パラ斉と

 

 

 

 

 

 僕は斉木楠雄。超能力者で以下省略。
 現在は訳あって女の姿、例の斉木楠子になって、最近話題のとあるカフェに来ているのだが――問題が一つ。
 僕の目の前に、僕がいる。
 正確には本来の僕、斉木楠雄がいる。
 そしてこの斉木楠雄は、この世界の斉木楠雄じゃない。
 話題のカフェに相応しい洒落た内装の、窓際の席に、僕と僕は向かい合って座っていた。
 なんでこんな事にと顔が歪む一方、僕がカフェを訪れた本来の目的「90分ケーキ食べ放題」を果たす為に脳内では歓喜の嵐が吹き荒れ、非常に複雑な心境だ。
 もし僕がその心境を声で表現したとしたら、きっと、父さんか鳥束以上に情けない驚き声が発せられるに違いない。まあもちろんそんな醜態を晒すつもりは微塵もないが。
 とにもかくにも、これは参った――。
「こうしてても時間がもったいないしさ、選びにいこうよ」
 そんな僕の苦悩などお構いなしに、僕はお気楽な顔で席を立った。
 お気楽というか、沢山のおもちゃを前にワクワクが止まらない子供の顔というかとにかく、僕にはとても出来そうにない顔。
 まあ、内心では僕も似たようなものではあるがな。だから余計むしゃくしゃする。
「ほら、行こうよ」
 首から下げたネックレスのトップが揺れ、店内の照明を反射してキラキラと光る。
 目にちらちらと鬱陶しいそれも、その表情も、信条も何もかも、僕とはえらくかけ離れている僕。
『……そうだな』
 一つ大きなため息を吐いた後、僕も立ち上がる。
 やれやれ、元をただせば僕の責任だが、厄介にもほどがある。



 唐突で恐縮だが、僕は鳥束と付き合っている。
 あの煩悩の塊のド変態のドグサレ生臭坊主と、だ。
 どうかしてると思うのは僕も同じだが、何がどうしてこうなって、奴と恋仲になった。
 そういった関係になっても奴は相変わらず女性のおっぱいにご執心で、しょっちゅうよそ見をするが、以前奴が言った「本命の前だとキンチョーしちゃう」事からくる、いわゆるそわそわや緊張を隠す為のよそ見だとわかり、つまり僕はそれだけ重要な位置に置かれている、他と一線を画す存在であると知ってからは、舌打ちする回数も減った。
 それはそれでまたムカつくのだが。
 まあとにかく、付き合いは続いている。それなりの事もした。

 超能力のお陰で、幼い頃から何でも視えて何でも聴こえてきたので、実のところ性的な事に興味は薄かった。年頃なのでまあそれなりに催すし処理だのするが、もう、見たり聞いたりで興奮する事はほぼなかった。
 奴が持ってる本だの動画だのに、一切興味がわかない。
 触れば気持ち良いし、気持ち良い事は正直嫌いじゃないが、こんな身体で果たして奴の欲求に応えられるだろうかと内心不安もあった。
 というか、奴め、よくも男の身体に欲情するものだと呆れもした。
 でも立派に勃ってる、ついてない、ついてる僕の身体を見ても全然萎えない。そんな奴に僕はやや引き気味だった。
 もうどうにでもなれと、行為に飛び込んだ。
 結果からいうと、最悪な事に相性抜群だった。
 お互い初めての行為だからあれやこれや試行錯誤はあったが、やってみれば思いも寄らない快楽に飲まれ、普段の自分じゃ考えられないほど乱れてしまった。
 初めて同士で、技巧もへったくれもないのに、だ。だから、相性がいいとしか言いようがない。
 歯ぎしりするほど悔しい結果だ。
 更に悔しい事に、僕は気持ち良い事は嫌いじゃない。
 奴との行為にのめり込むのに、そう時間はかからなかった。

 まあそんなこんなで、男の身体での行為もだいぶ馴染んできた頃、ちょっとした興味から、楠子の身体でしてみたい欲求が湧いた。
 奴は大喜びで迎え入れ、いつも以上に丁寧に僕を扱った。いつも奴はびっくりするほど丁寧だ。脳内はあんなに爛れた煩悩まみれなのに、雑に扱われた事は一度もない。
 いつだって優しく、僕優先に行為を進める。まあ、あんまり昂ると箍が外れて自分本位になってしまうが、それは僕もそう、お互い様のことで、そこまでなるのは相性が良い事の表れだから強引なところも悪からず思っている。
 そしてそれら以上に、繊細なガラス細工のように優しく扱い僕をとろかした。
 思った以上の快感を得られたが、いざ繋がるというところで、僕はしり込みしてしまった。
 血管が切れそうなほど興奮しているというのに奴は、仕方ないですよまた今度があったらしましょう、なんて柔らかい声で僕を包み込むものだから、僕はやけになって尻を差し出した。
 そっちなら、もう何度となくやっているので怖くないからだ。
 そう、怖かったのだ。乳首を摘ままれただけで背骨が痺れ、恥ずかしいほど濡れてしまった。驚きながらも嬉しそうに奴にクリトリスを擦られた時、不覚にも僕はいった。
 男の身体でいくのとは何もかも違う激しい衝撃が全身を襲った。
 まだ表面をちょっと撫でられただけなのにこんなになってしまうなんて、じゃあセックスしたらどうなってしまうのか。
 身体がはじけそうなくらい気持ち良いだろう。
 そしてそれは、鳥束にとってもそうだろう。

 もしもこれで鳥束が「やっぱり女の子とする方がいい」となったら――。
 恐怖に身動き取れなくなり、どうしても無理だと拒んだ。

 だったら最初から女体で迫るなという話だが、最初の思い付きでは、もっと浅い単純な好奇心からだった。
 気持ち良い事は、嫌いじゃないから。
 どんなものだろうと、深く考えず興味本位で女体を晒した。
 いいことはいいが、想像以上の快感が恐ろしくて、僕は拒んだ。

 そんな僕に奴は包み込む微笑を向け、大丈夫と宥め、ちょっとトイレに行ってきますと背を向けた。
 思考を聞く限り、僕がどうして拒んだか本当の理由はわかってないようだった。
 やっぱり、初めての事は怖いよなと、どこまでも僕をいたわっていた。
 申し訳なくて悔しくて、僕は引き止め、代わりの尻を差し出した。
 でも、と奴は躊躇したが、興奮しているのはお互い一緒なのだ。発散しない事には収まりがつかない。
 膣内に迎え入れるのは怖かったが、今日した結果を奴から貰えないのは、身体の中に何も残してもらえないのは、寂しくてたまらなかった。
 だから証を寄越せと、僕はねだった。
 四つん這いになって尻を突き出せば、限界ギリギリだった奴は獣の顔で僕に圧し掛かってきた。
 自分の口から高い悲鳴が上がるのを他人事のように聞きながら、僕は何度もいった。
 奴も、抜かないまま三度も僕の中に出した。
 出し過ぎだと、後から文句を言ったが、お互い満足したのはいうまでもない。

 それから、度々、楠子でしている。
 女体を愛撫される快感は男の身体とはまた別で、すっかり病み付きになった。
 交わるのは依然尻でだが、実は…回数を重ねるごとに前でしてもらいたい欲求が膨れ上がるようになった。
 奴の硬く漲ったペニスで尻の奥をごりごり抉られると、肉壁の向こうの胎内が、燃えるように疼くのを感じるのだ。
 奴と女体で戯れた後、どうにも興奮が収まらず、部屋で一人自慰に耽った事もある。
 初めて女体でいった時のような目も眩む絶頂を味わうが、奴のペニスをここに迎え入れたら、きっとこの何倍、何十倍も気持ち良いに違いない。
 そんな思いにとらわれるようになった。
 期待と欲望は日を追うごとに膨れ上がり、僕を支配していった。
 もちろん、男の身体でも交わっていた。
 いいところだけを狙ってガンガン突いてくる力強い腰使いに不満はない。
 男でも女でも、等しく興奮して乗っかってきてくれる奴が、愛しくてたまらない。
 だから、奴の全部がほしくてたまらないのだ。
 奴の全部を、僕の全部で受け止めたい。
 その結果がどうなろうと、僕は…もう、受け止める覚悟は出来ている。


 という事で、今日いよいよ正式にセックスするつもりでいる。鳥束にはすでに伝えてある。その景気づけというか恐怖を払いのける為というか、気持ちを落ち着かせるために好物でもと思い立ち、カフェにやってきたのだ。
 以前こうして女体化して食べ放題に赴いた時、服装を考えるのを面倒がって、一番身近で見慣れている女子用の制服で横着したせいで、散々な目に遭ってしまったから、今回はしっかり服を用意した。
 まあ、ここは家からも学校からもちょっと離れているし、それにもう連中には諸々知られてしまっているので今更面倒回避もくそもないのだが、ゲン担ぎのようなものだ。
 せっかく奴と本当に繋がる日だってのに、余計な災難は背負いこみたくない。
 何はともあれ、これで万全だ。
 そう思ったのだが――。

 そこで、クリスマス限定カップル割引、なる文字を目にしてしまった。
 カップル割引だと?
 なんだこれ、こんなの前回来た時はなかったぞ!
 そうだ、鳥束――は、夕方まで不在だ。
 他に頼れる男は…いない!
 なんでいないんだ鳥束、なんで今日に限って、なんでお前は――!
 くそ、小遣い少ないんだぞ、僕は!
 少ない中で必死にやりくりしている僕にとって、ちょっとだけ安いその「ちょっと」が重大なんだ!!
 なんて、馬鹿みたいに駄々をこねたのがいけなかった。
 超能力者が駄々をこねると、ろくなことにならない。
 ふと目を上げると、そこに、人気投票世界の僕が立っていた。
 僕が呼び寄せたのは間違いない。



「回想終わった?」
 テーブルを挟んだ向こうから、僕がにこやかに話しかけてくる。
『勝手に読み取るな』
 僕はムッと眉根を寄せた。
「聞かされる身にもなってよ」
『知るか、うるさい』
「わあ、僕ってわがまま」
 眉間のしわがますます深くなる。半ばやけになって好き放題取ってきた皿の上のスイーツを無言で口に運んだ。
 たちまち顔から力が抜け、味わう程に指先までとろけていく。
「この店、僕の世界にもあるけど、本当に美味いよね」
 一つ目に手を付けるのは、僕も向こうも同じくコーヒーゼリー。
 当然だな、うん。
 そしてお互い同じ顔でうっとりとその味に酔いしれる。
『ああ……全然、嫌いじゃない』
 ふわふわ夢見心地で返答すれば、向こうも似たような顔でうんうんと頷いた。
「僕はね、今日、僕の世界のこの店で、鳥束とデートの予定だったんだよ」
 僕のせいでおじゃんだけど。
「え……お前、鳥束なんかと付き合ってるのか」
 驚きのあまり、口が動いてしまった。
「……なんでそんな致死率の高いブーメラン、投げるかなぁ」
 フォークを持った手で口元を押さえ、くくくと肩を揺する僕。
 確かにそうだな。でも僕はただ、正直な感想を述べたまでだ。
 別の世界なんだから、別の奴選べばいいだろ。誰も選ばなくてもいいんだし。
 それを、よりにもよって鳥束だなんて。
 冗談は世紀末のヒャッハーだけにしてくれ。
 なんだ、世界が変わろうと、奴に惹かれるのはお約束なのか?
 どこの世界に行こうが、親だろうが幽霊だろうが挙句夢の中だろうが、燃堂が僕を「相棒」と呼ぶように、そういうなんか決まりでもあるのか?

 それはそれとして。
『……邪魔して悪かったな』
 デート
 僕は目を逸らし、ぼそりと告げた。
「うん、まあ、鳥束を何より優先する僕だけど、他でもない僕の頼みじゃ、聞かない訳にいかないからね」
 うわ、やっぱりこの斉木楠雄気持ちわるっ。
 白い歯が眩しい爽やかな笑顔、頼もしい親指、ウインク、どれをとっても気持ち悪い事この上ない。いくら別世界とはいえ、これが僕だなんてあんまりだ。
 美味しく上等なコーヒーゼリーが胃の中でひっくり返りそうなのを懸命に食い止める。
「それに、結局スイーツバイキングはこうして楽しめてるし、プラマイうーん、てとこかな」
 気まずさに口がへの字になる。
 自分のわがままで別世界の自分を呼んでしまった、しかも大事な予定をふいにさせて。借りを作るのが何より嫌いな僕にとってこれは中々の痛手だ。
「じゃ、ちょっとお願い、聞いてもらおうかな」
 並行世界の僕が、一見爽やかながら悪だくみを含んだ顔でにやりと唇を歪めた。
 あ、お前でもそんな顔もするんだというか出来るんだなとちょっと驚いた時、テレパシーで読み取った「お願い」の内容に今度こそコーヒーゼリーがひっくり返る。
『……おい、本気か』
 僕の目的は、女体化した自分とのセックス。あと、鳥束交えた3P…っておい!
「うん、本気だよ。僕も同様、気持ち良い事が好きなんでね」
『……好きといっても、限度があるだろ、どんだけ奔放なんだ』
 本当にこれ、僕か?
 僕なんだよな。
「こんな機会滅多にないし、何事も経験だよ」
『そんな経験はいらん』
「食わず嫌いは良くないよ。試しに、一発」
『……やめろ』
『まあまあ、オナニーの延長だと思ってさ』
『思えるか!』
 カッと目を見開く。
 あと、さすがにやべぇ単語はテレパシーで送ってきたか。そこは弁えてんだなと思ったら、同じカッコの連続でどっちが喋ってんのかわからなくなると読み手さんに悪いから、とか言ってきた。はて何の事やら。
「借りを作るの、嫌だよね、ちょっとでも悪いと思ってるなら、乗ってくれるよね。というか乗っからせてくれるよね」
 爽やかな顔で下衆な事言うんじゃない、どこの鳥束だよまったく。
 こんな僕いやだ。
 現実逃避にケーキを口に運ぶ。
 どれだけ、帰れ消えろと念じても、もう一人の超能力者が受け入れない限りこの世界から飛ばす事は出来ない。
 つまり、こいつの希望を叶えない限り、僕に平穏は訪れないというわけだ。
『やれやれ……好きにしろ』
「じゃ、決まりだね」
『ただし、鳥束に手を出したら承知しない。それだけは肝に銘じておけ』
「ああ、そりゃもちろん。誓うよ」
 気持ち悪い斉木楠雄の気持ち悪いほどうれしげな微笑に、僕は力なく息を吐いた。

 

 

 

 のぼせそうなくらい、ふやけそうなくらい湯船に浸かり、オレは徹底的に身体を洗い清めた。
 頭のてっぺんからつま先まで、耳の後ろはもちろん足の指の間に至るまで念入りにこすって汚れを洗い落とす。
 ちょっとでも抜かりがあってはならない。
 なんたって今日は、今日こそは、楠子ちゃんと最後までいくからだ!
 ああ…ようやく斉木さんからオッケーもらえた。
 短いようで長かったなぁ。
 やっと出来るんだ、念願の女性とのセックス、ついに、ようやく、オレにも!
 しかも斉木さんとだなんて、天にも昇る気分だ。
 前屈みになって、せっせと足の裏をこする。姿勢のせいかはたまた興奮からか、鼻血が出そうである。
 それどころか頭がクラっとしてきたので、オレはいったん中断して身体を起こした。
「……ふーっ」
 大きなため息を一つ。
 斉木さん、いつ来るかな。
 オレの方は、日が暮れる頃には帰りますって伝えてあったから、遅くにはならないと思うけど。
 もう、来てたりするかも。
 まあいくらなんでもそりゃ自分に都合よすぎか。
 ニヤニヤしながら足を洗う。
 よし、これで全身くまなくピッカピカだな。
 ちょっとでも粗相があっちゃ男が廃るからな。
 待っててね楠子ちゃん…斉木さん!
 オレは興奮を鎮める為、頭から冷水を被った。
「うひぃっ!」
 鼻血どころか心臓止まりそう!

 部屋に入る前に、もう一度身だしなみを確認する。
 髪洗った、身体洗った、歯も磨いた、トイレも済ませた、爪も綺麗に切り揃えてある、あとなんか抜けてるものあるか?
 ないな?
 よし、いざ――!
 きっとまだ来ちゃいないだろうけど、もしかしたらもう来てるかもしれない、そんな望みを片隅に、オレは扉を開いた。
「あっぁ……!」
 間違いなく斉木さんは、いた。
 そして楠子ちゃんも、いた。
 二人は肩を並べてコントローラーを握り、何らかのゲームに興じていた。
「お邪魔してるよ、鳥束」
『歯磨き三回はやりすぎだろ』
 顎が外れ、床まで一気に落下した。
 それくらいの衝撃を受けた。
 マジショックだ。
 なんだよこれ!

 

 

 

「斉木さん――が二人!? え、え、なにこれ、なになに、どっちか姐さんスか? それかマボロシ見てる? え、これなに?」
『どちらも正真正銘僕だ』
 僕はコントローラーを置き、ドアの前であたふたする鳥束に軽く肩を竦めた。
『こっち来て座れ、ちゃんと説明してやるから』
 鳥束は目を白黒させ、おずおずといった様子で僕らの前に座った。


「並行世界!? 斉木さんなんでもありだな……ってなんで脱いでんスか斉木さん――と楠子ちゃん!」
 どっちもなんで当たり前のように服脱ぎ始めてんの!
『いいから、やるぞ鳥束。今日はその予定だったしな』
「え! いや、ちょ待って斉木さん……せめてあの、ムードとかをですね」
『うるさい、御託はいいからさっさと勃たせろ』
「そんな……ひどいっス」
 悪いと思ってるよ鳥束。
 でもな、こっちだってこんな事、さっさと済ませたいんだよ。
 ああもう、せっかくお前と本当に繋がる夜だってのに、僕も交えて3Pだと?
 なんて災難だ。
 それもこれも全て僕が蒔いた種、悪いが鳥束、付き合ってもらうぞ。
 僕は半ば無理やり奴の服をはぎ取ると、諦め悪く股間を隠す手を引きはがし、顔を近付けた。
「ひゃあ、ひえぇ……」
 情けない声出すな、お前、いつも口でさせたがってるだろ。半分も応えてやってないが、今日は特別だ、これでフル勃起まで刺激してやるよ。
『悪いようにはしない。だから力を抜け』
「ぅわあっ!」
 先端にキスすると、鳥束の身体が大げさにびくりと反応した。
 ほら、お前だって肉欲には弱いんだから、無駄な抵抗はやめにして素直に感じろ。
「さすがの僕も、初めては緊張するよね、でもだからってそんな強引にしたら、勃つものも勃たないよ」
 うるさいぞ、別に緊張なんてしていない。順序とかムードとかまどろっこしいからこうしてるだけだ。
「ええー、いつももうちょい、優しくやってるみたいなのに」
 おい、勝手に記憶読み取るんじゃない、こっちの事はどうでもいいだろ。
 あと、おい、おい、自分らのを僕に見せようとするな。
 お前らはお前らでよろしくやってていいから、こっちに伝えてこなくていいから!
「別に、無理やり流し込もうなんてしてないけどね。ただ、僕の鳥束もいいよって思っただけだし。超能力って、こういう時厄介だよね」
 ああ、そうだな。
 と、そんな事より、鳥束をその気にさせる――
「のは、もう充分みたいだね」
 向こうの僕が言う通り、口の端が切れそうなほどに、いつの間にか鳥束のブツは完全体に成長を遂げていた。
 変化はそれだけではない。
 さっきは「ひえぇ」なんて及び腰だったくせに、気付けば獣のように目をぎらつかせて僕を見ていた。
 ぞくっと背筋が冷えたが、同時にときめきもした。鳥束のこの顔…嫌いじゃないんだ。
 腹の奥にどろりとした熱がこもる。
 濡れる感触がわかり、微かなおぞ気に僕は身じろいだ。
「僕もちょっとその気になったから、少しだけ付き合って」
『おい、なにを――!』
 鳥束の股間に前屈みになっていた身体を引き起こされ、何をすると言う間に、唇を塞がれていた。
 おい、同じ顔にキスとか、どんだけ奔放なんだよ!

 

 

 

 オレの目の前で、斉木さんと斉木さんが、乳繰り合っていた。
 正確には、男の斉木さんがやや強引気味に楠子ちゃんを愛撫しているのだが、楠子ちゃんの抵抗しきれてない感じがなんというか、興奮する。
 本人同士だしどっちも超能力者だから、相手の良いとこがわかるんだろうな。
 男の斉木さん、別世界の斉木さんだからか、見た目はオレの知ってる通りだけどやっぱりどこか違って見える。
 そしてオレの斉木さん…今は楠子ちゃん、何度見てもやっぱりおっぱいデカくて綺麗だな。
 あの感触、オレも知ってる。触ったらどんだけ気持ち良いか、よく知ってる。ふわふわふにゃふにゃとろけるようで、でも芯があって、ずっと触っていたい素敵なおっぱい。
 男の斉木さんの手が、楠子ちゃんの乳房をそっと撫でている。思わず喉がごくりと鳴った。

「あ……くぅ……ん、んん……」
 遠慮がちな喘ぎ声が、楠子ちゃんの口から零れる。手の甲で必死に抑え込もうとしているが、愛撫の手が動く度声はもれた。
 くそ、オレ、いつまでこれ見てりゃいいんだよ。
 なんかもやもやするなあ。なんだこれ。なんだろう。
「鳥束もおいでよ」
 無性にイラついた瞬間、男の斉木さんが誘ってきた。まるで心を読まれたような…って、超能力者だったよ。
 ああもう、頭どうにかなりそうだ。
『早くこい、鳥束』
 楠子ちゃんが睨み付けてくる。そんな泣きそうな顔で言わないでよ、ほんと、おかしくなりそう。
「……じゃあ、遠慮なく」
 おっぱい吸わせてもらおうかなと近付くと、楠子ちゃんが大きく足を開いた。
 え、そっちと思う間に手を掴まれ、誘導される。
「あぅっ……!」
 自分で触らせといて、斉木さん、そんな可愛い声出さないでよ。
「ふふ、すぐいっちゃいそうだね」
『うるさい……』
「だめだって。ほら、素直に」
 男の斉木さんに促され、楠子ちゃんはまたも睨むようにオレを見てきた。ああもう、その目弱いよ、ほんと。
 何を訴えてるのか目線でわかったので、言われなくてもオレはそこに手のひらをあてがった。
「んん……」 
 とろとろに濡れた膣口を手のひらに感じると、斉木さんの腰がびくりと跳ねた。わかってる、いきたくてしょうがないんでしょ、いま気持ち良くしてあげますからね。
「ちがう……」
「違うの?」
「……知らない」
 素っ気ない事言いながら、期待で一杯の目を向けてくる楠子ちゃん。おかしくて、オレはだらしない顔で笑う。
 手のひらでゆっくり揉み込むと、甘く高い悲鳴が上がった。
「あぁっ!」
「ねえ斉木さん、今日はオレと、ここで最後までするんでしたよね」
「ん、んっ…そうだ……」
「なのに、自分とはいえひと目のあるところでなんて、斉木さん、そういう趣味あったんスね」
「ころすぞ……あ、そこ!」
「ね、ここ、クリトリス…手のひらでぐりぐりされるの好きですよね」
 楠子ちゃんが真っ赤な顔でこくこくと頷く。
「僕も好き」
 そこに男の斉木さんの声が重なる。
 感じ入ってとろけた顔に見入ってるところに、聞こえたひと言に、オレはひどく動揺した。

 斉木さんは、滅多な事じゃ好きって言わない。今まで一度だって聞いた事ない。
 世界中で一番好きだろってコーヒーゼリーにさえ使わない徹底ぶりだ。
 だもんだから、あっさりと「好き」と口にする男の斉木さんに、やはり同じ人物とはいえやっぱり別の世界の住人なんだなと、動揺…というか驚きが過ったのだ。

「そうなんだ、こっちの僕はまた随分意固地だね」
「でもそこが、また可愛いんですけどね」
 斉木さんに斉木さん自慢する。
 本人にもこうして「アンタはここがこうで可愛いっス!」と告げた事はあるけど、別の世界の斉木さんにってのは中々不思議な気分だ。
 本人に言うのとはまた違った、妙な感覚に見舞われる。
 ふと視線を感じて目を向けると、余計な事を言うなと、楠子ちゃんが眼光鋭く睨んでいる。
 ああ、だからさ…こんな事してる時にそんな目で見られたら、おねだりにしか見えないっスよ斉木さん!
『ばかやろう……!』
「あぁっ!」
 男の斉木さんに乳首を摘ままれて、楠子ちゃんが悲鳴を上げる。
 それがなんだか悔しく思え、オレはクリトリスへの愛撫をより濃厚にした。
「うぁ…いや、きもちいい……いい、とりつか」
「うん、いいよね斉木さん。だってもうここびしょびしょだし」
「言うなっ…ばか」
 しゃくり上げる楠子ちゃんに、オレはにんまりと目を細めた。
 黒みがかったピンク色の下生えは愛液でぐっしょり濡れそぼり、手を動かす度に卑猥な音がした。
 それにつれて楠子ちゃんの息遣いもどんどん乱れてゆき、腰はいっときも落ち着かず揺れ動いていた。
「ね、いく時は教えてね。いつもみたいに」
「へえ、いつもそうなんだ。ふふ、いいね、僕も聞きたい」
「うるさいだまれ……だまれ」
 目に一杯涙を浮かべて、楠子ちゃんがうわごとのように呟く。
 ああもう、こりゃ間もなくだなと思った直後、突然楠子ちゃんに肩を掴まれ引き寄せられた。唇を重ねた瞬間、楠子ちゃんの身体がひと際大きくわなないた。
 受け身だった腰をオレの手に強く押し付け、絶頂に浸る楠子ちゃん。
「んあぁ――!」
 多分、オレとキスする事で叫びを殺したかったのだろうけど、あまりに快感が強すぎて逃がしきれず、結局声をあげることになった。
 ……のだろうとぼんやり想像しながら、オレは、正面からまじまじと楠子ちゃんのイキ顔を見つめていた。

 初めての時は、そりゃもうえらい興奮した。実際ちょっと鼻血出るくらいのぼせた。
 楠子ちゃんの破壊力、ほんと凄まじい。
 そういや斉木さんと初めてセックスした時も、オレ、恥ずかしながら鼻血垂らしたっけ。
 オレ、どんだけ粘膜弱いかな。
 興奮しやすいのか?
『変態なだけだろ……』
 もう、斉木さん、そんなエロイ顔のままひどい事言わないでよ。よくない扉開けちゃいそう。
「意地悪言う子はキスしますよ」
 顔を近付ける。視界の端には男の斉木さんがいて、正面には楠子ちゃんがいて、どっちも斉木さんで、その片方とキスしてる。もう、頭がどうにかなりそうだった。
「ん、んふ……んんっ」
 キスの最中あんまり可愛い声もらすから、オレはやめられなくなって、楠子ちゃんの舌をしつこくちゅうちゅう吸いまくった。
 声も、感触も、受け取るたびに股間が漲っていって、早く繋がりたくてしょうがない。
 心臓破れちゃいそう。
「とりつか、もっと……キス」
「もお…斉木さん」
 そんな中素直におねだりされて、オレまたきっと鼻血出るよこれ。
 とか言ってたら鼻の奥に何か伝ってるの感じるわ。
 ほんとオレ情けねぇ。
「それでいいから…とりつか」
 わかってますよ、斉木さん。
 オレは再び刺激を与えた。


 指一本でもきつきつの膣内を長い時間かけて柔らかくほぐす。
 そんなの全部すっ飛ばしてすぐにも突っ込みたいって気持ちと、斉木さんには絶対つらい思いさせたくないって気持ちとがせめぎ合って、頭がぐちゃぐちゃになる。
 どうにか、どうにか自制が利いて、興奮しつつもどこか冷静にオレは前戯を施す。
「あ…ひぃっ……!」
 またいく!
 きつく仰け反って、いった余韻に浸る楠子ちゃん。オレも息乱れまくり。もうあそこいてえ、内股が突っ張るくらい痛いっス。
 お互いエッチな汁で股間ドロドロ。一人一本ずつローション使いましたってくらいべしょべしょ。なにこれ漏らしたみたい、うう。
『もう、入れていい』
「だいじょうぶ?」
 尋ねると、楠子ちゃんが無言で頷く。オレはゆっくり指を引き抜いた。うわ、これやばいっス。
 慣らす為にほぐしただけ、まだそこまでだけど、だらしなく開いた足とか、濡れてぐしゃぐしゃになって下腹に貼り付く下生えとか、なんつーか、散々やった後みたいで凄まじくエロイし!
 ごくりと喉が鳴る。
 もう鼻血は垂れないでほしい。


 どうにか準備が出来た。
 では、い、いただきます。
 からからに乾いた喉を鳴らして、楠子ちゃんににじり寄る。
 その時、男の斉木さんが口を開いた。
「お前ならないと思うけど、楠子とやる時は、絶対ゴム忘れるなよ」
「ええそりゃ、もちろん」
 オレは神妙な顔つきになって頷いた。
 斉木さんとする時も、極力つけるようにしてる。斉木さんから、しなくていいって言われない限り、ちゃんと用意してる。
「僕もちゃんと聞いとけ」
 男の斉木さんが、すっかりのぼせた様子の楠子ちゃんの頬をぴたぴた叩く。と、男の斉木さんの思考を読み取ったのか、大きく目を見開いて、逆さに見上げた。
『おい、それマジか』
「マジだ。鳥束、僕の一番のクソ能力、サイコメトリーは知ってるな」
「え、はい、知ってます」
「あれな、子宮口でも発動する」
「……え」
『マジか……』
 楠子ちゃんが、今にも吐きそうな顔になる。思考だけでなく、その時の場面も読み取ったかのようなひどい顔だ。
「僕もやるまで知らなかった。寸前で抜けばいいだろうと横着した罰が当たったんだろうな、あれは、ぶっ飛んだ」
 下手なクスリの十倍はひどかった。
「ど、どうなったんです?」
「まあ、話だけならそうショックはないかな。聞いとけば、絶対やらないって気になるだろうし、いいか」
 オレは相応の覚悟をもって挑んだが、それ以上に衝撃だった。

「お互いかなり興奮してたからってのもあるが、鳥束の分まで快楽が流れ込んできた僕は、受け止め切れず、泡を吹きながら痙攣して、しまいに漏らした」
 そしてそのまま失神。

「……」
 オレは絶句した。
「その姿を目の当たりにした鳥束は、罪悪感から、一時的に、うん…不能になってしまった」
「………」
「一ヶ月かけて治療した。ちなみにその間あいつの後ろを開発した」
「……おい」
 複雑だ。違う世界のオレ、斉木さんに掘られてるのか。
「かなり喜んでたぞ。それで治ったくらいだし」
「それで治ったの!?」
「ああ。この気持ち良さをまた僕に与えたいって、復活した」
『よかったな鳥束』
「うんん……すげぇ複雑」
「まあとにかく、一時的とはいえ不能になりたくなきゃ、ゴムなしでは絶対やるな。結果的には気持ち良い事が増えたが…鳥束の苦しむ姿なんて見たくなかった」
「わかりました斉木さん、約束しますから」
 オレは思わず男の斉木さんを抱きしめた。
「うん…やっぱり鳥束は優しいな。この世界でも」
 ふふと男の斉木さんが、笑いながら軽くオレの肩に手を置いた。
 そうだ、そういや、この斉木さんの世界のオレって、どんななんだろう。
 今聞こうか、後にしようか喉元で迷っていると、ゴム被ったオレのアレを楠子ちゃんにそっと握られ、思考が飛び散る。
「うひっ……」
 思ってもない接触にみっともない声を上げ、オレは尻を跳ねさせた。
 はっと顔を向けると、オレのブツに視線を注いでいた楠子ちゃんが、顔へと目を上げてきた。
 ちょっと怒ったような、よそ見するなって拗ねた目付きに、ごくりと喉が鳴る。
 はいはい斉木さん、オレはアンタ一筋っスからね。
 詫びを込めて、オレは一度ぎゅうっと楠子ちゃんを正面から抱きしめた。
『……じゃあ、早く来い』
 また、ごくりと喉が鳴った。
 やばい。
 鼻血、出んなよ。

 

 

 

 ついに鳥束が僕の処女を散らす。
 かつてないほど心臓が高鳴った。胸が破れそうなほどだ。目までぼうっと霞んできた。
 僕はシーツの上に仰向けで身体を投げ出し、じんじん疼く下腹に悶えそうになるのを堪えて、鳥束がのしかかってくるのをじっと見つめた。
 奴の手が腿に触れ、優しく広げる。自分からも、限界まで足を割り広げる。今にも止まりそうな呼吸に胸を喘がせながら、ゆっくり近付いてくる奴の性器を凝視する。
 先端が触れ、思わず腰がびくついた。
 鳥束も、同じように身を強張らせ、僕を安心させようと頬に触れてきた。
 ああ、優しい。
 でもいいから。
 早く、早くしてくれ鳥束。

「――!」
 じわじわと入り込んでくる熱の塊に、完全に息が詰まった。
 裂ける…裂かれる!
 よっぽど気持ち良いに違いないと思っていたが、実際は、腰が抜けそうな痛みに息もままならなかった。
 期待しすぎたと自分にがっかりする反面、痛みがあってよかったとも思っていた。
「っ……ふっ……!」
 懸命に声を押し殺す。少しでも気を抜くと声が出そうだ。喉がしようもなく震えたが、ひたすらに耐え抜いた。
 鳥束と繋がるのにこれだけ苦労すると、思い知らされるのが、たまらなく嬉しかった。
 もしこれですんなり行えていたら、そっちの方がよっぽどがっかりしたに違いない。
 ようやく、自分はようやく鳥束と一つになれた。
 男でも、女でも。
 どちらの身体でも、お前の形をこの身に受け入れた。
 そこに何かしらの代償はあって当然なのだ。
 腰が砕けそうな痛み…超能力者にこんな痛みを味わわせるなんて、鳥束以外にはありえない。
 それが、ああ、嬉しい。

「斉木さん……全部、入った」
「ああ、入ったな……わかるぞ」
 僕は下腹を手のひらで押さえた。
「ちょ……もー!」
 そういう可愛い事するのやめて、歯止め効かなくなっちゃう!
「何でもいいから…早くこい。動け、僕の中で出せ」
「……斉木さん」
 鳥束の目が細くなる。

 初めての感触に心を奪われ、鳥束はがむしゃらに奥を突いてきた。
 これまでずっと、男でも女でも、お前は僕を驚くほど丁寧に扱ってきたから、身勝手な動きに正直腹が立ったし、動揺もした。
 でもそれが嬉しい。
 ひどい苦痛と戦う事になるが、気持ち良い、幸せだと繰り返す鳥束の心の声を聞きながらだから、なんとか堪えられた。
 こっちは何一つ気持ち良い事はない。しかし身体はそうでも、心は充分満ち足りていた。
 痛くて苦しくて泣きそうなのに嬉しいだなんて、おかしなものだな、鳥束。

 

 

 

「斉木さん……出します――!」
 そう告げて、オレはついに膣内射精を果たした。
 ゴム越しだけど、斉木さんも感じ取ってくれたみたいだ。
 オレは感無量で、言葉もなく見つめ合う。
 最高だった…気持ち良くてとろけそう…そんなのぼせた頭が、息を吸って吐いてする内に少しずつ冷静さを取り戻していく。
 それにつれて、今の、自分本位の行為に対する後悔がどっと押し寄せてきた。
「さいきさん、オレ……いでっ!?」
 なんといってよいやらわからず目を覗き込んだと同時に、おでこをペチンと叩かれた。
「いたい……なに?」
 訳がわからず、オレはおでこを押さえた。不機嫌さを露わに楠子ちゃんは睨むし、男の斉木さんは楽しげに笑うし、オレはきっと間抜け面だろうし、ほとほと弱ってしまう。

「わむっ……!?」
 と、男の斉木さんに顎を救われ口付けられた。
 別世界の斉木さん…同じようでやっぱりちょっと違う。
 あれ、これ、浮気に当たる?
 当たんない?
 深く考えたいが、やっぱり斉木さんは斉木さんで、オレの気持ち良いとこ的確についてきて、あまりの快さに頭が回らない。顔が離れた後も、ぽーっとのぼせてた。
 それを強引に自分の方に戻し、楠子ちゃんも唇を重ねてきた。
 ああやっぱり、オレの斉木さんとするキスが一番いい。
「それは聞き捨てならないな」
 またも男の斉木さんに唇を奪われる。
『ふざけるな、これは僕の鳥束だ』
「ん、む、ぅ」
「まあそうだけど、でも僕とでも気持ちよさそうだよ」
「あむう、もっもご」
『馬鹿言え、僕なのに目が節穴とかどうかしてる』
「もがもが……!」
「その言い方はさすがの僕でも傷付くなあ」
「も、もっ、ちょま……」
 いや、ちょ、ほんと待って。
 待って待って、オレ、キスで殺される?
 かわりばんこに口塞がれて、息もろくに出来なくて酸欠のせいか、頭が上手く働かない。斉木さんが『僕の鳥束が』とか言ってた気がするけど、頭クラクラでぼーっとしてるからもしかしたら聞き間違いかあるいは完全に幻聴か。
 でももし本当なら、オレ天にも昇る気分、このまま死んじゃってもいいくらいだ!
 いや、そりゃさすがにヤだけど、そんくらい嬉しい!

「はあ、はぁ……はっ……」
 三人して、よだれでべとべとになるまで口を舐め回しまくった。
 気分は最高だし、今までにないくらい気持ち良い…けど、オレら、何してるんだっけ?
「セックスに決まってるだろ」
 こういうもんだっけ?
『でかくしといて何言ってんだ』
 苦しそうに顔を歪める楠子ちゃん。
「ご、ごめんなさい、でもだって、ナカ気持ち良いしキスも気持ち良いし……どうしていいやら」
『いいなら……まだするよな』
 え、そりゃもう!
 でも、今の乱闘みたいなキスは、ちょっと勘弁。
 あと、頭はっきりしてる時に、斉木さんに『僕の鳥束』って言ってほしいっス!
『うるさいな…余計な事言ってないで、早く動け』
「………」
 オレは顔をしかめた。
 可愛い顔した女の子が、そんな乱暴な言い方しないの。
 でもなんか股間にビリビリ響いたし、オレってそっちのケもあったのかね。
 まあなんでもいいや、斉木さんがしていいっていうなら、オレ、もう一回。
 やっとやっと、斉木さんの全部を手に入れたのだ、一晩でも二晩でもこうして繋がっていたい。
「斉木さん……動きますね」
 囁くと、ごく、ごく小さく、斉木さんは頷いた。


「あぁ……ああっ……ああ、んあっあ――」
 うつ伏せになってお尻を高く上げた姿勢で、楠子ちゃんは後ろから貫かれていた。
 男の斉木さんの斉木さんが、楠子ちゃんの小さなお尻の孔を出たり入ったりしている。
 そこ、オレが手塩にかけて育てたとこ!

 あの後、オレは一回ゴム替えてバックで、更にもう一回替えて対面座位で楠子ちゃんとセックスした。
 三回目ともなると多少は余裕も出て、楠子ちゃんの様子をうかがう事も出来た。
 から、この前まで一杯していたお尻を、一緒に弄った。
 そうすると前もきゅうきゅう締まって、楠子ちゃんもあんあん可愛い声出して善がって、結局余裕なくなったけど。
 気が付いたらオレ仰向け、その上に楠子ちゃん乗ってて、オレが動く時以外にも楠子ちゃんやけに声出すなと思ったら、男の斉木さんにお尻弄られてた。
 次、僕の番だから準備してるんだ、だって。
 で、オレとし終わって、楠子ちゃんの息切れが収まる頃、男の斉木さんが楠子ちゃんを抱き起こした。

 恨めしいような気持で、オレは二人のアナルセックスを睨むように見つめていた。
 さっきのもやもやが再来する。本人同士だから浮気には当たらない…とはいえ、やっぱりイライラしてしまう。
「ん、や、あ、あ、あっ、ああ――」
 男の斉木さんが奥まで押し込むたび、押し出されるようにして楠子ちゃんが喘ぎ混じりの息を吐く。
 オレとするより多くよがってる気がする。やっぱり、気持ち良いとこわかるんだな。
「ああぁ――! それ、やめろ…やめろ!」
「なんで? いつも鳥束にしてもらってるの、なぞってるよ」
「だからいやだ……ぅあ――!」
 ぐっと強く突き入れて、そこでぴったり制止する。それでいいところを圧されたのか、楠子ちゃんはひと際甲高い声を上げて見悶えた。
 お、オレの真似とかずるいじゃん!
 超能力者、ずるいよ!
 なんとも情けない事を思いながら睨み付けていると、男の斉木さんに手招きされた。
 素直に応じるのが癪に障って、オレはわざと鬱陶しそうににじりよった。
 と、躊躇なく股間のブツを握り込まれ、オレは全身でビクついた。
「僕のわがままにつき合わせてるお詫びに、僕の真似をしてあげるよ」
 へ、オレの斉木さんの真似事とか、どんなもんだよと反抗するが、超能力者の前には無駄な抵抗だった。
「――!」
 上下に手が動き出した途端、オレはビリビリ腰が痺れるのを感じた。
 間違いなく、斉木さんの手付き…袋を撫でたり、先端を親指で擦ったり、全部オレがこれまで「そうされるのが好き」と斉木さんに伝えた事そのもので、そっくりそのまま真似されては、オレはただただ翻弄されるだけだった。
「う、ぁひゃ……」
 先の反抗的な気持ちはどこへやら、呆気なく情けない声をもらしてしまう。
 でも気にする余裕がない。
 でも……あ、気持ち良い…なんかもうどうでもよくなりそう。
 いや、いやいや、オレは斉木さん一筋ですからね!
 でもどっちも斉木さんだし、でもでも――あああ!
「う、うっ……!」
 ああ出る!
 ……いった。出た。思いっきり射精した。
 あっさり出しちゃった自分に落ち込むが、それ以上に満足感が大きかった。
「……あ」
「な、なんスか」
「僕もいきそう。僕も」
 一つ目は自分の事で、二つ目は楠子ちゃんの事。
「うっ……んん……いく――ああぁっ!」
 白いシーツをぎゅうっと握り込んで、叫び声と共に楠子ちゃんがびくびくっと腰を痙攣させた。繋がった部分じゃなく前のところから、粘ついたものがたらっと糸を引いて垂れ落ちるのが見えた。
 そんなに…てか、でも、オレの真似だもんな、そりゃあんくらいなるよな。
 そうやって自分を慰める。気分は、とても複雑だ。
「っう、く……」
 すぐに男の斉木さんも身を強張らせ、低く呻いて射精した。
 三人立て続けに絶頂迎えて、汁まみれで、もう色々ぐちゃぐちゃだ。
 みんなして息切らして、興奮してて、いったばっかなのに全然まだ収まってなくて、やりたくてたまらなくなってて、そういう空気で一杯になっていた。
 お互いがお互いの裸体を、そういう目で見つめていた。




 とうとう3Pになだれ込む。
『おい…本当にやるのか』
 寝転んだオレに跨り、胸を密着させた格好で背後を振り返り、楠子ちゃんが男の斉木さんに言う。
「うん、てかまだ覚悟できてないの?」
『……仕方ないだろ』
「何事も経験だから。大丈夫、僕なら誰より上手に出来るよ」
『お前……あ、待て!』
「ゆっくり入れるから、ほら、呼吸合わせて」
 楠子ちゃんの身体が、きつく強張る。オレは宥める為にぎゅっと抱きしめて、頭を撫でた。
「こわい? 斉木さん」
 一回頷き、すぐに首を振って、でもオレに縋るように肩に顔を埋めて、ああ斉木さん可愛い!
 だからオレは、自分勝手に動きたい気持ちをぐっと飲み込み、慣れるのを待った。
「あ、あ、あ…やだ、きつい……はうぅ」
 オレもキツイ。ついさっき処女でなくなったばかりの膣内はまだまだかたくてきつくて、ぎゅうぎゅう遠慮なくオレを締め付けてくる。それに加えて後ろにも入れるんだから、ただでさえ狭いとこが更に狭まって、痛いくらいだ。うっ血しそう。
 でもなんだか、段々と、その締め付けが気持ち良くなってくる。
 ずんと衝撃と共に、男の斉木さんが自身を後孔に突き入れた。
 そこで、更に締め付けが増した。うっと息が詰まった。
「……いいよ、全部入った」
 はっはっと、楠子ちゃんは浅い呼吸で耐えていた。
「斉木さん大丈夫? くるしい?」
 我慢しないで、強がらないで、ちゃんと言ってよ斉木さん。
 オレの肩に顔を伏せたきりの楠子ちゃんが心配になり、顔を覗き込もうとする。
 ねえ斉木さん、そんなに締め付けないで。って言うのも無理かもだけど、まるでいっちゃったみたいにきつくて、正直たまんない。
「みたいじゃないくて、いったんだよ」
 入れられただけでいっちゃったの。
「……え?」

 男の斉木さんに目を向ける。ごくりと、喉が鳴った。
 じゃあこの、震えてるのも、呼吸が浅いのも、汗びっしょりなのも、中が痛いくらいきゅうきゅう絞ってくるのも、そういうこと?
「そういうこと。言っただろ、僕は誰より上手に出来るって」
 やだぁ楠子ちゃん、二穴もいける口とかオレ心臓破れそう!
「あ、あ……あぁ…とりつかぁ」
 楠子ちゃんがゆっくりと顔を持ち上げる。
 目はとろんと潤んで、すっかり感じ入ってとろけて、しかも口の端からだらしなくよだれまで垂らしちゃってとんでもなくやらしい。可愛い事この上ない。
 やべ…こんな顔見せられたら突きまくりたくなっちゃうよ、さっきみたいに自分勝手に動いちゃいそう、我慢我慢。
「我慢なんてしないで、遠慮なく動いていいよ」
「え……でも」
「大丈夫、というか、このままじゃ中途半端で僕が可哀想だから、動いてあげて」
 はっとなって楠子ちゃんを見ると、ぶるぶる震えながら何度も頷いた。
 初めに動いたのは、男の斉木さんだった。肉襞の向こうに感じる圧迫感が、少しずつ去っていく。オレはそれを埋めるように動き、お互いに、抜いたり押し込んだりを繰り返して、斉木さんに快感を与えた。
「ああぁ……だめ、だめだこれ……これぇ」
「駄目じゃないよね。僕には全部聞こえてるよ」
「ちがうぅ……あ、あ、あひ……」
「斉木さん、声も顔も、すごくエロイ…かわいい」
 だらしなく開いた唇に吸い付き、オレはちゅうちゅう舐め回した。
「ね、舌出して斉木さん」
「んあ……やだ、とりつかぁ」
 やだって言いながらべーっとオレに突き出して、もっとしゃぶってくれって目で訴えてきた。
 ああ、本当に可愛い。最高にエロくて、エッチで、たまんないよ斉木さん。

 親から餌をもらうひな鳥になったみたいに、斉木さんの舌にしゃぶりつく。
 気持ち良い、気持ちいいと、鼻にかかった甘い声で斉木さんが喘ぐ。
 オレもすげぇ気持ち良い。
 オレは顔を両手で押さえ、夢中でしゃぶった。
「鳥束がそっち可愛がるなら、僕はこっちにしようかな」
「あっ…ひぁ……あぁ!」
 男の斉木さんが、腰を使ってずぶずぶ後ろを抉りながら、楠子ちゃんの大きなおっぱいを両手で覆った。そして指の間に乳首を挟み、そのまま揉み始めた。
 斉木さんの手は決して小さくないけど、それでも余るほどたっぷりの乳房が、愛撫に合わせてむにむにと形を変える。指の間でくりくりと乳首を刺激され、楠子ちゃんは小刻みに震えを放った。
「い、やだ…ちくび、あぁ…んっやめろ」
「またウソ言う。頭の中で繰り返してる事、全部口に出そうか? 鳥束に聞かせようか?」
「やめろ……だめ、たのむから……あぁん」
「え、なになに、斉木さん、何て言ってるの?」
「やめろ鳥束、とりつか……いやだ聞くな」
「知りたいっス……」
「ほら、素直に。気持ち良いって、素直に」
「うるさい……ん、あ、あ! ぐりぐりするな! いや、だ、あ、あ、ああぁ、いい」
「そう、もっと言って」
「いやだ……ん、あ、いや、いい……きもちいい、いい! とりつかぁ……いい」
 オレよりいい声出させてる気がする…張り合うように、オレは腰を大きくうねらせ膣内を捏ね回した。
「や、とりつか……そんな、かき回すな……あぁ…こすれる! こすれるっ!」
「うん、二本も咥え込んで、斉木さん、お腹いっぱいだね」
「あぁ、くるしい……深い、おく、が……」
「僕の方? それとも鳥束の?」
「ど、どっちも……ああ、当たる、当たる! ふっ……う、くぅ、あ、いい、あ、いい、いいっ!」
「ふふ、こうするとよりわかりやすいよね」
 男の斉木さんが、角度を変えて腰を前後させた。薄い肉壁を通じて、オレにも伝わってくる。それはかなりの快感で、手で扱かれるのとも、粘膜に擦られるのともまた違った快さで、オレの腰にびりびりと響いた。
「ひっあ――やめて!」
 それ以上に楠子ちゃんの感じぶりは凄まじく、高い悲鳴が口から迸った。
 身体がそうなんだから声帯も女の子そのもので、それで甘ったるい叫びを聞かされては、それだけでいきそうになる。
「あ、ぐうぅ……んん――!」
 何とか押しとどめ、懸命に快感を送っていると、押し殺した呻きを上げ楠子ちゃんの身体がびくびくっと大きくのたうった。
 膣内が激しく収縮し、ぴっちりと包み込むように絞ってきた。
 痛みに顔をしかめ、オレはきつくなった内部を尚も擦り続けた。
「い、いや……いった、いった!」
「うん……すげえきついっス…けど、止まんない」
 ぎゅっと握られるくらい食い締められているが、それがまた気持ち良くて、オレは動きを止められなかった。
 しかもだ、いった拍子に大量に潮を吹いたのだろう、楠子ちゃんと繋がった部分がにわかに熱くなって卑猥な音もそれにつれて増した。

「も、いや……いやだ! おかしくなる……やめてくれ……やめて!」
 とうとう泣き出してしまった楠子ちゃんに胸が苦しくなるが、口から零れる声は明らかに善がっていて、とてもやめてほしいとは思えなかったのだ。
 表情だってそうだ。頬も赤くほてり、明らかに恍惚とした目付きで、オレたちに揺さぶられるままがくがくと身体を揺らしていた。
 男の斉木さんが、後ろから羽交い締めにするように楠子ちゃんの身体をオレから少し浮かす。
 その状態で二人して好きなように楠子ちゃんの二穴を蹂躙するものだから、オレの視界一杯に揺れるおっぱいが映った。
「やめろ…さわるな!」
 掴まずにいられない白い乳房に触れる寸前、オレの思考を読んで楠子ちゃんが首を振る。でもそれで止まるオレじゃない。
 何年もずっと女性のおっぱいに憧れてやまなかったんだ、止まる訳ない!
 ゆさゆさ揺れるおっぱいを両手で受け止め、オレは首を伸ばして乳首に吸い付いた。
「ひぅっ……んん!」
 強く吸いながら舌先で先端をぐりぐり刺激すると、楠子ちゃんは切なげな顔で喉を反らせた。片方は口で、もう一方は指先で快感を与えながら、オレはがんがん腰を打ち付けた。
 その突き込みに合わせるように、男の斉木さんが同じように激しく後孔を穿つ。そうしながらオレらの間に手を潜り込ませ、ぬるぬるのクリトリスを二本の指で捏ね回した。
「ああっ、やぁ! そこだめ、奥だめ、いい! 気持ちいい! あ、あ、いくいく――! いくぅ…うあぁ――!」
 また、びしゃっと溢れる感覚が伝わってきた。
 がくがくと顎を震わせながら、楠子ちゃんが仰け反る。
 顔はすっかり恍惚として、何より目付きがやばい。何と言うか…あっち側にいってしまったみたいに、とんでもなく色っぽかった。
 見ているだけで妖しい気分にさせられる。妖艶なってのは、こういうのなんだな。
 そんな事を頭の片隅で思いながら、オレは夢中でおっぱいにむしゃぶりついた。たっぷりの乳房を下から持ち上げるように揉み、すっかりコリコリになった乳首を甘噛みすると、達して狭まった膣内が複雑に蠢いてオレのを刺激する。
「うっ……ぐ、きつ、楠子ちゃん、気持ち良い?」
「ひっ…いやだぁ……やっ、いや、うんん! とりつか、とりつか! も、もっとして、もっと!」
「お尻の孔も気持ち良いでしょ」
「ん、うん、いい! ちがう!」
「違わない、ほら、奥の方小刻みにずぼずぼされるの、僕好きだよね」
「あはぁ……あ、すきじゃ…ちがう、ちがうー!」
 感じるところを何ヶ所も同時に責められ、楠子ちゃんは半狂乱で薄桃の髪を振り乱した。

 何度目になるか、楠子ちゃんが激しいいきっぷりでがくがくっと全身を震わせ、オレにぺったり身体を預けてきた。
 お互い、いや三人とももう汗びっしょりで、部屋に暖房は効いてるけどそれ以上に暑くって、昂ってて、どろっと濃い空気に支配されていた。
 それが、楠子ちゃんの絶頂で一旦小休止を迎える。
 オレは、オレにぺったり覆いかぶさってぜいぜい息をつく楠子ちゃんの身体をしっかり抱きしめ、きゅうきゅう絞ってくる肉襞の動きに浸っていた。
 酔いながら、楠子ちゃんのほっぺたや首筋に唇を押し付けて宥めていると、ふと男の斉木さんと目が合った。
「ちょっと、僕借りるね」
 え、と思う間に、オレの上から楠子ちゃんが引きはがされ、男の斉木さんの手によって引き立たされる。
 楠子ちゃんと触れあっていたところ全部が、急速に冷えていく。身体の前面もそうだし、今の今まで包まれていたちんこも、ひやっと熱が奪われる。
 寒さと共に怒りが込み上げ、何すんだ、戻せと手を伸ばそうとするが、手足はもちろん、舌べろさえ動かせなくなっていた。
 楠子ちゃんに手を伸ばす事はおろか、抗議の声を上げる事も出来ない。
 男の斉木さんの仕業だ。
 この野郎、超能力者め!
『おい、何する気だ』
 大人しく従う気はないと楠子ちゃんが抵抗するが、オレらに散々蹂躙された後では、同じ人物とはいえ男の斉木さんに分があり、立ちバックの屈辱に甘んじるよりなかった。
 楠子ちゃんのお尻には、まだ、男の斉木さんのブツが突き刺さっていた。
 それもあって、思うように抵抗できないようだった。
「鳥束の好きそうなことだよ」
『何を――!』
「あぁっん!」
 ばちん、と、杭を打ち込むような強烈な突き込みを食らい、楠子ちゃんが悲鳴を上げる。
 オレの、好きそうなことって……。
 オレは目を一杯に見開いて、二人のセックスをただ凝視していた。
 男の斉木さんの動きに合わせて、楠子ちゃんの薄桃の髪や、ほんのり朱色に染まったおっぱいが、ゆらゆらゆさゆさ揺れている。
 目が釘付けになる。
「や、くぁっ…ばか、やめろっ……あぁ、あ、んん!」
 肉を打つ音が小さく聞こえてくる。さっき見たように、楠子ちゃんの孔を好きなように犯してるんだろう。
「立ってすると、また違うとこがこすれて、気持ち良いよね」
「知らないっ、やだ、よくない、あ、んんぅっ! とりつか!」
 前に逃げようとする楠子ちゃんを、男の斉木さんががっちり抱き込む事で阻止する。そしてそのまま揺さぶられ、楠子ちゃんは甘ったるい声をもらしながらいやいやと首を振る。
 名前を呼ばれ、背筋がひやっとする感触にオレは「斉木さん!」と呼び返す。もちろん声は出ない。出せないから、ただただ、二人を見るしかない。

 これがオレの、好きそうなこと……。

 頭が激しく混乱する。
 いやオレ、こんなの好きな訳ない!
 そりゃ、エロ動画見るの好きだし、好きなジャンルは多岐にわたるけど、こんなのは、こんなの。
「あっ、だめ…も、うごくな……だめ! いやだ――ああぁっ!」
 甲高い悲鳴にオレははっと目を瞬き、楠子ちゃんの表情に注目した。
 すっかりのぼせてピンクに染まった頬っぺたが可愛い。
 とろんと潤んだ目と、イキ顔が可愛い。
 ぶるぶる震える濡れた唇が可愛い。
 オレの事ひたむきに見てるとこが可愛くてたまんない!

 あれ、オレ…こんなの好きなのか?

 自分で自分がわからず混乱していると、やっと男の斉木さんから解放された楠子ちゃんが、よろよろ崩れるようにしてオレのもとに戻ってきた。
 オレは超能力で拘束されてたのも忘れて、咄嗟に両手を伸ばした。
 気付くといつの間にか外れていて、しっかりと楠子ちゃんを受け止める事が出来た。
「とりつか……」
 斉木さん!
 ぐすぐす泣きながら抱きしめられ、胸がきゅうっと甘く疼いた。
 あ、オレ、こんなの……。
 慌てて首を振る。
 なんて事考えるんだと己を叱責していると、楠子ちゃんの唇が噛み付くようにキスしてきた。
 応えながら、オレは手探りでもう一度楠子ちゃんの中に自分のを埋め込んだ。
「あぁ……鳥束」
 どこか嬉しそうな声で楠子ちゃんが呟く。
 やっと、寒いのが去ったと、オレは深い息を吐き出した。
 けど、間を置かず男の斉木さんが、またも楠子ちゃんのお尻を貫く。
「いやぁ――ああ……」
 悔しいのだが、そうすると楠子ちゃんの膣内が絶妙に締まって、たまらなく気持ち良い。
 睨んでやろうと思ったのに、オレは情けない声を出してしまう。
 そんなオレを面白がって、男の斉木さんがくすっと声に出して笑う。
「鳥束は、ほんとに僕が好きなんだな」
「あ――当たり前じゃないっスか」
 もう二度と好き勝手はさせないと、オレは目一杯の険しさで男の斉木さんに抗議する。けど、オレが好きな人と同じ顔だから、オレは棘になり切れなかった。
「で、僕は?」
 男の斉木さんが、楠子ちゃんの顔を覗き込む。
 オレも同じように表情に集中する。
「……うるさい」
 楠子ちゃんは押し殺した声で呻き、オレにキスしてきた。深く、濃厚で、すごくいやらしいキス。
 そんな答えを寄越されては、オレはじっとなんてしていられなかった。
「はは、あてられて、のぼせそう」
 男の斉木さんの手が、オレの髪をくしゃくしゃと撫でた。


「うあぁ――! あとで……あぁ、あとでおぼえてろ、お前ら……や、ひぃ…またいくっ! うあぁ――!」
「はい、あとで何でもしますから!」
 オレは悲鳴混じりに言って、馬鹿みたいに腰を振り続けた。
 やべ、止まんないし、おっぱいから手が離れない。離せない。
「うん、僕も一緒に受けてやるから、もっといって。みんなで気持ち良くなろ」
 男の斉木さんも、さっきまでの余裕をなくして、楠子ちゃんの身体に溺れていた。
「あぁ! ああぁ――! いってる! いく! いぃ、やだぁ…ん、ぐぅ、とりつか!」
 縋るように名前を叫ばれ、オレは力一杯楠子ちゃんを抱きしめた。
「も、もっとつよく、とりつかぁ……うぅ……うえぇ、ひっひぃっ」
 泣きじゃくりながら、楠子ちゃんが助けを求める。オレはどこにも行ってしまわないよう、しっかりと腕に閉じ込めた。

「う、あっ、もうだめ、もうだめ! いくから! いく、いく…いく――!」
 オレたちにはさまれた楠子ちゃんの身体が、ひと際大きく震えを放ち、その末にきつく硬直した。
 これまでの比じゃないすさまじい締め付けに、オレはたまらずに射精した。ぴったりと腰を密着させ、奥まで届かせて、そこで熱いものを放つ。
 薄い肉粘膜の向こうで、同じように男の斉木さんも白濁を吐き出す。
「うぁ……あ――……あぁ――……」
 どちらもゴムの中にだが、楠子ちゃんは感じ取って、切れ切れに呻きをもらした。
 ぴたりと止まり、強張っていた身体が、徐々に弛緩していく。
 発作を起こした人みたいに激しい息遣いを繰り返しながら、楠子ちゃんが、オレへとゆっくり視線を向ける。
 少しひやりとした。まだ興奮のさなかにいたが、その一方ではっきりしてる部分もあった。こんなに好き勝手されて、斉木さんが許すはずもないと、考える余裕があった。
 だから、どんな殺意たっぷりの目を向けられるかと、背筋が凍った。
「あ……」
 しかし意外にもそこにあったのは、穏やかな歓喜だった。それは肉欲が満たされたからとか、絶頂の余韻とかではなく、もっと深い喜びをたたえていた。
 何がそんなに、嬉しいのだろう。
 わからないが、とても綺麗な微笑に、オレは引き寄せられるまま唇を寄せ、そっと重ねた。
「とりつか……」
 寸前にもれた熱っぽい呼びかけに、オレは少し涙が滲むのを感じた。
 斉木さん、好きです。
 夢うつつで伝え、オレはそのまますうっと意識を失った。

 

 

 

「うん、いい顔」
 やるだけやって、一人満足して眠ってしまった鳥束を見つめ、頭をカチ割ってやろうか小突いてやろうか悩んでいると、笑うような僕の声が聞こえてきた。
 僕はすぐさま目を向け、きつく睨み付けた。
『まだいたのかよ。さっさと帰れ』
 顎をしゃくる。
「まあまあ、帰るから」
『あ、いや待て、鳥束に手を出したら許さないって言ったよな』
 僕は念力でもって僕の首を締め上げる。
「やっぱりキスの事、怒ってるんだ」
 それに対して僕も念力で抵抗し、引きはがそうと試みる。
『当たり前だろ』
 互いの力は完全に拮抗していた。
「もう、僕、お互い疲れてんだしさ、余計疲れる事はやめにしないか」
『うるさい、誓った癖に破った僕が悪い』
「だって僕、鳥束大好きだから」
 違う世界のってわかってても、つい、ちょっと、あれしちゃって。
『もういい加減無駄な抵抗はやめろ』
 僕は更に念力を強めた。しかし思うように締め上げる事は叶わず、疲れから息が切れた。
 それは向こうも同じで、お互い同じように目一杯で疲れていた。
「ねえ、もう、僕、自分に苛々してるのをこっちにぶつけないでよ」
『別に、……自分に苛々なんてしてない』
「してるよ、苛々というか、不安なんだろ」
 鳥束がどちらを選ぶのか不安で仕方なくて、それで苛々してるんだろ。
 楠雄か、楠子か。
「!…」
 的確に言い当てられ、僕はほんのわずか俯いた。
「鳥束なら、大丈夫だと思うよ」
『骨の髄まで女好きのコイツが、大丈夫だと?』
「うん大丈夫、てかひどいな」
『事実だろ』
「まあね。鳥束だから不安になるのもわかるけど、鳥束だから、大丈夫なんだよ」
『……わからない』
 自分にまで虚勢を張るのも馬鹿らしいと、僕は本音を零した。

 ほんとにわからない。
『なんでお前、鳥束なんか選んだんだ?』
 そもそも、そこだ。
 お前の世界に滞在したのは一日もないが、あれだけおふられる状態なら、より取り見取りじゃないか?
 下衆な事を言ってしまえば、日替わりとっかえひっかえだって可能だ。
 まあ僕だから、灰呂のように平等博愛とかに落ち着くと思われるが、だからこそわからない。
 なんでそこで鳥束なんだ、と。
「うーん、話せば長くな――」
『じゃあいいです』
 頬を朱に染め、はにかみながら馴れ初めを語ろうとする僕に、僕はさっと左手を上げた。
「喋らせてよ、もう」
 僕の顔でそんな風に拗ねるな、キモイ。
 それに、頭に思い浮かんだもので大体わかった。
 そしてますますわからなくなった
 お前と一緒に人助けをすれば、女子にモテモテ間違いなし、だから弟子にして下さいと手紙寄越すようなクズ野郎に、なんで僕が惚れるんだ。
 こんなのあんまりだ。
 いくらなんでもひどい。
「そう言うなよ、確かにどうしようもない変態クズで煩悩の塊で、本能に忠実で、手に負えない度はメイン世界を軽く凌駕してて、何度死んでほしいと思ったか知れないし、その殺意はかつて燃堂に抱いたものなんて比じゃないくらいで――」
 あ、やっぱり鳥束に死んでほしいと思うのはどこの僕でも変わりないんだな、ちょっとホッとしたてかそこまで思ってて惚れるの?
「うん、だって、鳥束は……」
 そこで言葉を切り、僕は眠る鳥束に目を向けた。僕はそんな僕の横顔を見やった。
 素直に、ああいい顔だなと感じた。
 先程僕が言われた言葉だと、はっとなって息を詰める。
 そんな僕を横目で見つめ、僕がふっと笑う。
 っち。

「だから大丈夫だよ、本当に。僕が保証するからっ」
 うわ、気持ち悪い斉木楠雄出た。
 だからそのキメ顔やめろと。
 僕はうんざりして目を逸らし、鳥束へと向けた。
 なあ鳥束、お前は、どっちを選ぶだろうな。
「ちょっと早いけど、ステキなクリスマスプレゼントになるのは、間違いないよっ」
 だからやめろって。
「結果がわかって、気が向いたら、教えに来てくれると嬉しいな」
『近々お前の世界に行くのは間違いない。きっちり、お返しする為にな』
「あ……っと、そうだったね。ま、楽しみにしてるよ僕。じゃあね」
 ふっと僕の姿がかき消える。
 今の今まで斉木楠雄がいた空間にぼんやりと目をやり、僕は鳥束に戻した。
 ちょっと疲れが滲んでいる顔をしているが、とても満足した、幸せそうな寝顔なのは、間違いなかった。
 それは、それは……なあ鳥束、それは、どうしてだ?
 安らかに眠りやがってと握り拳を作るが、振り下ろすのは叶わなかった。
 ぶん殴って眠りを邪魔するのは、どうしても出来なかった。
 だから僕はその代わり、出来るだけそっと髪を撫でてやった。

 

 

 

 オレが気が付いた時には、男の斉木さんの姿は消えていた。
 一瞬、あれは夢だったかと頭が混乱するが、身体に残るあれこれや、楠子ちゃんと並んで二人寝転がってることから、やっぱり現実だったと少し頭痛がした。
 ああそれにしても、すごい体験をした。
 もう一人の斉木さんとオレとで、オレの斉木さんを。
 やったのか。
 やったよなあ。
 やっちゃったなあ。
 オレは両手で顔を覆い、大きく息を吐き出した。

 

 

 

 背後で鳥束が、満足と後悔とをないまぜにしたため息を吐く。
「はぁぁ…なんか、色々目覚めちゃいそう」
『なにがだ?』
「いえ、あの……」
 疑似寝取られもそうだし、斉木さんサンドもそうだし、なにより楠子ちゃんがすっげぇ良かった……
 ……そうか。
 鳥束の脳内に次々浮かぶ切れ端に触れ、僕は目を伏せた。
 やっぱりなと枕に顔を埋める。
 コイツは、生粋の女好きだ。男の僕にも勃つし、快感をくれるが、やはり女体とする方が奴には何倍も嬉しいものだろう。
 わかってたがな。わかっていたことだ。
 それでもし…もし鳥束が望むなら、僕はずっと楠子でいる事を選ぶ。
 それでずっと鳥束を独り占め出来るなら、僕は躊躇しない。
 鳥束が僕の身体を抱きしめてきた。
 乳房を覆う手に、やっぱりお前は女の身体が好きだよなと、痛いような感情が過った。
 しかし鳥束は、すぐにその手を腹へとずらした。
 なんだ、いつもうるさいし、最中も僕の胸にあれだけ興奮してたのに、今は触らないのか?
 いくらへとへとだからって、触れば復活元気百倍がお前だろ?
 やや卑屈にそんな事を考えていると、鳥束は恐る恐る呼びかけてきた。
『なんだ?』
「男の身体に戻るのも、時間、かかりますっけ?」
『いや。変身解除は一瞬で済むが』
 どういう事だと目を瞬かせる。

(男の斉木さんに会いたい)
(オレの斉木さんに会いたい)
(並行世界の斉木さんも斉木さんだけど、やっぱり違う)
(オレの斉木さんに会いたい、会いたい会いたい!)
(斉木さん斉木さん斉木さん!)

 斉木さん、斉木さんと、うるせぇな。
 奴の脳内でぐるぐる渦巻く感情、寂しさに、僕は目を見開いた。
 あんまり激しく寂しがるものだから、引きずられて僕まで寂しい気持ちに一瞬なってしまった。
 え、まてお前、お前。
 お前、女好きだろ。
 何よりおっぱいがいいんだろ。
 念願の女性とのセックスで、斉木楠雄はお役御免じゃないのか?
 え、え、僕の勝手な思い込みだったか?
 今、鳥束が胸から手を離したのって、そういうこと……か?
 いつから自分は、自分の独りよがりにのめりこんでいたのだと、呆然とする。
「斉木さん、じゃあ、お願いします」
 それで動けずにいると、鳥束はそれはそれは嬉しそうな声で男に戻るよう促してきた。
 僕は背中を向けたまま、変身を解除した。

「ねえ斉木さん、こっち向いて下さいよ」
 いやだ、無理だ。
 お前の希望は叶えてやった、男の身体に戻ってやったんだから、それでいいだろ。
「ねえ、こっち向いて。いつもみたいにぎゅーってしましょうよ」
 いつもだと?
 いつもそんな事してたか?
 ……してたな。
 やれやれ言いながら、何だかんだ鳥束のいう事、聞いてた。
 でも今日は無理だ、無理というかちょっと待て。
「んもー、いつもしてくれるのにぃ」
 なんでなんでと、鳥束は依然背中を向けっぱなしの僕の肩を掴んで揺する。

 ――なにか怒らせちゃったかな……最初に自分勝手にしたの、やっぱり怒ってる?
 それはむしろ嬉しく思ってる。何とも複雑ではあるが、お前の嬉しいのが僕の嬉しいだからな。まあ、絶対に言わないがな。
 ――向こうの斉木さんとキスしたのがまずかった?
 うんまあ、気持ちよさそうにしててイラっとはした。でも僕だって奴とのアナルセックスで感じたし、そこはお互いイラっとポイントだから違う。
 ――サンドイッチはやりすぎだった?
 そこもな、さすがの僕といえど二人相手はきつかったぞ、しかも片方超能力者だから的確に弱いとこついてくるし、お前も手加減忘れてガンガンくるし、壊れるかと思った。
 ――オレの覚えてない何かが気に障ってる?
 何もかも気に障ったし、何もかも気持ち良かったし、複雑だよ。

 斉木さん、なんべんでも謝るからこっち向いて下さいよ――!
 悲痛な訴えが聞こえてくる、が、僕は動けなかった。
 もう少し待て鳥束。
 顔のほてりが取れるまで待ってくれ。
 きっと顔だってだらしなく緩んでるに違いない。
 お前、反則だよ。
 なんだよ、斉木さんが好きだとか――僕を殺す気か。
 ああ腹立たしい。
 お前ごときにこんなに心揺さぶられるなんて、たまったもんじゃない。

「斉木さぁん……」
 弱々しい呼びかけに、いい加減折れる。
 僕の背中におでこをくっつけ、顔が見たいと悲しむ声を聞かされては、折れるしかない。ないだろ、こんなの。
 まだ顔は熱いが、僕だって、お前の顔が見えないのはつらいからな。
 ごそごそと寝返りを打って、出来るだけ顔を合わせないよう向かい合う。
 さすがにそれは無理だけど。
 たちまち鳥束の脳内が薔薇色に染まる。
 情熱の赤、落ち着いた深紅、優しいピンク、妖艶な濃桃、元気なオレンジ、眩い黄色、輝く純白――ああ、うるさい…落ち着くな。
 やれやれ、いつもみたいに、ぎゅーってするか、鳥束。
「んん……斉木さん大好きっス!」
 僕も。
 そうだよ。



 ちなみに。
 あとで何でもしますと宣言した鳥束と人気投票世界の僕に、僕はしっかりお返しをした。
 まず鳥束には、例のカフェでケーキ食べ放題をご馳走になった。まあ結局いつものデートと変わりないので複雑だが、喜ぶ顔を見るのは嫌いじゃないのでよしとしておく。
 そして僕には――楠子になって人気投票世界に赴き、報告したのち、持参したペニパン…鳥束で型を取ったもの…で泣くまで可愛がって、きっちりしっかりお返しを果たした。

 

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