お泊りシリーズ
鳥束君との身体の相性が極めて良いので、底なしになる斉木さん、てのに萌えてます。
バスキャンドル
危険な薬みたいな男だなと思った。 |
鳥束とする時、僕は決まって奴が垂れ流す心の声に酔っ払ったような状態になってしまう。 奴の心の声は卑猥で下品でどぎつくて、イメージとしては人肌に温いスライムのような粘液が近いだろうか。 手のひら大の粘液がべとべとと身体中にまとわりついてくるような、そんな感じだ。 初めは不快極まりないのに半ばを過ぎると妙に病み付きになって、自分から欲しがったりしてしまう。 そうするともうたまらなくて、ふわふわと宙に浮くようないい気分になってしまうのだ。 そしてそれを何回も繰り返される内、初めの不快さよりも半ばを超えた気持ち良さの方が脳に強く刻まれて、それ欲しさに自分から求めてしまう。 熱が醒めた時の空虚感や飢餓感も段々と強まっていって、求めずにはいられなくなる。まさに危険な薬そのものだ。 そんな危険な男に後ろからのしかかられて勝手を許している自分は、本当にいかれてる。 コイツにいかれてる。 「斉木さん……」 呼ぶ声と添えられた手に従い振り返れば、唇を塞がれぬるりと舌が差し込まれた。 気持ち良い、嬉しい、鳥束は頭の中で繰り返しながら、キスしたまま僕の一番深いところをその硬い熱で抉ってきた。 すっかり追い詰められていた身体は甘いキスと動きでついに決壊し、僕は何度目になるかわからない絶頂に見舞われた。 解放感がたまらなくて、思わず自分で扱く。 どれだけいったっけ。コイツと繋がってからどれくらい経ったっけ。時計を見る余裕もないし、見る気も起きない。 摘まんだ性器は先走りやら精液やらにまみれてすっかりドロドロで、ちょっと擦るだけで痺れるほど気持ち良くなった。 ああ、とだらしない声を垂れ流す。さっきまでは声を出すまいと頑張っていた気がするが、もうどうでもいい。 僕は前に這うようにして一度鳥束から離れ、ベッドに倒れ込んだ。今度はうつ伏せじゃなく、鳥束の顔を見ながらしたい。 だるい手足を動かして起き上がり、振り返って鳥束に跨る。鳥束も、腰を支えて迎えてくれた。 脚を開くと、何回も出された奴の精液が股の奥から流れ出し背筋をぞっとさせた。鳥束はそれを見て、また興奮を増したようだ。 (すごい、斉木さんエッチだな……) 指先でなすられ、さすがに気持ち悪くて身をよじる。それは嫌だと訴えると、奴は素直に手を引っ込めた。代わりに、中を触ってくれた。 またここに入れてあげます、そう言うように弄られ、堪らずに僕は奴の肩に掴まって善がった。 「斉木さんの好きなとこ、ここですよね」 「いっ……あ――!」 その通りだと頷くが、浅いところを指先で転がされ、いったばかりで過敏になった身体には刺激が強すぎて思わず腰が逃げがちになる。でも奴は今度はやめない。そうされるのを僕が好きなのを、もう知っているからだ。 コイツにいいように扱われるのは腹立たしく、蹴りの一つも入れてやりたいところだが、それ以上に気持ち良さが勝って動けない。 「斉木さん、こっちきて」 そう言って待ち構える鳥束の上に、掴まったまま腰を下ろす。先端が触れた時、嬉しさのあまり全身が力んでびくついた。同時に奴の痛がる声が聞こえ、はっとなって手を離す。 どうしても力の制御が上手くいかない事が腹立たしく、力任せに握り締める。自分の皮膚ならいくら爪を立てたって平気だが、鳥束はそうはいかない。 「大丈夫、オレなら大丈夫だから」 ね、ぎゅって抱いて 遠ざけようとする僕の手首を掴み、鳥束は自分の首に回させた。恐々と抱き着いて、それからゆっくり手を開く。手のひらを鳥束の背中に当てて、僕は肩に頭をもたせた。 (そう、大丈夫でしょ) いい子いい子と、まるで小さい子供にするみたいに背中をさすられ、泣きたくなった。悲しいのか嬉しいのか、自分でも区別がつかない。 鳥束に酔っ払ってしまっているからわからない。酔っ払いってのは泣いたり笑ったり忙しないものだから、仕方がない。 ゆっくり腰を下ろすと、今度こそ鳥束が中に入ってきた。隙間をぴったり埋める形に思い切り仰け反って喜び、意識して何度も締め付ける。 「あっ……斉木さん、そんなにきつくしないで」 鳥束の喜ぶ声ににやりと笑う。 そのまま腰を上下させ、まだ飲み足りない鳥束の精液を欲して動く。 たちまち溢れる鳥束のえぐい心の声の数々を聞きながら、くらくらする頭で思う。 なあ鳥束、僕はあと何回飲んだら満足するんだろうな。 |
ベッドで休んでいると、気持ち悪いくらい鳥束が世話を焼いてきた。いつもの事だが、いつもむず痒くて落ち着かないのだ。動けない訳じゃなく、ただ動きたくないだけだ。あまり侮るなよ。少しすれば起きられるのだから、そんなに甲斐甲斐しくしないでもほしいものだ。 あーんと食べさせようとするコーヒーゼリーを奪い取り、起き上がって食べ始める。 「ちぇ、やりたかったのに」 『コーヒーゼリーが汚れるのでやめてください』 奴の顔も見ずに言うと、何だい何だい、と文句をぶつけてきた。 「せっかく、斉木さんの為に色々持ってきたのに」 そう言って鳥束は、泊りの荷物を詰め込んだ大きなバッグを引き寄せた。 そうだそれ、来た時にちらっと見えて少し気になっていたのだ。 『早く見せろ』 「まあ横暴。えっとねー……」 今食べてるコーヒーゼリーでしょ、レトロゲーのソフトでしょ、古本屋で買った一束百円の小説本と――。 鳥束は一つひとつ取り出して、テーブルに並べていった。 「それから、日ごろお疲れの斉木さんの為にこれ、じゃーん!」 最後に取り出されたのは、三つのバスキャンドルだった。ピンク色、薄紫色、そしてライトグリーンの三種。一見すると丸い色付きのグラスで、湯船に浮かぶ形状になっており、中に蝋が固められていた。 「どうスかこれ!」 得意げになる鳥束に、自然と顔が引き攣った。 『モテ部屋といいキャンドルといい、お前はどうしてそう……』 「え、え? これダメっすか?」 (斉木さんとオレのカラー、あと斉木さんの眼鏡色で選んだんだけど) (匂いがダメだったかな。店ではそれほど嫌な匂いに感じなかったけどな) オロオロする鳥束に、僕はひとまず落ち着けと宥めにかかる。 下心も挟まれているけれど、そこには確かに善意があり、自分はそういった善いものには少しばかり弱いのだ。 もしも下心しかないのであればいくらでも無碍に出来るが、多少とはいえ混じる善意を踏みにじる事は自分には出来ない。 コイツのそういうところが本当に厄介だと、密かに思う。 お前からあまりにかけ離れていたからちょっと動揺しただけで、選んだ物は悪くはないと思うぞ。 試しにラズベリーを手元に引き寄せ嗅いでみる。うん、それほど人工的な匂いではないし、嫌と感じるものではないな、 「匂い大丈夫っスか? ほんとに?」 念を押す鳥束に、嫌いじゃないと伝える。たちまち鳥束はほっとした顔になって、良かったと胸を撫でおろした。 だがな、鳥束。 気持ちはとてもありがたいがな、人里離れた一軒家というならまだしも、ここも住宅街の中だ。 人の声が渦巻いて、とても落ち着いて入浴など望めないんだ。 「じゃあ斉木さん、あの例の指輪したらどうっスか。え、忍に襲われる? オレが守ってみせますよ」 『今度はお前に襲われるからいい』 思い切り冷ややかに見つめる。そんな事しませんと口で言いつつ、その裏でぎくりとしているの、わかってないとでも思っているのか。超能力者舐めるなよ。更に冷えた視線を送ってやる。 バレたかじゃねぇ舌打ちするな、この煩悩小僧が。 まあいい、指輪は無しだ。 コーヒーゼリーも食べ終わったし、風呂に入るか。 「あ、じゃあすぐ用意するっス」 鳥束はいそいそと入浴の準備を始めた。 |
ホカホカと湯気を立てる湯船に三つのバスキャンドルを浮かべたところで、鳥束は振り返って僕を見てきた。今の今まで張り切った笑顔だったのが、今は引き攣った笑いに変わっていた、だらだらと冷や汗まで流している。もし僕に超能力がないとしても、その顔が何を言っているか、一目でわかった。 マッチもライターも持ってきませんでした、か、やれやれ、お前は本当にお前だな。 うちにもマッチくらいあるが、取ってくるより早く火をつける方法はある。 パイロキネシスで三つのキャンドルに火をつけ、しょんぼりとうなだれる鳥束の肩を叩く、 「……さーせん」 『さっさと入るぞ』 浴室の電灯を消し、いざバスタイムだ。キャンドルの火を消さないよう注意して湯船に浸かる。 しおしおとしょぼくれていた鳥束だが、暗い中にぽつぽつ浮かび揺れるキャンドルの灯りを見た途端、気分を上昇させた。 (すげえいいじゃん、これいいっスわ、揺らめく炎に照らし出される斉木さん……綺麗) 綺麗、不思議、可愛い、楽しい楽しい。 無関係の人の声をすべて消し去って、僕は鳥束のはしゃぐ声にだけ集中する。声はひと時も休むことなく湧き起こり、それらが一つまた一つとキャンドルみたいに心を照らしていく。 可愛い微笑ましいものもあれば、眉をひそめる下衆で卑猥な声もある。さすが鳥束だな、簡単にはリラックスさせてくれないか。 でもまあ――それも悪くないか。 僕は目を閉じて、鳥束の心から放たれる声にだけ耳を傾けた。 しばらくそうして楽しんでいると、こっちを気に掛ける心の声の後、鳥束が控えめに言ってきた。 「斉木さん、やっぱりつまんないスか?」 『いいや、充分楽しんでいる』 (え……あ、ほんとだ、ちょっと笑ってる。やっぱ超能力者っスからねえ、オレとは物の見え方が違うんスね) その通りだ鳥束。お前とは違うが、ちゃんと綺麗なものを、僕は見ているぞ。 生々しくぎらついて欲望まみれで、決して綺麗とは言い難いのに、生きた灯りは美しいな。 指輪をしていたら、この光景も見る事が出来なかったな。してこなくて正解だった。 目を瞑ったまま鳥束に近付き、抱き着く。ああ、心臓の音を聞きながらだと更に良いな。 斉木さん可愛い可愛いと、喧しくまくしたてながら鳥束が抱き返してきた。 さっき散々部屋でしたというのに、そうされるとまた湧き上がってくるものを感じる。 底なしの自分にあきれ果てる。 言われると殺したくなるが、鳥束の言う通りだな。僕は――が強い。コイツとするまで知らなかった、気付かなかった、自分の事なのにわかっていなかった。 コイツと会わなかったらわからなかった事だ。 別に知らなくてもよかった事だけど、知って損したという事もない。 これからもこういうのが出てくるのだろうな。 大いに面倒なのに、少し楽しみにも思っている自分に、やれやれとため息をつく。 |