ラッキーカラー
トースターから皿に移した焼き立てのバタートーストに、更にバターを染み込ませ、そこにたっぷりのいちごジャムをのせる。 「うわー、朝から豪勢だな」 それを見て、テーブルを挟んで向かいの父が、驚きと羨みの混じった声を上げる。羨ましいならあんたもそうしろと思うが、父くらいの年齢になると、朝からコッテリ物はもう胃が受け付けないようだ。 若い頃は僕もそうしてたっけ、といった思い出をなぞりながら、父は薄目のコーヒーを啜った。 「食える時食っとけよ、楠雄」 言われなくても、出来る限りそうするつもりだ。 バタートーストに端っこまで丁寧にジャムを乗せたパンに、僕は少し大きめの口でかじりつく。 「………」 しっかり焼いたパンに染み込んだバターがじゅわっと口の中に広がり、ほのかな塩気と共にジャムの濃厚な甘味が脳内をバラ色に染めていく。 ああ、至福。 よくよく噛みしめて味わい、ゆっくりコーヒーカップを傾ける。 |
今日は休日、ということでいつもよりゆっくり起きてゆっくり朝食を迎えた。 平日はバタバタ慌ただしい食卓も、今日はのんびりした空気に包まれている。 いつもはテレビを横目に忙しく登校するのだが、今日はじっくりと楽しむ事が出来るから、朝食が出来上がるのを待つ間僕はしばし視聴した。 ちょうど、星占いのコーナーが始まったところだった。 興味はないが、即チャンネルを変えたいほど毛嫌いしてるわけでもないので、お姉さんの軽妙なお喋りを楽しむつもりで流し見した。 で、残念今日の最下位は牡牛座のあなた、と、いつかの続きみたいな結果が流れ、父が地獄の底のような顔になったところで母さんから、お待たせ、出来たわよと声がかけられ冒頭に続く。 |
リビングでのんびりと食後のコーヒーを楽しみたかった僕を、父が邪魔した。 邪魔と言うには少し語弊があるか。 ――ママぁ、僕今日占い最下位だったの、慰めてぇ などと猫なで声を出して母に甘えるオッサンを見るのはきつかったので、部屋に戻る事にした。 母も母で父にメロメロなので、しょうがないわねと言いつつ甘ったるい空気を出し始めた。 あなたはいつでも私の一番だの、僕だっておんなじだの、見つめ合って二人だけの世界に浸っている。 これはもう部屋に戻るしかない。 やれやれまったく、朝からコッテリしたもの見せやがって。食えなくなったくせに雰囲気はいつまでもコッテリじゃないか。 ご馳走様! そんなわけで、コーヒー片手に僕は部屋に引っ込んだ。 さあ、休日を満喫するぞ。 今日一気に読み切ってしまおうと思ってぐっと我慢してきたあの小説本を読もうか。 潰れたビデオ屋から安く買い取った映画もまだ見てないのがたくさんあったな。 あるいはクソゲーに没頭するのも良いな。 ふふ、さあどうやって過ごそうか。 コーヒーを啜りつつウキウキと予定を立てていると、僕を呼ぶテレパシーが届いた。 父のでも、母からでもない。 これ…は……。 聞き覚えのあるそれに、僕は、危うく飲みかけのコーヒーを噴き出すところだった。 はぁ、やれやれ。 斉木さんスミマセン 休日にスミマセン 朝からスミマセン お願いがあるんですどうか入れて下さい! すみません、すみませんと家の前で一心に拝む変態クズ。 一体なにごとかと、僕は大急ぎで部屋に入れた。あんな汚物を休日の朝から外に放置しておくわけにいかないからな。 「……なんか、ひどい事思ってません?」 『気のせいだよー』 恐縮しつつも嬉しそうに部屋にやってきた変態クズの鳥束は、勘も鋭く言い当ててきた。 ごまかしても疑いの目を向けてきたが、僕はあくまでもしらを切り通す。 目を合わせない僕の態度で悟った鳥束は、しょうがないと小さくため息を吐いたのち、切り出した。 「それでですね、あの、昨日、部室にちょっと大事なもの置き忘れちゃったみたいで、取りに行きたいんです」 『行けばいいだろ。一人で』 大体、お前の言う「大事なもの」ってあれだろ、いかがわしいブツの事だろ。れっきとした校則違反の代物だろ。 何かの拍子に見つかってまた呼び出し説教ののち、和尚さんに断食修行させられる恐れがあるから、僕に頼ろうってんだろ。 「やー、さすが斉木さんっスね。そこまでわかってるなら、一つ協力してくださいよ」 『する訳ないだろう馬鹿か』 「そう言わず、ねえー、お礼は弾みますから」 澄んだ目で真剣に拝んできても無駄だ。バッサリきっぱり切り捨てるつもりなのに、コイツが思い浮かべた「お礼」の数々についついぐらついてしまう。 いやいや、僕がそう何でもスイーツに釣られると思うなよ。 だがまあ乗ってやらんこともない。今朝はちょっと、気分が良くなることがあったからな。 「斉木さん、お願いします!」 重ねて頼み込んでくる鳥束に、僕は肩を上下させた。 やれやれまったく。わかったよ。 |
『お前、忘れるにしてもバッグ丸ごとはないだろ』 これですこれ、と、壁際に置かれたスクールバッグをさも当然のように指差す馬鹿に、僕は額を押さえた。 部室の隅か、あるいは机にちょこっと忍ばせたものを想像していたが、さすが変態馬鹿、軽く超えてきやがる。 「そういうミラクルが、世の中にはあるもんなんスよ」 恥もせず言ってのけやがったな。 バッグの前にしゃがみ込み、中身を軽く確認する鳥束の背中に、僕はありったけの殺意をぶつける。 『……まあいい、見つかったのならとっとと出るぞ』 「ええー、お楽しみはこれからじゃないっスか」 『……は?』 気が付くと、鳥束に腰を押さえ込まれていた。てかどこ触ってんだお前。 「んふー、斉木さんの可愛いお尻っス」 モチモチ柔らかい 適度な弾力があって素晴らしいっス! そんなとこそんな風に褒められても全然嬉しくないんだが。 僕は思い切り顔を引きつらせた。 『お前、最初からそのつもりだったのか』 「さあ何の事やら」 この野郎…いっちょまえにとぼけやがって。 「キスしないと出られませーん」 例の変態タコ口よりは多少ましな顔が、ぐんぐん迫ってくる。 やりゃれまったく、朝からなんて災難だ。 さっき見た占い、一位だったのに。 ――いい出会いがあるかも! 出会うのは何も人物に限らない、僕で言えば美味しいスイーツだったり、本やゲームがそれに当たる。 占いなんて信じてないし興味もないが、心得程度に胸に留めて、ちょっと期待するくらいはしてもいいよな。 だから、軽い願掛けのつもりで、イチゴジャムを使ってみた。 今日の僕のラッキーカラーは赤色だと言っていたから。 だというのになんだこれは…ああ、ついてない 全然効果がないじゃないか。 まとわりつく鳥束を適当にあしらっていると、ふと首元の数珠が目に入った。 ラッキーカラーは赤色だと? つまりコイツの数珠の色か。 ふん、馬鹿馬鹿しい。 こんなのがいい出会いなもんか。 やっぱり占いなんて。 心の中でため息を一つ。 僕はいっそ開き直り、感覚を少しずらして濃厚なキスをくれてやることにした。 「んっ、んん?」 コイツの悦ぶやり方はもう熟知しているからな。 まだお戯れの段階だった鳥束の口の中、すっかり油断しているそこに舌を伸ばし入れ、たるんだ奴の舌をじっくりねっとり蹂躙してやった。 「んむ、ちょっ……えぁ」 舌の裏側を舐められるの、弱いんだよな。そして大好きなんだよな。 「あ、む……ちゅっ……ぷぁっ」 性器に見立てて強く吸われるのも好きだし、わざとじゅるじゅる下品な音を立てて吸ってくるのも好きだし、そうやって散々弄られた後に軽く噛み付かれると、たまらないんだよな。 「ふぅ……はあぁ」 思った通り腰砕けになる鳥束に、僕はひっそりほくそ笑んだ。 身体を離した途端、奴はくたくたと床に座り込んでしまった。 ズボンの股間は、一目でそうとわかるほど膨らんでいる。 「もう……斉木さんのえっち! どこでそんなキス覚えたんスか」 唇を押さえ、鳥束は潤んだ目で見上げてきた。 ふん、超能力者なめるなよ。 『お前がこっちを知り尽くしてるように、こっちだってお前の事知り尽くしてるんだよ』 「えぇ……うわっ!」 なんだか面白くなった僕は、へたり込んでいる鳥束に再度口付けた。 いつも、何かといいように扱われ屈辱を味わってるからな。…まあ、他にも色々味わって全体的には悪くないと思ってるがとにかく、普段のあれやこれやを晴らすいい機会だ。 やだ、もう…うそだろオレ、キスだけていっちゃいそう やだやだ、斉木さん、入れたい、入れたい! 斉木さんの中におもいきりぶちまけたい! 鳥束の腰が無様に動き出す。僕もちょっとムラっときたが、今はコイツを降参させる事に集中しよう。 二度目のキスもたっぷりとくれてやる。 ふん、どうだ。結構効いただろ。 「はぁ…はぁ……ふふ、やりますね。斉木さんやっぱすげーっスね」 互いの唾液でべとべとになった唇を拭い、鳥束は薄く笑った。その、雄むき出しの表情に腹の底がぞくっと疼いた。 あれ…何が目的でこんな事をしたのだったか。 「でもオレも、これじゃ終われませんよ」 コイツを参らせる為だったっけ。 すっかり燃え上がった鳥束に、床に押し倒される。 「焚き付けたのは、斉木さんっスからね」 それとも、誘いたかったんだっけ。 大体ここは学校だぞ、休日の学校に、二人してこっそり忍び込んでこんな事をしているなんて、どうかしてるよ。 そんな僕の混乱などよそに、鳥束の手が素早く僕の服をはぎ取っていく。 「覚悟して下さいよ」 「……うん」 何でもいいな、もう。 だから僕は一切抵抗せず、脱がされるままに任せた。 露わになった肌に触れてくる鳥束の唇は火傷しそうに熱く、くすぐったいけど気持ち良くて、僕の身体はあっという間にとろけていった。 |
「ああやだ斉木さん、乳首もお尻の孔も、どこもかしこもエッチでスケベな形になっちゃってますね」 床に転がした僕の身体を、正面から背後から好き勝手舐め回し、特に反応する箇所にはより執拗な愛撫を施しながら、鳥束はそんな事を垂れた。 うるさい馬鹿、変態丸出しのセリフ吐きやがって。 せめてもの抵抗に足を閉じるが、隠さないでと請われると僕の身体は素直に言う事を聞いて、自らさらけ出してしまう。 「んもー斉木さんてば、いつの間にこんなやらしい身体になっちゃったんスか」 「ばかやろう…お前がやったくせに」 向こうが願う以上に足をおっぴろげた格好で、僕は何を言ってるんだろうな。 「あれ、はは、そうでしたっけ」 「こ…殺す、殺す」 恥ずかしいのにもっと見てほしい、これ以上は堪えるのにもっとしてほしい。ぐらぐら揺れながら、僕は力なく奴の身体を蹴りつけた。 「あーこらこら、蹴らないの。ね、ほら」 鳥束はその足を易々と捕らえると大きく持ち上げて自分の肩にかけ、内ももに手のひらをすべらせた。 それだけで淡い痺れに包まれ脱力してしまうなんて、僕はどれだけこいつに飼いならされてるんだよ。 「あぅっ……」 何度も優しく撫でられ、ぞっとするような気持ち良さに自然と身体が震えた。 「あー可愛い声、ねほら、ちゃんと気持ち良くしてあげますから」 「うるさい……さっさとしろ」 そんな中途半端な刺激じゃもう、収まらないくらい煽られてる。 「はいはい」 鳥束は薄く笑うと、肩から足を下ろし、僕の身体に正面から覆いかぶさってきた。 自分からも抱き寄せたかったが、寸前で怖気づいてしまい指先がぴくりと動いただけだった。 そんな意気地なしの僕の手を、鳥束は優しく掴んで自分の首に回させた。 ああ…うん…誘導されたんだから、こうしてもおかしくないよな。 僕はほんの少し腕に力を込め、間近に迫った鳥束の顔をじっと見据えた。 どんどん距離を詰める鳥束の顔を一秒でも長く正確にとらえたくて、僕は何度も瞬きを繰り返した。 唇が重なってる間も、何度も。 「ふ…ぁっ」 「斉木さん、ほら、舌べーってして」 鼻先が触れ合うほどに離れ、鳥束は囁いた。 「さっきしてやられた分、たっぷりお返ししますね。いっぱい吸って、いっぱいしゃぶってあげますから、いつもみたいにオレにべーって伸ばして」 「う……あっ」 「あは、いい子……んむ」 「はふっ……ん!」 「ん−、斉木さんの舌おいしい」 「そんな……」 「そんなわけありますよ、ほんとにおいしいから」 「あふ、あっ……やは、とりつか、も、へは……もうやめろ」 「ダメっスよ引っ込めちゃ。もっともっと気持ち良くなりたいでしょ、ほら、えーって出して」 ほんの小さく首を振る。 これ以上されたら今度は僕が腰砕けになってしまう。もうほとんどそうなってるけども、いつものように、またしてもコイツに醜態を晒すのはまっぴらごめんだ。 というのに、僕はなんの躊躇もなく奴に向かって舌を伸ばした。 「いい子ちゃん……ああ…かわいいかわいい斉木さん、今、食べてあげますからね」 鳥束は愛おしそうに頬を撫でると、じゅるじゅると飽きもせず舌と唾液を吸った。 首筋、喉元、いや頭の後ろか。とにかくゾクゾクしてたまらない。我慢のしようもなく、腰が揺れてしまう。さっきの鳥束以上にきっと今の僕は無様だ。でも、何故か、そんな姿を見てほしくてたまらなくなっている。 鳥束にならみっともないとか浅ましいとか思われてもいい、だってコイツは、それでも僕に幻滅しないしむしろ興奮するし、他の何も目に入らないくらい、頭に思い浮かばないくらい、僕に向かって突進してくれる。 ふふ…腰が動いちゃってますよ 欲に潤んでとろけた斉木さんの目! ああ可愛いなあ オレの斉木さん…斉木さん! 鳥束の脳内が真っ赤に腫れ上がり、凄まじいほどの欲望をぶつけてくる。 そうだよ、こんなの、お前だけだよ。 だからちゃんと受け取れよ、僕をこんなにした責任、取れよ。 僕はもう隠しもせず腰を上下させ、興奮しきったそれを鳥束の足に擦り付けた。 鳥束は一瞬驚いた顔のあと、ぞっとするほど綺麗な笑みで僕を見つめた。 僕の身体に、ねとねとした液体が垂らされる。鳥束の忘れ物のバッグに常備されてるそれは無味無臭のローションで、実を言うと結構な回数目にしてるし使っている。 鳥束はそれを僕の胸元や股間にたっぷり垂らすと、平常時とは異なる形になった乳首を指先でくにくに転がし始めた。 「う、ん……あっ」 さっき散々唇と舌で舐められ、軽く噛まれたりしてすっかり尖っていたそこへの刺激に、じわっと涙が滲むほどの快感が生じる。 「あは、ぷっくり尖って可愛いっスね。いじりやすくなっていっスよ」 「くそ……うあっ!」 屈辱だときつく目を瞑った直後、乳首同様形を変えたもう片方、股間を躊躇なく握り込まれ、思わず僕は叫びを上げた。慌てて口を押さえる。 「うぁ、ん、ん……」 いかせる為ではなく、まんべんないくローションを塗り付ける為に手が動く。 根元から先端へ、くびれももらさず丹念に、鳥束は手を動かし続けた。 「もーガチガチっスね。ちょっと本気でこすったらあっという間にいきそう」 「うぅ……はぁ」 だろうよ。お前がさっき、しつこいくらい舐め回したしな。 面白がる鳥束の声に苛立ちが募る。 わかってるならさっさとそうしてくれ。 中途半端な刺激ばかりで、腰の奥が痛いほど熱くなっているんだ。 早く解放したくてたまらない、どうにかなりそうだ。 薄く目を開いて確認すると、僕の反応を楽しそうに見守る鳥束の視線とかち合った。 その途端鳥束は乳首からも股間からも手を引っ込め、聞いてきた。 「斉木さん、乳首と×××とお尻の孔と、どこ弄りたい?」 「なに……?」 「ほら、いきたんでしょ、じゃあ自分で触って、いくとこオレに見せて」 「………」 ああ、そうかよ。 もうやけくそだった。 だってしょうがないだろ、そこに転がってるローション、つい先日開けたばっかで、もうあんなに減ってるんだ、どんだけ使ってるんだ。そしてもうあれで何本目か数えきれないくらい、鳥束と身体を重ねてる。 それだけ、僕自身も知らなかった扉をいくつも暴かれてきたってことだ。もちろんされっぱなしじゃないぞ、こっちだって、奴の未知の感覚をいくつもほじくり出してやった。 まあとにかく、身体の相性は申し分なくて、年頃なのもあって、僕たちは場所も選ばず時間があれば飽きもせず交わった。 すればするほどのめり込んでいって、頭がどうかしてるんじゃないかってくらいやりまくって、それでもまだ足りないって思う程だから、今更恥じらいなんてあるものか。 続きの刺激を欲しがってきゅうきゅう疼く乳首と股間を、僕は好きなように弄り回した。 「あれ、お尻の孔はいいんですか?」 「……っ」 「よくない? 真っ赤な顔で首振って、はは、斉木さん……可愛いっス」 っち…うるさいないちいち。 ひと睨みくれてから、僕は顔を背けた。 「じゃあほら、お尻の孔も遠慮しないで弄ったらいいじゃないですか」 「とりつか……」 「ねえほら、ひくひくきゅんきゅんしてますよ。自分でもわかります? こうやって指先くっつけると、飲み込もう飲み込もうとしてきて、はは、かわいー」 「あっやめろ……」 「早く触ってほしくてうずうずしてるの、わかります? 「うるさい……」 「すんません。ほら斉木さん、自分で弄って」 「やだ……鳥束がさわれ」 手を掴まれ誘導されるが、僕は拒んだ。 やだ。いやだ。 わなわなと唇が震えた。 「ええー、オレ、斉木さんが自分で弄って、そんでいくとこ見たいっス」 「いやだ……鳥束の手がいい」 振りほどき、逆に鳥束の手首を握る。僕はその手をぐいぐい引っ張って、ここに欲しいと訴えた。 「お前の手が、一番気持ち良い」 「うわ……さいきさん 「お前に触ってもらうと幸せな気持ちになる……自分じゃなれない…お前じゃないとなれない…とりつか、さわって――んむっ」 言い切ると同時に唇が塞がれた。 とてもせっかちな動きで舌を絡め取られ、噛まれたり吸われたり、翻弄される。 「ぷぁっ……ああ、もう…何その殺し文句は…そこまで言われたら、触るしかないじゃん!」 ここに、と、鳥束は指先をあてがった。 たちまちそこがきゅっと窄まるのが、手に取るようにわかった。 「ほんとにもう、斉木さん…いつのまにそんなにエッチでスケベな子になっちゃったの」 「ばかやろう…お前がしたんだろ、お、おまえがぼくを…こんな……責任とれ!」 「うん、はい、もちろんスよ!」 ぐぐっと入り込んでくる二本の指に、喉がひっひっと引き攣った。 「あ、あっあ……ああ気持ち良い! いい、そこいい、ああ…とりつか、もっと!」 ローションまみれの鳥束の指が、狭い孔の中で奔放に動き回っている。今どんな形になっていて、どの指がどこをどんなふうに弄っているか、見ないでもわかってしまうほど、僕の身体は鳥束に馴らされていた。 だから鳥束の方も、どこをどうすれば僕が悦ぶか、好きなところはどこか、すっかり熟知している。 そして鳥束はいつだって、僕を最大限悦ばせ追い詰めるのだ。 「なんて顔して…ねえ斉木さん、自分がどんだけエロい顔してるかわかる?」 右手で乳首コリコリして、左手で×××シコシコして、足おっぴろげて、そんでそんな顔でそんな事言われたら―― 「な、なんだよ……悪いか?」 「ぜんぜん悪くないっス…最高っスよ斉木さん」 「ん、んんっそこ、ああ……いい…き、キスしろ」 「言われるまでもなく」 奥の方を蹂躙しながら、鳥束は口の中までも嬲ってきた。 あまりの快さにじっとしていられず、僕は何度も身をくねらせた。 「んむ……ぷぁっあ、あ、いく、いきそう、とりつか、そこいく!」 「ねー、ここ好きですもんね。もうコリッコリで破裂しそう。ちょっと指でぐりぐりしたらいっちゃうねこれ」 「うん、いく…ああいくっ!」 「いいよ、いっていいよ」 「うぐ……あーっ!」 灼熱の何かが腰の奥からせり上がってくる感触がする。大きく仰け反り、僕は遠慮なく白液をまき散らした。 先端から飛び散った白いものが、身体のあちこちに降りかかる。一瞬の熱さに僕は反射的に痙攣した。 「お腹引き攣ると、×××もビクビクってしますね」 ばか…そんな報告すんな。 「くたばれ……」 達した満足感でぼうっとする頭で、何とか悪態をつく。 と、信じられない思考が聞こえた。 震える×××かわいい、食べちゃいたい! 「おい、まて――ふあぁっ!」 止める間もなく、鳥束は大きく開いた口に僕のそれを迎え入れた。 自分の声と認めたくない高い悲鳴が恥ずかしくて、慌てて手の甲を押し付ける。 「あは、可愛い声」 「あ、やめろ…いったばかりやめろ!」 再び咥えようとするのを目に留め、僕は身をよじった。 「やだ、やめません。だからアンタも、乳首と×××いじるのやめちゃダメっスよ。オレも、お尻可愛がるのと先っぽ吸うのやめませんから」 「やめろ鳥束、まだだめだ…だめ…だめっ……!」 先端を狙い撃ちして吸い上げる鳥束に、僕は涙をにじませた。 「駄目じゃないでしょ斉木さん、もっとしてって言って、ほら」 尖らせた舌でぐりぐりと先端を苛められ、痛いのに気持ち良い感覚に僕はがくがくと腰を弾ませた。 「ああぁ……きもちいい、とりつかぁ」 もっとって言って、斉木さん 「やだ……」 やだって言いながら腰振っちゃってる 「だって……」 掠れた声やべー…斉木さん可愛いだろやべーよほんと、斉木さん可愛すぎる! 「もうやめろってば……」 やめろじゃなくて、もっとでしょ。ね、斉木さん、もっとっておねだりして 僕は頑として首を振った。 けれども、さっきまで鳥束を押しやろうとしていた手で自分のものを扱いて、自分から鳥束の口に何度も押し付けて、言葉にしてないだけで充分僕は、おねだりしていた。 恥ずかしい、みっともない、こんなこと、僕が。 気持ち良くて、情けなくて、涙がぽろっと零れた。 「ぐうぅ…いくっ!」 「んぶっ!」 いっそう強く鳥束の口中にねじ込み、僕はそこで絶頂を迎えた。苦しそうな声を出したにも関わらず鳥束は絶対に口を離さずどころか吸い付きを強くして、一滴残らず飲み込むまで咥えたままでいた。 「……はぁ…はぁ…あごもこめかみもいてー…でもサイコー!」 「おまえさいてー……」 「あーまた憎まれ口を……でも斉木さんのトロ顔拝めたんだから最高だわ」 顎の関節を揉みながら、鳥束は身体を起こした。 「ああ、斉木さんちょっと泣いちゃったね。いま――」 拭ってあげますから、そう言いながらハンカチを出そうとする鳥束の胸ぐらを掴み、僕は思い切り引き寄せた。 「うわ、わ!」 ぶつかるでしょ! 咄嗟に鳥束は手をついて身体を支えた。そうやって間近になった唇に、僕は頭を持ち上げて吸い付いた。 「待って、飲んじゃったし――!」 だからなんだ。 自分のだし、構うもんか 躊躇する鳥束を力でねじ伏せ、唇を重ねる。 『したくなったんだから、素直にキスしろ』 んもう斉木さん、相変わらず強引なんスから! そこが好きだけど、とすぐに付け足し、鳥束はキスに応えた。 「おいしくない……」 引き寄せた身体を今度は突き放し、僕は呟いた。 「しょうがないっスよ、そりゃ」 困ったお人だと微笑む顔があんまり柔らかいから、僕はまたキスしたくなった。 そしてそれ以上に、鳥束が欲しくなった。 「!…ちょっとちょっと斉木さん、そのポーズはまた…くるっスねえ」 ふはふは鼻息を荒げて、鳥束は舐めるように見回した。 右手で右足抱えて、左手で露わになった孔引っ張って広げる…そら鳥束、準備万端だぞ 『だからさっさとこい』 「もう斉木さん、ほんとエッチすぎ! 反則!」 反則でもなんでもいいから。 「は、はやく、とりつか……入れろよ…いつもみたいにしろ」 「やめてさいきさん……その顔とその格好だけでオレいっちゃいそう」 「だめだそんなの、ふざけんな、いくなら僕の中でいけよ」 「あ――あたりまえでしょうが! アンタの中、どんだけ最高だと……」 「だったら早くしろ」 「やだもう斉木さん…もう…オレもう心臓飛び散っちゃう!」 鳥束の肘に足が抱えられ、ぴったりと先端がそこにくっついて、僕の呼吸は一時的に不規則になる。期待と興奮とで引き攣ってしまったのだ。 狭い孔に潜り込もうと、熱を帯びたそれが僕の中に入ってくる。 「あ、あ――! あー!……――っ!」 拡がる感触に脳天が痺れ、一気に押し上げられた僕の身体。出さないまま絶頂を迎える。 断続的な痙攣と、震える股間のものとでそうと悟った鳥束は、どこか嬉しそうな声をもらした。 「あれれ…入れただけでいっちゃいましたか」 僕は応える余裕もなく、ただ荒い息を繰り返すばかりだった。ああこれすごいな…鳥束ので中が一杯になってるのがわかる。わかる事に、どんどんと興奮が募っていった。今いったばかりなのに、次の絶頂が待ち遠しくてたまらない。 「斉木さんてばエロすぎ……ねえ、奥の方がオレのきゅうきゅう締め付けてんだけど、わかります?」 わかる……うるさい馬鹿。 「こうするとわかります?」 鳥束は覆いかぶさると、より深く腰を突き入れた。 「うっ、ん! かはっ……あぁ!」 「ねえ、ほらこんなに、アンタの奥、オレの事締め付けてくんの……」 「や、ぅ、うぁ……ああぁっ! ひぃ、あ、いい!」 鳥束が奥を抉る動きを繰り返す。自分の意思で締め付けているのではないが、収縮しているのはわかる。それをこじ開けるようにして先端で擦られ、むず痒いような快感に僕は何度も善がり声をもらした。 何度も何度も、何度も単調な動きで孔の中を擦ってから、鳥束はぐぐっと深くまで腰を送り込み、ぴったりくっつけたところで動きを止めた。 「うぅ、んん! それ、あぁ! い、あぁ!」 一杯まで広げられた孔と、奥の方が、たまらなくむず痒い。じっとしていられないくらい。じたばたとあがき、僕は自ら押し付けるようにして腰を揺すった。 「あー、それきもちいいっスよさいきさん……」 どこかうっとりした様子で鳥束が呟く。脳内も、快感に染まった思考を駄々洩れに僕を包み込んでくる。 喜ばれると、僕だって嬉しい。あまりに強烈な快感に身体がびくついて思うように動けないが、それでも懸命に腰を振って鳥束に与える。 「ああさいこう……じゃあ、お返しっス」 にやりと笑うと、鳥束は本格的に僕を責め始めた。 肉体的な快楽もそうだし、僕に流れ込んでくる思考までも、僕をとろけさせる。 斉木さんかわいい、大好き、そればかり壊れたレコードみたいに繰り返す鳥束に、身も心もドロドロに溶けていくのがわかる。 鳥束の頭の中は、どこをさらってももう僕の事ばかり。 そして僕の方もそんな鳥束に侵食されて、鳥束の事しか考えられなくなる。 くそ、くそ…好きだ、好き。僕だって好きだ。 どうしようもない変態でろくでなしの癖に、こんなにも僕を。僕を。 「ねぇさいきさん…あー…いきそう、出そう……出していい?」 「うっ…あ、とりつか……」 低くかすれた囁き声が、鼓膜を犯す。それだけで全身が震えてしまって、直接もたらされる快感と相まって僕の方がいきそうだった。 だって仕方ないだろ、この声反則だ。そんな声出すなんて汚いぞ。いつもは軽薄で上辺ばっかりなのに、そんな真剣な声出されたらいくら僕でも頭がおかしくなる。 揺さぶられる動きに逆らって僕は頷き、ぐっと目を凝らした。 欲望で一杯になった目付きが僕を見据えてくる。 いいから、もう僕もいく…多分もういってる。身体が昂り過ぎて、針が振り切れているのがわかるのにわからない。でもいいから、お前も早くいけよ、僕の中に出せ。 早く、早く。 「斉木さん――出るよっ!」 がつがつと乱暴に腰を打ち付け、最後にひと押し突き込んで動きを止め、鳥束は欲望を解放した。最奥にぶちまけられたおびただしい量の熱いものに、全身がびくびくっと引き攣った。 「く、あ……さいきさん――!」 「あ、ぐ……んんっ、あひ、ひぃ……とりつか!」 腿を掴んでいる鳥束の指に力がこもり、ぎゅっと爪が食い込んできた。そんなの大して痛くないけども、それほどまでに僕に溺れているのだって思ったらどうしてか胸が苦しくなって、無性に泣きたくなった。その弾みで、僕も絶頂に達した。 僕はぼう然と天井を見つめたまま、浅い呼吸を繰り消した。 存分に出し切り満足したのか、鳥束がゆっくりと腰を引く。 「……んっ」 ずるずると抜けていく感触に思わず声がもれる。そんな僕を宥めるように鳥束は小さく笑いそっと頬にキスをした。 「ね、どうして今日はこんなにエッチでエロくて積極的なんです?」 『しらん…わからない……』 「わからなくはないでしょ、斉木さん。なんかあったの?」 『なにもない…けど』 「うん、けど?」 続きを待って真剣な顔で耳を傾ける鳥束。もう一度『なにもない』で押し通してもよかったのに、僕は続きを伝えた。 お前が、僕の事を見て、僕の名前を呼んで、僕に触って、それで……それが、すごく、幸せに感じるから―― ――もっと欲しくなった そこまで告げると、予想通り、鳥束の脳内がえらいことになった。 ぬうぅー……ああぁ神様仏様斉木様ー! オレこんな幸せでいいんスか!? いいんスか! いいんスね――!! 実際に叫び出す事はしなかったが、脳内は大混乱の大洪水だった。せっかく今の今まで心地良い余韻に浸っていたのにぶち壊しだ。あまりの大絶叫に頭がくらくらする。 そして目眩がしてるのは鳥束も同様だった。 全身全霊で歓喜した事で、脳がパンクしそうになっていた。 いやお前、そこまではしゃがなくても。 引くし、済まんかったとも思うし、僕も僕で大変だった。 「はぁ…はぁ、はぁ……ふぅ。木さん、まだまだ離しませんよ」 ようやく目眩から回復した鳥束が、間抜け面にニヤケを足して再び僕に覆いかぶさってきた。 「ずーっと見つめて名前呼んであげますから、アンタもオレの事、ずーっと見ていてくださいね」 『……あたりまえだろ――』 「――鳥束」 「おぁ……!」 またも強烈な目眩に見舞われる鳥束。 コロコロ変わる表情に少し呆れ、少し笑って、僕は額に手を伸ばした。早く帰ってこい、馬鹿。 はっと我に返り、鳥束はその手をそっと握り締めた。 「ああ斉木さん…好きです」 ああ鳥束、僕も同じだよ 鳥束の首元で念珠が揺れる。 |
あれから、お伝えするのも憚られる回数やってしまった。 満足しきった時にはお互い青息吐息で、回復するのに少々時間が要った。 どうにか身体も動くようになったので、二人してのろのろとそこらに脱ぎ散らかした服を身に着ける。 ひと足先に着替えた僕は、白布の上に置かれた鳥束の数珠を一つ手に取った。 やれやれ…赤色なのに、散々だったな。 そう思って見つめていると、鳥束は別の意味でとらえたようで、こんな提案をしてきた。 「興味がおありでしたら斉木さんにもお作りしますよ。念珠」 『え……いい。ヤバい念がこめられそうで怖い』 「なんすか、ぷー、そこはちゃんとしますよ。寺生まれ信じて下さいよ」 ふん。お前に、信じられる何一つもないだろうが。 「えー、ありますよ、斉木さん一筋とかもう疑いようがないじゃないっスか」 『よく言う』 元に戻し、僕はそっとため息を吐いた。 「そろそろ昼っスね」 壁の時計を見上げて鳥束が言う。すっかり失念していた僕は、弾かれるように顔を上げた。本当かよ、本当だよ、もうすぐ昼じゃないか。 『どんだけやってたんだか』 「まあまあ。お昼どっかご馳走しますんで、それで勘弁してくださいよ」 『当たり前だ。ここに侵入した分、僕を好き勝手した分、たっぷり返してもらうからな』 「えー、侵入もエッチも、斉木さんだってノリノリだった……いっでぇ! すんませんごめんなさい!」 『デカい声出すな馬鹿』 見回りの人間はうまい事遠ざけてきたが、その叫びで不審に思われたらどうする。僕の無駄な苦労を無駄にするなよ。 「いてぇ……じゃあ斉木さんも、ゲンコツもうちょっと手加減してくださいよぉ。これ絶対すげぇたんこぶになってるよ……」 『手加減だと、ふん、一発で許してやってる時点で充分手加減してやってる』 涙ぐみながら、鳥束はせっせと殴られた個所をさすった。 「さてお昼、どうしよっかな、どこか、斉木さんが嬉しくてフワフワになっちゃうフェアやってるとこ……は」 片手で頭をさすりつつ、鳥束はスマホで探し始めた。 気になって僕も横から覗き込む。信用してない訳じゃない、コイツはもうすっかり僕の好みを熟知してるし、任せておけば安心だ。でも待ちきれなくて、今からフワフワの心地で身体が動いてしまった。 「あ、あった! ほら! このファミレスとかどっすか」 見せられた画面には、真っ赤な苺を使用したスイーツの数々で埋め尽くされていた。 ほら、さすが。 僕はどこか誇らしい気持ちで微笑んだ。 よーく熟した苺の色に、ふっと朝の占いが重なる。 じゃあ、こうしちゃいられないな。 『よし、さっさと行くぞ』 焦り気味に鳥束の手を掴む。 「いや、ちょま、着替えもうちょっとで……」 『ぐずぐずするな』 「はいはい、さーせん」 |
訪れたファミレスで僕は、極上のフワフワ時間を過ごしていた。 向かいで鳥束がその様子をにこやかに見守っている。 脳内はエロ一色が渦巻く変態ゲス野郎でまったく救えないが、ニコニコ楽しそうにしているのを見るのは嫌いじゃない。 「これだけじゃないっスよ斉木さん、このあと、ゲーム屋寄ろうと思ってるんスよ」 なんだと、そいつは最高だ。 「掘り出し物があるといいですね」 ある…ような気がする。 悪い予感ばかり的中して、僕の良い方の予感は大抵ポンコツだが、今日ばかりは神も微笑んでくれたようだ。 お陰で、大抵の人がうげっとなって放り投げるような、横目で敬遠するような素敵なクソゲーに巡り会う事が出来た。 「良かったっスねえ斉木さん」 『ああ』 上機嫌で店を出る。隣では、屈託のない笑顔の鳥束。 やれやれ、ラッキーカラーなんて…まあ、たまには占いもいいことするな。 ああそうか、いいのはコイツといるからか。 |