お題ひねり出してみた
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鳥斉お題『仕方なく おでこにキス。』
と出題されたので、鳥斉でひとつ挑戦。
仕方なく―鳥誕編―
「うっ…ぐ、あぁあ……」 オレはベッドに寝転び、緩慢に見悶えた。 『気持ち悪い声出すな』 それを冷ややかに見下ろして、斉木さんが目を細める。 ああ、その目…ぐっとぐるなあ。冷たさがかえってほてっちゃう。 オレって、実は意外とそっちの気もあるのかな。 「だって……」 オレは膝を曲げ、はあはあと浅い呼吸を繰り返した。 身体の一部がとっても苦しい。あんまり苦しいからついつい涙目になってしまう。 斉木さんはオレの顔の横に片手をつくと、ゆっくり顔を近付けた。 「さ、斉木さん……」 目を潤ませたオレの間抜け面が、斉木さんの瞳に映ってる…それがはっきりわかるほどに距離が狭まったところで、斉木さんは開いた方の手でオレのおでこをペチンと叩いた。 「あいだっ!?」 姿勢を戻す斉木さんに、何するんスかと非難のまなざしをぶつける。 『まったく……食べ過ぎで悶絶してるだけなのにエロ妄想ぶっこんでくるとか、どうしようもないな』 「いや、だってぇ……」 腹が苦しくてはあはあしてるだけっスけど、はあはあしてるとついつい思考がそっち行っちゃうんスよ! これはもうしょうがない、これがオレっスからね。開き直ってへっへっへと笑いかける。 「はーぁ……はーぁ……」 斉木さんは大げさにため息をもらしながら、いつもの三倍くらいやれやれだと首を振った。 あーん、斉木さぁん。 『そら、持ってきてやったぞ』 「うぅ…ありがとうございます」 枕元にポーンと放って寄越された小瓶に、オレは丁寧に両手を合わせた。瓶の中には小粒の錠剤がじゃらじゃら詰まっている。アブナイお薬ではなく、よく効く胃薬。 リビングの薬箱に常備しているのを、オレの為に取ってきてくれたのだ。結構前に買った物で、一度使ったかどうかの代物。はじめ斉木さんは、そんなに苦しいなら復元しようかと提案してきたのだが、そうしたら食べた事実そのものがなくなってしまう、身体は楽になるだろうがオレには一生引きずることになるだろうから、薬持ってきてくださいと頼んだのだ。 『で、気持ち悪いのか。吐きそうか』 「いえ、そこまでは。とにかく腹が苦しくて重いっス」 オレは、とっても苦しい身体の一部…胃の辺りを両手でそっとさすりながら起き上がり、斉木さんの手にある水のコップを受け取った。 『まったく、バカだな』 「ごくん。……だってぇ」 用法容量を守り正しく服用、ということでオレは既定の三錠をたっぷりの水で流し込んだ。それから、だってぇと唇をとがらす。 オレの誕生日だからって、『なんでも好きなもの作ってやる』なんて言われたらさあ! 恋人の手料理が食えるとなったら、一つになんて絞れないじゃん、二つでも全然足りないじゃん! オレは、今日の事を朝から振り返った。 |
今朝のこと。 いつものように二人仲良く朝ご飯食べて、二人でやれば早いから一緒に後片付けして、出来た余裕でそれぞれ好みのインスタントコーヒー飲んでゆったり過ごし…過ごそうとしたら、斉木さんがおもむろにスケッチブック取り出してさ、なんすか今から似顔絵描きでもするんスか、オレそんなオモシロイ顔してますか、描き残したくなるほど、って見守ってたら、現れたのはなんとメニュー表だった。 『今夜の献立、この中から選べ』 「あ、はあ……?」 オレの反応が悪いのは、いつもはこんな風にしないからだ。いつもの献立決めはもっと単純で、昨日最後に食べたのが魚だったから今日はじゃあ肉で、と大雑把。なに肉使ってどんな料理にするかは料理担当次第。たまに、今日は肉での時に「うどん食べたいな」とかリクエストが出る時もある。そういうのは大いに助かるので、お互いじゃんじゃん口を開けてる。 とまあこんな感じで男二人どうにかうまい事毎日の食卓を埋めてきたわけだが、今日は様子が違う。おかしいな、こんなの、去年以来だ。そう去年、あれはオレの……そっか今日ってオレの! 「誕生日スか!」 『……そうだよ、このポンコツ鳥束め』 これ以上ないくらいやれやれ顔で、斉木さんは大きなため息を吐いた。オレはうへへと愛想笑い。 自分の誕生日忘れるって本当にあるんだね。いや、これは深刻なボケとかそういうのじゃなくて、本当に頭から飛んじゃってたのよ。 うーん人間の頭って面白いね。 カレンダーにもきちんとシール貼られて「この日は特別」って目印つけられてるのに、それを毎日何度も見てるのに、今日がいよいよその日だって結び付かないって本当に面白い。 『お前だけだ、そんなの』 「うっ……すんません」 『せっかくこんな手描きのメニューまで作ったのに、馬鹿みたいじゃないか』 「ひーごめんなさい! そしてありがとうっ!」 オレの為にわざわざこんな、カラフルで可愛いメニュー表を作ってくれたなんて、じーん…感激だ。 こんな風に愛してもらえるなんて、オレ、もう、なんて言ったらいいか。どうやってこの喜びを表現しようか。好きって百回言っても、愛してるって千回言っても、全然足りない。 『もういいからさっさと選べ』 「ああはい!」 オレは慌ててメニューを目で追った。 うわ、うわうわ、ここに書いてあるの全部オレの好物じゃないか。これまで斉木さんが作ってくれて、オレが特に気に入ったメニューばっかり。 斉木さんの手からスケッチブックを受け取り、オレはじっくり長考に入った。はまってしまった。 だってさ、オレの特に好きなものがだよ、カラーペンでそりゃあ美味そうに描かれてるんだよ、たとえばナポリタンとか、ポテトサラダとか、ホットサンドにカレーライスに…結構たくさん、見てるとよだれが出てくる。見てると、これを食べた時の感動が蘇ってくる。 それからね、去年よりメニューが増えてるの。斉木さんの作れる幅がそれだけ広がったってことなの。うれしーうれしー! ああーどうしましょう。 そんなオレの横で、斉木さんはコーヒー片手に悠然と小説を読み始めた。どうやら最初から、こうやって長くなるだろうって予想していたようだ。あはは準備いいなあ。じゃ、心置きなく悩むとしますか。 オレは考えて考えて、斉木さんは読んで読んで、考えて読んで読んで考えて考えて考えて――。 そしてオレが出した結果は「全部作って下さい!」だった。 |
『それでこのザマとか、馬鹿の極みだな』 「ぐう……」 返す言葉もございません。 膝を曲げてベッドに寝っ転がった状態で、オレは顔を覆った。 もう本当に情けないっス、苦しいのと悲しいのとで涙が出そう。 両手で隠したその内側で、オレは切ないため息をもらした。 するとやれやれと呟きが聞こえ、次いで、ベッドに腰かける気配がした。 え、と思って手を退かすと、思った通り斉木さんとの距離が縮まっていた。 ベッドに腰かけ、身体をひねって、オレを見つめてくる斉木さん。その目はどこか面白がってるような、ふわっとした優しさがあった。 『でも、お前が嬉しそうに食べてたとこ、悪くなかったぞ』 「オレも最高に良かったです。本当に嬉しかったですよ」 柔らかい微笑にオレは全力で応えた。 オレが「全部作って下さい!」と要望出したものだから、斉木さんはすぐに準備に取り掛かった。何品も同時に作るなんてとんでもなく大変なこと、なのに、斉木さんは少しも零さず疲れも見せず、手際よく作り上げていった。 それがまあ実に見事でね。超能力での同時進行がとんでもなく鮮やかなものだから、目が離せなかった。ずーっと目が釘付け。 斉木さんが料理するとこ初めて見るわけじゃないのに、なんだか心躍っちゃって、結局ほとんど見届けちゃった。拍手も贈っちゃった。 なんか困ったみたいな顔されたけど、オレは惜しみない拍手を贈った。本当にアメージングだった。 「こんな風に祝ってもらって、なのに……ああ」 おいしい手料理食べて、いい雰囲気にしてそれから――って色々妄想してたのに、なんだよもう! そうだよ、先月も使ったちょっと良いグラスで乾杯したら、今日の為の特別料理を全部に感謝しながら頂いて、グラスおかわりして、そうしたらそろそろいい雰囲気になる頃だから、今日のメインディッシュの斉木さんをいただきますてな感じで盛り上がって…って、キレイに完璧に組み立てていたっていうのに。 斉木さんをいただきます、の妄想の辺りで、オレの心読んだ斉木さんが額押さえてやれやれ頭振ってたけど気にしない。 とにかく、オレは今夜の流れを細部に至るまでしっかり組み上げてたんだよ。そう、斉木さんが料理するとこ眺めながら、これがこうなってこうなるから、こうしてこうしてこうだーって、完璧な計画だって思ってたのにな。 『まあ、お前の事だからすぐ回復するだろ』 「うう…待っててくれます?」 胃薬は飲んだから、あと十分かそこらもすれば元通りになるはずだ。オレは、早く効果出ろと胃の辺りをそっとさすった。 『待つのめんどくさいな。そら、これで元気になれ』 めんどくさいとかそんなひどい、とへの字口になると同時に、斉木さんはオレへと顔を近付けた。 うわ、これキスだ!……唇じゃなくおでこにだったけど、斉木さんの気持ちがこもってるんだもの、オレの身体に効かないはずがないのだ 「……あー、なった、なりましたよー」 たまらなく嬉しい顔、出来てるかな。はち切れそうな思いを眼差しにこめてオレは見つめた。 「ここにしてくれたらもっと元気になりますよー」 唇を指差すと、『調子に乗るな』と斉木さんはグーを振りかぶった。 「えー、オレ今日誕生日、オレ主役!」 ちょっとくらい乗っちゃっても許してもらえないっスかね! せめてゲンコツは回避すべく、オレは全力で叫んだ。 でも全然斉木さんの殺気は消えなくて、しょうがないからやけっぱちで泣き落としに賭けてみた。 両手グーにして口に当てるオレに、ゴミ虫見る目が向けられる。更にその顔で舌打ちされて、これだったら素直にゲンコツ食らった方がまだダメージ少なかったわ。 嘘泣きがマジ泣きにかわる。 「斉木さぁん……」 ああもう最悪だ。がっくり脱力して、オレは力なくため息を吐いた。 『……やれやれ』 『そら、これでいいんだろ』 色気もへったくれもない接触だけど、オレは容易く復活する。ああむず痒い、嬉しい。斉木さん大好き。 でも、斉木さんからのプレゼントはこんなもんじゃなかった。 「誕生日おめでとう――」 ――零太 「!…」 鼓膜を震わせた声が信じられなくて、オレはぽかんと眼前の人を見つめた。 少し頬を赤く染めて、オレの頭をくしゃくしゃとぞんざいに撫でてくる。 「っ……、さ、さい、さいっ、くす、く……おおー!」 感激と混乱と腹の苦しさと興奮とで、もう頭ぐちゃぐちゃ。 「ねー、もっとチューしましょ」 『いやだ、お前すぐ盛るから』 「えー、それはそれでいいじゃないスか」 『………。まだ危険な位置にあるから駄目だ』 オレの胃袋の辺りをしばし見つめて、斉木さんは首を振った。 うぐ、それは…確かにダメっスね。オレだって惨状を作りたい訳じゃないし。 「それに何より、斉木さんの愛情無駄にしたくない!」 もし万が一キラキラな事になってしまったら、斉木さんの朝からの苦労や愛情が一瞬でパアになってしまう。 てことで、おでこにチューなら? 「おでこにチューさせてぇ」 『そこまでしたいの? 我慢しろよ』 「だってお礼がしたいんスもん」 『それならもう充分伝わってる。残らず全部食べてくれただろ』 「……えへへ。本当に、全部美味しかったですよ」 『それで今動けずに、無様に寝っ転がってると』 「えへへぇ……ここにはね、幸せが詰まってるんスよ」 『じゃ、いいな』 「ああー、それとこれとは!」 切り上げて立ち上がろうとするから、オレは大慌てで引き止めた。 目にも止まらぬ速さで斉木さんの手を掴む。 斉木さん、どうかお情けを、どうか! 『そんなに必死に頼み込むことか?』 必死にもなりますよ、頼み込むことですよ! 「なにせ、オレが元気になるかどうかの瀬戸際っスから」 『……っち、やれやれ』 何だかんだ優しい斉木さんは、キスを許してくれた。 『仕方なくだからな。ほらよ』 でもでも、熱計る時みたいに色気もくそもないそのおでこの出し方はNGだ! 「ダメ、やりなおし! 一旦手おろして」 『……めんどくさいな』 あんまりぐずぐず言うと腹に膝きめるぞ。 「へぇっ……! やめて!」 斉木さんの目がギラっと光るものだから、オレは心底震え上がった。 それでも引かないオレにやれやれと折れて、斉木さんは顔を近付けてくれた。 『いいか、仕方なくだからな』 「わかってますから。斉木さん、今日は本当にありがとうございます」 いっぱいの気持ちを込めて、オレは唇を近付けた。 |
蛇足 『次からは、ちゃんと自分の腹具合考えて選べよ』 「そうします。なんかこれ、セルフ焦らしプレイっぽくてちょっといやんかもですし」 『馬鹿が。じゃあもう僕はいくからな。おさまったら起きてこい』 「えー、回復するまでいてくれるんじゃないんスか?」 『本当に腹押すぞ?』 「ちょー!?」 『お前といると、我慢出来るか不安なんでな』 「え、腹押すのっスか!?……あっ!」 本当に勘弁してくれとオレは必死に腹を押さえた。そうしてから、斉木さんが何を我慢するのかはっと理解する。 「……っち」 「あ、あ、あ、え……あ、うそお?」 真っ赤な顔で舌打ちして、斉木さんは身を翻すや部屋を出ていった。 「ちょまー!……ちょまー……」 なんてバカなオレ。バカで察しが悪くて鈍くてバカで、救いようのないバカ! 特別な日、オレの誕生日。プレゼントはシンプルな飾りのネックレス。 まさか斉木さんからこの手のものが贈られるなんて思ってもなかったから、心底驚いた。 しかも、オレの好みにぴったりなのだ。アクセサリーは好きだけど、あんまりジャラジャラしてたりゴテゴテいかついのはちょっと…で、細めのあっさりしたのが好きだから、プレゼントはまさにその通りで余計嬉しかった。 びっくりで嬉しくて、わーわー叫ぶほど喜んだ。 で、そうやって大騒ぎする頭の片隅で、恋人にネックレスを贈る意味ってのを、ちょろっとね、思い浮かべたんだよ。でも斉木さんはそういった他意はないかもねって、そういう意味を込めてたわけじゃないよねって、確認の目線をちらっと送ったらね、意味ありげにふんって笑ったのあの人。 えっこれそういう意味なの? ああそれそういう意味だよ そんなやり取りを、確かに目線でした。 あんまり驚いて斉木さんの顔とネックレスと、何度も交互に見ちゃったよ。 待ってて斉木さん、すぐに回復するから、それまでの辛抱ですから。 回復した暁には、夜通し一杯可愛がってあげますからね! あなたの鳥束零太がすぐに向かいますから。 だから、待ってて! |