そうだケーキを焼こう

 

 

 

 

 

 

 

 

「今80グラムだから、もうちょっと」
 はかりの目盛りを読み上げるコナンにこくりと頷き、蘭は手にした小麦粉の袋を少しずつ傾けていった。
 蘭が袋を軽く揺する度に、二人の目の前にある、はかりに乗ったプラスチック製の薄いボウルに小麦粉が足されてゆき、それにつれて徐々に目盛りが分量の100グラムに近付いていく。
「オッケー、ストップ」
 コナンの合図と共に袋を持ち上げ、きっちり口を閉じると、続いて蘭は砂糖の計量に移った。

 

 

 

 長い梅雨の時期もようやく過ぎ、訪れた夏の到来に、小五郎とコナンの二人、早くもバテ気味だった。
 元気なのは蘭一人だけで、休日の今日も目覚めた瞬間からきびきびと動き、だらけ気味の二人にはっぱをかけ部屋から追い出すと、布団を干したり洗濯したりと目まぐるしくこなしては二人を呆れさせた。
 普段は馬の合わない小五郎とコナンだが、この時ばかりは顔を見合わせ同時に力なく笑った。
 朝食の後、ちょっとそこまでと言葉を濁しつつ小五郎はそそくさと出かけていった。
 今日のこの暑さを考えると、行き先の見当はつく。
 蘭はやれやれと肩を落とした。でも、家にいてもゴロゴロするばかりだから、掃除をする分にはいてくれないほうが実はありがたい。
 それではと、蘭は朝食の後片付けに取り掛かった。
 一方コナンは、昨日遅くまで本を読んでいたせいでまだ半分寝ぼけており、あくびを繰り返しながら後片付けを手伝っていた。
「随分眠そうだね、コナン君。また遅くまで本読んでたんでしょ」
 食器を運びながらあくびを繰り返すコナンにそう笑いかけ、蘭は続けた。
「そんなに毎日推理小説ばっかり読んでると、どっかの誰かさんみたいに推理オタクになっちゃうわよ」
 心持ち『推理オタク』の部分を強調し、遠回しにからかう蘭に苦笑いを浮かべ、コナンは影でちぇっと舌打ちした。

 

 蘭は時々こうして、いたずらっぽく仕返しめいた言葉を口にする事がある。今まで散々嘘をついて隠して、騙してきた自分が悪いのだからとコナンは甘んじて受けていた。それに、仕返しというには余りにもささいで可愛らしく、ともすれば以前と何ら変わらない錯覚さえ抱かせてくれる彼女に、感謝こそすれ腹を立てる事などない。
 愛しくて愛しくて、百万べん抱きしめても足りない。
 斜め下から、照れ隠しに少しむくれた顔で蘭を見上げる。

 

「あ、そうだ」
 と、何か思いついたように声の調子を変え、蘭は振り返った。
「ねえコナン君、ケーキ食べたくない?」
「……ケーキ?」
 突然の質問に面くらい、同じ言葉で聞き返す。
「うん。なんだか急に作りたくなっちゃって。ていってもそんなに立派なものは作れないけど、食べる?」
 確かに、百回頷きたくなるほど急な発想だが、蘭が作ってくれるというなら、何だって嬉しい。何だって食べたい。
「うん!」
 コナンは元気よく応えた。

 

 

 

 二人でレシピの本に目を通し、あれやこれやと悩んだ結果選んだのは、比較的簡単に作れる『マーブルケーキ』だった。
 早速材料を買い込み、作業に取り掛かる。
 手順どおりにバターから始め、砂糖を加えてよく練り合わせる。
 以前、何かと必要になるだろうからと、母親の妃が買ってくれた電動ミキサーが大いに役立つ。
 卵を用意したり小麦を計ったりと、コナンが手伝えるのはそこまでで、後は、蘭が集中するボウルをしっかり押さえるという役割に専念した。
「すごいね、みるみる混ざってく」
 実のところあまり使用していなかった電動ミキサーの目を見張る活躍ぶりに、蘭は感心したように言った。
 確かに、十分も二十分も手で混ぜ続けるのは、相当な重労働といえる。それを短時間でこなしてくれるのだから、ありがたい。
「ホントだね」
 どこか楽しそうな蘭の横顔に思わず笑みを零し、コナンは相槌を打った。
 出来上がった生地を型に入れ、170℃のオーブンで40分。その間を利用して、蘭は脇に添える生クリームを作り始めた。
「綺麗にマーブル模様出来てるといいな」
 オーブンの中でじっくりと焼かれていくマーブルケーキを、期待と不安の入り混じった眼差しで覗き込み、蘭は少し強張った面持ちで言った。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ」
 下にするボウルに氷を入れながら、コナンは軽く笑ってみせた。
「綺麗に混ざってなくても、蘭姉ちゃんが作ったものだもの。きっと美味しいに決まってるよ」
 どこかからかうようなコナンの口ぶりも、今はかえって気持ちをほぐすきっかけとなる。
「ありがと」
 蘭は笑って肩を竦めた。
「準備できたよ」
 コナンはボウルに生クリームを流し入れると、蘭を促した。
「うん」
 電動ミキサーのお陰で、これまたあっという間にホイップクリームが出来上がる。
 椅子に乗り、隣でボウルを押さえていたコナンは、ふと目にした蘭の横顔…幸せそうな表情に、押さえるのも忘れて見入った。
「……蘭姉ちゃん、なんだか楽しそうだね」
 すぐに我に返り、何気なく尋ねる。
「えー、わかる?」
 ふふと肩を竦めて笑う蘭に、一瞬胸が高鳴る。
「……もしかして、新一兄ちゃんのこと考えながら作ってたりして」
 軽い気持ちで、コナンはからかいの言葉を口にのぼらせた。
「やあだ、そんな事あるわけないじゃない。どうしてあんな推理オタクのことなんて」
 口ではそう言いながらも蘭の瞳は輝きを増し、見る側も幸せになる程の笑みを浮かべる。けなされているせいもあって、コナンはどちらともつかない表情で蘭を見つめた。
「意地悪でキザでカッコつけで。そのくせ、辛い時とかすぐに見抜いて、さりげなく気を使ったりして…ホント、憎たらしいくらい――」
 蘭はミキサーのスイッチを切ると、同時に言葉も区切り、恥ずかしそうに目を泳がせながら小さく呟いた。
 大好きだよ
 その一言に、コナンは大きく目を見開いた。
 いつだって蘭は、素直じゃないけど素直な言葉で、気持ちを伝えてくる。
 また愛しさが胸に積もる。
「生クリームはこれでよし。ね、甘さはこれくらいでいいかな」
 蘭はミキサーを持ち上げると、そこについた分を人差し指ですくい、コナンに味見を頼んだ。
「え……ああ」
 コナンははっと目を瞬かせ、蘭の指と顔を交互に見やった。一瞬だけ笑みを浮かべ手首を掴むと、そのまま口に持っていく。
 そのつもりで手を差し出した蘭だが、直前で急に恥ずかしくなり、コナンの口に咥えられる自分の指に顔を赤らめ俯いた。
「っ……」
 小さな舌が、指先のクリームをぺろりと舐め取る。
「ど、どう?」
 内心の動揺を隠し切れずおどおどと訊ねる蘭に、コナンは無言でミキサーを受け取ると、指先に生クリームをすくい取り彼女の唇にちょんとつけた。
「!…」
 何をするのかと見守っていた蘭の肩が、その瞬間びくりと跳ねる。
 小さく笑って、コナンは顔を近付けた。
 緊張してかたく噤まれた蘭の唇に、コナンのそれが重なる。
 ゆっくりと、唇を舐められ吸われ、蘭はうっすらと目を潤ませますます顔を赤くした。
 コナンはもう一度生クリームをすくうと、ミキサーを流しに置き、蘭の口元に寄せた。
「ちょうどいい甘さだよ。ほら」
 コナンの意図を汲み取り、蘭はちらりと目をやると、おずおずと口を開いた。
 クリームのついた指をそっと咥える。
「ね?」
 ちゅうっと指を吸う蘭に、コナンは目を細めた。
「……うん」
 蘭はこくりと頷いた。まともに目を合わせられない恥ずかしさが、ちらりちらりとかすめる視線に表れる。
 コナンは笑みを深めると、蘭の口内に差し入れた指先で舌をくすぐった。
「うんっ……」
 ぞくっと背筋を走る感触に、蘭はくぐもったうめきをもらした。
「あっ…は……」
 コナンは薄く笑ったまま指を抜き差しした。
 蘭もそれに合わせ、口内のそれを男のものに見立てて舌を絡め甘噛みした。
 くちゅ、ちゅぷと生々しい音が吐息に混じる。
 自分のしている事がどれだけいやらしいものか頭では理解していても、止める事は出来そうになかった。
 正面でじっと見つめる少年の眼差しが、もっともっとと欲している…せいで
「ん…んふ……あ…」
「……蘭姉ちゃん、すごいエッチな顔してる」
 目を細めて笑うコナンに、微かな抗議の眼差しを向け、蘭は小さく「バカ」と呟いた。
 誰の……せいよ
 ゆっくり顔を近付いてくるコナンを拗ねたように見つめ、蘭はそっと目を閉じた。
 散々口内を弄んだ指を静かに引き抜き、コナンは唇を寄せた。
 唾液がつうと透明な糸を紡ぐ。
 塞ぐ目の端にそれを捕らえた蘭は、かっと頬を朱に染めてすぐさまコナンの手を握った。
 直後口付けられる。
「や…んん……」
 わざと音を立てて舌を吸われ、膝の裏から這い上がってくるむず痒い疼きに蘭は小さく身震いを放った。
 それが治まるより早く、コナンはもう一方の手を襟元から潜り込ませ下着越しに乳房を掴んだ。
「あっ……」
 びくんと肌が強張る。
 乳房の輪郭をなぞるように下から頂点に向かって、コナンはじわじわと撫で上げた。けれど寸でのところで乳首は避け、その周りをそろりとくすぐる。
「あ…、はぁ……」
 すくうようにして揉み上げ、気紛れに指先で乳首を突付くと、その度に蘭は切なげな吐息をもらし、尚も続けられる口付けに苦しそうに喘いだ。
 布越しに乳房を弄んでいた手がついにじかに触れてきて、まっすぐ乳首を目指したかと思うと二本の指で摘まれ、それまでの曖昧な刺激に焦れていた蘭はたまらずに大きくわなないた。
「あ……あぁん……」
 自分の上げた声に、頬が熱くなる。
 けれど待ち望んでいた指に身体は素直に応え、自ら胸を突き出すようにして愛撫をねだった。
 コナンは唇をずらすと、顔を埋めるようにして首筋に吸い付き舌を這わせた。匂い立つほどにしっとりと汗ばんだ肌に、軽い目眩を覚える。自然、胸をまさぐる手に力が入る。
「いいっ……の…あぁああ……!」
 くにゅくにゅと押し潰すように乳首を捏ね回され、根元から頂点に向かって何度も摘み上げられて、絶え間なく背筋を駆け抜ける快感に声が抑え切れない。
 腰の奥までも熱く滾っていく。
 痛いほどの疼きを放つ女の部分に、蘭はもじもじと膝をこすり合わせた。
 あぁ…やだ……もっと触って
 放って置かれるもう片方の乳房までもじんじんと疼き出し、頂点の突起が硬く尖る。
 言えずに迷っていると、まるで心を見透かしたように手が動いた。
「あん、んっ……」
 瞬間、全身に力が入る。握ったままのコナンの手をそこで思い出し、蘭は慌てて力を抜いた。
 ずくんと花芯が疼く。
「あァ……」
 確かめるまでもなく溢れた自身に、蘭は耳までも赤く染め大きく喘いだ。
 ためらいがちに腕を持ち上げ、コナンの背を抱く。
「コナン君……お…願い……あぁ、ん……」
 火照った肌をくすぐる吐息に、蘭は途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「なに……蘭姉ちゃん」
 耳殻にねっとりと舌を這わせながらコナンが囁く。
「っ……!」
 耳の奥にかかる微かな吐息に蘭は声もなく息を飲み、ぶるりと肩を震わせた。
「し、下も……触って……」
 今にも消え入りそうな声で唇をわななかせ、恐る恐るコナンを見やる。
 ゆっくりと視線が絡み合う。
 眼鏡の奥で、青い瞳がすっと細められた。
 それだけでくらくらと目眩がする。
「お……お願い……」
 乳房を弄っていた手がすっと離れ、唇に寄せられる。
 触れてくる指先におっかなびっくり目を向け、そこから辿ってコナンに眼差しを向けると、蘭はもう一度お願いした。
 身体が…熱いの……
 込み上げる欲求に潤んだ瞳を見つめ返し、コナンはふっと口端を持ち上げた。
「ダメ。自分でいじっていけたら、触ってあげる」
 口調だけはあどけなく、しかし妖しい眼差しで蘭を絡め取り、コナンは言った。
 蘭は今にも泣きそうに眉根を寄せ、上目遣いにコナンを見やった。
 しかし答えは変わらない。
「………」
 きゅっと唇を噛み、俯く。
「もう濡れてるんでしょ?」
 再び胸元に手を潜り込ませ、指の腹で乳首を転がしながらじわじわと追い詰める。
「っ……い…じわる」
 顔を背け、声を殺して喘ぎながら蘭は呟いた。
「じゃあ、我慢する?」
 鼓膜を犯す低い声音に、震えながら首を振る。
 今更やめるなんてできっこない。
 蘭はしばし迷った後、下着を脱ぎ去りタイトスカートを捲し上げて自慰を始めた。
 無意識に足を開き、花唇に指を添わせる。
「どんな風になってる……?」
 指を動かしながら蘭を見上げ、囁くように訊ねる。
「……熱くて……濡れてる」
 ゆっくりゆっくり指を動かしながら、かすれた声で返す。溢れた蜜に指はあっという間に濡れて、動きをスムーズにさせた。
「あ、ん……」
 胸を弄られただけでこんなに濡れてしまった自分自身が、たまらなく恥ずかしい。けれど、それが何故か気持ちよくも感じる。
「中はどう?」
 徐々に緩んでいく蘭の表情をあまさず眺めながら、コナンは誘導を続けた。
 蘭はそっと中指を埋めた。
「うん……中も…熱くなってる……」
 ただ入れただけでは物足りず、蘭は半ば無意識に指を締め付けた。そんな自分を恥じるが、浅ましい行いはかえって身体をとろけさせた。
「そう。蘭姉ちゃんの気持ちいいところってどこ? 中? それとも……」
 その先は声をひそめ、耳元に妖しく囁く。
 びくんと肩を弾ませ、蘭は顔を赤らめて俯いた。辛うじてわかるほど小さく頷く。
「……そう」
 コナンは満足そうに微笑むと、更に続けた。
「そこをどうすると、気持ち良いの?」
「あぁあ…ん……こすると……気持ちいい……」
 言いながら、もう我慢出来ないとばかりに蘭は柔芽をこすりあげた。途端に襲う強烈な快感に脳天がびりびりと痺れる。
「くうぅ……」
 悩ましく腰をくねらせながら、蘭は疼きに正直に声を上げた。
「あああぁぁ……あぁっ……!」
「気持ちいい?」
 問い掛ける少年に素直に頷く。
「あ、あ、あ……はぁんっ……いい、いい…の……」
 ぬちゅくちゅと粘ついたいやらしい音を立てながら指を蠢かし、蘭は思う様嬌声を迸らせた。
 傍目には異様な光景に映るだろう。
 目の高さを合わせる為椅子に乗った少年の前で、スカートを捲り上げ、乳房を揉まれながら淫らに腰を振って自慰に耽っているのだから。
 たがの外れた行為は、どんな官能よりも心を熱くさせた。
 次第に漂ってくるケーキの焼ける甘い匂いが、場違いな自分たちをより一層際立たせる。
「あ…あぁああ……んん……コナン君……!」
 びくびくと全身を強張らせ、蘭は切羽詰った声でコナンに縋り付いた。
「いきそう?」
 半ば力を失いもたれてくる蘭を片手で支え、もう一方の手で強く乳房を揉みしだきながら、コナンは顔を覗き込んだ。
 蘭は小刻みに何度も頷くと、より激しく指を動かしながら繰り返し「いきそう」ともらしコナンに頬をすり寄せた。
「!…」
 女の火照った肌に、満たされるはずのない身体が一気に絶頂へと引き上げられる。
 今の自分がいかに滑稽か一瞬頭を過ぎったが、それを忘れさせてくれるぬくもりにコナンは素直に身を委ねた。
「ああぁっ……だめ……いく…いっちゃうの……!」
 鼻にかかった甘えた声で、蘭は子供のように繰り返した。目前に迫った極まりに長い髪を振り乱して喘ぐ。
 普段の姿からは想像もつかない嬌態に目が眩む。
 コナンは緩んだ唇に口付けると、強引に舌を差し入れ、ヒクヒクと蠢く蘭の舌を下部のそれに見立てはやる心のまま貪るように愛撫した。
「んむ……くぅん……!」
 噛みつかんばかりの勢いに、頭の芯がじんじんと痺れた。舌と乳房と下部の一点が、ひと繋がりになって強烈な快感を生む。飲み込まれる。
 蘭は三本の指を自身の奥にねじ込むと、届くぎりぎりまで強引に押し進めた。
「はぁっ……あぅう……」
 ぐちゅっぐちゅっと絡み付く愛液をそれぞれの指でかき乱し、内側から柔芽を刺激する。
 新たな蜜がどっと溢れる感触に、がくがくと膝が震えた。
「んん……――!」
 蘭は内股をぎゅっと締め付け、急速に迫った絶頂感に全身を強張らせた。
 もうだめ――!
 しばらくそのままの姿勢で、頂点の真っ白な感触を味わう。
 やがて、次第におさまっていく波にひくひくと身体をわななかせながら、余韻に浸る。
 コナンはそっと顔を離した。
「はっ……はぁ……、はっ……」
 荒い息に胸を喘がせ、蘭は力なくその場にへたりこんだ。陰部からゆっくり指を抜き、恐る恐る目をやる。
 指どころか手全体が透明な雫にまみれ、てらてらと光っている。
 途端に沸き起こる羞恥に頬を染め、蘭は身体から手を離した。
 と、コナンは椅子から降りると、その手を掴みためらいもなく自分の口に運んだ。
「やっ……やだ、やめて……!」
 咄嗟に拒むが、思いがけず強い力に耳の後ろがぞくっと疼く。
「う、ん……やだ……くぅ、ん……」
 いたわるように、あるいは食い尽くすように指をねぶるコナンに、恥ずかしさとは別の言葉に出来ない感情が生じる。
 おさまりかけた身体が、再び高められていく。
「あっ…く……コナン…君……」
 ぞわりと肌を這う舌の感触に、今にも喘ぎが零れそうになる。必死に噛み殺しながら、蘭は上目遣いに見やった。
 それを受けて、コナンも視線を向ける。
「……あ……いや…、んん」
 言いたくて言えないもどかしさに息を飲む蘭に、新一はにやりと口端を緩めた。
「……どうかしたの、蘭姉ちゃん」
 一歩進み出て、コナンは目を覗き込んだ。
「………」
 ちらりとだけ見て目を逸らす蘭に、自分にだけ見せる甘えに、愛しさが込み上げる。
「何か言いたい事があるんでしょ」
 寄り添うように立つコナンに、そっぽを向いたまま蘭は小さく頷いた。掴まれた手を弱々しく握りしめ、かすれる声で呟く。
「触って……コナン……君……」
 言いながらおずおずと顔を上げ、間近で見下ろすコナンを熱っぽく見つめる。
 ゆっくり笑みを浮かべ、コナンは蘭の肩口に軽く接吻した。しっとりと汗ばんだ肌が、唇に優しく触れる。
「……いいよ」
 強い眼差しを向けるコナンに、蘭は引き寄せられるように顔を近付けた。
 期待に身体が震える。
 ケーキの焼ける甘い匂いに包まれながら、二人は何度目かのキスをした。 
「膝立ちになって」
 言われた通りゆっくり腰を上げる。ためらいがちに足を開くと、内股にまで滴った愛液の感触が生々しく伝わってきて、蘭は半ば無意識に身体を打ち震わせた。
 コナンの手がそこに入り込む。
「んんっ……!」
 撫で上げる小さな手に、びくんと肩が跳ねる。
「すごいね、蘭姉ちゃん。こんなに濡れてる……」
 わざと呆れたように零して軽く笑うと、蘭は困った顔で小さく頭を振った。
 構わずコナンは内股をなぞって奥へと手をすすめた。
「ひゃっ……あん」
 蓋をするように手のひらをひたりと当てられ、蘭は思わず高い声を上げた。
 反射的に腰を引く蘭を追って手を伸ばし、コナンは少しずつ花唇を割って指を潜り込ませた。
 内部はドロドロに溶けて熱く、新たな刺激に呼応して蜜を湛えている。
 恥ずかしさから顔を背け、浅く喘ぐ蘭の顔を楽しげに見つめたまま、コナンは手探りで軽く花芽を摘んだ。
「あ……くぅ、んん……」
 一際大きく蘭の身体がわななく。
 頭が痺れる……!
「ここをこすると気持ちいいって、さっき言ったよね」
 問い掛けるコナンにしがみ付き、蘭は大きく頷いた。
「うん……そう…いい、の……もっと……あぁあん!」
 ねだる蘭に応え、コナンは揃えた二本の指で上下にこすった。
「やあぁぁ……、あぁ……んう」
 鋭い悲鳴を上げ、蘭は指の動きに合わせて腰をくねらせた。身体の奥から込み上げる、切なくなるような悦びに涙が滲む。
 閉じられなくなった口からしとどに嬌声をもらし、何度も背を反らす。
「あぁ、だめ……違うの…、いや……いやぁ……」
 再び迫り上がってくる凄まじいまでの絶頂感に、蘭は悲鳴にも似た声を上げた。
「何が嫌なの、蘭姉ちゃん」
 手の動きを早めながらコナンは聞いた。
「くぅ…、んん……いやじゃ……ない……あ、あぁ、あ……」
 何を口走っているのか自分でもわからなくなり、蘭はしきりに首を振りながらもつれる舌で何かを訴えようと喘いだ。
 だめ、もうだめ……!
「い、いいの……いい……あぁあん……あ、は……気持ちいい……」
 急激に持ち上げられる錯覚に、蘭はきつくコナンに抱き付いた。
 がくがくと腰を揺すり立てしがみ付く蘭に足を踏ん張り、コナンは焦らさず追い上げた。
「あぁ――いっちゃう……!」
 鼻先で揺れる乳房に、目の奥がかっと熱くなる。
 コナンは半ば強引に引きずり出すと、硬く尖った乳首を口に含んだ。
「いああぁぁ……!」
 背筋を駆け抜ける愉悦に、蘭は大きく頭を反らせた。
「か、噛んで……コナン君――!」
 悲鳴混じりに叫び、ぐいっと胸を突き出す。
 言われるままコナンは口に含んだ乳首に歯を立て、そのまま強く吸った。同時に、ひくひくと蠢く花弁の奥へ指を埋めとどめの一撃を与える。
「ひ……あっ……――!」
 新一――!
 最後は声も出せず喉を震わせ、蘭は極まりを迎えた。

 

 

 

 乱れた呼吸が次第に落ち着いてくる。
 それにつれて鼓動もおさまり、抱き合ったままだった二人はゆっくりと互いの腕をほどいた。
 離れる間際、もう一度キスを交わす。
 キッチンを満たすケーキの焼ける甘い匂いに、二人は目を見合わせて小さく笑った。
 もうすぐ、ケーキが焼き上がる。

 

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