Dominance&Submission

望むところだ

 

 

 

 

 

 帰り支度を整えながら、僚は次回の予定について男と話し合った。来週の金曜日、いつもと同じく迎えに行くという事で予定は固まる。

「じゃあ、次は来週な」
「ああ。いつも通り、校門のところで待っている」
「よろしく」

 僚は忘れ物がないか、もう一度斜め掛けの中身を確認した。お揃いではないがお揃いのジーンズが入った紙袋を手に提げる。その傍らで、神取はベッドを整えていた。いつもより少し念入りにシーツを撫でているのに気付き、僚は手伝おうかと申し出た。

「いや、大丈夫だ。またこっそり線を引かれたら困るからね」

 男が何を言っているのかすぐには理解出来ず、僚は困惑気味に目を瞬いた。二度目の瞬きで目を開いたところで思い至り、にやりと笑いかけてくる男にむにゃむにゃと口を動かす。

「……寝惚けて悪かったって」
「そんな事は言っていない。ただ」
「……なんだよ」
「もう二度と、君と一緒にこのベッドで寝られなくなったらと思うと」

 整える手にも力が入るというものだ。

「そんな事ないって」

 そんな風に思われるのは心外だと、僚は力強く否定した。

「いやだって言っても、絶対隣で寝てやるからな」
「ああ望むところだ」

 どっしりと構えたその様が面白くないと、次は腹に一発お見舞いするかも、と僚は唇を尖らせた。ならば鍛えておこうと男は軽やかにかわした。

「……膝蹴りとか。急所に入ってさ」
「それは、君が困るだろうね」

 なぜ自分が困る事になるのか、一拍遅れて理解した僚は、憮然とした表情で変態と零した。

「そうだね。でも、違うよ」
「……知ってるよ」

 結局余裕たっぷりの笑顔を崩す事が出来なかったと、僚は大きなため息をついた。
 神取は小さく肩を震わせた。見るからに不機嫌の塊になった少年が可愛くてしようがない。

「送るよ、行こうか」
「……ん」

 僚は喉の奥で低く呻き、肩に乗せられた男の手をちらりと見やった。当然とばかりに肩を包む手の熱が、服を越してじわりと伝わってくる。それだけでこんなにいい気分になってしまう自分は本当に単純な奴だと、おかしくなる。
 だが事実身体が軽くて、いつも以上に、早く来週にならないかと胸が弾んだ。今にも胸から飛び出しそうに膨れ上がった気持ちを伝えようと、僚は肩にかかる手を掴み男に顔を寄せた。
 触れた唇は、肩の手と同じくらい熱かった。

 

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