Dominance&Submission

かなり重症

 

 

 

 

 

「うわ、なにこれ」

 冷蔵庫から取り出し、どうぞとテーブルに置くと同時に、僚の口から驚きの声が上がった。

「おや。知らないかい」

 神取はとぼけた声で差し出したそれを持ち上げ、書かれた文字を読み上げた。
 コーヒー牛乳だと言ってくる声に、僚は笑いながら「わかってるよ」と返した。瓶入りのコーヒー牛乳をここで目にするとは、思ってもいなかった。驚きのあまり笑ってしまった。
 神取は、まさにその反応を楽しみに買ったのだと説明した。

「じゃあばっちりだよ、ほんと驚いたし」

 僚は手に持ち、ラベルを自分の方に向けた。瓶はひんやり冷たく心地良く、美味そうな色の中身を透かして見せている。頭に被った白いセロファンを、首に巻いた細いテープで留めている。こうして見ると中々お洒落だ。

「鷹久は?」

 目を向ける僚ににやりと笑いかけ、冷蔵庫からもう一本取り出す。こちらは牛乳だ。期待通りだった事に僚は満面の笑みを見せた。

「出張先で、『君』に教えてもらったんだ。美味くて懐かしい味で評判だとね」
「え……ああ。その『俺』か」
「それで、帰る時に一本ずつ買ったという訳さ」
「そっか」

 先ほど男が言った、幻の自分の事だとすぐに察し、僚は頷いた。いささか複雑な気持ちになる。男の隣にはいつも自分がいるが、それは自分ではない。勝手に持っていかれても困る。
 けれど、背骨を折る程の強さで抱きしめて、聞くまでもないと言ってくれた。それだけで気分が良かった。この自分こそが男の一番であると勝ち誇る。なんて単純だろう。

「ほんと、重症だな」

 自分にも向けて、僚は笑いかけた。
 まったくだと、神取はゆっくり頷いた。
 それから二人で並び、同時に瓶を傾けた。

 

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