Dominance&Submission

柔らかいもの好きなとこ

 

 

 

 

 

 男の寝室にあるベッドは広く、良質で、使われている寝具は上下とも上質、夏はさらりと快適に、冬はぬくぬくと包み込み、とても寝心地がいい。
 その上に二人は、眠る以外の目的で横たわり、男を下にキスを交わしていた。
 神取は両手でしっかり頬を包むと、唇はもちろん、小鼻や眉間、顎、左右の瞼に順繰り唇を押し当てた。

「くすぐったいだろ」

 僚は目を閉じたまま、淡い笑みを浮かべた。
 形も血色も良い僚の唇の、端も真ん中も余さず己の唇で堪能し、神取も笑った。

「貴重な柔らかさだ、ぜひ味わってくれ」

 その、自信たっぷりの男の余裕ある笑みに、目を奪われる。すぐさま我に返った僚は、ごまかしに男の耳朶をぎゅうぎゅうと摘まんだ。
 神取は苦笑いで、されるがまま身を委ねた。
 やがて満足いったのか、僚の手が離れる。その手を掴み、神取は口元に持っていった。
 五指に順繰りに唇を押し当てると、僚の目が小さく見開かれる。が、他に気になるところがあるのか、少し横を見たり戻したりと、いささか忙しない。
 見る間に朱に染まる頬を可愛らしいと愛でながら、神取はゆっくり指先にキスしていった。
 僚が見ていたのは、自分が今いたずらを仕掛けた男の耳朶であった。あんまり力任せに摘まんだせいか、ほんのり色付いていた。
 その赤さは、鏡がないので今は確認出来ないが、僚の頬といい勝負だった。
 なんだか申し訳ない気持ちになり、詫びの印に接吻する。

「あぁ……気持ちいいね」

 ため息交じりに笑い、神取は背中をそっと抱きしめ撫でた。
 僚は身体を添わせるようにして抱き付き、そのまま男の首筋に顔を埋めた。ふわりと包み込んでくる男の匂いにじわじわと熱が高まっていくのを感じる。
 この部屋で、このベッドで何度こうして抱き合い身体を繋げたか。大抵は普通でないやり方で交わり、歓びを分け合って共に高みを目指した。目を瞑るだけでそれらの断片が脳裏を過ぎり、身体のあちこちがずきんずきんと疼きそれにつれて更に熱くなっていく。
 そこではっと僚は目を開けた。
 ページをめくるようにして辿っていた記憶とは違う、現実の男の手が、下半身を弄ってきたからだ。いつの間にか前が緩められ、楽に出入り出来ると手が下着の中にすすめられる。冷えた尻たぶに触れてくる手のひらは妙に熱く、温められて手のひら型に赤くなるのではないかと思えるほどだった。
 自分の冷たい肌と男の熱い手指との落差に少しびっくりする間に、指先は奥の際どい所へ向かっていった。
 僚はわずかに身体を強張らせた。男に跨って抱き付いていた手足をもじもじと動かし、ちらりと後方を見やる。そんな小さな動作では目にする事は叶わないが、男の指先が今どこを辿っているか、何をしようとしているか、手に取るようにわかった。
 これから触れられるだろう箇所が反射できゅっと窄まる。
 直後、まっすぐ目指していた男の人差し指が、閉じた後孔の表面を撫でてきた。

「っ……」

 はっと息を吸い込み、僚は恐る恐る力を抜いた。抜こうとした。が、ゆるゆると宥めるようにさすられると、どうしても力が入ってしまい上手くほどけなかった。
 神取は焦らず、彼の身体が程よく溶けるよう気長に表面を撫で続けた。背中を抱いていたもう片方の手で僚の頭を抱き寄せ、口付ける。
 唇を押し付け、ぬるりと舌を送り込むと、淡い喘ぎが零れた。それをもっと聞きたいと、神取は差し入れた舌で彼の口内をゆっくり舐め回した。
 僚は口を開けて応え、男の舌を求めた。

「ん、んん……」

 唾液の絡まる音を立てて、二人の舌がもつれあう。
 そうする内に後ろの緊張も解け、頃合いと神取はじわじわと指先を埋めていった。
 口の中で僚の高い喘ぎが跳ねる。好ましい反応に頬を緩め、神取は奥まで指を埋め込んだ。すぐに二本に増やし、内部を探るように、探すように指をくねらせる。
 ああ、と切なげなため息をもらし、僚は身じろいだ。しかしキスを止める様子はない。神取は舌を貪りながら、奥にすすめた二本の指で丹念に後孔をほぐした。
 たらりと送り込まれる僚の唾液を飲み込み、もっとと舌を吸って、神取は抱えた少年の二つの粘膜を愛撫した。

「あぅ……そこ、いい」

 より感じる箇所を指先でこりこりとくすぐられ、僚はたまらないとばかりに身悶える。無我夢中で男の舌にしゃぶりつき、自らも腰を振って愛撫に応える。抜き差しされるのもたまらないし、少し強めに内襞を抉られるのも痺れる。長く節の強い男の指が、自分の中にある。いいところを狙って、動き回っている。そう思うだけで頭がのぼせる。

「あ――あ、あぁ……ああ――」

 悦びから間延びした声をもらし、僚は男の下腹に擦り付けるようにして自分の勃起したそれを示した。
 神取はそちらへちらと目をやり、間近にある僚の顔を見やった。
 キスにとろけ、孔をほぐされて更にとろけ、潤んだ瞳はたっぷりの色気に濡れて煌き、だらしない嬌声をもらす唇の淫靡さとあいまって強く目を引いた。
 後ろの、どこを引っ掻くとより声が高まるか、神取は試してみた。ここと、ここが、特に好きなようだ。高い声を隠しもせず素直にもらす様をしばし愉しんでいると、ついに視線に気付いたのが、僚はうぐと喉を鳴らしつばを飲み込んだ。
 見られている事に抵抗して反応を抑え込もうとするのだが、いくら口を噤んでもすぐに緩んでため息がもれ、力んで我慢してもびくんと弾んでしまい、気持ち良さに悶えずにいられない。
 すっかり男に慣らされたこの身体は、どんな動きにも敏感に反応し悶えてしまう。
 指の先は絶妙な力加減で内襞を擦ってきて、気持ち悪いような泣きたくなるような快感に包み込まれる。
 そんな姿を見て嗤う支配者に悔しさと共に嬉しさが募り、もっと見られたい、支配されたいと段々と身体が昂ぶり、止められないまま僚は目前に迫った絶頂に素直に手を伸ばした。
 自分から欲して浅ましく腰を振って、男の手がいいところにあたるよう揺すって、思うまま貪る。
 ああ、くる、来る。
 後ろだけでいってしまう、後ろを弄られるだけで達してしまう。
 狭い孔をかき回されるだけで射精するような、いやらしい身体を、男が嗤っている。
 なんて気持ちいいのだろう…涎を垂らさんばかりに緩んだ顔で、僚は快感の波間に身体を委ねた。
 しかし、あと一歩のところで、男はあっさりと指を引き抜いてしまった。
 僚の口からため息が漏れる。
 明らかに責める息遣いと、恨めしそうに見やってくる僚の目付きに、神取はすっと目を細めた。

「続きが欲しい?」
 最後までしてほしい?

 神取は、今の今まで内部を蹂躙していた指でいくらか緩んだ孔を撫でながら訪ねた。
 問いに僚は警戒も露わに半ば睨みつつ、ぎくしゃくと頷いた。時々身体が弾んでしまうのは、内側への刺激の名残だ。
 すると、男のもう片方の手、背中に回っていた手が唇に移り、しっとりと濡れた具合を確かめるように右へ左へ行ったり来たりを繰り返した。

「済まないが、今しばらく我慢してくれ。君のこの唇が喘ぐのを見ていたら、舐めてほしくて堪らなくなったんだ」

 神取は腕に抱いた身体がずり落ちないようしっかり支え、起き上がった。言葉の意味を理解し、今でも充分赤い顔が更に火照るのをにこやかに見つめ、静かに膝から降ろす。
 身体を離され、僚はわずかに面食らう。起き上がった男の前にひれ伏して、口でするのではないのか。そう目で問うが、男はベッドから降り、クローゼットへと向かっていく。

「その間の代わりと言っては何だが、君には、この玩具を渡そう」

 神取はクローゼットの扉を開けると、奥に厳重にしまっている道具を二つ取り出した。一つはローションで充たされた小さなボトル。もう一つは、彼を泣かせる性具だ。いつもは小さな楕円の粒や、細いもの球体が連なったものだが、今日選んだのは、はっきりと男根を模したものだ。浮き出た血管の具合など生々しく、実にグロテスク。それらを手にベッドに戻ると、目が釘付けになっている僚にひと息笑い、準備に取り掛かる。
 たっぷりローションを塗りたくり、尾てい骨にも垂らして馴染ませながら孔をほぐす。その最中彼が腰を振るのは、感じているからかあるいは嫌がっての事か。
 始めは素っ気なかったローションが、手のひらと肌で馴染んで緩まっていく。ねちねちと卑猥な音の立てるそれで執拗に孔をかき交ぜ、充分ほぐれたところで、神取は性具の先を押し当てた。持ち手を握り直し、じわじわと埋め込んでいく。

「入れるよ。息を合わせなさい」
「いやだ……嫌だ」

 一つ目はごくわずかに、繰り返されたそれは押し出すように強めに、僚は全身を強張らせた。神取は抵抗を無視して、しかし傷付けぬよう慎重に押し進めた。拒むのはある程度予測していた。先からの僚の動きでもわかっていた事で、彼なら必ずそうなるだろうと思っていた。
 予想通りの反応に自然口端が持ち上がる。
 抵抗する肉を押しのける感触が、手に伝わってくる。まるで自分のもので拡げているように思え、神取は背筋がぞくぞくとしたものに包まれるのを感じた。
 真っ黒でグロテスクな性具を飲み込む間、僚は何度も上ずった声を上げびくびくと身悶えた。どこまで入ってくるのかと、僚はかすかなおぞけに見舞われた。自分の口からもれるみっともない声に恥じ入り何とか封じようとするが、中途半端に煽られ宙ぶらりんになっていた快感の胤を再び刺激されては、どうにも堪えようがなかった。

「あぅう……」

 最後にひと際強く突かれ、拉げた呻きが零れ出る。ようやく、収まったようだ。ベッドの上にうずくまったまま、ほっとしたように、おののいたように僚はため息を吐いた。太さこそ男に及ばないものの、ぞっとするほど奥まで入ってきて、そこだけは男に似ていた。異物感にいくらか軋む身体を慣らそうとしていると、男に右手を掴まれ後方へと引かれる。

「ほら、自分で掴んでごらん。ここに入ってるのがわかるね」
「!…」

 導かれた先に、僚は目を見張った。今まで男が握っていたせいか、体温の残りが感じられた。そこに自分の指を重ねる。

「そうだ、いい子だね。そうやって、自分の好きなように動かしてごらん。こんな風に」

 神取は僚の手を包むように握ると、抜き差しの動きをさせた。
 やっと収まったばかりの疑似男根が、内襞をごりごりと擦る。ぞくっと背筋に走るおぞけ…快楽に、僚はひっひっと息を引き攣らせた。
 男の手が離れる。僚は固まったように動きを止め、自分の前に座り直す男を目で追った。

「ああ、いい眺めだ。さあ、僚、君の口を愉しませてくれるかい」

 言いながら神取は前を緩め、下着の奥から自身を取り出した。
 僚は残った左手を前に伸ばし、晒されたそれへと絡めた。半ば無意識に、笑みを浮かべる。

 

 

 

 左手で男の怒漲を扱きながら、右手で自分の尻をかき回しながら、僚は口一杯に頬張った欲望をべちゃべちゃと嘗め回した。頬の内側で先端を擦ると、頭上からどこか切なげな声が聞こえてくる。
 もしかしたら自分の声かもしれない。
 息継ぎでもれる無様な声、後ろで感じる声、男の濃い匂いに眩む頭に響くそれらに、僚は何度も目を瞬かせた。
 口の中が異様に熱い。硬く反り返り、今にも破裂しそうに育った男のものに息も止まりそうだ。満足に息が吸えないのはそのせいだけではない。後ろにも異物を咥え込んで、それで自分は淫らに悶えている。
 まるで前と後ろから二人がかりで責められているみたいだと、僚はぼんやり霞む頭で思った。二人…二人の神取鷹久に、口も後ろも塞がれている。頭がどうにかなりそうなほどの興奮を覚える。
 僚は陶然とした笑みを浮かべ、今にも喉に浴びせられるだろう男の欲望を待った。しかしその前に自分が果ててしまいそうだった。男のものに似通っている性具で遊ぶのがやめられず、もう限界が近いのだ。
 僚は霞む意識を奮い立たせ、より一層男に奉仕した。夢中になってぐちぐちと後孔を穿ちながら、強く吸い付く。
 と、それまで添えられるだけだった男の手が、後頭部をぐっと押さえ込んできた。ああとうとう来たのだと、何度も喉奥を突かれる苦しさに堪えながら僚は右手の動きを速めた。
 一瞬、何もかもが真っ白に染まりわからなくなった後、何かをもらす気配があり、それに続いて口の中に一杯の白濁が吐き出された。
 受け止めきれないほど濃厚な愉悦に、僚は激しく胸を喘がせた。のたうち痙攣しながら、ほぼ同時に迎えた互いの絶頂に深く酔い痴れる。力任せに性具を奥までめりこませ、更に自ら力んで締め付け、先端からぼたぼたと白液を垂らしながら僚は針の振り切れた瞬間に浸った。

「あぁ……あ――……」

 一滴も零すまいとむきになって全てを飲み込み、それが叶えられた事に僚は喜んで、一旦男のそれから口を離した。
 身を駆け抜ける快感は余りに強烈で、僚は自分が震える声で唸っているのにも気づかなかった。
 あまりの気持ち良さに、視界はまだ白く霞みぼんやり潤んでいる。

「とてもよかったよ」

 遠くに聞こえるとこの声に目を細め、僚は半ば無意識に右手を動かし続けた。

 

目次