Dominance&Submission

手を繋いで

 

 

 

 

 

「……もう大丈夫だよ」
「それは良かった」

 そう言いながら、男の手は僚を支え、浴室まで導いた時と同じように脱衣所へと連れ引いた。
 何度も求められ、身も心も満足したが、さすがに身体は少し疲れていた。そんな僚を気遣い、神取は一つひとつの動作の度しっかりと手を取り支えた。
 照れ臭い、そこまでしなくても平気…そう思いつつ僚は男の手に甘えた。時々意地悪をしては悩ませるが、この手は、決して自分を傷付けない。いつでもこうして助け、支えてくれる。
 恥ずかしそうに笑って目線を送る僚に笑い返し、神取は着替えを手伝った。

「ありがと……」
「こちらこそ。楽しかったよ」
「……よかった」

 最高のプレゼントだった、そう云う男に僚は複雑な顔で笑い応えた。
 何か温かいものを用意しようとキッチンへ向かう男に、僚は、先日買ってまだ残っているバスケットのオレンジを一つ希望した。
 キッチンの流しに揃って立ち、僚はオレンジを手に男を見やった。

「もしよかったら、半分こしよう」
「もらってもいいかい?」
「もちろん、これもプレゼントにしていい?」
「それは嬉しいね。君の選ぶものはどれも甘いから、是非」
「ちょっと待ってて」

 僚はいそいそと皮をむき、一房摘んで手を伸ばした。
 嬉しそうに口を開ける男に、まっすぐ差し出すかと思いきや、僚は直前で手を逸らし鼻先に押し付けた。食べやすいよう薄皮もむいてあるので、むき出しになった瑞々しい果肉がぺちょりと男の鼻先を濡らした。

「む……」

 思いもよらない行動に、男は小さく声を上げた。

「今日、恥ずかしいカッコさせたお返しだ」

 そう言ってからからと笑う。
 間の抜けた男の顔を見て満足した僚は、今度はちゃんと口の中に入れてやった。
 仕方ないと鼻を拭い、男は首を振った。

「うまい?」
「ああ。とても甘いね」
「だろ。もっと食べる?」
「今度は、ちゃんと食べさせてもらえると嬉しいな」

 僚は答えずに笑ってごまかし、にやにやしながら手を伸ばした。果たして、寸前で手を引っ込める。
 神取はふうむと唸り、すぐさま僚の手を掴んで無理やりオレンジを口に入れた。そして、お返しとばかりに、僚の前にあるオレンジを奪い取って背を向けた。
「あ、何すんだ。せめて半分返せよな」
 聞こえない振りを決め込み、そっぽを向いてひとつ口に放り込む。

「こらっ返せ」
「いやだよ」
「鷹久、こら」

 僚は後ろから抱き付くようにして手を伸ばす。
 男が笑う。
 僚も笑い、オレンジを返せと男にのしかかる。

 

 

 

 最後は公平に、半分ずつオレンジを平らげた。

 

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