Dominance&Submission

望むところだ

 

 

 

 

 

 なんて気持ちの良い日だまりだろう。
 毛布もいらないほど暖かくて心地良くて、もう目を開けていられない。なんて気持ち良い日だまり。一枚の毛布に男と一緒にくるまって寝転がって、最高に幸せだ。
 ふわふわとした心持ちで、桜井僚は午睡を楽しんだ。
 すっかり夢見心地の愛くるしい寝顔を、神取鷹久は間近でじっと見守った。腕枕の姿勢は高さが丁度よく、小さく開いた口の可憐で少し間抜けな具合や、呼吸に合わせてゆっくりゆっくり上下する胸の様子が、ひと目で見渡せる。このまま一緒に昼寝をしたいところだが、やはり床の上では身体に悪い。彼に風邪を引かせてはいけない。早くベッドへ運ばねばと思うのだが、中々目が離せず、もう少し、あと少しと視線を注ぐ。
 どうにか踏ん切りをつけ、ゆっくり抱き起して腕に抱え、寝室へ向かう。
 途中で起きてしまうかと心配したが、彼はぐっすり眠ったままだった。
 あんまり気持ち良さそうに昼寝をしているものだから、雑事は後回しにして神取は自分も一緒にひと眠りする事にした。そっとベッドに座り、そっと横たわり、そこで一度隣の様子をうかがう。
 起こしてはいないようだ。
 安心して目を閉じる。
 彼が隣にいる幸せを噛みしめ、一時間ほどうつらうつらと夢うつつに漂っていると、隣から寝返りの身動ぎが伝わってきた。直後、肩の辺りにどしんと衝撃が走る。寝返りの腕が当たったのかと、神取は軽く笑った。
 僚は青ざめ、一気に目を覚まして起き上がった。

「痛かったかい」

 丁度弱い部分に当たったかと、神取は心配して声をかけた。見ると、ひどく驚いた顔がそこにあった。何か云いたいのだが上手く言葉が出せず、もごもごと口を動かしている。うろたえる様子がおかしくて、神取は頬を緩めた。

「……ごめん」

 ようやく僚は絞り出すようにして言った。寝相の悪い自分が恥ずかしい、穴があったら入りたい。肩を竦める。

「大丈夫だ」

 毛布の上に腕が乗っただけだ、大した衝撃ではなかったと、神取は気持ちを落ち着かせた。

「気にせず、もうひと眠りするといい」
「いやもう、完全に目が覚めた」

 言って僚は、顔を覆った手でごしごしと頬を擦る。毛布を退け、シーツに人差し指を滑らせて線を描き始めた。神取は腕で支えて身を起こし、何事かと見守った。
 僚は、ベッドを丁度半分に割るように中心で線を描くと「今度から、ここからはみ出さないようにする」と宣言した。
 神取は大きく首を振り「それでは私が寂しいから、なしだ」とすぐさま手で撫でて線を消す。

「とりあえず、顔を洗っておいで」

 起き上がって肩に腕を回し、神取は微笑んだ。
 ひどい失敗だと僚は顔を歪め、落ち込んで、ベッドから立ち上がった。逃げるように早足で洗面所に向かう。火照った頬を鎮めようと、僚は何度も顔に水を叩き付けた。鏡を見て、少し濡れた前髪を指で払い、肩を上下させる。
 戻って一番に僚は詫びた。

「ほんと、ごめんな」
「私は人一倍頑丈に出来ているんでね」

 苦笑いを浮かべる僚に手を差し伸べ、神取は自分の隣に座らせた。
 僚は隣に腰かけると、自分の顎の辺りを指差した。

「さっきのお返しに、俺のここもこう、殴って」
「もう気にするな」

 思い切りやっていいと仕草で伝えてくる彼に、神取はひらひらと手を振った。それからにやりと笑う。

「それに叩くなら、君のお尻がいい」
「じゃあ」

 僚はすぐさま口を開いた。思いがけず大きな声に神取は目を瞬いた。僚自身も、自分の勢いに自分ではっとして、一旦口を噤んだ。ひと呼吸置いてからそっと口を開き、囁きほどにひっそりと告げた。

「じゃあ……叩いて」

 面白そうな目付きで僚を見やり、本気かどうかしばし眺めた後、神取は誘った。

「では私をその気にさせて」

 僚はちらりと目配せし、顔を伏せ、ごく微かに頷いた。

「……お尻、叩いて」

 神取は支配者の貌で微笑んだ。

 

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