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寺生まれじゃないSさんと寺生まれのTさんは今日も仲良しです。
もう勘弁してくれ
| 一時間目の終わり。 「斉木さーん、チョコ上げるからチョコ下さい!」 また随分堂々とたかりにきたな、まあ貰えるものはありがたく貰っておこう。 『そら、これやるから自分の教室に戻れ』 ひと口チョコを味わいながら、残った包み紙を顔に叩き付けて追っ払う。 二時間目の終わり。 「斉木さーん、チョコと引き換えにチョコ下さい!」 それさっきもやった気がするがまあいい、貰えるものは以下同文。 『だからお前はこれ持って自分の教室に戻れ』 頬張ったひと口チョコの包み紙を横っ面に叩き付けて追っ払う。 三時間目の終わり。 「斉木さーん、ここにチョコがあるのでチョコ下さい!」 まさかループ…じゃないな、脅かすな馬鹿野郎、詫び代わりにチョコを貰うか。 『お前はこれで十分だろ自分の教室に戻れ』 ひと口チョコのほろ苦さにほっとし、包み紙をぞんざいに叩き付けて追っ払う。 昼時 「斉木さーん、コーヒーゼリー奢るんでチョコ下さい!」 もちろんチョコも上げます! 『やれやれ、しつこい奴だなまったく』 しかし悩むな…食後に食べるのは確定として、チョコとコーヒーゼリーのどちらを先にすべきか。 『ん、お前まだいたのか、せっかくの昼休みが台無しになるから自分の教室に戻れ』 コーヒーゼリー代出してくれたらそれでいいから戻れと追っ払う。 しかし四度目ともなると、さすがに大人しく引き下がる事はなかった。 やはり三度までか。 仕方なく伴って食堂に向かう。 「もう、オレにチョコ下さいよ!」 『なんなんだお前はさっきから、それにチョコならもう三回もくれてやっただろ』 「中身入りを下さい!」 うわ、そんな激しく涙を飛び散らせるな、鬱陶しい。 『やれやれ、誰からも貰えないからって、僕にたかりにくるな』 「違うんだなあ、それが」 鳥束は人差し指を立てて気取り、ふふんと鼻を鳴らした。 「貰えないんじゃなくて、貰わない事にしたんス」 『貰えないで間違ってないだろ、このバイ菌が』 なんでそんな得意げなんだ、なまじ顔がいいだけにむかついてしょうがない。。 「だって斉木さん、独占欲強いじゃないスか、他の子から貰ったりなんかしたら、絶対オレの事ぶっ飛ばすでしょ」 『よし、ぶっ飛ばすか』 (独占欲も強いけど性欲も強いよねなんつって) 『よし、吹っ飛ばすか』 「ちょ……待って斉木さん手に溜めてるそれなに!? なにそれ破ぁ!? マジ破ぁいくの!?」 寺生まれじゃないが、お前を吹っ飛ばすくらい造作もないぞ。 『じゃあな鳥束、お前の事は三秒くらい忘れないよ』 「待って待って謝るから待ってちょっとマジで!」 『謝罪がお前の最期の言葉になるんだ、慎重に選べ』 最大出力まで溜めていると、奴の脳内からお経が聞こえてきた。死の危機に瀕して出てくるのがそれとはなるほど、コイツは腐っても寺生まれだな。 このまま吹っ飛ばしたら五秒ほど寝覚めが悪くなるしな、仕方ない勘弁してやるか。 「あ……ありがとうございます」 ただし。 『二度とそこに触れるなよ』 奴の目を見据え、きっちりと念を押す。 「……おっふ」 丁寧にお願いした甲斐あってか、鳥束は廃人のような風貌で頷いた。 |
| 向かいの席で、すっかりやつれきった鳥束が機械的にカレーライスを口に運んでいた。 景色はあまりよろしくないが静かで快適だ、食事も進む。 「斉木さん、チョコ……斉木さん、チョコ……」 前の席からぶつぶつとうわ言めいたものが聞こえてくるが、きっと気のせいだろう。 さて、コーヒーゼリーを食べるかな。 少し生気を取り戻した鳥束がニヤニヤしながら見てくるのが目障りだが、無視してコーヒーゼリーに専念しよう。 この時間を邪魔するほど、奴も馬鹿ではないからな。 脳内が気持ち悪い思考で一杯になっているが、それくらいは我慢してやろう。 しかし気持ち悪いなコイツ、マジで気持ち悪い、本当引くぐらい気持ち悪い。 気を取り直してスプーンを手に取る。 食堂のコーヒーゼリーはとてもシンプルで、苦味が強めなのが特徴だ。 その分上にのっているクリームが甘く出来ており、ゼリーだけ食べた時と、一緒に食べた時とで、二回楽しめる。 (極楽って顔してる斉木さん、最高だな) お前がいるこの世は最悪だな。 生き地獄を忘れる為に、今度はチョコに手を伸ばす。 たちまち、チョコくれチョコくれが始まった。 人が甘い時を楽しんでいるというのに、仕方ない奴だ。 『そら、これを供えてやるから成仏しろ』 向かいのトレイに包み紙をそっと差し出す。 「ちょ、斉木さんオレまだ生きてる!」 『足りないか? ならこれでどうだ』 コーヒーゼリーの空容器と蓋を、並べて置く。 『ついでに箸とスプーンもやろう』 「もー、全部ゴミじゃないですか」 『他に何かあったかな』 左右のポケットを探る。 『あったぞ鳥束』 どうせまたゴミだろうと疑いながらも、鳥束は望みを捨て切れない目で見やってきた。 もったいぶらず、左ポケットから取り出した数粒をパラパラとトレイに入れる。 「えっ? てか何これキモ! 気持ちわるっ! なんスかこれ!」 『見ての通りただの胃薬だ』 「はぁ? いやねーよこんな胃薬、キモっ!」 それには僕も同感だ。胃薬の効果はないし何より飲みにくいから、飲まない方がいいぞ。 「飲みませんよ! もう、知りません!」 『これで最後だ』 右ポケットから取り出した硬い物を一つころんと放り入れ、自分のトレイを持って席を立つ。 鳥束は完全にふくれっ面になって、頬杖を突きそっぽを向いていた。 「まったく、斉木さんは」 ぶつぶつ零す鳥束を置いて返却口に向かう。 |
| 食堂を出ようとしたところで、目をキラキラさせた鳥束がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。 今にも抱き着いてきそうな勢いに辟易して、早足で教室に向かう。 奴はめげずに走って追い付き、へらへら緩んだ顔を見せてきた。 手には、さっき投げ入れた硬い物があった。 鳥束はそれをとても大事なもののように扱い、目の高さに上げたり下ろしたりと一時も落ち着かなかった。 「斉木さん、斉木さん、あざっス!」 ぴかぴかと光り輝く顔はまるで太陽のようで、やたらに熱くて頬がほてった。 これ、オレの宝物と自慢げに見せてくるのはやめろ、思いの外恥ずかしい。 高校生にもなって、子供みたいに無邪気にはしゃぐんじゃない。 (貰ったー、チョコ貰ったー! 斉木さんからチョコ貰ったよー!) うふふと緩み切った顔に、ますます頬がほてった。 やれやれ、わかったからもう勘弁してくれ。 |