Dominance&Submission

雪見風呂

 

 

 

 

 

 相変わらず自分の演奏技術は、稚拙で足りない部分だらけだった。だが、ならばもっとこうしたい、こうすればいいのではないかと、頭の中で組み立てる余裕があった。そうする為には何が必要かを考える事が出来るようになっていた。
 少し前は、足りない事をただ嘆くばかりであった。
 今は、どうすれば得る事が出来るか向き合う力が湧いてくる。
 これが、男の言う上達した証なのだろう。
 チェロの練習を済ませ、反省会の最中、桜井僚は自分の指先に刻まれた歩みを今一度確かめて、目を上げた。
 丁度、コーヒーカップを置いた男と目が合う。
 笑いかけてくる少年に微笑み返し、神取鷹久はソーサーに添えたチョコレート菓子を口に運んだ。
 久々に顔を合わせ、久々に一緒に練習したからか、僚はよく喋った。先ほどもそうだが、ちょっとした事も拾い上げ、休みなく喋り続ける様に、些細な引っかかりを感じる。
 といって彼の話し声が迷惑だというのではない。彼とのお喋りが面倒などと、これっぽっちも思わない。
 夜のくつろいだ時間、一緒にテレビを見ながら他愛ない言葉を交わすのは実に楽しい。番組の合間の、破天荒なコマーシャルの内容に一緒になって笑うのは実に気持ちがいい。気取った作り笑いではなく、自然と零れる笑い声をさりげなく引き出してくれる彼のお喋りは、本当に心地良かった。
 ただ少し、作為的な物を感じるのだ。
 彼のこの、いつにない止まらぬお喋りは、楽しいからというのももちろんあるだろうが、何かを隠す為だったり、あるいは本当に話したい事への訴えだったり、その辺りも含んでいるのではないかと、思う節があるのだ。
 もしくはただの気のせい、勘繰り。思いすごし。
 僚の綴る言葉によく耳を傾けながら、神取はさりげなく観察を続けた。

 

 

 

「一度くらいは、こういうとこ泊まって、ああいうの食べてみたいな」

 テレビ画面に釘付けになり、美味そうだと、僚は頬を緩めた。
 よくわかると神取は相槌を打った。
 温泉旅館特集として午後八時から始まった二時間番組で、特に見るものもないからとつけたままにしていたのだが、僚には興味があったようだ。
 一つ一つ紹介される旅館の部屋風景や温泉施設を見ては驚嘆の声を上げ、夕食の献立が紹介されれば感動してため息をつく。
 そうしていくつか紹介され、最後に、露天風呂付きの離れがある老舗の温泉旅館が登場した。特集のとっておきの目玉のようであった。
 何千坪という敷地を有し、手入れの行き届いた庭園の中に点在するいくつかの離れ、落ち着いた雰囲気の室内、露天風呂、そして料理。
 雪に沈んだ庭園、独特の雰囲気漂う離れもさることながら、特に目を引くのが、旬の素材を活かした夕食の献立だった。
 派手さはないが、日本独特のしっとりとした深みが感じられる彩りは、なるほど一度は味わってみたいと思わせる逸品だ。
 身を乗り出し、最後まで食い入るように見つめていた僚は、コマーシャルに切り替わったところで思い出したように息をつき、深々と背もたれに身体を預けた。

「あの刺身の盛り合わせ、すごく美味そうだったな」

 旅館の名物として画面いっぱいに映し出された、近海の幸をふんだんに使った刺身の盛り合わせを思い出しながら、僚は同意を求めて隣の男に言った。

「そうだね。取れたてはまた格別だよ」
「そういう時は何が合うんだ? ワインだと……」

 どんな酒が合うのか興味を持って聞いてくる姿勢が嬉しくなり、神取はいくつか候補を上げた。彼はアルコールが全く駄目なので、味の違いについても細かく説明を付け加え、好みを紹介する。
 いくつか質問しながら、僚は熱心に耳を傾けた。

「ところで僚、行くとしたら、先ほど見た中でどこの宿に泊まってみたい?」
「ああ、うーん……やっぱり、最後に見たのがいいな。すぐ海に行けるってのもいい。鷹久、海好きだし。俺も好きだよ」

 更に二、三、言葉を付け加えた。
 やはりいつもより少し口数が多い。彼は何を云おうとしているのだろうか。神取はより様子を探った。
 それからもしばらくテレビをつけたままお喋りを続け、楽しく更けゆく夜を過ごす。
 ある時から、僚の様子が変わり始める。
 どこかそわそわと落ち着きなく、早口になって、気もそぞろになる。
 思いすごしだったかと男が確信しかけた頃だ。
 それまで楽しくくつろいでいたのが、見るからに憂鬱な気分になっていた。
 ついに僚は黙り込んだ。
 本人から言い出すのを待ち、神取も口を噤む。
 しばらくそうして待っていると、僚は覚悟を決めたのか、渡したいものがあると切り出してきた。
 神取は頷いた。
 僚は一秒二秒躊躇した後、ショルダーバッグを取りに行き、中から封筒を取り出した。ごくありふれた縦長の茶封筒。結構な枚数の紙片が詰まっているらしく、随分厚みがあった。
 何が入っているか、神取はひと目で察した。
 僚はややぶっきらぼうに封筒を差し出した。チェロの授業料、とひと言添える。
 神取は受け取り、中を確認した。ざっと見たところ全て高額紙幣のようだ。

「貯金を下ろしてきたのかい」

 僚は男を見ずに小さく首を振った。

「俺の……アルバイト代」

 今にも消え入りそうな声で呟く。
 何のアルバイトか、聞くまでもない。神取は黙って頷いた。そしてようやく合点がゆく。彼の口をいつも以上にお喋りにさせていた原因は、これだったのだ。この金を渡すのが、言い出すのがどうしても怖くて、先延ばしのごまかしに、お喋りをかぶせていたのだ。

「これは、受け取れないな」

 そう告げると、僚の身体がびくりと反応した。今にも泣きそうに顔が歪む。打ち消すように僚は殊更明るい声を出した。

「やっぱり……気持ち悪いよな、こんな金――」
「まあ聞きなさい。ここに座って」

 神取は隣を示した。僚はいくらかためらった後、腰かけた。

「まず、授業料については、既に解決済みだ。お互い納得したものを既に貰っているし、これ以上は受け取れない。受け取る気はない。これは取っておきなさい。もしもの時、どうしてもという時に使いなさい」

 僚の手を取り、握らせる。がさりと音を立てて封筒を握り、僚は俯いた。散々叱られ、すっかり落ち込んでしまった子供の顔で黙りこくる彼に笑いかけ、神取は続けた。

「気持ち悪いとは思わないよ」
「………」
「ただ、授業料はいらないというだけ。君はどうしても気にしてしまうだろうが、それで納得してくれ」

 反応を伺う。しばらくして、何事か呟いた。
 なんで、と聞こえた。

「何についてだい?」

 金の出所について、言っているようだった。あんな事をして稼いだ金を、どうして気持ち悪いと思わないのか、不思議がる。

「誰かを騙したり、盗んだり、不正を働いて得た訳じゃない。勤め先や内容は確かに少々人に言いにくいものだが、まっとうに働いた報酬だ」

 結構大変な思いをしてきた。文字通り身体を張って稼いだ金。彼が無意味に消費されたという点では正直腹が立つが、彼の選択そのものを責める気はさらさらない。あの時の彼にはどうしても必要で、しようのないものだった。それを気持ち悪いなどと、何故そんな事を思わなければいけないのか、そちらの方が不思議だ。
 僚の目が忙しなくさまよう。ちらりと伺うと、眦に光るものが見えた。
 神取は見ない振りを決め込み、しばしの沈黙の後、口を開く。

「ところで来週、空いてるかい?」
「……は?」

 久々に耳にする、彼の少し間の抜けた返答。つい笑ってしまいそうになるのを慌てて飲み込む。神取は繰り返し、具体的な日付を言って渡す。

「らいしゅう……来週は別に、何もない」

 僚はしきりに瞬きして涙を追い払い、聞かれた事に必死になって答える。すると男は良かったと頷き、少し待っていてくれと寝室に入っていった。
 数分して戻ってきた男は、来週出かけよう、と言った。

「どこへ」

 話の展開に置いて行かれまいと、僚は尋ねた。返ってきた男の答えに目を丸くする。
 今席を外した間に、男は件の旅館に予約を取り付けていたのだ。しかも取れたのは例の離れの部屋だ。

「……来週?」
「ああ、来週だ。一度くらいは、食べてみたいだろう?」

 僚はぽかんとした顔で男を見続けた。いよいよ頭がついていかなくなる。

「まずかったかい」
「え……いや。全然。え、でも、あの」
「金曜日はいつも通りチェロの練習をして、一旦解散。翌土曜日の朝に私が迎えに行き、一泊して、日曜日に帰ってくる。いいかい?」
「うん……はい」
「それでね、僚」
「はい」

 いささか呆けている顔が笑いを誘う。出来るだけ抑え、男は続けた。

「宿泊代を、どうするか」

 一瞬間を置き、すぐに僚は手元に目を落とした。

「それは、今まで使った事はあるかい」
「……ない。どうしたらいいか、わからなくて」
「何かに使う予定はあるかい」
「それもない」
「ではこの機会に使ってみよう。金は金だ、変わりはない。美味い物や楽しい時間に変わるんだ。悪い使い道ではないと思うがね」

 神取は表情をよく見守った。やがて僚の顔がほのかに緩み、次に楽しげな笑みが広がっていった。上手く消化出来たようだ。頭を撫で、隣に腰掛ける。

「これで、心置きなく旅行が出来るね」

 ようやく気持ちもすっきりしただろうと声をかけると、僚は神妙な顔付きでうんと唸った。

「頭を切り替えて、楽しもう」

 笑いかけ、僚の肩を抱き寄せる。
 僚は遠慮がちに寄りかかると、ありがとうと小さく呟いた。
 そしてもう一度。

「ありがとう」

 喜びに満ちた、はつらつとした声が弾ける。
 僚の中でようやく実感が沁みて広がってゆく。
 すると驚くほど気持ちが楽になり、同時に来週の事で頭がいっぱいになっていった。
 つい今し方まで暗い顔をしていたのも忘れ、しまいには、ガイドブックを買ってこようか、どこへ行こうかとはしゃいだ声を続けざまに発した。
 そんな僚につられて男も、地元の名物は何か、観光名所はどこかとあれこれ調べ始めた。
 山道を走るのだから、雪対策を用意しておいた方がいいな
 どこでどんな美味い物を食べよう
 そうすると宿には何時頃着くだろう
 二人は、明日早速調べる事をいくつも紙に書き出しながら、来週の旅行に思いを馳せ盛り上がった。
 何を食べよう、どこへ行こう。
 矢継ぎ早に男に質問を浴びせていた僚はある時ふと口を噤むと、どうにもこらえきれない笑みを顔中に浮かべ、突然物凄い力で男の首に腕を回し抱き付いた。
 唐突な行動に一瞬面食らったが、身体中から喜びが滲み出ているのを感じ取った神取は、笑いながら抱き返した。
 僚はそのままの状態で大きく息を吸い込んだ。
 安心しきった様子で身体を預けてくる少年が愛しくてたまらない。本当に大切な存在だ。失くしてなるものか。
 頭を撫でながら、静かに想いを告げる。
 僚は大きく息を吐き出すと、自分もと返した。今、すごく心が軽い。鷹久の言葉のお陰で楽になった。嬉しくてたまらない。

「心配になったら何度でも聞いてくれ。私は何度でも答えて、君に証明する」
「ありがと……ほんとに」

 いつも甘えてごめん。
 そんな言葉が続く。神取はふと笑い、身体を離した。間近に顔を見つめ、熱心に見つめ返してくる彼にゆっくりと顔を近付けた。
 笑みを象った二人の唇が静かに重なる。

 

 

 

 互いの熱を感じ取るだけの大人しいキスは徐々に激しさを増していき、やがて貪るような口付けにかわる。
 それだけで身体を煽られ、我慢出来なくなった僚は男の着ている部屋着に手を伸ばすと、キスを交わしながらボタンを外していった。
 それにつれて顔を下方へとずらし、露わになった肌へと唇を寄せる。
 何度か軽くついばむように接吻を繰り返し、舌を出して鎖骨の辺りを舐めた。
 頭上でもれる男の微かなため息に安心感を抱きながら、口付けを続ける。
 肌の上を滑る僚の熱い唇にふと笑みを浮かべ、神取は優しくその頭を撫でた。鎖骨から首筋にかけて刺激され、やがて乳首を口に含まれて、喉の奥で小さく呻きをもらす。
 小さな突起を舐めた瞬間びくんと反応した肌に、僚は目眩にも似た快感を背筋に覚えた。自分の愛撫に感じている事に、ひどく昂奮する。
 僚は舌と唇で同じ部分を執拗に責めながら徐々にソファーから滑り降りると、手探りで男の下腹を弄り、前方をくつろげ下着の奥に手を潜り込ませた。
 またも男の息が弾む。
 すでにそこは、独特の弾力を見せ硬くそそり立っていた。
 自分自身も息を乱しながら男のそれを外に晒し、跪くと、僚は深く咥え込んだ。

「ん……」

 焼け付く吐息とともに熱を帯びた唇で包まれ、たまらずに神取は低く呻いた。
 鼓膜を震わせる男の声に、身体の芯がぞくりとざわめく。
 目も眩む悦楽を感じながら、わざと卑猥な音を響かせて僚は口淫にふけった。

「いいよ……とても」

 癖のある柔らかい髪を梳きながら男が呟く。
 陶酔した男の声に、腰の奥が熱く疼いた。目眩がする。男の息を乱しているのが自分だと思うだけで、いきそうになる。
 喉を突くほどに成長した男のものも。
 髪を梳く手も。
 何もかも。
 そしてもっと快感を与えたいと、半ば我を忘れて貪り続けた。
 多少の息苦しさも厭わず喉の奥まで含み、強く弱く緩急をつけながら唇で扱く。同時に片手で張り詰めた睾丸をやわやわと揉みしだき、先端の淡い窪みを舌先で突く。

「っ……」

 僚の与える愛撫に男は喉を鳴らした。

「君の口も舌も……本当にたまらない」

 下腹に顔を埋め口淫にふける僚の前髪を梳き上げ、神取は薄く笑みを浮かべた。
 その言葉に僚は頬をうっすらと染め、恥ずかしそうに目を伏せた。
 落差に男は笑みを深め、肩に手をかけた。

「おいで」

 自らの膝の上に優しく引き上げる。
 ソファーに座った男を跨ぐ格好で膝立ちになり、見下ろす顔に羞恥の眼差しを向けながら僚は胸を喘がせた。

「下を脱いで」

 言いながら両手を差し伸べ頬を包み込むと、ゆっくり引き寄せ唇を重ねる。

「んっ……」

 すっかり昂ぶり過敏になった身体にキスを受け、僚はたまらずに声をもらした。
 熱く湿った吐息を絡ませ男の舌を貪りながら、もどかしそうに下衣を脱ぎさる。
 そうして露わになった僚の下部に、キスを交わしたまま男は手を伸ばした。
 一度も触れていないにも関わらずそこは熱く硬く屹立し、ようやく与えられた手の感触にひくりとわなないた。

「こんなに硬くして……」
 いやらしい子だね

 唇を耳朶にずらして甘噛みしながら囁き、そっと握り締める。

「そっち、こそ……乳首舐められた…だけで…硬くしてた……だろ」

 びりびりと脳天に響く快感をこらえながら、僚は負けずに言い返した。

「ああ……君に舐められると、とても感じるんだ」

 その言葉に頬がかっと熱くなる。
 顔から火が出る思いだった。あまりの恥ずかしさに半ば混乱し、僚は忙しなく視線をさまよわせた。

「君もそうだろう?」

 握り込んだ先端を親指で丸くなぞりながら問い返す。
 敏感な部分を責められ、こらえても止まらない震えを放ちながら僚は必死に首を振った。
 何故首を振ってしまうのか自分でもわからない。
 そんな様子に、思わず笑みが零れる。

「違うのかい? なら、君の好きな事を探そうか」

 強い刺激に無意識に腰を引く僚を強く抱き寄せ、神取は熱茎を扱きながらもう一方の手で尻奥を探った。

「う、ん…あ……」

 二本の指で広げられ、押し当てられた中指がゆっくりと内部に入り込んでくるぞくぞくとした感触に、僚は掠れたため息を切れ切れに吐いた。
 押し返そうとする動きに逆らい、男は更に指を奥へ埋める。柔らかな締め付けに満足げな笑みを浮かべると、一旦引き抜き、二本に増やして内部を弄った。

「んん…く……あっ……」

 緩慢な動きで揺すられ、たまらずに僚は半開きになった口から絶え間なく喘ぎをもらした。
 不意にぐっと息を飲み、自分だけがと端を赤く染めた瞳で男を熱っぽく見つめ、視線を下方に落とすと、跨いだすぐ傍にある怒漲したものを両手に包み込んだ。
 前後に受ける刺激のせいで途切れがちになる手を上下に動かし、男に快楽を与える。
 ぎこちない愛撫に、愛しさが募る。
 早く繋がりたいと逸る気持ちをぐっとこらえ、男は僚の腰を自身の元に導いた。
 伏目がちにちらと見やる眼差しに薄く笑いかけ、ゆっくりと座らせる。

「んっ……!」

 瞬間僚の全身がびくりと強張った。肩を抱きそれを宥めながら、キスを交わす。

「ふ、うっ……」

 力強く入り込んでくる熱塊に詰まった声を何度ももらしながら男のキスに応え、僚は徐々に腰を下ろしていった。
 ようやく根元まで飲み込み、背筋を這い上がる凄まじい愉悦に脳天が痺れる。

「いき…そう……」

 無意識に零れた熱い吐息に神取はふっと口端を緩めた。
 入れられただけで?
 そっと流し込まれた囁きに、恥じらいながらもこくりと頷く。

「少し、我慢できるかい」

 下腹のそれにきつく指を絡み付け、かすかに眉を寄せる僚にそう投げかけると、神取は表情を見つめたまま上下に揺さぶりをかけた。

「!…」

 大きくうねる快感に、僚は声もなく背を反らせた。
 始めはゆっくりだった突き上げは徐々に激しさを増し、時折前立腺を抉る熱塊に射精欲が強く煽られる。

「い、や…だ……あ、あっ…く……」

 解放を阻む手をほどこうともがくが、身体の中心を駆け抜ける快感に痺れてしまって思うように動けない。もどかしさに首を振ってもそれは強まるばかりで、息も出来なくなる。

「やっ…ぁ……う……いき、た……」

 男の輪郭に慣れた身体は後方の刺激だけでも達する事が出来るが、わざと外して責められてはそれも叶わない。煽るだけ煽り寸でのところで意地悪く気を逸らせる男に、涙に濡れた声を上げて僚は身悶えた。
 いつの間にか羞恥は消え去り、欲しいままねだる姿に神取は目を細めると、ソファーにもたれていた身体を起こし胸元にゆっくりと顔を近付けた。
 何をするつもりなのか察した僚は咄嗟に身を捩ったが、強引に抱き寄せられ負けて、されるまま乳首を口に含まれた。

「ひっ…や――あ、ぁ……」

 柔らかい唇と硬い歯の感触にびくんと肩を弾ませ、僚は切れ切れに嬌声をもらした。
 この上まだ焦らすのかと、潤んだ眼差しで男を責める。
 そんな僚を更に翻弄しようと、神取は腰を抱いていた手を下に滑らせ、繋がった部分に指を這わせた。激しい抜き差しに痙攣する後孔を優しくなぞり、突付く。

「もっ――う……おかしく…なっ……」

 男の執拗な愛撫に、僚は泣きながらいかせてくれと訴えた。

「どこでいきたい?」
「あっ……あぁ…りょうほう、で……」

 前後に一杯に男の感触を味わいたいと、腰を揺する。

「欲張りだね」
「わらうな……だ…て、鷹久の手も――好き」

 自身のそれに絡み付く男の指にじっと視線を注ぎ、僚はお願いとねだった。

「私も好きだよ……一緒にしようか」

 神取は手を掴むと、握らせ、その上から包み込んだ。先走りが溢れぬるつく性器を二人で扱く。
 それにあわせて、腰の動きを早める。
 たちまち僚は背を反らせた。

「ん…あっ……いい……ああぁ……い、く――」

 びくびくっと大きくわななき、ようやく訪れた解放に白液を飛び散らせた。無意識に男に抱き付き、飲み込んだものを幾度も締め付けながら絶頂の悦びに浸る。
 間を置かず、腰の奥に熱を放たれ僚は全身を大きくわななかせた。
 しばらくの間、抱き合ったまま余韻に浸っていた二人は、やがてどちらからともなくバスルームに誘い、二度目の入浴を済ませ寝室に入った。
 心地好く気だるい身体をベッドに横たえ、向かい合うと、旅行の話で盛り上がりながらいつしか眠りに就いた。

 

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