Ⅲ_ⅴ
| 窓の外、眼下に広がる街並みを眺めながら、神取は手中の銀球をくるりとまわした。 『居心地はどうだ？』 頭の中に、低いひび割れた声が響いた。神取の真似をして霧子の人形を振り回し「彼」が問い掛ける。 （中々いい。眺めは退屈なものだがな） 真新しいビルの五階、豪華な造りの部屋にたたずみ、神取は正直な感想を口にした。 ここは彼の居室であり、セベクの支社長室とも呼ぶ。ここに彼が就いたのは数ヶ月前。ようやくたどり着いたとはいえ、所詮は通過点にすぎない。 まだ始まったばかりなのだ。 『まぁそうだよな。それで、うまくいきそうか？』 （理論上では、既に扉は開いている。あとは現実をそこまで持っていけばいいだけの事） 『そう先の事じゃねぇな』 （そうとも） 『早く三人目が欲しいな。アレだろ？ 三人目はモチロンあのガキだよな？』 完全に閉ざされた闇の中、どす黒い血のような赤い目が期待するかのように細くなる。 『このお嬢ちゃんは俺がこうして持ってっからいいとして、モンダイは、あいつだよな』 「彼」が言うは、真物に他ならない。例えどんな凶器を用いても、決して死を与える事の出来ない存在。 あれになる器。 『オマエが抑え込んでるお陰であれになりそうな気配はねぇんだけどよ、器が違うせいかなーんか変な展開になってきてるぜ？』 （それは？） 『妙に人が集まり始めてる。よくないねぇ～。あいつは恐怖と絶望だけ味わってりゃ良いのによ、別のものを手にし始めてるぜ？』 （そろそろか？） 『まぁそうだな。奪うにゃいい頃合だと思うぜ？』 「そうか…では次は――」 口元にうっすらと不気味な笑みを浮かべ、神取は囁いた。 死をも塗り潰す痛みをお前にくれてやる…その瞬間が楽しみだ――真物。 |