Dominance&Submission
独り占め
激しい行為ですっかり腰が抜けてしまった僚を大事に抱き上げ、神取はバスルームで優しく洗い清めた。出る頃に、自分で歩けると僚は言ったがまだとても無理で、戻る際も神取は腕に抱き運んだ。気にしなくていいとベッドに寝かせる。 「ありがと……」 僚は喉から絞り出し、しょぼつく目を瞬かせた。 「絶対バカになった……」 「大丈夫さ。充分手加減したからね」 まさか、あれで、とたっぷりの不満を含んだ僚の目が男にぶつけられる。 本格的に管理するとなったら、一週間、十日、一ヶ月も当たり前になる。性器に貞操帯をはめ、鍵をかけて管理するのだ。興奮状態になっても下向きのまま強制的に収められているから、痛みに耐えて鎮まるのを待つしかない。開放してもらえるなら何でもすると、頭の中がそれで一杯になっていく。 静かに綴られる男の説明に、僚は恐ろしげに顔を引き攣らせた。男が本を読み終えるまでのほんの数時間でもこんなにくたくたになるのに、一ヶ月もだなんて想像出来ない。 「まさか……それ、するのか?」 「君がしたいというならね。一方的には決してしない。していいですかと許可を取るさ。ちなみに君は?」 どうだったかと感想を聞かれ、僚はますます顔をしかめた。とても食えたもんじゃないとばかりにべえと舌を出して、それを答えにする。 「そうだね、最初はあまりに強烈だろう」 当然だと神取は笑い、横たわる僚の頭を撫でた。 「けれどね、どうしてかしばらくすると、またしてほしくなるんだよ」 男の言葉に、絶対ありえないと僚はきっぱり首を振った。もう二度とごめんだ、絶対するなよと念を押す。 「そうやってむきになるところ、怪しいな」 「え……」 「本当は、満更でもなかったのでは」 「バカ言え」 出来るだけ、何を馬鹿な事をと装うが、喉から出た声は明らかに震えてしまっていた。見透かされ動揺したと、明らかに態度に出てしまっていた。 しまったと慌てて目を逸らすが、視界の端に、本当の答えを正確に読み取り微笑する男の顔が映った。 悔しさと恥ずかしさが同時に込み上げ、一気に顔が熱くなる。僚は慌てて両手で顔を覆い、またしまったと歯噛みする。こんな行動を取っては、ますます答えを言ってしまっているではないか。 「うるさい」 男にそして自分に向けて、やけになって叫ぶ。 勢いよくぶつけられた言葉も気にせず、神取は優しく頭を撫でた。 「まあ、そう怒るな」 「うるさい、あんなの……やりすぎ」 適当に選んだ言葉をぞんざいに投げ付ける。 「好きなものは、独り占めしたいからね」 君と同じように、と続けられ、僚はふてくされたように黙り込んだ。手で顔を覆ったままなので口元の表情しかわからないが、むくれていたのが、段々と力が抜けていくのがわかった。 「君を独り占め出来て、私は幸せなんだがね。君はどうだい」 尋ねて返ってきたのは、勢いも意味も失くしたうるさいというひと言だった。 本当にはひねくれた事は出来ない人の言葉に、神取はおかしそうに笑った。 「さて、まだしばらくは起きられないだろうから、ゆっくりしておいで」 「誰のせいだよ」 鷹久のせいだ。 口を挟む隙も無く答えまで言われ、神取は降参だと微苦笑した。癖のある黒髪を撫で、強固な砦となった手の甲を軽くたたく。 それを合図に僚は手をどけた。 「どこ行くの?」 「どこも行かないよ。君が起きられるまで、ここで本を読んでいる」 神取は先程の本を指差した。 「もう一回読むのか」 自分も、何度も繰り返し同じ本を読むが、大抵は何日か時間を空けてからだ。よほど面白い内容だったか、はたまた難解であったか。男は特に何も言わず、曖昧な微笑で本を手に椅子に腰かけた。 僚は天井を見上げ、何度か瞬きをした。静かで程よく明るい部屋は、眠りを誘う。 「……なんか、寝ちゃいそうだな」 「構わんよ。ぐっすり眠って、腹の虫が鳴ったら起きるといい」 「……うるさいって」 「すまん」 からかって悪かったと、神取は詫びた。そんな男を殊更険しい顔でひと睨みして、僚は目を閉じた。神取は毛布を肩までかけてやった。 「ありがと。あったかい」 「ゆっくりお休み」 「……ほんとにずっとここにいる?」 「まあ……トイレくらいは」 「それはいいよ」 少し眠そうな顔で僚は笑った。ここにいるからと続ける男に、満足そうに頬を緩める。 胸に迫ってくる嬉しそうな微笑に、神取はしばし見惚れた。彼も少しは、独り占め出来る嬉しさを味わっているだろうか。 やがてまぼろしのような声が聞こえてきた。 「……お休み」 お休みと返すと、五分も経たず僚の呼吸が寝息のそれに変わる。神取はもう一度毛布を確かめ、膝にある本をベッドサイドに置いた。先程は我慢して読むふりをしたが、今は気兼ねなくまっすぐ彼を見ていられる。 独り占め出来る寝顔に満足し、神取はふと微笑んだ。 |