Dominance&Submission

Suite

 

 

 

 

 

 ようやく満足しきって、二人は肩を支えよろよろとシャワーを浴び、心地良い気だるさの中、ベッドに横たわっていた。
 しばらくして、僚が用足しに起き上がる。
 戻ってきた彼を目の端に捕らえ、ベッドに座ったところで、神取は口を開いた。

「変わった事はなかったかい?」
「え……いや」

 別に、と続ける。トイレが故障して、修理でも頼んだのだろうか。水の出も、扉の鍵も、別におかしなところはなかったが。さっきだって、普通に使えた。そこまで考えたところで、僚は男の言わんとするところをようやく察した。察して、一気に顔が熱くなる。
 尿道に異物を詰めた事で、異常は起きなかったかと、男はそう聞いてきたのだ。
 僚は咳込むように息を詰め、口ごもりながら平気だと答えた。

「よかった」

 神取はゆっくり起き上がると、身体を僚の方に向けた。
 安堵する男をちらりと見やり、僚はぶっきらぼうに言った。

「なに……鷹久がそんな、へまする訳ないじゃん」

 だから別に何ともなかった…沁みたり、痛みなど、起きるはずもない。
 口調はえらくつっけんどんだが、それは揺るぎない信頼の証でもあった。彼のいつもの、照れ隠しだ。
 無性に嬉しくなり、神取は顔を寄せた。
 しかし触れる寸前僚は身を引き、何かを言い含んだ目で男を見やった。
 男は動きを止めて尋ねる。

「どうした?」
「……あのさ」
「なんだい」

 姿勢を戻し、続く言葉に耳を傾ける。

「朝のあれって…今日だけだよな」
「あれ、とは?」

 察しの悪い己を詫びつつ神取はもう一度聞き返した。

「だから、あの……何でもするって言ったやつだよ」

 わざとはぐらかしているのではないとわかっても、自分の口から言うのは気恥ずかしい。放り投げるような物言いで僚は説明した。

「ああ、あの事か。もちろん、今日だけさ。まだ……」

 神取は時計を探し、たっぷり時間は残っていると笑いかける。

「まだなんかさせるつもりかよ」
「そうだな…君も楽しみにしているようだから、何か考えないといけないね」

 その言葉に、思わず僚は目付きをきつくした。

「楽しんでなんか……」

 思い切り力を込めて睨み付ける。しかし、穏やかな眼差しに見つめられては維持する事が出来ない。
 少し緩んだところで、男は思いを口にした。
 愛しているよ、と。
 僚は息を詰めた。
 条件反射よろしくうろたえる彼が、可愛くてたまらない。

「君の事、まるごと、全部だ」

 だから何も心配しなくていいと、頭を抱き寄せる。
 抱かれて素直に肩口に頭を預け、僚は喉の奥で頷いた。

「ありがとう……鷹久」

 しばし穏やかな時間が流れる。
 やや置いて男は言った。

「こういうのはどうかな」
「なんだよ……」

 たくらみを含んだ声を聞き分け、僚は一転して不機嫌そうに唸った。
 思わず笑う。

「今日一日、服を着ないで過ごす、というのは」
「なっ…じゃあ、鷹久もなれよな!」

 勢いに任せて言い返すが、すぐに頭の中に、男二人が裸で部屋の中をうろうろしている情けない光景が浮かび上がって、あまりのおかしさに僚は肩を震わせて笑った。
 神取も同じような場面を想像してしまい、二人して声を上げて笑った。

「とりあえず、なんか食べてからにしよう」

 そう言って僚は、男の手を引いた。
 そのまま神取は顔を近付け、何度目になるかわからないキスをした。
 嬉しそうに受け止めた僚だが、不意に腹がぐうと音を立てた。
 そこでまた、二人は笑った。

 

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