お題ひねり出してみた
https://shindanmaker.com/392860
より、
お題は『ずるいのはどっちだ』です。
と出題されたので、鳥斉でひとつ挑戦。
ずるいのはどっちだ
目の前にコーヒーゼリーが一つ。 程よく冷えたコーヒーゼリーが一つ。 淡雪のようなクリームが上品にのったコーヒーゼリーを、スプーンにそっとひとすくい。 そろりそろり口に運ぶ。 ふふ。 たちまち僕はうっとり夢見気分になって、ただただその美味しさに酔いしれる。 ほろ苦いコーヒーゼリーの中で、ほんのり甘いクリームが優雅に舞う。僕は時間を忘れ心行くまでモニュモニュに耽った。 ……と言いたいところだが、実は、コーヒーゼリーにだけ没頭出来ない理由があった。 視界の端でたるんだ顔をしているゲス束と、ソイツが持ってきたとある土産の品が、僕のスイーツタイムを少々複雑なものにしていた。 檀家さんからの貰い物のおすそ分けと言って、奇麗な飴の詰め合わせを携え鳥束が尋ねてきた。反対側の手には、いつものコンビニコーヒーゼリー。 僕はまずコーヒーゼリーに反応した。 なにせ一番の好物だし、真っ先に目がいくのも当然だ。 で、それだけ受け取って鳥束を追い返そうとしたのだが、それと同時にもう一方の手にある土産の品…飴の詰め合わせが目に入った。 玄関ドアから押し出されまいと抵抗しながら、鳥束は「これもあるんスよ!」と頑張って身体をひねって見せてきた。 優しい色をした色とりどりの飴の数々に、僕の動きがぴたりと止まる。見るからに美味しそうな色合いの、小振りの棒付き飴。スーパーで見かけるお徳用パックではなく、もう少し上等な、名の知れた製菓店のものだろう。つい、コクリと喉が鳴る。 今だとばかりに鳥束は僕に軽いキスを浴びせると、するりと家の中に入り込んだ。 ハッと気付いた時には、鳥束の手によって鍵が閉められていた。 睨み付けるも、ニヤニヤ得意げな顔は全く崩せなかった。 やれやれ仕方ない、こうなってはもう追い出せない。僕は渋々部屋へと通した。のそのそと階段を上る僕とは対照的に、鳥束の足取りは軽やかだ。 やれやれ仕方ない、コーヒーゼリーだけに集中しようと努めるも、好きなものに囲まれては一つだけに集中するのは難しかった。 そして今に至る。 「これ、貰ってすぐネットで調べたんスけどね、これ、京都の結構老舗の飴屋さんのものでした」 やはりそうか、僕の勘は当たっていたな。 差し出された袋にじいっと見入る。 大きめの袋に、たくさんの棒付き飴が詰まっている。一つずつ丁寧に包装されており、素朴な字体で味が表記されていた。 いちご、みるく、サイダー、れもん、みかん、さくらんぼ、めろん…彩り豊かで、見ているとちょっとウキウキしてくる。 よく眺めると、大体二つずつ入っているようだ。 「斉木さん、よかったら早速味わってみてくださいよ」 コーヒーゼリーにごちそうさまと手を合わせていると、鳥束が勧めてきた。 言われなくても、コーヒーゼリーの次はこちらを楽しむつもりでいた。人差し指をくいと曲げて開封し、改めて中身を吟味する。 「キレイっスよね」 いつの間にか僕の横に移動した鳥束が、同じように袋の中を覗き込む。近いな、と形ばかり頭を避けてから元に戻し、僕は迷う。 老舗の飴屋さんのものとなればきっとその味も、充分期待出来ることだろう。いちごの甘酸っぱさ、みるくの濃厚なコク、サイダーの爽やかさやレモンの爽快さといったものが次々と過って、僕を更に悩ませた。 横では鳥束が同じようにあれもいいこれもいいと呟き、「どれも味が期待出来るから、迷っちゃいますね」とうるさいものだから、僕の思考はさらに乱れて絡まった。 ちょっと疲れて、戯れに、鳥束に『一つ取れ』と袋を向ける。 「え、いんスかっ!?」 なにその顔。 「いやだって、斉木さんが甘いものわけてくれるとか……!」 なんだその顔。百年に一度の天変地異に遭遇したみたいな顔しやがって、ムカつく野郎だ。僕だってそんなに、独り占めしてばかりじゃないだろ。 「え、うん、ははは、はははは」 笑ったな、笑ったな? よし、後で一発殴ろう。 「まあまあ、斉木さんまあまあ」 決意のこもる握り拳を、鳥束がどうどうと宥める。 っち、しょうがないから許してやるよ。 『さっさと取れ』 「わー嬉しい。これね、お店のホームページ見たんスけど結構評判いいらしくて。だから嬉しいっス。えー、どれにしようかな」 キラキラと目を輝かせてしばし悩み、ギラギラした目で鳥束はみるく味を摘まみ上げた。そして僕に寄越してきた。 『あ?』 「へへぇへ」 下品な笑い方で、魂胆がわかった。テレパシーで更にわかってしまうので、二重三重にげんなりしてしまう。 たるんだその横っ面を力一杯ぶっ飛ばしてやりたかったが、グーを頬骨に当ててから振り抜くだけに勘弁してやった。 まあそれでも結構な衝撃だろうが、辛うじて復元しなくて済みそうだ。 もちろんその前に飴はもらっておいた。甘いものに罪はないからな。 『いただきます』 「い…いへぇ……」 『どうした鳥束ひどい顔して。そら、飴でも舐めて元気出せ』 涙目で恨めしく見てくる鳥束に、白々しく飴の袋を差し出す。 「だ、だれのへいらと……」 『いい顔になったじゃないか』 顎ガクガクだな、ぷぷ。 笑う僕を思いきり睨みつけながら、鳥束はいちご味を摘まみ上げた。 悔しさと痛みからもごもご口の中で文句をたれていた鳥束だが、ぱくりと飴を頬張るとたちまち機嫌を直した。やはり甘いものは偉大だ。コイツがちょろいのもいくらかあるが。 「あ……、ん、美味い! 甘酸っぱくていい香りで、美味しいっス」 『よかったな』 嬉しそうに見やってくるから、僕もつられて小さく笑う。 僕の方も悪くないぞ。お前の下品な妄想は御免こうむるけどな。優しい、懐かしい味でこれ、全然嫌いじゃない。評判がいいのもうなずける。 僕たちはしばし甘いひと時に浸った。 しかしなんだな、人が美味しそうにしているとなんというか…食べたくなるな。 鳥束は舐めていたいちご味を一旦取り出し、光にかざして「これ美味しい」と感心した。 「あー…ちっちゃいからすぐ舐めちゃいますね。でもそれがちょうどいい大きさかも」 飴の棒を指先でくるくる回し、あと少しの甘さに名残を惜しむ鳥束。 それを見たら、我慢など吹き飛んでしまった。 『おい、鳥束』 「え、う、っわ」 サイコキネシスで強引に鳥束の手を引っ張り寄せる。もちろんいつでもこんな事はしないぞ、僕だってきちんと自制心だのは持ち合わせているし。ただ鳥束相手だと少々我慢が効かないというか、いや決して甘えているわけじゃないんだが。 そんな言い訳諸々を巡らせながら、目の前にやってきたいちご味にぱくり。重ねて言うが、だれかれ構わずこんな事しないからな。 うんっ…いいな、この甘酸っぱさたまらない。 「……んもー、欲しいなら口で言って下さいよ」 『ごめん☆』 「うーわムカつく、……ってあー斉木さん、今ガリって、噛んだでしょ、音した、食べちゃったでしょ!」 うん。小さくなった飴は噛んで味わう派だから、つい。 『返す』 「返すって、棒だけ!」 いらねーよとふくれっ面で鳥束は突っぱねた。 まあそう怒るな、僕のもちゃんとやるから。 「当然でしょ!」 プリプリ怒りながらも、鳥束はぱかっと口を開けた。 そこから覗く白い歯と赤い舌とを見た途端、ついむらっとした。 僕でもそんな時はある。 「っていいながら自分のもガリって、あーもー!」 わーわー声を上げながら、鳥束は僕の口から棒を引っ張り出した。 「マジでなんもない、もー、もー!」 うるさい奴だな、別にケチしてやったわけじゃないからな。 目付きをきつくして睨む鳥束の胸ぐらを掴み、ぐいっと引き寄せる 「!…」 むにゅっと、ぴたっと合わさった口の中へ飴を送り込み、困惑する舌に自分の舌を絡ませる。 「んぷっ……!」 一杯に目を見開く鳥束に、僕はしてやったりと目を細めた。 「んちゅ……む、ん、ん、……ぷぁっ」 たっぷり舌を絡め合って、僕は顔を離した。まだまだ甘く溶けていたいけど、これ以上やったら鳥束の息の根を止めかねない。 名残惜しい気持ちをぐっと飲み込み様子を伺えば、鳥束は少しの涙を目に溜めてぼんやりと宙を見つめていた。ちょっと目付きが危うい気もするが、大丈夫…そうだな。僕の視線に気付いて、鳥束はぱちぱちと瞬きを繰り返した。うん、大丈夫だ。 「はぁー…はぁ…、もぉ……斉木さんのエッチ」 『なかなかいい味だろ』 「ええ、ううー…斉木さんのキスが激しすぎていまいち――はっ!……てか斉木さんのみるく味!?」 結局そこいくのかよ。僕は単純に、いちごとみるく合わせて「いちごみるく味」になって美味いぞって意味だったんだが。まあキスもしたかったんだがな。断じて「キスが」ではなく「キスも」だからな。あくまでおまけだ。 そんな言い訳を自分自身に言い聞かせていると、目尻をほんのり朱色に染めて鳥束が伏し目がちに見やってきた。 「斉木さんっ……誘ってんスか?」 まあ実を言えば誘ってんだが 「!…」 肯定すれば、鳥束は勢いよく掴みかかってきた。 避けてもいい、真っ向から受けて跳ね返してやることもできる、けど、僕はあえて容易く押し倒される方を選んだ。 コーヒーゼリーが美味しかった。 棒付き飴も美味しかった。 甘いものは、全然、嫌いじゃない。 だから鳥束に応じるんだ。 口の中をベチョベチョ貪りながら、鳥束はやたらに腰を押し付けてきた。中心で硬く張りつめ主張しているものを誇示するように擦り付けてくるその腰付きは何とも間抜けでみっともなくて、獣以下だなって冷静に突っぱね鼻で笑ってやりたいところだが、実のところ自分も似たり寄ったりで、そのせいか変な負けん気が起きて自分のそれを鳥束に押し付ける始末。 「うんっ…ふふ、斉木さんもたってる……エッチ」 『お前ほどじゃない』 「そうすかぁ……?」 欲望が滲む少しドロッとした目付きで間近に見つめながら、鳥束は熱い吐息で唇をくすぐった。 ああ、よくないなその目…そんな風に見られたら余計熱が煽られる。 「きもちいー…あー……これ、やばいっすね」 緩やかに腰をうねらせながら鳥束はとろけた声をもらした。 わかる。すごく。手で扱かれるのとも、セックスするのとも違う、びりびりと腰が痺れて仕方ない強烈な快感が、ずっと脳天に響いてくる。 鳥束は下唇に吸い付きちゅぽんと離すと、また吸い付いては離し、そうしながら快楽に震え続けた。 僕もまた、新たに見つけた愉悦にどっぷりと浸っていた。薄い皮膚の唇をちょっとだけ吸われるの、ふふって笑いたくなるくらい気持ちいい。端から見たら馬鹿みたいだって思うけど、瞬間ゾクゾクって背筋がくすぐったくなって気持ちいいから、繰り返されるとたまらない。そんな中むき出しの性器を思い思いに擦り合わせると、身体が昂って仕方ない。 物足りない…そう、正直言えば物足りなさは感じるが、そのむずむずするもどかしさがいいのだ。 本当はもっとはっきりした刺激が欲しい、今にも手で扱きたくなるところを、ぐっと堪えて微電流に悶える。そうしていると、どんどん身体の奥に快感が溜まっていく。きっとこれが一杯になって溢れたら、普通に扱いていくより激しい絶頂を味わえるんじゃないか…なんて、鳥束を笑えない妄想に耽る。 気持ち良い、けど。ああこの「けど」がたまらない。 僕は何度も胸を喘がせながら、間近で同じように息を継いでいる鳥束に視線を注いだ。 「あー…もう入れたい、入れたいよぉ」 『我慢は身体によくないぞ』 「ううー…準備、しないと」 『別に、いきなりしたって構わない』 「だめー、もっと大事にして」 ふん…やれやれ。 お前ならば、どんな暴挙だろうと受け止めてやる。どんなふうに扱ったって構わない。それくらいはお前に気を許している。 絶対伝えないがな。 そんな意味を込めてふっと笑いかけた時、不意に後ろの窄まりが収縮を繰り返した。どうやら、想像したのがいけなかったらしい。一度だって手酷く扱われた事はないが、もしもを思い浮かべて身体が反応してしまったようだ。 萎えるどころか興奮するとか、本当に鳥束を笑えない。 でもまあ、どうせするならやっぱり、ひどいのよりは気持ち良い方がいいけど。 そしてコイツはいつだってそうしてくれる。 素直に欲望を滲ませた目で僕を見下ろし、小さく喘いでいる鳥束の首に手を回す。何も言わなくても、動きが些細でも、鳥束は正確に読み取ってキスしてきた。 「んっんむ……はぁ」 「かわいー……さいきさん」 キスは悪くないけど、その囁きは余計だ。喋んなと睨み付けるが逆効果で、その顔も可愛いと目を細めた。始末に負えない。勝手にしろとそっぽを向く。 「あーもーほんとすき……」 「むむっ…ぅ、ぷぁ」 「だから、入れていい?」 「………」 ひどく真剣な顔で、鳥束は目を覗き込んできた。このまま、いくまでこうしているのもいいけど鳥束、やっぱり中に欲しいって僕も思っていたから、もちろん頷くところだけど、どうしてか僕は見惚れてしまい動けなかった。ほんの数秒でまともな視界は失われてしまうがそれでも僕は、骨になったところでどうという事もなく鳥束に見惚れ痺れていた。 その末にどうにか一つ、ゆっくり頭を動かす。 やっぱり斉木さん可愛い…と、心の声が染み込んできた。 さっきみたいに睨んでやりたかったのに、僕の反応ときたら。乙女のように頬を赤らめてしまった。やれやれまったく、どうかしてるよ。 「ねー斉木さん、ズボズボされるのと指先で中グリグリされるのと、どっちが好き?」 「く、っふ……あ、ぁ、ぁ」 すっかり柔らかくほぐれた後孔に三本の指を咥え込ませた鳥束は、二通りの動きを与えながら聞いてきた。 楽しそうにあっけらかんと聞いてくる顔が憎い。こっちは声を押さえるのに必死だというのに。だって、もう何度もこうして鳥束に身体を弄られた、作り変えられた、こんなところでしっかり快感を得る身体にされてしまった。覚えてしまった身としては、始めの頃感じた違和感や吐き気を催す気持ち悪さなんてすっかり消え去り、ちょっと気を抜くだけで甘ったるい声を…鳥束好みの声を上げてしまう事になる。 まあ、いつも後半はグダグダのグズグズにされて、喜ばせたくないとかの抵抗も忘れてひたすら喘ぎまくってしまうが今はまだ意識もはっきりしてるそんな時に、媚びた声は断じて許さん。 そんな気概で『どっちも好きじゃない』と強く目線をぶつけてやるのだが、さっきも言ったように散々に鳥束に身体を暴かれた。お互いに身も心もすっかりお見通しなわけで、どこからどこまでが「口先だけの嫌」かなんて見透かされているのだ。 だから。 「ああ、うふふ、やっぱりグリグリのが好きっスよね」 「うぅっ……!」 「うん、そういう顔してるっス」 うるさい馬鹿、わかってるなら聞くな馬鹿! 言ってやりたい、蹴ってやりたい。 顔面に思いきり踵をめり込ませてやりたいのに、僕は無様に腰を跳ねさせ、鳥束の目を楽しませるばかりだった。 目の端にうっすらと涙が滲む。でも、それは嫌だからじゃない。こんなあっさり感じさせられてしまうなんてって屈辱はあるけれども、嫌とは思ってない。 嫌じゃないよ、好きだよ。 後で恥ずかしさに悶える事多数でも、鳥束の手で興奮を掻き立てられ、熱いもので身体の奥深くを暴かれるのは。嬉しさのあまりかえって不機嫌になってしまうほど気持ちよくて、好き。 「あああぁっひ、ひっ…く、ぐぅ……んんー」 「このくらいの力でグリグリされるの、大好きですよね」 「んん、んんっ! ううぅ……ああー!」 声出るな、出すなって力んでも、結局食いしばった歯の合間から漏れ出てしまう。だって、だって…本当に最初の頃は何も良くなんてなくて、ちょっと吐き気がするぞって冷静に言ってたのを、鳥束は諦めず粘って粘ってここまで引っ張り上げてくれたのだから、その鳥束の手に無反応でいられるわけがないのだ。まあ、僕だって『気持ち良いならそれに越したことはない、だから付き合う』って諦めず任せたおかげもあるんだけど、せっかくするなら気持ち良い方がいいしって鳥束が諦めなかった方が大きい。 まあなんだ、鳥束に教えられたのだから反応するのは当たり前ってことだ。 「あ、……――ああぁっ!」 「ふふ…いいかおでいっちゃった」 とはいえこんな、あっさり射精まで追いつめられるのは、さすがに早すぎやしないか。 「はぁ…はぁ……あ、おぉ……はぁー」 「いっすよ、そう、ゆっくり呼吸して」 「とりつか……」 前立腺を的確に抉られ揺さぶられ、気持ちよさにたじろいでいたらあっという間に腰の奥に熱が溜まり、それからわずかもしないで射精だなんて、いくらなんでも…恥ずかしい。 気持ちよくなってもらえて嬉しい、鳥束はそんな風に喜んでいるが複雑だ。 少し苦しくなった胸を押さえ、僕はひたすら呼吸を繰り返した。鳥束にずっと見られていたのはわかっていたが、すぐには動けず、だるいのを我慢してのろのろと片腕を顔に乗せて隠す。 「あんまり……見んな」 「頬っぺたちょっと赤くなってて、可愛いっスよ」 「うるさいよ……――! あ、あ…すまん」 「うん、いいの、オレが悪いし」 隠した腕をさすられ、それくらいならくすぐったさと甘い痺れとで笑いがもれそうになるだけだが、手の方にまで行く予感がしたので、ついきつく振り払う仕草を取ってしまった。だからすぐに謝った。鳥束の方も心得ていて、僕がどれだけサイコメトリーを嫌悪しているかわかっているから、そういう理由で振り払っただけだから、本当には傷付かずにいてくれた。 でもこれでは僕の気が済まない…やれやれ。詫びのつもりでキスをする。 無言で腕を引っ張ると、鳥束はふっと柔らかく目を細めた。 「ふふ、あざっす」 「……目、閉じろよ」 「やだー、可愛いお顔見逃したくない」 「いいから瞑れ」 「いたっ、もー乱暴しないの」 おでこをペチンと叩いて、クスクス笑いながら唇を重ねる。好きだと、思考が流れ込んでくる。キスしながら読み取るからか、肌から直接気持ちが染みてくるように錯覚して、僕はうっとりと口端を緩めた。 それでまた「斉木さん可愛い」と呟かれ、少しだけ、困ってしまう。 後ろにあてがわれた熱が、ゆっくりゆっくり潜り込んでくる。あれだけ指でほぐされたけれども、やっぱりこの瞬間はいつも変わらず少しきつい。ほんの少しだけ。つい反射で眉根を寄せてしまうが、鳥束の興奮の度合いをどこより感じ取れる場所で繋がれる嬉しさがあるから、口は笑う。 「う、っ……ぐ、ふっ」 「かわい……好き」 唇のすぐそばで呟き、僕が抗議するより早く、鳥束は重ねてきた。 さっき、いくほど抉られた前立腺を擦って、鳥束のそれがさらに奥を目指す。通過する間、僕はびくびくとのたうち鳥束の口の中で詰まった息を繰り返した。 「んちゅっ…ちゅ……ちゅ……だいじょうぶっすよ」 「うぷ…む、あん……あぁ」 ああ…これすごい。これ好きだ。勝手に身体が震えて、泣きそうなほど気持ち良くなって、嫌とか恥ずかしいとかどうでもいいくらい声が出てしまう。僕の中に溢れるのは歓喜だったが、顔には、あまりそのように出てないのだろうか。 不安そうだ、平気だよ、なんてことを繰り返しながら鳥束にキスと手で宥められる。 違う鳥束、不安なんてない。ないから。キスしながら揺さぶられるの気持ち良い…だから。 「……もっと」 ほんのちょっぴり舌を伸ばして鳥束に乞う。 「わあ…ちょろっと見えるの、エロイ」 興奮に打ち震え、鳥束は濡れた瞳でじっと見つめてきた。なんて目で見てくる…視線で犯されてる気分になり、喉が引き攣った。 鳥束は妖しく笑うと、身体をしっかり腕に抱き本格的に動き始めた。もちろん、唇を塞ぐのも忘れない。 ねっとりいやらしいキスと、内部を抉ってくる熱とに翻弄され、僕はただただ喘ぎ悶え狂った。 しばらくの間は奥の方をゆったり捏ねる動きが続けられた。激しい抜き差しとはまた違った重苦しい官能に脳天がとろける。そこにねちっこいキスが加わり、強く吸ったり噛んだりがない分、容易に心をトロトロにしていく。 一気に絶頂まで持ち上げられるのではなく、ゆっくりゆっくり押し流されていく。比べれば息はまだ少し楽だけども、これ…これは、きっと、たまらない極まりを迎えるのだろうなと予想がついた。これまでも何度かそんないき方をしているからこそわかってしまい、無様に乱れないようにしたいなと、儚い望みを抱く。 まあでも、それが無理なのはわかっている。 いつだって最後の方は意識朦朧で、取っ組み合いの喧嘩か獣の絡み合いかという痴態を晒している。 嫌だって思うけれどでも、鳥束としたい。 早く、何もわからないくらい溶かしてほしい。 「う、うっ、くぅ、うぅ……あひ」 「奥の方、んっ、突くとキュってなるの、エロイ」 「ば…か、うるさいよ」 「もー口悪い……すき」 悪態つく唇を愛おしそうに撫で、キスして、また撫でて、鳥束は嬉しげに目を細めた。 その顔があんまり優しいから、僕はただぶるぶると震えるばかりだった。 もう、今、半分以上はそうなっているな。 まだどこか冷静な頭でそう笑ったそのすぐ後に、危惧していた深く重たい絶頂がやってきて全身を蝕んだ。 「はっ…あ、あ、ああー……!」 「あっつ、ぅ……すげぇしめつけ、でぇ」 「あぅ、あ、ぃ、…ひぃい」 とりつか、とりつか、とりつか つらいくらいの強烈な快感に、何度も何度も鳥束の方へ腰を押し付ける。なりふり構わず暴れたい、転げ回りたい、叫びたい、でもそんなのみられたくない! 気付けば鳥束にしがみついていた。 「だいじょうぶよ斉木さん、いますからね」 「うっ、うー……うぅ、ぐぅー」 こんな汚い声出してるのに、まるで気にせず鳥束はしっかり抱きしめ穏やかにあやしてくる。 ちくしょうって気持ちとたまらない心地良さとが入り交じって、頭が真っ白になる。残ったのは安心感だった。 繰り返していた痙攣もやがて消えてゆき、少々の恥ずかしさと気まずさが、いつも通り残る。 けれどそれも、鳥束に頬をついばまれるとなくなっていく。 すき、すき。 かわいい。 全部かわいい。 呟きながら、鳥束は飽きもせず軽いキスを繰り返した。 なんて物好きなんだと胸の内で悪態をつくけども、全然、悪い気しないんだ。 ようやく息の落ち着いた僕は、一度鳥束のついばみを拒んでから、唇にキスをした。 「ふふ…おかえりさいきさん」 「……どこにもいってない」 「そーね。ずっとオレの腕の中にいてくれる。あー……好き」 「そうかよ」 「そっすよ」 鳥束はにっこり笑って腕をほどくと、起き上がって僕の膝に手のひらを置いた。突き込まれる角度が変わり腰が勝手にわななく。 さっきまでとは打って変わって、浅い箇所をいやというほど擦られる。しかも動きが大きいものだから、必然的に僕のものも合わせてゆらゆら勝手に踊ってしまう。 そんなところも、それに僕が恥じ入ってるのも、全部鳥束の目に晒される。 「全部見えて、さいこうっす」 「さい…あく……あぁ、ん、や、やっ…みるな」 「ヤダー見るし目に焼き付ける。斉木さんの全部の顔、残しておきたい」 「ふ、ふざけっ…ん、ん、ん、くっ…そ」 「あーたまんない……撮ってもいい?」 「だめに、きまって……あ、あ、あぁ、くそ…だめだ」 返事に残念そうに顔を歪め、尚も鳥束は一心に見続けた。 「や、めろ…て」 両手を顔の前にかざして拒む。 「もぉー…顔隠さないで。見せて、見せて」 「なんだよおまえ……あ、あっ、ん……さっきから」 「だって、撮っちゃダメじゃ、見て覚えるしかないし」 「見るな…覚えるな……あっ、あぁっ、そんなに……そこ、ばっか…ひっぃ…、やめ……」 「手どけて…さいきさぁん」 手首を掴み、鳥束がねだる。やだ、やだ。僕は頑として拒み抵抗した。 じれったい気持ちをぶつけているのか、鳥束の動きはせっかちでまた的確で、身体の奥にどんどん快感が溜まっていくようだった。さっきいって萎えたのなんてとっくに固まってるし、鳥束に突かれる度先走りを飛び散らせているし、最悪だ。でも…気持ち良いよ鳥束。 「やぁ…だ、も、そこ……突くな!」 「顔見せてくれたら、やめるから」 つい、流されてしまいそうになる。いやいや、恥ずかしいだろ。そりゃ数えきれないくらい鳥束としてるけどさ、今更だけど、本当はこんな声聞かせるのだってしぬほどはずかしい。 「とりつか…い、いっく、もぉ……ひ、あ、ぅ……!」 「え、あ…さいきさんのイキ顔見たい――!」 やめろばか 全身に毒が回った…かのように、甘ったるい快感で満たされる。自分でもどうにもならないほど手足が強張り、腰が引き攣って、その弾みで鳥束に腕をこじ開けられる。 いやだっていったのに、みるなんて。 ああでも、頭の中まできもちよくてたまらなくて、もう、なんでもいい。 とりつか、とりつか、とりつか――! 繋がった個所から身体中に広がる甘い痺れに支配され、僕はうっとりと忘我の境地に浸った。 そんな僕を、鳥束が真上からじっと、瞬きもせずに見つめている。見惚れている。それはそれは嬉しそうな顔で、僕を見守っていた。 ころす、ころす…大好きな男に優しく見つめられて、たまらなく幸せだった。 ――が。 それも、絶頂の波が引き冷静に戻れば、嘘のように引いていった。 代わりに怒りと羞恥が湧いてくる。 僕はぎりぎりと歯噛みして、起き上がりざま有無を言わさず鳥束の身体を押しやった。体勢を交代する。 「よくも…やってくれたな」 「え、や……ちょさいきさん?」 少しの怯えを見せる鳥束に容赦せず、僕は掴んだ両手をベッドに押し付けると、持てる技巧を駆使して鳥束を翻弄した。 「あっあ?…うわ、うそ……うそ……」 「ん、っく、また硬くなってくのが、わかるぞ…はぁ、とりつか」 「えっ…だって、すごい締め付け、でぇ……はっはっ…そう言うさいきさんっ……もぉ」 わかってる、言うな馬鹿。 僕はいいんだ。 今度はお前がひいひい言う番なんだよ。 「あーすご…なんでぇ、さきっぽと、ねもとで、違う締め付けぇ……」 「ふ、ふふ、いいだろ」 「うん−…さいきさんいいよぉ……」 聞こえてくる甘えるような声音についにやりと口端を緩める。 自分のたるんだ面を見せる、見られる恥ずかしさ、とくと味わうがいい。 仕返しも出来るし気持ち良くもなるし、一石二鳥だな。 情けない顔で鳥束が喘ぎ始める。 「オレのこんなの見ても……ん、く、つまんないでしょ」 「結構、ん、んっ…楽しいぞ」 僕の身体で気持ち良くなってるの見るの、悪い気しない。 「オレも同じだしぃ……」 同じなものか。 「斉木さんだけ、ズルいっスよ……う、っあ、ひっ! あー、ああー、×××とけちゃいそうっす……」 「うるさい、ズルくない、いいから間抜け面で喘いでいろ」 僕はむきになって腰を振り続けた。全部自分に跳ね返ってくるのに、自分こそ善がりまくっているのに、止められなかった。今の言葉だって、全然、スムーズに言えなかった。本当はもっと見苦しく喘いでいた。 どの面さげてズルいなんて言うんだ お前のがずっとズルいだろ鳥束 こんなにも間抜け面さらしてるのに、こんなに目に焼き付けてるのに、後から思い出すお前はちっともそんな事なくて、たとえどんな顔だろうが僕の心臓をおかしくさせる。 これ以上はないってくらいひどい場面を思い浮かべても、お前が、お前が…くそ、輝いて見えるってどういうことだ? 僕に何をした? これ以上、お前に溺れるなんてまっぴらごめんなのに! 「あ!……ぐ、ぅ…ひぃっ……とりつか!」 「あぁーさいきさん、でる、でるよもう、あぁ……ぉう」 胎の奥で鳥束のものが一段膨れ上がる感触がして、慄いた直後熱いものが一気に放たれた。意識して締め付けて、そしてそれ以上に自身の絶頂で更に鳥束を食い締めるものだから、ビクビクと中で震える様が明確に伝わってきた。 鳥束の熱を受け入れて、しゃぶって、出てきたものを残らず飲み込む。 ぞっとするほど幸せで、思わず涙が込み上げた。 押さえつけていた手を離し、鳥束の頭をかき抱いて口付ける。鳥束の手も僕の頭を掴み、くしゃくしゃと髪をかきまぜながらキスに応えた。 時折こしょこしょと耳をくすぐられる。 「ぅあん……あぁ」 下側のくぼみをさすられるの弱い。 「ふふ…きもちいい?」 「うるさ…なぁ……あぁっ」 「あーかわいい。かわいいかお……」 だから見るな! 「じゃあ、今度はオレの番ね。うんとよくしてあげますよ」 「もう……いい」 「えー、まだおかわりしたいって顔に出てますよ」 「出てない嘘言う――ん!」 まだ言い足りないのに、鳥束に唇を塞がれる。じゃあ続きは口の中に出してやる。そう意気込むが、舌が合わさっただけで意識はそがれ、甘い時間に身を委ねるばかりになってしまう。 かわいい すてき 今日も斉木さんすてき 好きだ好きだ 鳥束の中から沢山の気持ちが流れ込んでくる。 好きだ、気持ちいい、幸せだ。 自分はいつもそれらに簡単にほだされてしまう。 今日も。 くそ、くそ……もう、好きにしろよ お前だけだからな、こんなに易いのは。 心して胸に焼き付けろ 鳥束の手が、僕の腰をがっしりと掴む。そのまま激しくされる予感に、震えながら奴の上にぺったりと身を寄せる。案の定、鳥束は自身の口端をぺろりと舐めると、にやりとだらしなく笑った。そして。 「う、あ!……ああっが、うぅいく――ま、またいくいく!」 「斉木さんすげぇ…エロイ……かわいい」 僕の孔目がけて、強烈な突き込みを始めた。何度も達していきやすくなった身体はあっという間に絶頂へと押し上げられ、ひいひい無様に叫びながら極まりに浸る。 「うーかわいい……あっあっ、オレもいっちゃう……」 「あ、ひっ……中に出てぇ、へぁ……」 間近の視線は感じていたが、もう抵抗はなげうっていた。 いいよもう、もう、好きなだけ刻めよ。 瞬きも惜しいと、鳥束は真剣な眼差しで僕の顔に視線を注いでいた。情けない喘ぎを垂れ流して、欲にぎらついて、だのに目の奥はどこまでも優しくて穏やかで澄んでいる。 そんな瞳で見つめられたら、頭がどうかなってしまう。達した身体が更に振り切れて、いつ終わるとも知れない痙攣に震え続けた。 ようやく呼吸が整ってきた頃、ちらりとベッド脇をうかがう。お互いの服がそこかしこに散らばっており、どれだけせっかちに脱ぎ去ったか…どれだけ早く早くと焦っていたかよくわかる有様に、ため息のような笑いがもれる。 反対側の壁側には、鳥束の顔。 寝ているような起きてるような曖昧な目線で、ぼんやりと天井を見上げていた。まだ行為の余韻に浸っているのか、明確な心の声は聞こえてこない。でも、目は開いているんだよなと確認の為に目玉を動かすと、こんな些細な動きでもわかるのか、たちまちにこっと顔に浮かべて頬にキスしてきた。こわいやつ。 うそだ。 こわくないし本当は。 「………」 でも僕は早々に振り払って、テーブルへと手を伸ばす。 不意に、無性に、甘いものが欲しくなったからだ。 サイコキネシスで無作為に二つ引き寄せ、その内一つを自分に、一つを有無を言わさず鳥束に押し付ける。 「わ、ありがとさんです」 鳥束はまたにこっと笑い、いただきますと頬張った。それを横目に僕も飴を味わう。 糖分補給で脳が回復したのか、鳥束から聞こえてくる心の声がやけにはっきりしたものになってきた。コイツの考える事なんていつも大体同じで、本能に従った非常に聞き苦しいものだ。 聞かされるこっちの身にもなれと拳の一発も叩き込みたいところで、せっかくの飴を噛み砕きたい衝動と戦いながら耐えていると、なんと直接聞いてきやがった。 「はー、気持ちよかったっなぁ……斉木さんは?」 「……うん」 怒りを晴らす方法は何通りもあるというのに僕はどうしてか、素直に頷いて鳥束を喜ばすという一番ありえない答えを選んだ。 「ふふ、よかった」 案の定鳥束は顔中たるませて喜び、そうっと僕の頬を撫でてきた。僕は黙ってしたいようにさせた。単に動くのがだるかっただけで、笑顔が可愛いとか、撫でる手が気持ちいいとかは微塵も思っていない。 顔が歪みそうになるのを必死で抑えてたりなんかは、していない。 「ねえ、そっち何味でしたっけ?」 『れもんだ』 僕は少しほっとして、口から取り出し目の前に掲げてみせた。 「オレはサイダーっス。ひと口どーぞ。あ、今度は噛まないで下さいよ」 『人のこと噛みまくっといてよく言うよ』 「!…うんもう、斉木さんたらっ!」 もじもじ気持ち悪く身体を揺するのが本当に気持ち悪い。言った僕もそりゃ悪かったが、この反応はない。 その上最悪な事に、自分が残した痕を辿るように指先で撫で始めやがった。 「もっとつけてほしかったんスか?」 『馬鹿か』 黙れとばかりに鳥束の口に飴を突っ込む。 「むごっ!」 瞬間目を白黒させたが、口の中に広がるレモン味にすぐに目尻を下げた。 僕は僕で、ひったくったサイダーをぱくりとくわえた。 ああこれあれか、レモンサイダーだな。うん…全然悪くない。美味いなとぼんやり天井を目に映す。 しばらくそうしていると、小さなため息のあと鳥束は口を開いた。 「あーあ、斉木さんてそんな風にしてても絵になりますよね」 「……んぁ?」 「けだるげ〜な感じも、様になってます。いいなー。なんかずりぃ」 「……ふん」 やれやれ、ずるいのはどっちだ。 鳥束はまだ、口先でブツブツこぼしている。 お前のその情けないとこ、後で思い返すと、やたらキラキラカッコよく思い出されるんだよ。 僕の頭が本格的にどうかしたな。 この僕がこんな風になるなんて。 こんな風になるなんて。 「寝たまま飴舐めるとか、お行儀わーるいの」 『お前こそ』 「ふふふ。飴、喉に詰まらせないで下さいよ」 僕は仰向け、奴はうつ伏せで、一緒に棒付き飴を味わう。 僕はチラッと隣を伺ってから背中を向ける形で横向きになった。 奴の心配する心の声が鬱陶しいから軽減させる為でもあるし、これ以上顔を見ていたくないのもあるし。 だってなあ。 奴の顔が、なあ。 本当に、ずるいのはどっちだ。 |