妄想03_1

「――！」

　射精の瞬間、声も出せず大きく仰け反り、真物は白濁を飛び散らせた。
　びくびくとわななく痩せ細った身体を神取は抱きしめると、背中に刻まれた傷に接吻した。

「うっ……！」

　痛みを訴える声が、真物の口から零れる。
　同時に後方を締め付ける力が増し、それが心地良くて、神取は傷に沿って舌を這わせた。

「う、痛……」

　じくじくと染みてくる痛みに真物が呻く。
　かつては白く滑らかで傷一つない、まるで女性のように美しかった肌は、今は見る影もなく、冷酷で残忍な仕打ちの跡をふた筋浮かび上がらせていた。
　震える声を無視して、神取はそっと口付けた。
　自分が刻んだ鞭の跡…自分の物の証に。

「くぅ……ん」

　射精後の脱力と、痛みから、真物は膝から崩れるようにその場にうずくまった。

「ん、あっ…やめて……おねがいします……」

　そして神取から逃れるように前へと這いずった。
　しかし神取は懇願を無視して、突き入れた己のもので浅い箇所を捏ねくってやりながら傷への接吻を続けた。

「うあぁ！」

　無意識のうちに締め付けていたそこを熱くかたいものでぐりぐりと抉られ、真物は痛みも忘れて大きく喘いだ。あまりに強烈な疼きに脳天が痺れ、何も考えられない。

「んうっ！」

　男の手が前に回され、ペニスを掴む。今の刺激によってそこは、二度目の極まりに向けて芯を持ち始めていた。
　だらしなく垂れた涎を塗り付けるようにして、神取は扱いてやった。

「あぁ――！　いやだっ……それ、だめ……あぁ、ああぁ！」
「駄目じゃないだろう？」

　にちゃにちゃとわざと音を立てて上下に動かし、右の耳に軽く噛み付く。

「あぁ！　だめ……ん、いいっ……」
「そうだ。もっと言ってごらん」
「う、ぅ…いやだ……あぁ――んん…気持ちい……いいです……！」

　真物は半ば混乱気味に首を振り、身悶えて、声を撒き散らした。男の動きに合わせて自らも腰を揺すり、更なる快楽を求めで貪欲に蠢く。

「お前の声は本当に甘いな」
『恐怖と絶望の味……！』

　真物の魂から啜った二つに酔い痴れ、「彼」が身震いする。
　神取はわずかに喉を引き攣らせると、欲望のままに腰を打ち込んだ。

「あっ…んぅ、ん！　ああぁ……！」

　射精に向けて動き出した背後の男に大きくのたうち、真物はかすれた嬌声を上げ続けた。

「あ、あぁ…だ、め……ゆ、ゆるしてくださ……ああ、あぁ…はぅ……」

　激しさに堪え切れず、手で押しやろうとする。
　男はその手を掴んでたやすく離させ、さらにぐいぐいと強く腰を突き入れて更に声を出させた。とめどなく迸る高い悲鳴を存分に味わいそして、最後の一撃をくれる。
　より深くまで腰を押し付け、少年の内部に熱いものを吐き出す。

「ああぁ――！」

　そのぞっとする感触に真物は全身を大きく痙攣させた。
　男に誘発され、何度目かもわからない射精に震える。
　そのまま真物は、がっくりとうな垂れ気を失った。
　力の抜けた身体から己の物を抜き去り、神取は横たわる少年をじっと見下ろした。
　そこでふと、呼ばれた時そうするように顔を上げ、窓の外へと目を向けた。

　もうそこに、蝶はいなかった。

　濁った川の底で、ようやく僕は息をつく。胸の内に積もった苦痛や恐怖や絶望が、少しだけ薄れる。
「全部出して構わない」
　僕の目を覆い隠し、隣に寄り添う彼が静かに言う。
「俺が全部引き受ける。だから全部出して構わない」
　僕は首を振る。
　これは自分が持っていなければいけないものだ。
「少し眠らせてくれるだけで…充分だよ」
　強がってみせたが、ここで、彼の隣では、脆いものだった。
　涙が溢れる。
「大丈夫。ゆっくり眠るといい」
　否定しかけて、僕は彼の肩にもたれた。自然とため息が零れる。
　また少し、恐怖と絶望が和らぐ。
　ぼろぼろとみっともなく涙を流しながら、僕は眠る。
　起きたらまた歩き出せるように。
　恐怖と絶望に負けてしまわないように。
　首を振る。
　本当はもう、とっくに負けているのかもしれない。
「いやだ…負けたくない……！」
「ああ、大丈夫。僕は絶対に負けない。俺は知ってる」
　絶対の安心感でもって包んでくれる彼の手に縋り、僕は泣きじゃくった。
「つらければいつでもここで眠ればいい」
　やがて泣き疲れて眠る。