今日の二人はなにしてる?
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今日の鳥斉
怖い夢をみる。飛び起きて慌てて隣をみると悠長に眠っているのでちょっと腹が立って鼻をつまんでみる。
と出題されたので、鳥斉でひとつ挑戦。
鼻をつまんで抱きしめて
「――!」 いやだ、いやだと、ひたすら繰り返しながら目を覚ました。 目を一杯に見開いても天井さえわからないほど、部屋の中は真っ暗だった。恐らくまだ日の出も遠い真夜中の時間帯だろう。 こんな時間に目を覚ますなんて。 それも――たかが、悪い夢を見たくらいで。 |
もう夢を見ても、それが現実になったりすることはない。 凶兆だからとその原因を回避する為に奔走する必要もない。 つまり、ただの夢だとさっさと頭から追い払ってもう一度眠ればいいだけのこと でも。 でもな。 僕は隣を見やった。 すぐ横でぐーすか気持ちよさそうに寝息を立てる鳥束がいる。 かー、くかー、ふかー コイツがどうかなってしまうという夢は、さっさと追い払うにはちょっと難しい。 わかってる、何の意味もないただの夢だってのは僕だって知っている。 それでも怖かった。 具体的な内容はなく、何かはっきりした光景もなかったが、鳥束は死んだんだ、って、もういないんだって状況に置かれてて、その事実に僕は心底震え上がった。 この世で一番大事な人にもう会えない、いきなりそんな場面に叩き落されたら、誰だってこうして飛び起きるだろ。 神経が昂って全身が妙に熱くなって、そのくせ指先はしびれて冷たい。 いや、ただの夢だ、現実ではこうして間抜けな寝顔を晒している。 くふー、かー、くふー、かー ……ふふ。 ちゃんと息してる、そんな当たり前の事に笑いがもれる。 たまらなく怖かった分、笑えてしょうがない。 僕は出来るだけ静かにそっとそっと、鳥束に手を伸ばした。ゆっくりと指先を鳥束の身体に近付いていく。 そうしながら、いつか鳥束が口にした言葉の端切れが脳裏を過った。 幽霊は触れない。 すり抜ける。 抱き着いて確かめた。 エロガキ 「……エロガキ」 何の脈絡もなく、そんな言葉を口の中で転がす。 かつてのエロガキは、まだ二十歳にもなってないのに言葉の端々がなんとなくスケベおやじっぽくなって、僕はうんざり呆れる毎日だけど、実はそれが嫌いじゃない。 僕の手がとうとう鳥束の肩に触れる。 ああ、触れるな。 僕はあの例外を除き一人じゃ幽霊を視ることは出来ないし、今はこうやって素手で触れても鳥束の視界を得る事もない。 その他大勢の常人と同じく、触れて相手を確かめる事が出来る。それだけ。 でも、今はそれがとても重要だった。 触れない。 すり抜ける。 どんな気持ちだったろうな。 ぷふー、すー、ぷふー、すー 鳥束に触れたまま規則正しい呼吸を聞いていると、段々眠気が舞い戻って来た。 ああよかった、あんな、たかが夢ごときで寝不足だなんて冗談じゃないからな。 鳥束はこの通り僕の横にいるし、この通りのんきに寝ている。 僕も寝るとしよう。 横になり、心持ち肩を鳥束に寄せて、僕は目を閉じた。 超能力を封印して、晴れて常人になって、それはそれで不慣れで色々壁にぶち当たる。 でも、鳥束がいるからそれほど苦労はしていない。 大事に思う人がいる。 僕を大切に思ってくれる人がいる。 あらためて実感すると、あたたかいと同時にとんでもない重石でもあって、胸が詰まったみたいになった。 「………」 なんだ、情けない。 自分で決めてこの道を選んだだろ、グズグズするとかみっともない。 でも。 でもな。 僕は目だけで鳥束を見やった。 悠長に眠っている間抜け面が、ちょっと腹立たしい。 僕が怖い目に遭ったってのに何をのんきに寝てるんだコイツは。 完全に八つ当たりだが、寝起きで頭が上手く働かないようで、自制心なんてこれっぽっちもなかった僕は、勢いよく片手を振り上げた。 ぶっ叩いてやろうと意気込んだのだが、直前で力は抜けてしまった。 だから代わりに、鼻をつまんでやることにした。 「っ……、ふごっ!」 びっくりして目をむいた鳥束に、僕は思い切り抱き着いた。 鳥束は何が何だかわからないまま、反射で僕を抱き返す。 ああ…あったかい、力強さが気持ちいい。 まずいなと思うくらいにやけてしまった。 何だかわからないなりに僕を大切にしてくれる。そんな現実に顔が歪んで仕方ない。 ああ、僕は本当にコイツが――。 しばらくはふにゃふにゃと何事か喋っていた鳥束だが、やがてまた眠りへと落ちていった。 僕ももう、半分は眠りに引き込まれていた。 コイツ、きっと明日起きたら、変な夢見たんスよ聞いて下さいよとか言ってくるのだろうな。 気恥ずかしいような可笑しさの中、僕は静かに息を吐き出した。 |