寄り道
まだお付き合いする前の鳥斉。

多分運命

 

 

 

 

 

 新学期を迎え、オレは気分も新たに斉木さんに朝の挨拶をする。
 進んでいるようないないような斉木さんとの関係に一喜一憂しつつ、毎日を大事に過ごした。

 

 朝はいい、休み時間も、昼時もだが、問題は帰りだ。
 自分が過剰に意識しているせいか、このところ斉木さんと一緒に帰るのがどうにもためらわれ、オレは放課後になると一人さっさと帰ったり、もしくは遅くまで居残ったりして、帰る時間をずらしていた。
 実は早く帰っても、厄介になってる寺の雑用をそれだけ多く押し付けられる事になるので、それが嫌で途中あちこち寄り道して時間を潰していた。
 本屋で新たなグラビア本を物色したり、コンビニに寄ったり、商店街をぶらついたり。
 そんな、寄り道する為に早く学校を出たある日の事。
 コンビニで漫画雑誌を立ち読みしていると、なんと斉木さんと遭遇した。
 といってもオレは、斉木さんが店を出る時になってようやく気付いたのだが。向こうは超能力があるのだから、入る前からオレの存在に気付いていただろうに。
「ちょちょ、何で無視するんスか」
 出ていこうとするのをつかまえ、オレは一緒に店を出た。
『邪魔しちゃ悪いかと思ってな』
「そんな事ないっスよ。何買ったんスか?」
 丁度いい話題の種かと、オレは声の調子を変えて、斉木さんの手にある袋を軽く覗き込んだ。
 お前に教える必要はないとか、冷たくあしらわれるかと思ったのだが、意外にも斉木さんはすんなり見せてくれた。
 案の定コーヒーゼリーで、期間限定だから買いに寄ったのだそうだ。
 春の陽気に似合う柔らかな対応…いくらかは軟化したように思う態度に、オレは腹の中が少しむずむずした。
「お、美味そう。本当にお好きなんスね」
 白いクリームがたっぷりと乗っていて、いかにも斉木さんの好むスイーツに見えた。
『そんなに見てもやらんぞ』
「いえいえ、取りませんよ」
 さっと引っ込められる。オレは大きく手を振った。
「おうちまでお供しても構わないっスか」
 そう言うオレにちらっと目を向け、斉木さんは歩き出した。
 ダメだったかと背中を見送ると、立ち止まり、肩越しに見やってきた。
 なんだ、口だけか…そう云ってるような目線に、オレは慌てて首を振り、お供しますと駆け出して並んだ。
 ちょっとわかりにくい人を、ちょっとずつわかっていきたい。
 一緒に斉木さんちに向かいながら、オレはそっと願った。

 

 その機会は、妙な展開で訪れた。
 というのは、その後何かと斉木さんとかち合うという偶然が続いたからだ。
 本屋で、コンビニで、スーパーで、商店街の曲がり角で。
 曲がり角以外、いずれもオレが後から店に入っての遭遇で、これだけ重なれば斉木さんがそういう目…またかという目で見るのも当然と言えば当然で、しかしオレには全く意図したところはないので、オレもどうしてよいやら大弱りだ。
 決して、つけ回してるわけではない。
 どう証明したものか、オレの頭を納得いくまで覗いてもらって構わない。
 オレは困った果てに、破れかぶれで言った。
「これはあれ……あれっスよ斉木さん、オレたち運命で結ばれてるんスよ」
 馬鹿、死ね、クズ、コロス…いずれかを投げ付けられるだろうと覚悟しての発言だが、斉木さんはそのいずれも寄越さず、ただ小さくため息をついた。
『お前と思考回路が似ているという事か。最悪だな』
 首を振る斉木さん。
 オレとしちゃ最高だけど。
 ちょっと気まずくもあるけど、でも学校の外でも斉木さんと会えて、ちょっと嬉しく思っていた。
 そのまま斉木さんと別れる時もあれば、家までお供する事もあった。
 道中ほとんど会話らしい会話はない。
 斉木さんはお喋りな方でないから、オレから切り出さないと道中無言で終わるという事もザラだ。
 そしてオレは、元はそう無口ではなくどちらかと言えば喋りたがりだが、意識しているせいか、何を話せばいいのか言葉が出てこずじまいだ。
 帰ってから、この意気地なしめと何度自分を責めたか。

 

 そしてまた今日、意外なところで斉木さんと出会った。
 マジですか。
『お前がまっすぐ帰らないのが悪い』
「いやまあ……そうとも言いますけど」
 それは斉木さんにも言えますし、こっちにもこっちの事情というものがありまして、ええ。
『行く先々で変態に出会うこっちの身にもなれ』
「……さーせん」
 変態は言い過ぎでも何でもない単なる事実なので、オレは素直に顔を俯けた。
 もう何度目になるかわからない鉢合わせの場所は、某ファストフード店の二階…ではなく、そこから少し行ったところにある公園だった。
 今日は良く晴れた一日だった。少し汗ばむくらいで、喉が渇いたオレは何か飲んでいこうかと思い立った。缶ジュースでもいいが、丁度良く通りかかったファストフードで買って、日差しは暑いが風が爽やかなのでそこの公園の日陰で涼みながら飲もうとなり、カップ片手に行ってみれば、先客の斉木さんがいたというわけだ。
 ねえ斉木さん、こんなに行動が似通うなんて、冗談でなく本当に運命なんじゃ。
『冗談は澄んだ目だけにしておけ、クズ』
 ベンチの端と端に座り、斉木さんが容赦なく叩き付ける。
 オレは考えを改める事にした。避けても結局こうして会ってしまうなら、一緒に帰ればいいのだ。
 嫌いで避けてるわけではないのだから、本当はもっと知りたいと思っているのだから、その為に以前のようにお供すればいいのだ。
 あーあ、こういう時超能力使えたらいいのにね。
 そうすりゃ一発なのに。
 こんなまだるっこしい思いなんてせずに済むのに。
 斉木さんが本当のところはどう思ってるのか知りたい。
 それ以上に、自分がどう思っているのか、どうなりたいのか知りたい。
 自分はここからどうしたいんだろう、どうなっていきたんだろう。
(ガムシロ入れすぎたな…甘)
 やたらに甘いのに苦いアイスコーヒーを無言で飲みながら、オレはじりじりと過ぎる時間に身を置いていた。

 

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