Dominance&Submission

試食会

 

 

 

 

 

 試食じゃなかった。
 熱が引き、大分身体も落ち着いた頃に僚が思ったのはそれだった。
 男の肩を借りてシャワーを浴び、よろよろと着替えてよろよろとソファーに倒れ込んだ僚の頭に、ちらりと浮かんだのは、絶対にふたを閉められないわんこそば…そんなイメージだった。
 沢山食べたかった食べられると思ったので、自分からふたを放り投げたのだ。
 いくらでもいってやると意気込んで箸を構え、挑んだ結果がこれだ。
 食べ始める前は無限にいけると思ったのだ。
 甘かった。
 いや…頭では気持ちではもっともっといけると思っているのだが、肝心の胃袋が破裂しそうでは仕方ない。
 どっしり座ったソファーで大きくため息をつき、傍でしれっと元気にしてる男に文句の一つも言おうと口を開けて、やめる。
 次こそは、投げたふたを後悔しないで最後までいってみせる。
 密かに野望を滾らせていると、男が心配顔で尋ねてきた。

「どうした、どこかつらい?」

 そう言って優しく肩や腕を確かめるものだから、いつもの調子で僚はそっぽを向き、正反対の気持ちを口に乗せる。

「ああもう、あっちこっちがたがたでさ」

 男には底まで筒抜けだろうが、だからこそこの他愛ないやりとりが好きなのだ。

「そいつはいけないね」

 ほら、ちゃんとこっちの事わかってるから、言葉ほど表情は深刻じゃない。それが嬉しい。腹立たしいけどとても嬉しい。

「ああ、いけないよ」

 僚は隣に座った男にもたれる姿勢になって、思い切り体重をかけた。ごく自然に、男の腕が肩に回される。それを両手で掴み、僚はぐいぐいと後頭部を押し付けた。

「いけないから、罰として鷹久このまま一時間な」
「一日中でも構わないよ」
「ほんとか」
「本当だとも。君の為ならなんでも」
「調子いいな」

 何とも言えぬ心地良さに、僚は笑いを零した。男の腕の重みが心地良い。男の声が心地良い。体温が、空間が、時間が心地良い。
 もう少しだけこのままでいたいと、僚はそっと息を吐いた。
 男の手が頬を撫でる。
 むず痒さに口端を緩め、僚は目を瞑った。

 

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