Dominance&Submission

君としか出来ない事

 

 

 

 

 

 風呂場で、頭からつま先まで綺麗に洗い清め、上がった僚は、バスローブを羽織る前にと鏡に向かい合った。
 湯上りにほんのり染まった身体のあちこちには、縄目がくっきりと浮かんでいた。
 鏡越しと自分の目で、交互に見やり、僚は軽く頷いた。

「これくらいの跡、問題ない」

 触れても擦っても、かつてのようなひりひりした痛みに見舞われる事もない。
 湯船に浸かって血行が良くなったせいで色が少々濃くなっているが、冷めればじき薄らぐ。
 どこか嬉しげな顔の僚に対して、男の顔は曇りがちであった。

「なんだよ、俺がいいってんだから、そんな顔すんなよ」

 鏡越しに言って、僚は振り返った。
 神取は寄越される目線をしばし見つめ、軽く息を吐いた。

「ああ。次はもっと上手くやろう」

 腕の後ろ側や背中の辺りの何ヶ所か、縄で擦れて肌が赤くなってしまっていた。神取はその周りにそっと触れ、済まないと付け足した。
 僚はわずかに口をへの字に曲げた。それは男のせいだけではない。

「しょうがないよ、結構暴れちゃったしさ」
「そういった事も考慮して、強さを変えなければいけないのだが……まだまだだな」

 僚の手からバスローブを取ると、神取は羽織らせた。

「でも俺は気に入ってる。なんか……」

 僚はぽつぽつと言葉を紡いだ。
 縄でぐるぐる巻きにされるのって、そいつのモノになった気分にさせる。本当に、物品の意味で。その証拠がこうして身体に残ってるって、何かとても嬉しい。

「だからその顔やめろ」

 僚は仰け反るように男の顔を見上げると、両手を取り、着るようにして肩から引っ張った。
 神取は引かれるまま僚を抱きしめると、鏡に映る不機嫌そうな恋人の顔をうかがった。

「楽しかったし、嬉しいんだけど、鷹久はどう? 嬉しくない?」

 まっすぐに見つめてくる勝気な褐色の瞳に。男は眩しそうに目を細めた。

「嬉しくないわけがない」
「よかった。じゃあさ、また今度も」

 僚は振り返って直接男を見つめ、内緒話をする時のように口を寄せた。男は合わせて耳を近付けた。
 僚はむず痒そうに唇を窄め、囁いた。

 二人でしか出来ない事、しよう

 

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