マニキュア

 

 

 

 

 

 

 

 

 下の絵に、りんごはいくつありますか
「………」
 数が同じものを、それぞれ線で結びなさい
「………」
 計算してみましょう
「………はあぁ」
 大げさなため息をつき、コナンはうなだれた。
 隣では、始まったばかりの沖野ヨーコ主演の二時間ドラマに向かって、小五郎がうるさいほどの声援を送っている。
 うなだれたまま目だけを上げて、コナンは恨めしそうに睨み付けた。

 ……このオヤジはよー

 力の抜けた手から、シャーペンがぽとりと落ちて転がる。
 ようやく、宿題の「さんすうドリル」が終わった
 コナンはばったりと仰向けに倒れると、やってられるか、とばかりに目を閉じた。
 漢字にカナが振ってあるのはいい。文字が大きいのも我慢しよう。けれど、何より許せないのが、リンゴや鳥といった『絵』の類だ。そっけなく足し算引き算の計算問題だけだったら、こんなに腹も立たなかっただろう。

 しゃーねーよな…小学一年生向けなんだからよ……

 自嘲気味に笑い、ふうと大きなため息をつく。
 オレ、そのうちバカになりそう……
「ふぁーあ…」
 目一杯伸びをして下らない考えを頭から追い払い、何か冷たいものでも飲むかと起き上がるのとほぼ同時に、蘭の部屋から、声だか音のようなものが聞こえてきた。
 はっと振り返る。
 空耳かと思ったが気になって、コナンはそろりそろりと近付いた。
「どうかしたの?」
 ノックをして呼びかける。
「あ…コナン君、助けて」
 ドア越しに聞こえてきた切羽詰った蘭の声に、コナンは慌てて部屋に飛び込んだ。
「!…」
 目に飛び込んだ光景に、コナンは、笑うべきか驚くべきか、はたまた呆れるべきか迷った。
 机の上に山と詰まれた教科書やノート、参考書や雑誌の類がみな斜めに傾き崩れて、半分ほどが床に散らばっている。
 とばっちりを食った机の上の細々とした物はすべて椅子の周りに落ちて散らばり転がり、蘭が押さえ込んで必死に食い止めている本の山も、いつ崩れてもおかしくないほど危ういバランスを保っていた。
「……手を貸してくれる?」
 気まずさを照れ笑いでごまかし、蘭が言う。
「…いいよ」
 とうとうこらえきれなくなって、コナンは小さくふきだした。
「笑わないでよ、もう」
 少し拗ねた様子で頬を膨らます蘭に、わざとくっくっと笑いかける。
「片付けでもしてたの?」
 押さえ付ける蘭の腕から何冊ずつか本を抜き取り横に積み上げながら、コナンは尋ねた。
「うん、月曜日の準備をしていたらちょっと気になっちゃって」
 明日休みだから、つい
「………」
 つい、ね。
 説明する蘭に軽く肩を竦める。
 ひと段落着いた机の上は蘭に任せ、コナンは机の周りに取り掛かった。
 卓上カレンダーに定規にシャーペンボールペン、カッターと順に拾い、机の上にあった物で唯一落下を免れた元湯飲みのペンたてに戻す。
 嫌がらせかはたまた偶然か、まっすぐこちらを向いた『大バカ推理之介』の文字が両目にぐさりと突き刺さる。
 内心、苦笑い。
 と、ペンたての向こうにちらりと見えた懐かしいものに、コナンは片付けの手伝いも忘れて手を伸ばした。
「あ、それ…」
 本や教科書をそれぞれの位置にしまっていた蘭が声を上げる。
 コナンの手にある丸い小瓶…淡く柔らかなピンクのマニキュアに、二人の視線が重なる。

 

 これを買ったのはいつだったか
 学校帰りに二人で寄ったコンビニで、いつもは興味も示さないものを珍しく熱心に見つめていたから、途端に買ってやりたくなった。

 

 それを貰ったのはいつだったか
 学校帰りに二人で寄ったコンビニで、ふと目に入った優しいピンクがあんまり綺麗だったから、いつもは気にもとめないものだけどつい手に取った。

 

 少し懐かしい思いで、二人はそれぞれに小瓶を眺めていた
「……それねえ、前に新一に買ってもらったんだ」
 そう『コナン』に言って聞かせる蘭に、コナンはゆっくりと顔を上げた。
 少しはにかんだ表情が、胸に鮮やかに迫ってくる。
「……へえー」
 そうなのかと、今始めて知ったとばかりに頷いて、コナンは手の中のマニキュアをくるくると弄んだ。
 お互いを「知っている」二人にしてみればそれはまったく不要な説明なのだが、今の自分たちは「コナン君」であり「蘭姉ちゃん」以外の何者でもない。
 たとえ二人きりでも、だ。
 それはどちらかが強要したわけではなく、どちらか一方だけの勝手な行動でもない。
 けれど。
「きれいな色だね。蘭姉ちゃんの手にぴったりだ」
 胸に過ぎる少しの苦しさを噛み殺し、コナンは机に小瓶を置いた。
「…そうね。新一にしちゃあ、まあまあのセンスかな」
 照れ隠しにぶっきらぼうな口調で蘭は言った。
「なんて……ホントはすごく気に入ってるんだ」
 けれどふっと表情を緩め、優しく続ける。
「あ、あ…今のは新一には内緒ね」
 そしてまたすぐに、慌てふためいた様子で付け足す。
 目の前でくるくると表情を変える蘭に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
 言葉のあちこちにいくつも矛盾が混じっているのに、そんな物とあっという間にかき消して些細なものにしてしまう、彼女の不思議な強引さにただただ感謝する。
「あいつ、褒めるとすぐ付け上がるから」
 少し唇を尖らせて、けれどもどこか嬉しそうに誇らしげに、蘭は目を上げて言った。
 この場には「いない」と思って好き勝手にしゃべる蘭に、文句の一つも言ってやりたい気分をぐっとこらえ横顔を見やる。
 途端に、憮然とした気持ちはすっかり消え去ってしまった。
 これ以上ないというくらい、幸せそうな顔で微笑んでいる。
 そんな顔をされると、抱きしめたくなる…いじめたくなる。
 コナンは密かに笑みを浮かべた。
 ゆっくり口を開く。
「…ねえ蘭姉ちゃん。明日、園子姉ちゃんと出かけるんだったよね」
「え、うん。十一時に駅前で待ち合わせよ」
 突然の問いかけに軽く首を傾げながら、蘭は答えた。
「これ、していったら」
 そう言ってマニキュアの小瓶を掲げるコナンに、少し驚いた顔になる。
「いいじゃない、たまには。ボクも手伝ってあげるからさ」
 口調は柔らかいのに有無を言わさぬ響きに押される形で、蘭は頷いた。

 

 

 

 

 軽く下準備をして、蘭はまず右手を机に置いた。
 折り畳みの椅子を並べて隣に座ったコナンは、差し出された手を軽く見やり、小瓶の蓋を開いた。
 手先の器用さには、結構自信があった。子供の振りをしていなければ、大抵の事はこなせる。
 とはいえ、やはり初めてのものにはそれなりに苦労もあった。
 少々の悪戦苦闘を経て、十本の指にマニキュアを三度、繰り返し塗る。
 一度目より二度目、二度目より三度目の方が、より美しく色を発した。
 家事の邪魔にならないよう短く切り揃えられた蘭の爪に、桜とはまた違った色の花が咲く。
 蘭自身、こうして爪にお洒落をするのは数えるほどしかない。
 どういった心境の変化か、新一から突然マニキュアを買って寄越されるまで、そういった方面には全くといっていいほど興味がなかったのだから。
 あの時は驚くばかりでろくにお礼も言えなかったけれど、本当はとても嬉しかった。
 新一とどこかに出かける時は、いつもつけていこうと密かにはしゃぐ自分が、おかしくなるくらい。
 なのに、一番見せたい相手はこれを買っていくらもしない内に『厄介な事件』とやらで飛び出していってしまった。
 だから、片手の指で足りるくらいしか使っていなかった。
 いつ戻るとも知れない相手からの贈り物が、いつもすぐ目の届く場所にあるのが嫌で、でも見えない場所にしまうのはもっと嫌で、見えるか見えないかの隅に追いやっていた。
 見るのも辛くさせた本人が、思い返すきっかけをくれた事に、不思議な気持ちになる。
「………」
 久しぶりに見る色のついた自分の爪を眺めながら、蘭はぼんやりと記憶を辿っていた。
 その内に、じわじわと笑みが込み上げてくる。
 無理に心の奥に押し込めていたあのはしゃいだ気持ちが、甦ってきたのだ。
「これでよし」
 マニキュアの蓋を閉め、コナンはふうと肩で息をついた。
「後は乾かすだけだね。……?…」
 見上げた顔に浮かんだ笑みに、小首を傾げる。
「あ、ううん。ありがとう、コナン君。結構大変だったでしょ」
 蘭は慌てて思い出し笑いを振り払うと、あらためて笑顔を浮かべ、礼を言った。
 小憎らしいほど無邪気な笑顔に、忘れかけていたいたずら心が瞬く間に戻ってくる。
 コナンはすっと目を細めると、椅子に乗り上げて顔を近付けた。
 驚いて少し身を引く蘭に、軽くキスをする。
「……思ったよりは」
 間近で目を見合わせ、しっかり見つめたままもう一度唇を重ねる。
「んっ……」
 小さくもれる声ごと飲み込み、竦んで動かない蘭の舌をちゅうっと吸う。
 瞬間蘭の身体がぶるりと震えて、息が乱れた。
 そっと頬に手を添えると、手のひらからしっとりとした熱が伝わってくる。
 コナンは楽しそうに笑いながら、徐々に深く貪り始めた。
「や…んん……コナン…、君」
 首筋に、快感がぞくりと這う。
 戸惑いがちに名を呼び、蘭は机から持ち上げた両手をふらふらとさまよわせた。
 まだ乾いていないマニキュアが気になって、コナンの身体を押し戻す事も出来ない。
 ひとしきり味わって、コナンはようやく顔を離した。
「だから…お礼が欲しいな」
 そう言って、うっすらと頬を赤らめた蘭の視線を下方へと誘う。
 二人の視線が、ある一点に集中する。
「!…」
 言葉の意味を理解した途端、腰の奥がずくんと疼いた。そんな自分に、ますます顔が赤くなる。
 そんな蘭をわざと上目遣いに見やりながら、コナンはパジャマの胸元に手を伸ばした。
 柔らかい生地、鮮やかなブルー。
 少し大きめの黄色いボタンに指をかけ、一つ目をゆっくりと外す。
 蘭の身体がびくんと反応する。
「マニキュアが乾くまで、じっと待ってるのも退屈でしょ」
 続けて二つ目、三つ目を外すコナンに、蘭は何か言いたげに口を開いて、閉じた。
 コナンは、困ったように宙に浮いている蘭の手を優しく机の上に戻すと、少し長い袖口を丁寧に折り返してやった。振り返り、一旦蘭の顔を見上げてから、ふっくらとした白い乳房に目を向ける。
 注がれる視線に、蘭は恥ずかしそうに目を伏せた。
 パジャマの下は、スポーツブラしかつけていない。
「………」
 自分では不恰好だと思っている胸を凝視される事に、ついに耐え切れなくなって顔を背ける。
 そんな蘭の気持ちを知ってか知らずか、コナンはおもむろに手を伸ばすと、ぐいとブラを捲し上げた。
 張りのあるたっぷりとした乳房が露わになる。
 蘭ははっと息を飲んだ。
「……蘭姉ちゃんが決めて良いんだよ」
 そう言って軽く笑うコナンの顔をちらちらとかすめ見ながら、蘭は消え入るような声で「……意地悪」と呟いた。
 わかってて……意地悪……
 淡く色付いた自分の爪に目をやり、視界の端でコナンを見つめる。しばしそのままで蘭は沈黙し、やがてかすかに「あげるわよ……」と吐息をもらした。
「蘭姉ちゃん、嫌々言ってない?」
「そ…そんなことないわよ」
「ホントに?」
「…ホントよ」
「じゃあ、どんなお礼してくれるの?」
「それは……」
 しばし視線をさまよわせ、蘭は切れ切れに言った。
「コナン……君の好きに……」
「ボクの好きにしていいの?」
 目を逸らし、微かに頷く。
「こっち見てちゃんと言って」
 コナンは顎に指を添えて自分の方に向かせると、親指で唇を軽くなぞった。
「ホントに、ボクの好きにしていいの?」
 薄い皮膚を撫でるぞわりとした感触に、蘭は目の奥が熱くなるのを感じた。
 おずおずとコナンを見やり、そこにある子供らしからぬ微笑にきゅっと唇を噤む。
「ねえ、蘭姉ちゃん」
 繰り返し問われ、蘭はぎこちなく頷いた。
「好きに……して」
 コナンの笑みが深まる。
 瞬間背筋を疼きが駆け抜け、思わず涙が滲んだ。
 潤んだ瞳で戸惑いがちに見つめる蘭をまっすぐ見つめ返し、コナンは再び顔を寄せた。
 キスの予感にぎゅっと肩を竦める。
 コナンは寸前で動きを止めると、蘭の瞳を間近に覗き込んで囁いた。
「そんなにかたくならなくても大丈夫だよ」
 その先は二人だけの秘密とばかりに声をひそめて、唇の上で綴る。
「……蘭姉ちゃんの好きな事をするんだから」
 唇にかかる吐息に蘭はぶるりと身震いを放つ。
 眦を真っ赤に染め、恥ずかしそうに見つめ返す蘭の頬に軽くキスをすると、コナンは椅子から降りた。
 どうするのかと不安そうな視線ににっこりと笑みを向け、蘭の座る椅子に手をかける。
「蘭姉ちゃん、立って。手は机に置いたままでね」
 言われるまま蘭は立ち上がった。手を置いたままだと、少し前屈みになる。
「手はここから動かしちゃダメだよ。マニキュアが取れちゃうからね。変な跡がついたら、嫌でしょ」
 子供らしく言いながら、コナンはしっかりと蘭の手を押さえ付けた。
「……うん」
 頷いた途端、不可解な衝動が一瞬身体を駆け抜けた。
 やだ…なんだろ……
 お腹の辺りが熱く疼いた。
 視線の先にある自分の爪を見つめながら、コナンの言葉をゆっくりと反芻する。
 手を動かすとマニキュアが
 手を動かしてはいけない
 動いてはいけない……
 コナンの言葉で自分自身を拘束し、蘭は小さくわなないた。
 まだ直接触られてもいないそこが奥から熱く疼いて、どろりとした欲望を滾らせる。
「うぅ……ん」
 痛いようなむず痒いような感覚に、蘭は小さくうめいた。
 やだ…私……!
 動いてはいけないと言われた事に興奮しているのだと分かった途端、全身がかっと熱くなった。剥き出しの乳房の頂点で、二つの突起が痛いほど張り詰める。
 そこから、全身に淡い快感が広がっていく…
 蘭は慌てて首を振った。
 困ったような彼女の表情から心中を読み取り、コナンはにやりと笑みを浮かべた。
 机と蘭の間に入り込み、顔を見上げる。
「蘭姉ちゃん、顔が真っ赤だよ」
「…え……」
「どこか具合でも悪いの?」
「ううん…違うの……」
「ボク、知ってるよ」
 言うが早いか、コナンは、蘭のパジャマのズボンに手をかけ、下着ごと脱がせた。
「!…」
 いきなり脱がされ、蘭の身体がかたく竦む。
「足上げて」
 羞恥に顔を真っ赤に染める蘭に優しく笑いかけ、コナンは片足ずつズボンを引き抜いた。軽くたたんで脇に置く。
 すっくと背を伸ばすと、丁度目の前にくる蘭の下腹部に手のひらを当てる。
「ほら……ここでしょ」
「あっ……!」
 小さく叫んで、蘭は身を引いた。
 それを追ってコナンの手がより奥に伸びる。
「ほら……」
 閉じた花弁の中に指を潜り込ませ、湧き出た熱い雫をすくい取る。
「や…やだ」
 くちゅ…と粘ついた音と共に、ぞくぞくするほどの快感が脳天を痺れさせる。
 言葉とは反対に、蘭はゆるゆると足を開いた。
 たった一度撫でられただけなのに、身体が疼いてたまらない。蘭はまだ残る感触に追い縋るように、大きく息をついた。
「触ってもいい?」
「…うん」
「触るだけ?」
「!…な……っ、舐めても……」
「舐めて欲しい?」
「……うん」
「他には?」
「指を……指で……!」
 誘導するコナンに息を乱れさせ、蘭は喘ぐように言った。
 顔が燃えるように熱い……
 問いかけに答えるたび、一つひとつの行為が頭に生々しく浮かんできて、それだけでいってしまいそうになる。
 今か今かと刺激を待ち望んで、内股にまで蜜が溢れる。
「お…お願い……、コナン……君……!」
 ひくっと喉を鳴らし悲鳴まじりに懇願する蘭を見上げ、コナンはふっと口端を緩めた。
 ゆっくり顔を近付け、臍の辺りに接吻する。
「ひゃっ…」
 思いがけない箇所へのキスに、蘭は短く鳴いた。
「……心配いらないとは思うけど、あんまり大きな声出すと気付かれちゃうかもね」
 ちらりと視線をドアの方に向け、蘭をたしなめる。
 慌てて、蘭はこくこくと頷いた。
 コナンはにっこり笑うと、両手を持ち上げた。
 鍛えられ美しく引き締まった腹部を撫で、徐々に下へとずらしていく。
「んん…」
 肌を走る曖昧な感触に、蘭は焦れたような声を上げた。
 それはすぐに、甘ったるい喘ぎに変わる。
 コナンは慎ましく閉じられた花弁に両の親指を添えると、じわじわと押し開いていった。
「あっ……」
 普段は隠れている場所を晒され、蘭は小さく声をもらした。
 …見られ…てる……
 そう思っただけで、新たな蜜が奥から溢れた。
 コナンはふっと笑みをもらすと、舌を差し出し、花芽をぺろりと舐め上げた。
「あん……!」
 待ち望んだ刺激に、蘭は白い喉を反らせて息を飲んだ。
 瞬間びくんと強張る反応に笑みを深め、コナンは舌先でゆっくりゆっくり、丁寧に柔芽を舐めた。
「あぁ…んっ……、く……」
 ひくつく喉から抑えた喘ぎをもらし、蘭は腰を揺らした。弱い箇所を下から上へじっくり弄る舌が、たまらなく気持ちいい。
 もっと、……舐めて
 声に出さず繰り返していると、まるで心を読んだかのように音を立てて吸い付かれる。
「あはぁっ…んぅ……い、いい……」
 全身に広がる強烈な痺れに、蘭は今にも泣きそうな声で喘いだ。
 熱を帯びた柔らかい唇の感触に、ぞくぞくするほどの甘い衝動が腰の奥から込み上げてくる。
「んん…くぅ……コナン……君…あぁあ」
 くちゅちゅぷといやらしい音を立てて甘食みを繰り返され、溢れんばかりの快感に蘭は鼻にかかった甘い声を撒き散らしながらいやいやと首を振った。
 激しく舐められるのとはまたちがった愉悦に、膝から力が抜けていく。
 ああ…気持ちいい……気持ちいいよぉ
 七歳の子供に愛撫され悦んでいる自分を思うと、より快感が深まるのを蘭は止められなかった。
 舌や唇が、どんな風に動いているか手に取るようにわかる。
 下から上に…何度も……舐められてる
「あ…っはあぁん……」
 そんな事までも想像してしまういやらしい自分に、より興奮が増す。
「蘭姉ちゃん…声」
 当然たしなめられ、はっと息を飲むと同時に、指がくちゅりと差し込まれる。
「やぁ…だめっ……くぅ、ん」
 入った瞬間から奔放に蠢いて内部をくすぐる指に、蘭はびくびくと身体を引きつらせた。
 溢れんばかりに湧いた蜜を卑猥な音でかき回され、頭の芯が痺れる。
 あぁ…すごい……!
「我慢して」
 無理は承知の上で言い付け、コナンは指を動かしながら下部に顔を埋めた。
「や…んん、くっ……ふ」
 案の定、切れ切れに喘ぎがもれる。
 口に含んだ花芽を舌で優しく転がしながら、コナンは密かに笑みを浮かべた。
「くっ…うぅん……ふ……、ん、ん、あぁ……」
 内も外も同時に責められ、なのに声を出せない状況に蘭は歯を食いしばって身悶えた。
 どんなにこらえても、少しずつもれてしまう。
 それでも何とか飲み込んで、ひくひくと喉を震わせる。
「……辛い?」
 下からの声に、蘭ははっと視線を向けた。
 埋め込んだ中指をくにゅくにゅと動かしながら、コナンが見上げてくる。目が合う。
「!…」
 唇についた蜜をぺろりと舐め取る仕草に、胸がずきんと疼いた。
 涎を零さんばかりにしどけなく緩んだ顔で、蘭は小さく頷いた。
「コナン……君」
 涙混じりに呟く蘭を眇めた眼で見上げ、コナンはふっと笑みをもらした。
「辛いなら、やめるよ」
 言葉どおり、少しずつ指を抜き去る。
「やっ…だめ……!」
 ひそめた声で縋り、蘭は下腹にぎゅっと力を込めた。
「んぅっ……」
 自分自身の行為に驚いた声を上げ、蘭は恥ずかしそうに顔を背けた。
「……そんなに締め付けられたら、指が折れちゃうよ」
 くすくすと笑い声を交えながらからかうように言って、コナンはまだ締め付けの残る内部を強く抉った。
「あぅっ……」
 脳天に届く強い突き上げに、蘭は高い悲鳴を上げた。
 しかし刺激はその一回のみで、コナンはあっさりと指を引き抜いた。
「あぁ……ん!」
 圧迫するもののなくなった内部が、途端に疼きを放ち出す。
「どうする? 蘭姉ちゃん……」
 熱を持って少し腫れぼったくなった花弁の縁をそっと撫でながら、コナンは妖しく囁いた。
 わざと柔芽を避けて動く指に、じれったさが募る。
 自分から言わないとくれないのはわかっていても、喉元まで出かかった言葉がどうしても言えない。
 羞恥に頬を染め、蘭は視線をさまよわせた。
 こうやって迷っている自分が、ひどく心地好い。
「もっ……だめ……」
 ひくりと喉を鳴らし、蘭は切れ切れに言った。
「ほ…ほしい……、よ……コナン君……」
 お願い――!
 欲しいと言えたご褒美に指先を少しだけ埋め、コナンは聞き返した。
「何が欲しいの?」
「………」
 いきたい……
 今にも零れ落ちそうに涙を溜めた目でコナンを見つめ、蘭は唇で綴った。
「いきたいの?」
 同じ言葉で、コナンは返した。蘭が頷く。
「……いきたい」
 浅い箇所で留まった指に腰をすり寄せ、蘭は言った。
「い…いきたいの……お願い…もっと、強く……中を……!」
 かすれた声で訴え、もう我慢出来ないと腰をくねらせる。
「……中を?」
「めちゃくちゃに……して――!」
 最後まで言わせようとするコナンを強い眼差しで見つめ返し、蘭はぐっと息を詰めた。瞬きした拍子に、涙が零れる。
 上気した頬に流れる綺麗な涙を見上げ、コナンは頷いた。
「!…」
 物足りなさを感じていた箇所に、三本の指がねじ込まれる。
「くぅ……いい…あぁああ……」
 じゅぷぐちゅといやらしい音を立てて蠢く指と心地好い圧迫感に、蘭はうっとりした声をもらして仰のいた。
 続け様に柔芽を強く吸われ、頭が真っ白になるほどの強烈な快感が背筋を駆け抜ける。
「あはぁっ……あぁ……」
 ようやく与えられた愛撫にしとどに声を上げ、蘭は目前に迫った絶頂に髪を振り乱した。
 今にも崩れそうになる膝をなんとか奮い立たせ、はあはあと喘ぐ。
 後から後から溢れる涙に頬は濡れ、それでもそんな滅茶苦茶さも気持ち良いとさえ思ってしまう。
「ああぁ……コナン君……もうだめ…っ、コナン……君……!」
 半ば机にしがみ付くようして身体を支え、蘭は繰り返し名を呼んだ。
 聞こえてくる蘭の甘えた声に、頭がぼうっと霞む。
 コナンは無我夢中で愛撫を続けた。
 ひくひくと蠢く内部に合わせて指を突き上げれば、まるで、自身のもので突き上げているような錯覚に見舞われる。
 しっとりと汗ばんだ肌の匂いと、柔らかな感触がそう思わせてくれるのかもしれない。
 取りとめもなく浮かんで消える他愛の無い物を過ぎらせながら、コナンは一際強く内部を抉った。
「や…ああああぁ――っ!」
 とどめの一撃に高い悲鳴を上げ、蘭は全身を引きつらせた。
 くわえ込んだ指もろともきつく締め付け、びくびくと痙攣を繰り返す。
「!…」
 突然加わった強い力に、コナンはぐっと息を詰めた。
 擬似的な絶頂に何も考えられなくなる。
 二度、三度…繰り返す収縮はやがて弱まり、コナンは頃合を見計らってそっと指を引き抜いた。
「ん……」
 最後の支えだったのか、その途端に蘭はくたりと膝を折った。
 両手だけは、机の上に残して。

 

 

 

 事後の心地好い気だるさに見舞われすぐには動けない蘭の代わりに、コナンは彼女の身なりを整えてやった。
 ドラマに集中する小五郎にこれ幸いとばかりに部屋と洗面所を行き来して、用意した濡れタオルで身体を清め、パジャマを着せる。
 何もかも任せ切りは悪いと蘭が動こうとすれば、軽く肩を押し返してにっこり笑いかけた。
「あ……ありがとう」
 気恥ずかしさに、俯いて礼を言う蘭の手を取ると、コナンはほっとしたように肩を落とした。
「綺麗に仕上がってる」
 良かったね
 無邪気に喜ぶコナンに微笑みを浮かべ、蘭は頷いた。
 そっと目を向ける。
「また今度――」
 蘭ははっと目を上げた。
「マニキュアをして出かけたくなったら、言ってね。いつでも手伝うから」
 眼鏡越しの青い瞳が、一瞬だけ光る。
 うっすらと頬を染め、蘭は頷いた。

 

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