とろけるくらい愛してる
夕飯前と後の二人。
とろけるくらい愛してる
こたつの上には、溶けたアイスのカップが二つ。 斉木さんはそれを見て、どうにも許せないと悔しそうに肩を震わせた。 「す、すみません――!」 謝ると同時に、斉木さんは両手でどんとテーブルを叩いた。 「新しいの、持ってきますよ」 『いい。お互いの責任だ』 「そう……ですけどね、でも」 オレはそっと表情を伺った。 斉木さんはテーブルを叩いた姿勢のまま、暗く沈んだ顔をしていた。 お前だけじゃなく自分も悪い、向ける先は自分、この怒りをどうしようと悩んでいるようである。 何と声をかけようか考えあぐねていると、低く声がした。 『飲め』 オレの前にずいとバニラのカップが突き出される。 「ええはい、もちろん」 よっぽどでない限り、食べ物を残すなんてとんでもない。最後まで食べ切るつもりだ。 でも、本当にもう一個食べなくていいのだろうかと斉木さんを見やる。 アイス買おうって言った時、子供みたいに無邪気な顔で喜んでたものな。 我慢出来なくて押し倒したのはオレで、だけどほんとに嫌ならオレなんていくらでも振り払えるわけで、つまりお互いの責任というのは確かに合っているのだが…なんとも心苦しい。 斉木さんの出方を待つ。 その目の前で、斉木さんは豪快にカップを傾け飲み干した。 オレも後に続く。 ……うん、うん。溶けかけは美味いけど、すっかりとろけたアイスは―― 『甘いだろ』 「ええ、そうスね」 頭のてっぺんからつま先まで、とろけた甘さが行き渡るようだ。 苦笑いのオレに対して、斉木さんは上機嫌だった。 だから、オレもいい気分になった。 |