とかそういうものはなかったが、とにかく眠くて仕方なかった。
 短い時間で爆発したからか猛烈な眠気に見舞われたのだ。
 斉木さんなんて、いった端からもう気を失いそうになってたし。
 だから、オレも眠かったけど頑張って目を抉じ開けて、お互いの身体を綺麗にして、下着とズボンと元通りはかせて、その頃には意識朦朧でもたれかかってくる斉木さんをきちんと座らせて…大変だった。

 でも、オレの肩に頭を乗せて、安らいだ顔で眠っているの見ると、愛しさが胸に込み上げて顔がとろけてくる。
 少しはむしゃくしゃも晴れたっスかねえ。
 いい夢見てますか斉木さん。
 オレは起こさないようそっと手を伸ばし、そっとそっと、頭を撫でた。
 穏やかに風が吹いて、どっかのクラスが体育やってて賑やかで、でもここは静かで、オレと斉木さんだけで、斉木さんはオレの肩で眠ってて、オレはそんな斉木さんの頭を撫でてる。
 たまらなく愛おしい時間だと、オレは目を閉じた。

 ああ、ずっとこうしていたいくらい、幸せだなあ。

 

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