お土産

収集家

 

 

 

 

 

 家に来る鳥束の手土産がここ最近、コーヒーゼリーでなくなった。
 といって何か凝った特別なものではなく、コンビニで見かける期間限定のデザートだったり、ファストフード店のシェイクとかだったり、様々だ。

 

 ちょっと気になり質問してみたところ、こんな答えが返ってきた。
「コーヒーゼリーってなんか夏っぽいから、冬っぽいの色々探してるんスよ」
 なるほど。
 色々楽しめるのはいいが「今日はシンプルに、ソフトクリームのバニラっス」と差し出した後でそのセリフは、正気の沙汰じゃないな。
 まあ僕は別に、真冬に冷たいもの食べようが腹を壊す事はないので、たとえかき氷だろうが甘味である限り有難く頂くが。

『ふむ……結構濃厚で、悪くない』
「いけます? よかった」
 テーブルの向かいで、鳥束は無邪気に笑った。
「斉木さん、甘いものに目がなくて、どれでももれなく喜んでくれるっスけど、どれでも同じ顔って訳じゃないんスよね」
 ふん、そうなのか。
「ちょっとずつ微妙に喜び方が違うんで、それ見るのが楽しみなんスよ」
 へえ、それはそれは。
「オレ今、斉木さんの色んな喜びの顔、集めてまして」
『そういうの、楽しいのか』
「楽しいっスよ。恋人の喜んでいる顔って何回見ても良いものだし、幸せな気分になりますし」
『僕は別に、お前がエロ本読んでる時の顔は好きじゃないが。何回見ても慣れなくて反吐が出る』
「あー…あれは除外してください、てか出来るだけ記憶に刻まないでください」
 あの時間はホント別というか特別というか、ね、わかってくださいよ斉木さんと、困った顔で鳥束は苦笑いする。
『あの時ばかりは、さすがの僕もなんでこんな奴をと、後悔する』
「もー、だからあれの時のオレは忘れて。記憶から消して。斉木さん見てる時のオレだけ、脳に刻んでほしいっス」
 鳥束の手が頬に添えられる。
 僕はそれをちらりと見やった。
『またそうやって、僕にいけない事する気だな』
 残ったコーンをパリパリ小気味よく噛み砕いて飲み込みながら、斜めに鳥束を見やる。
「んん……します。させて、斉木さん」
 脳内が肉欲で真っ赤に腫れている。ちょっとつついたら破裂しそうなほどに。パンパンに膨らんだ中には、えぐい妄想が一杯詰まっている事だろう。
 目付きに如実に表れていた。心の声を聞くまでもなく、少しぞっとするほど雄を昂らせていた。
 だというのに触れてくる手はやけに優しく丁寧で、重ねられた唇も、強引に抉じ開けたりなんかせず、ほぐして溶かすようにそっと舐めてくるのだ。
 いつ乱暴に豹変してもおかしくないほどなのに、そういう目付きをしているのに、身体に触れる手はあくまで優しい。
 少し怖いような気持ちなのに、鳥束に溺れてしまってもいいと思えるくらいは、ほだされる。
 鳥束の触れたところから、奴の愛情がしみ込んでくる気がした。実際は頭の中に流れ込んできているのだが、ぺたり、ひたりと手のひらが肌を覆う度、そこから入り込んでくる、そんな錯覚さえしてしまう。
 ああこいつ、本当に食べてしまいたいな。
 愛しい、狂いそうなほど。

 僕の身体をあちこち愛撫しながら、時々目を見合わせ、気持ち良いかと確認してくる。
 その顔と。
 より反応する箇所をしつこく舐められ、僕が我慢の限界を超えて声を出すと、ほっとしたように笑う。
 その顔と、
 今日初めて入れるって時、少し泣きそうに眉を寄せる。
 ああ、その顔もいいな。
 興奮するあまりこちらへの気遣いを一時的に見失い、独りよがりに快感に耽っている顔も、痛くて苦しいから憎いが、嫌いじゃない。

 鳥束が僕の色んな顔を見たがるように、僕だってお前の顔を見たい。知りたい。色々集めてるぞ。
 言うだろ、見てる時、お前も見られてるって。
 僕はそれに加えて筋線維だの骨だの。全部丸見えだ。
 お前にがんがん突かれてる時、いつも気持ち良くて忘我の境地になるが、一度だけ、何とか見ていられた事があった、あの時の筋肉の動き、誰にもお前にも言えないが、常人なのに素晴らしいしなやかさだとちょっと感動的だった。
 あとは、大抵の事には驚かず動じず力の制御もほぼ完ぺきの僕だが、お前とこうしている時は薄れがちになるから、最後の理性を振り絞ってお前を抱き返さないよう気を付けている。
 比喩でなく、本当に抱き潰してしまうからな。
 それをお前はきちんと理解して、納得もしてくれているが、でもやっぱりやるせなくなるよな、お互い。
 僕が感じている証拠だからと喜びながらも、お前の目にちらりと過るものがある。
 それを逃さず捉えるのも、嫌いじゃない。胸が潰れそうになるが、そこまで思ってくれるのが嬉しくて、密かに喜んでいる。

「斉木さん、コーヒーゼリー持ってきましたよ」
 待ちかねていた大好物の到着に、僕は両手を伸ばした。
 たちまち鳥束はむず痒そうに笑い、斉木さんにはやっぱりコーヒーゼリーだな、と、脳内に響き渡らせた。
 僕の方も、お前がそうやって笑う顔、嫌いじゃない。
 悪くないと思うから、少し大げさにしてお前を喜ばせている。
 コーヒーゼリーは大好物だし、お前もまあまあだし、良い時間だ。

 まだまだ僕の知らない顔があるよな。
 全部集めるのにどれだけかかるだろう。
 昨日はそうでも、今日は違うって事もたくさんあるし、きっと、日ごと年齢ごとに全て違うのだろうな。
 考えるとあまりの膨大さに頭がくらりとしたが、同時に嬉しくてたまらなくなった。

 

 さあ鳥束、次も別のスイーツを手土産に来るといい。
 見せてやる代わりに僕もお前から、搾り取れるだけ搾り取ってやる。

 

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