二夜目

 

 

 

 

 

 

 

 

 重症だと、二人は思った。

 

 

 

 ドラマや歌番組だけでは飽き足らず、コマーシャルにまで聞き苦しい声援を送る小五郎に、コナンと蘭の二人は、画面の中の沖野ヨーコに同情の視線を向けた。
 そしてほぼ同時に、小五郎の背中を冷たく見やる。
「……お父さん、あんまりうるさくするなら、テレビ消すわよ」
 夕飯もそっちのけでテレビに釘付けになる小五郎に向かって、蘭は凍て付いた声を上げた。
「わぁったよ……」
 不満そうに零しながら、渋々従う。
 相変わらずの光景にコナンはふと笑みを零した。
 ややあって、電話が鳴った。
 蘭が腰を浮かすと同時に、小五郎が受話器を取る。
 珍しい事もあるものだと眺めながら、まさかと予感が過ぎる。
「おお、ハセちゃん! どうなった?」
 小五郎が親しく話し掛ける電話の相手は、長谷川といい、度々こうして誘ってくる麻雀仲間である。
 開口一番『どうした?』ではなく『どうなった?』と訊ねたところからみて、今日も予定は入っていたようだ。珍しく自宅の電話をとったのはそういうわけかと、蘭は納得した。
「え? もちろん行くって。そーだろ? いやさぁ…」
 しばらく話し続け、上機嫌で電話を切ると、小五郎は口元ににやにやと笑みを浮かべ振り返った。
「おい、蘭……」
 父親が何か言うより早く、蘭は口を開いた。
「鍵は持って出てね。それから、あまり遅くならないように。お酒は飲み過ぎないように!」
 簡潔に、びしりと釘を刺す娘に、小五郎はもごもごと何事か呟き、最後に小さく「はい」と答えた。
 今余計な事を言ってこじらせては、非常にまずい。なにせ娘は、怒らせたらあの女に並ぶほど無敵になる。下手に逆らってはいけない。ここは、大人しく従うのが賢明というものだ。
「……ねえ、蘭姉ちゃん」
 機嫌悪そうにおかずをつつく蘭に、コナンはおっかなびっくり声をかけた。
「なあに?」
 それに対して蘭は、怒っているのは父親に対してだけと表情を切り替え、柔らかく応えた。
「あのね、宿題の算数ドリルで、解らないところがあるんだ。後で教えてもらえる?」
「…ええ、いいわよ」
 助けを求めてくる少年に、一拍あけて頷く。
 言葉の裏に隠された本当の望みは、分かっている。
「そうそう、子供は子供らしく勉強して――」
 ここぞとばかりに小五郎が割り込むが、蘭の鋭い睨みにあっては口を噤むよりなかった。
 少々殺伐としたまま、夕食が終わる。 

 

 

 

「行ってらっしゃい」
 百本ほどのトゲを含んだ言葉で送り出し、蘭は玄関の鍵を閉めた。振り返ると、夕食の後片付けを手伝うコナンと目が合った。
 顔に浮かぶ笑みは、遊びの過ぎる父親に振り回されて大変だねといたわるものであったが、この後の事を考えるとどうしても素直に受け取れず、蘭はさりげなく目を逸らした。
 心なしか頬が熱い。
「さっきの、蘭姉ちゃんがお風呂に入った後でいいからね」
 そう言って、コナンは手にした食器をキッチンに運んだ。
「……うん」
 期待している自分に気付き、恥ずかしさに顔を伏せる。それでも、腰の奥からこみ上げてくるものを止められない。蘭は幾度も目を瞬いた。

 

 

 

 部屋の扉が閉まる音に、蘭は小さく背中を震わせた。
 しばし間をあけ、ぎこちなく振り返る。そこには、想像したとおりの眼差しを向けコナンが立っていた。
 強く魅了し、気付かぬうちに心の奥底まで入り込み、隠された真実を引き上げる青い瞳が、まっすぐ見つめてくる。
 半ば無意識に、蘭は息を吐いた。
 こうして立っているだけで、昨日の全てが鮮明に思い浮かんでくる。
 恥ずかしさにすぐさま追い払っても、自分のもらした言葉や仕草は次々と甦り、羞恥に一層追い討ちをかけた。
 何より思い出したくないのは、想像さえしなかった場所を責められそこで感じてしまった事。いや、正確にはおぞましさしかなかった。最後まで続けられていたなら、嫌悪しか残らなかったはず。一番敏感な部分を同時に責められさえしなければ、こんな思いが残る事はなかったのだ。
 そう自分に言って聞かせ、蘭は納得しようとした。
 ただ一夜限りなら、それで済ませられただろう。
「……蘭姉ちゃん」
 思いがけず間近からの声に、はっと目を落とす。
 手を差し伸べるコナンを見とめ、蘭は反射的に腰を落とした。
 直後頬に軽い接吻を受け、いつの間にか強張っていた身体に気付く。
 髪を撫でる手。
「どうしたの……? 怖い顔して」
 耳元に囁く声は、いつものあどけない子供のそれではない。
 二夜目の始まりを感じ取り、蘭は小さく身震いを放った。
「コナン……君」
 目を伏せ、おずおずと呼びかける。
 応えず、コナンは彼女の着ているパジャマの襟元に手を伸ばした。
 瞬間、びくんと身体が跳ねる。
 ボタンに向けた目をすっと上げ、コナンは軽く口端を緩めた。
 わずかに潤んだ瞳でそれを受け止め、蘭はぎこちなく目を逸らした。
「………」
 一つ、また一つとボタンを外す少年に、何事か訴える眼差しで見やる。
 受け止めて尚手を止めない彼に、蘭は小さく呟いた。
「…どうしても……するの?」
 最後のボタンを外すと同時に投げかけられた言葉に、コナンは静かに聞き返した。
「なにを?」
 分からない振りを装って聞き返すが、戸惑い上目遣いに見つめてくる蘭に思わず喉が震える。
 慌てて飲み込み、コナンはパジャマを脱がせた。
 知っていてとぼけるコナンに恨めしそうな視線を送りながら、蘭は素直に従った。
 ついに上下とも下着だけの姿になる。
 辛うじて隠れているそこは、既に期待の熱に疼き与えられるのを今か今かと待ち望んでいた。
 身体だけではなく、自分の気持ちも同じだが、昨日コナンが言った言葉を思い出すたび、逃げ出したい衝動にかられる。
 それは抵抗という形で二度三度表れた。
 コナンに促されベッドに横たわるが、手首の拘束を願って両手を上げる時、自分でも驚くほど身体が動かないのだ。怯えて縮こまる腕をどうにか伸ばし、蘭はおずおずとコナンを見やった。
 変化に気付いているのかいないのか、三度目になる帯での拘束を淀みなく進めていた。
 二重に巻かれた帯が、一旦結ばれる。
 ぎゅっと手首を締め付ける感触に、腹の底がぞくっとざわめいた。首筋にまで這い上がってきた淡い痺れに、無意識に震えを放つ。
 このまま身を任せてしまおうか――蘭は心の中で首を振った。
 相反する思考がせめぎあう。
 今なら、まだやめにする事もできる。
 彼は、本当に無理な事は強いたりしない。いつもぎりぎりを見極め、その上で苛めてくる。だから安心して任せていられる。
 そんな彼なのだから、本当に嫌だと訴えればやめてくれる。
 嫌な事を強いたりしないのだから。
 巻き付けた帯の端をしっかりと握らせる頭上のコナンに頭を反らせ、蘭は口を開いた。
「コナン……君」
 声が震える。萎えそうになる気持ちを奮い立たせ、蘭は息を飲み込んだ。
 コナンは顔の傍に移動すると、追いかけてくる視線をまっすぐ見つめ聞き返した。
「なあに、蘭姉ちゃん」
 忙しなく繰り返す瞬きの合間に左右を見やり、ためらいがちに蘭は言った。
「い……い、いやなの」
「……なにが?」
 そう聞かれるのは予測していた。一旦口を噤み、思い切って言葉を綴る。
「おっ……お尻…触られるの」
「嫌なの?」
 蘭は縋る眼差しで何度も頷いた。
「でも、昨日言ったでしょ。好きになるまで毎日してあげるって」
 その答えも、わかっていた。まっすぐ見下ろし、あどけなく綴るコナンに小さく首を振る。
「お願い……コナン君」
 もう一度訴える。
 コナンは応えず、口元にただ笑みを浮かべ蘭を見下ろしていた。
「コナン……君」
 震える声で懇願する唇をそっと塞ぎ、強張った舌に自分のそれを絡める。
「んん…っ」
 喉の奥で抗議の声を上げ、逃げようとする彼女の顎をしっかり掴むと、コナンは更に深く舌を貪った。
 ゆっくり、ゆっくり、彼女の形を覚え込むようにねっとりと舌を絡ませ、強く吸い付く。
「んふ…、ふ……はんっ」
 コナンの小さな舌が蠢くたび、蘭は切れ切れに息をもらした。唇から流し込まれる快感を拒んで顔を背けようにも、押さえ込まれ叶わない。
 満足に息も継げず、唇が離れるわずかな合間に喉を鳴らす。
「あ……ぅん……」
 散々貪りまだ足りないと唇を舐めながら、コナンは首筋に指を這わせた。耳に、うなじに、愛しさを込めて愛撫を繰り返す。
「はっ…あぁ……、んん」
 触れる箇所にぞくりと過ぎるゆるやかな疼きに、蘭は小刻みに身をわななかせた。こらえても、引き攣れた吐息がとめどなくもれる。
「あぁ……コナン君」
 不自由な身体をくねらせ、蘭は甘く名を呼んだ。愛撫の手を追って首筋におりた唇をもっととねだり、そんな自分に頬を染めながら、浸る。
「あぁ…ん……」
 徐々に高まっていく気持ちが、昨日の抵抗をじわじわと薄れさせていく。思考はほつれ、何が嫌だったのか忘れかけてしまうほど手が、唇が、気持ちいい。
「コナン君……」
 潤んだ瞳でぼんやりと天井を見上げ、蘭はうわ言のように名を呼んだ。
 しっとりと濡れた声が鼓膜を打つ度背筋を疼きが走り、目眩に見舞われる。コナンは幾度も瞬きを繰り返し、愛撫に耽った。
 誘うように微かに震える、白い布に覆われた丸いふくらみに向かって、そろそろと手を伸ばす。
「ふ…、う……」
 うっすらと浮き上がった細い骨を一つひとつ数えながら這い進むと、蘭の口から切なげな吐息がもれた。
「あ、あぁ……」
 期待してか、心持ち差し出された乳房をすくうように揉みしだき、更に声を上げさせる。
「んんん……!」
 しなやかに背を反らし、蘭は喉の奥で小さく鳴いた。
 貪欲に疼きを放つ乳房を柔らかく揺さぶられる度、肌の表面を妖しげな愉悦が走り、身体が震える。
 じっとしていられずに、半ば無意識に膝をこすり合わせる。
 早く……もっと触って
 手に唇に高められる身体を緩慢にくねらせ、蘭は無言でねだった。
 なのに、欲しくてたまらない箇所を避けるように手は動いた。
 何度も登りかけては寸前で引き返す指に喉の奥で焦れ、蘭は大きく喘いだ。
 身体の中心に沿って口付けを繰り返すコナンに、きつく目を瞑る。
「んっ……!」
 もう一方の手に脇腹をなぞられ、不意の感触に蘭は高い声をもらした。思わず手で庇おうとしたが、そこであらためて拘束されている自分を思い出しはっと目を見開く。
「ひ、ぁっ……」
 たちまち目も眩むような愉悦が生じ、全身を包み込む。唐突に鋭敏になった肌に、コナンの舌がねっとりと這う。
 身体の中心に沿って口付けを繰り返し、時折奥から舌を出してそろりと舐めては、音を立てて吸い付く。
 片手は、決して急く事無く乳房を揉み上げ、乳首だけを避けて蠢いている。そしてもう一方の手は、触れるか触れないかの絶妙な接触でもって脇腹をくすぐってくる。
「はっ…ん……あぁ、い、や……コナン…君……」
 引き攣れた悲鳴を上げて、蘭は仰け反った。
 嫌と言いながら、緩やかに身じろぐ様は甘えているようにしか見えない。
 喉の奥で密かに笑みをもらし、コナンは布越しに乳房に接吻した。
「くぅ…ん」
 曖昧なキスの感触に蘭は鼻にかかった声を上げ、両手に力を込めた。
 いっそ自分で慰めてしまいたい。
 拘束され自由に動けない我が身を恨み、欲しいところにくれず焦らすばかりのコナンを恨む。
 抱える矛盾に酔い痴れながら。
「もっ……お願い」
 熱い吐息の合間に言葉を綴り、蘭は濡れた目を向けた。
「……なに?」
 そこでようやくコナンは顔を上げた。眦に涙を滲ませ、頬を赤く染めて見つめてくる蘭に小さく笑みを浮かべる。
 強い瞳で見据えられ、何も言えず蘭は瞬きを繰り返した。強く弱く、痛いほどの疼きが肌の下を這い回っている。今にも口から飛び出してしまいそうな欲望を辛うじて飲み込み、蘭は目を伏せた。
 直後、睫毛が震える。
 布越しにコナンの指が乳首をかすめた。
「!…」
 わざとタイミングをずらして触れてくる手に、ひっと息を飲む。けれど、本当に欲しいのは布越しの曖昧なものではなく、目も眩むほどの強い快感。
 それを知ってあえて緩慢に撫でるだけのコナンを、蘭は眉根を寄せたきつい眼差しで見やった。何か言いたげに唇を震わせ、瞬きを繰り返す。
 コナンはふと笑みをもらすと、口を開いた。
「すごく欲しいって……」
 ふくらみを覆い隠す布の縁を指でなぞり、そのまま肩紐までたどる。続く言葉を予測して唇を噛む蘭に笑みを深め、今度は肩紐の下を通って指を戻す。
「……顔してる」
 思ったとおりの言葉を投げかけられ、蘭はきつく目を閉じた。けれど、鎖骨を撫で乳房に這い向かう指を無視する事は出来ず、耐え切れなくなって目を開けると同時に指が布の下で乳首を弾いた。
「っ……!」
 待ち焦がれた最初の一撃は余りにも強烈で、蘭は声も出せずびくっと身体を弾ませた。ぞっとするほどの愉悦に息が途切れる。
 間を置かずコナンは、ぷっくりと尖ったそれを二本の指で摘み柔らかく捏ね回した。
「ひっ…いや……いやぁ! あ、あ、あぁ……!」
 スポーツブラの下で休みなく動き続ける愛撫の手に、蘭はしとどに声をもらした。
 おかしくなってしまったのではないかと思えるほど乱れ、シーツにこすりつけるようにして腰をくねらせ喘ぐ。
「昨日は思い切り声が出せなくて辛かったでしょ。今日は好きなだけ声を上げていいからね」
 いじくればいじくるだけ高い悲鳴をもらす蘭にうっすらと笑みを浮かべ、尚もコナンは愛撫を続けた。
「やぁ…ん……コナン君……、だ、めぇ……!」
 がくがくと腰を弾ませ、蘭は鼻にかかった甘い声を零した。度を越えた快感に耐え切れず身を捩って逃れようとするが、拘束された両手のせいで動きは制限され叶わない。
 その間も小さな指は淀みなく動き続け、根元から先端に向かって摘み上げるようにこすったかと思えば、押し潰され、そのままくにくにと捏ねられる。
「あぁああ……なん、で……いやあぁ……あぁっ!」
 摘んだ乳首ごと大きく揉みしだかれ、蘭は続けざまに悲鳴を上げた。
「もっ…だめぇ……お願い…コナン君お願い……下、も触って……」
 はっきりねだる自分の言葉がたまらなく恥ずかしかったが、それ以上に身体は昂ぶって、一秒すらも我慢できなくなっていた。膝をこすり合わせ慰めるが、それだけではもうごまかしきれない。
「おねがい……!」
「じゃあ、お尻もいじっていい?」
「そっ……!」
 思い出した蘭が戸惑うより先にコナンは乳房に顔を埋めた。布をずらし、顔を覗かせた乳首に吸い付き舐める。
「やっ…、いやああぁ!」
 ねっとり熱い粘膜に包まれ、指では得られない快感に思わず涙が滲んだ。
「ひ、い……ああぁぁぁっ……!」
 泣きながら悲鳴を上げ、蘭は大きく仰け反った。
 頭上の甘い声を聞きながら、コナンは口中の小さな突起に舌を絡め転がした。女の忙しない息遣いに嗜虐心が更に高まる。
 軽く歯を当て、そのまま舌先で突付き、唇で強く吸う。
「ひゃっ…ああぁん……あ、あ、あぁ、あ……」
 思うまま涙に濡れた声を迸らせる蘭にうっとりと目を細め、気付けば自らも同じだけ息を乱れさせていた。思わず苦笑いを浮かべる。
「お願い……おねがいコナン君…もう、これ以上……我慢できな……」
 しゃくり上げ哀願する蘭にゆっくりと顔を上げ、コナンは同じ問いを繰り返した。
「……じゃあ、お尻もいじっていいんだね?」
 戸惑い小さく息を飲む音が耳に届いた。
 見れば、紅潮した頬に一筋二筋涙が零れている。コナンはハンカチを取り出すと、濡れた睫毛からゆっくり涙を拭ってやった。
「ん………」
 蘭は小さく胸を喘がせながら大人しく身を委ね、ついに頷いた。
 コナンは返事を受け取ると、蘭の両手を拘束から解放した。意図が読めず、おどおどと見上げてくる眼差しに無言で笑いかけ、同じ姿勢を強いられた腕を優しく撫でる。
 いたわるように撫でさする手に促され、蘭はぎこちなく腕を抱き寄せた。
「蘭姉ちゃん……どこが我慢できないの?」
 顔の傍に手をつき、静かに見下ろしてくるコナンに恐る恐る目を上げる。
 一瞬だけ目を合わせ、蘭はすぐさま顔を背けた。
 どうしても口に出来ない言葉だと知っているのに、こうして何度も意地悪く問い詰めてくる。
 蘭は小さく唇を噛んだ。
 答えられない自分、そして焼け付くような沈黙が、息も出来ないほどの官能に変わる。
「口で言えないなら、せめてその場所を教えて」
 コナンの言葉に、蘭はあてもなくさまよわせていた視線を彼に戻した。
「どう、いう……」
 おどおどと訊ねてくる蘭に無邪気な笑みを向ける。
「口で言う以外にもあるでしょ。例えば指で差すとか……一目で分かる格好になるとか」
 そして、一転して低い声音で何を望んでいるのか告げる。
 ようやく意図を理解し、驚きに強張る蘭の隙を突いてショーツを脱がせると、コナンは手を取り半ば強引に自分で足を抱える格好を取らせた。
「…いや……」
 自らの格好に、一度は乾いた涙がまたも込み上げてくる。けれどそれは羞恥だけのものではなく、こんな浅ましい姿で彼を誘う事に酔い痴れているからでもあった。
 強制と自発の境があやふやになる。
 好きにしていいと秘所を晒し、ねだる自分に蘭は喉をひくつかせた。
「そこが、我慢できないの?」
「……う、ん」
 嘲笑を含んだコナンの声に、とろんと潤んだ瞳で頷く。ただこうしているだけで、身体がとろけてしまいそうになる。疼いて疼いて、もしこれで指の一本も触れられたら、どうなってしまうかわからない。
「コナン……君」
 今にもはちきれそうな欲望に胸を喘がせ、蘭は熱くねだった。
「さ……さわって」
 間近の瞳を見上げ続ける。
 まだ少し怯えの残る頬に口付けると、コナンは開いた足の間に身体を割り込ませ、膝立ちになって蘭を見つめた。出来るなら己のものできつく抱きたいと、叶わない欲望が腰を噛む。苦笑いで吐き捨て、目を落とす。
 必要以上に力み震える蘭の指に軽く吸い付き、そのまま内股を唇でくすぐりながら這い下りる。
「う…、あぁ……」
 じれったい感触に蘭はため息をもらした。目を閉じると、今まで幾度となく与えられた指の感触が生々しく甦ってくる。羞恥に目を開くと同時に、現実の指がそこに触れてきた。
「っ……!」
 一際大きく身を弾ませ、蘭はひゅうっと喉を鳴らした。
 うっすらと唇をほころばせ、奥まで触って欲しいと蜜を滴らせ誘うそこに、コナンはじわじわと指を這わせた。充血しぷっくりと勃ち上がった柔芽をわざと避け、右、左と指先で何度もしつこくなぞる。
「くぅ…うぁあ……はっ…んん」
 またしても焦らされる辛さに、蘭はいやいやと首を振りたてた。半ば無意識に腰をくねらせ愛撫をせがむ。
 欲しがっていた刺激に身体は歓喜し、溢れんばかりに蜜を滴らせた。
 ねっとりと妖しく光り濡れそぼった花弁の奥へわずかに指を埋め、上下にこする。
「ん、は……」
 ぬちゅくちゅと響く猥雑な水音に蘭は喉を反らせた。不安定な脚がゆらゆらと揺れる。
「いやっ……コナン君――も…と……!」
 ついに耐え切れず蘭が叫ぶと同時に、コナンは顔を寄せ花芽を唇で挟んだ。
 ひっと息を飲む音が耳に届く。そこからはもう焦らす事はせず、欲しがる以上に柔芽を責め上げ快感を与えた。
「ひゃっ……あはぁああぁぁ……」
 一転して愛撫は激しさを増し、蘭は我を忘れ嬌声を迸らせた。呼吸が追いつかず、何度も目が眩みかける。
「ああぁ…すごい、の……ふぁあ…やあぁぁ……!」
 よだれを零さんばかりに鳴き、ひくひくと喉を震わせる。
 すっかり緩み蠢くそこに、コナンは上向きに指を埋めた。ねっとりと絡み付く熱い蜜の感触を愉しみながら、ねじるように捏ね回す。貪欲に食い付き更に奥へ飲み込もうとする内襞を抉り、揺さぶる。
「あぁ、あ、あ…ああぁ――ん、くぅ……」
 内部で奔放に動き回る細い異物に、蘭は歓びの声を上げた。意識して締め付けると、呼応して奥からどっと蜜が溢れ伝って流れ落ちた。
 ぞっとする感触に思わず身震いを放つ。
 はちきれんばかりの歓喜を表すようにとめどなく溢れる蜜をもう片方の手にも塗り付け、コナンは様子を伺いながらそっと下にずらした。
 気付かれぬよう指を二本に増やし内奥を穿ちながら、慎ましく閉じられた窄まりに指先を押し当てる。
「あ……いやっ――!」
 案の定拒絶の声を上げる蘭に構わず、ゆっくり円を描いて揉みしだく。しかし思った以上に噤んだ口はかたく、侵入を許してくれそうにない。前回のように不意をつく事も出来たが、今回はもっと愉しみたいのだ。
 二人で。
「もっと力を抜いて」
 縋るような眼差しで見つめてくる蘭に優しく言って聞かせ、コナンは静かに撫で回した。これ以上余計な力が入らぬよう、一旦前の手を止める。
「う、う……ん」
 ぎくしゃくと蘭は頷き、しかしどう緩めればいいかどうしてもわからず、今にも泣きそうな顔でコナンに助けを求めた。
「ご…ごめんなさい……」
 か細い声で呟く蘭に首を振り、コナンは身を屈めた。
「謝らなくていいよ。大丈夫、蘭姉ちゃんはそのままにしてて」
 硬く閉じた小さな口をなだめるように二本の指でゆるゆると揉みながら、花唇をそっと舌で舐め上げる。
「気持ちいいほうだけ感じて、身体を楽にして」
 拒んで震える窄まりに時折指を強く押し当て、しかし決して強引に入れる事はせず、少しずつ少しずつ慣らしていく。
「ん、んっ……」
 コナンの言うとおり身体から力を抜いても、いざ指を押し込まれそうになると反射的に力んでしまい、紛らす為の口淫も感じなくなってしまう。撫でられるだけでもひどいおぞ気がするのに、指を受け入れるなんてとても出来ないと蘭は唇を噛んだ。
「う、ん……んん……」
 汚い、怖い、怖い…… 
 熱くぬめる舌に舐められ快感はあるのに、それとはくっきりと分かれた嫌悪感がずっと傍に寄り添っている。
 それでも執拗に揉み込まれている内にやがて感覚は麻痺していって、前後の刺激が混ざり溶け合っていくのを蘭は感じた。
「あ…あ、あっ……やだ……コナン君……やっ……」
 口では拒絶の言葉を吐くが、背筋を駆け抜けるぞくぞくするような感覚はもう悪寒だけではなかった。
 コナンにもそれははっきり目に見える変化で伝わっていた。お尻を弄られ一旦は怯えて縮こまった花唇が再び熱を帯びてふっくらと腫れ上がり、奥からは蜜を湧き上がらせ、頂点の突起も充血しきって尖ってきている。
 頃合を見計らい、コナンはそろそろと指を進めた。
「あっ……!」
 声が上がる。一瞬抵抗はあったが、すぐに力は緩み指を受け入れた。逸る心を抑え、慎重に奥を目指す。
「あ、あ……」
「大丈夫、そのまま力を抜いてて」
 少しずつ押しては引き、また押し込み、じっくり慣らしながらより深く埋めていく。
 蘭はぴくりとも動かず、ただ小さく震えていた。震えながら、びくびくと身体を弛緩させる。
 細い異物が、入ってくる。
 どこに、考えると、それだけで気が遠くなりかけた。
 恐怖が少しでも和らぐよう、コナンは足の付け根や下腹に幾度も口付けを繰り返した。
「う…くっ……」
 ついに根元まで指が埋まる。
 蘭は切れ切れに息を吐き、短い呼吸に胸を喘がせた。
 お尻に入り込んだ指から、じわじわとむず痒さがこみ上げてくる。
「いやぁっ……!」
 それが紛れもなく快感だと自覚した途端、こらえきれない羞恥が凄まじい勢いで襲い掛かった。
「……嫌じゃないでしょ」
 髪を振り立て拒む蘭に、コナンは静かに言った。
「いや……!」
「嘘」
 すかさず返し、指をゆっくりと引き抜く。驚いて反射的に内部が締め付け、それに呼応するように花弁の奥から新たな蜜がじわりと滲んだ。
 指先まで引き、また根元までゆっくり埋める。
 焦らず、ゆっくり、ゆっくりと抜き差しを続ける。
「あ…あ…やめて……、だめ…だめなの……」
「何がダメなの?」
 顔を上げて蘭を見やり、薄く笑って聞き返す。
「いやぁ…コナン君……や、だめぇ……」
 涙に濡れた声はしっとりと響き、甘く鼓膜を犯した。
 弱い器官を傷付けないよう慎重に指を折り曲げ、優しくこすりながら抽送を繰り返す。
 執拗に続けられる抜き差しに蘭は腰を揺すって身悶えた。
「やぁ…んん……、あ…ああぁ……だめぇ…お尻……、溶けちゃう……うぅん……いや」
 とめどなくもれる喘ぎに口端を持ち上げ、コナンは言った。
「……そんなに嫌なら、どうして逃げないの?」
「っ………」
 静かな声に蘭は口を引き結んだ。
「本当は好きなんでしょ?」
 手を動かしながら言う。指を飲み込みひくひくと蠢く小さな口を見やり、コナンは目を上げた。
 蘭は眉根を寄せ、何も言えずに唇を震わせていた。
「……恥ずかしい」
 やがて小さく呟く。
「嫌いじゃないんでしょ?」
 繰り返すコナンに唇を噛む。
 無言。
「……蘭姉ちゃん」
 呼びかける声に、散々ためらった末おずおずと頷く。
 返事に、コナンは顔をほころばせた。
「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげる」
 言葉に、蘭ははっと目を開いた。
「蘭姉ちゃんが気持ち良さそうにしてるの見るの、大好きだよ」
 好きという一言が、胸に熱く広がっていく。
「わたしも……すき……」
 涙でぼやける視界にコナンを映し、蘭は囁いた。
「すき……コナン……君」
 間にもう一つ名前を挟み好きと繰り返す蘭が、たまらなく愛しい。溢れていく、満たされる。歯を食いしばって飲み込んだ。
「だいすき…だよ――」
 声にせず蘭と綴り、コナンは白く引き締まった腹に唇を寄せた。
 音を立てて接吻する。
「!…」
 きゅっと走る緊張に笑みをもらし、止めていた指の動きを再開する。
 呼吸するように収縮を繰り返す後孔を指で撫で上げると、たちまち蘭の口から甘く切ない喘ぎがしとどに零れた。
 更にコナンは、三本の指をまとめて花唇へと突き入れ、抉るように強く押し上げた。
「ひぅっ!」
 重苦しい圧迫に高く鳴き、蘭はびくんと背を反らせた。後ろの指とは正反対に激しく動き回り翻弄する異物に、腰が抜けてしまいそうになる。
「あぁ……っ」
 軽い絶頂に見舞われ、一瞬気が遠退く。
 構わずに蠢きぐちゅっぐちゅっと粘ついた音を上げる三本の指が、沈みかけた意識を強引に引き戻す。
「っ……!」
 喉の奥でうめき、蘭はぐんと背を反らせた。
 指だけでなく、唇までもが花芽を責めてくる。
「ああぁ……いやっ、ぁ……ひあ……」
 蘭はかすれた悲鳴を切れ切れに上げながら、抱える脚にきつく指を食い込ませ、激しい愛撫に身悶えた。
 力強く押し付けられる舌が柔芽を左右に転がし、絶え間なく刺激を送り続ける。
 受け止めきれない強い快感が幾度も脳天を直撃し、その度に蘭は涙まじりの叫びを上げて応えた。
 蜜を絡ませかき乱す前の指を探るように、薄い肉壁を隔てて後ろの指が蠢く。なかでこすれ合う感触は背筋を甘く痺れさせ、たまらずに蘭はひっひっと喘いだ。
「いっ…いや、いや……それ……! あはぁ…ぁ……やめて……!」
 猛烈な勢いで迫り上がってくる度を越えた快感に涙を零す。
「コナン君……もうだめ…もうやめてぇ……! もう…おかしくなっちゃうぅ……ああぁぁ――」
 自分の意思で何度もそこを締め付け前後の指に噛み付きながら、蘭は激しく喘いだ。
 我を忘れ、緩んだ表情で甘えた声を出す蘭に、自然愛撫の手が早まる。ねじりながら、前後の指を交互に動かし抜き差しを繰り返す。
「いやあぁ……コナン君――!」
 いってしまえと、力強く舌を奥へ進め、何度も花唇を甘食みする。
「あふぅ…あ、は……んっ…んんんっ……!」
 不意に抑えた低いうめきをもらし、蘭は四肢を強張らせた。
 間近に絶頂が迫ったせいと知り、コナンは前に埋めた指を更に激しく揺すり立てた。拳を打ちつけるようにして突き上げ、複雑に蠢く最奥を抉る。
「だめ…、いくっ……い、くぅ…出ちゃう……! はなれ――ああぁっ!」
 透明な雫を吹き上げ、蘭はびくんびくんと全身を波打たせた。
 迸る熱い雫が頬をかすめる。
「いひぃいっ……もっと…、奥に……!」
 悲鳴混じりに叫ぶ女に従い、コナンは目一杯突き入れた。
「っ………!」
 超えなく叫び、指を挟み込んだまま、蘭は横向きになり身体を丸めた。
 折れんばかりの締め付けに、鈍い痛みが走る。奥歯を噛み締めて耐え、コナンは波が引くのを待った。
「うっ…はぁ……はっ……はぁ……」
 乱れた息に肩を弾ませ、蘭は何度も目を瞬いた。
 ひくひくと不規則にわななく蘭の下肢に顔を近付けると、コナンはいたわるようにキスを繰り返した。
 うっすらと汗ばんだ肌に唇を這わせ、脇腹をくすぐり、腰のくびれを越えて双丘へ。鍛えられ引き締まったそこは、独特の弾力で唇を迎えた。
「あ、ん……」
 乳房とは違った白い肌が、接吻を受け恥ずかしそうにふるりと震える。
「それ……きもちいい」
 強張った身体から徐々に力を抜きながら、蘭はうっとりと呟いた。薄く目を開き、ぼやける視界にコナンを映す。
 ふと視線に気付いて、コナンは顔を上げた。濡れた睫毛を震わせ、じっと見つめている蘭と目が合う。
 二人は同時に、淡く笑みを浮かべた。
 すこし気だるい身体を丸めてコナンに近付くと、蘭はゆっくりと顔を寄せた。
 唇が重なる。
 触れるだけのキスの合間に、蘭は小さく笑いながら好きと綴った。
 コナンは答える代わりにもう一度キスをした。
 頬に、鼻先に、瞼に。
 優しく降る口付けに目を閉じ、蘭はそっとため息をもらした。
 とろけるような時間が、ゆったりと過ぎていく。
 時計だけがコチコチと音を刻む中、二人はしばし余韻に浸っていた。

 もうすぐ二夜目が終わる。

 

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