ホントに可愛い

 

 

 

 

 

 ふう…と深いため息が、向かいにいる蘭の口から静かに零れた。
 一週間の終わり、一日の終わり、夜。
 昨日とは打って変わって、今日は風の強い一日だった。登下校、買い物の行き帰り、真上から真横から容赦なく吹き付ける寒風にすっかり身体は縮こまってしまった。手も足も芯まで冷え切り、家事の済んだ後のこの、あたたかい湯船に浸かるのをどれだけ楽しみにしていた事か。そう言わんばかりに、蘭は心地良さそうにため息をついた。
 それほど高い温度ではないが、冷え切った身体にはぴりぴりとしみる。けれどそれが返って気持ちいい。寒さに竦み上がっていた身体が、熱い湯船にとろーっととろけていくようだ。
 肩まで湯船に浸かり、目を閉じて幸せそうにひと息ついた蘭に思わずコナンは肩を揺すった。ささやかだが声ももらす。
 しかしすぐにはっとなる。
 微かに耳にした笑う声に蘭はぱっと目を開けると、口をへの字に曲げた。

「今笑ったでしょ。年寄りくさいとか思ったでしょ」
「え、ううん。ボク笑ってないし、そんな事思ってもないよ」

 コナンは大きく首を振った。
 しかし顔のあちこちに嘘が浮かんでいるのを、蘭は見逃さなかった。

「ごまかしても無駄よ。ちゃあんと顔に書いてあるんだからから」

 蘭はちゃぷんと片手を湯船から出すと、にやにや笑う少年の小憎らしい口元を軽く摘まんだ。

「いてて、ごめんなさあい」

 大げさに痛がって笑うコナンに合わせ、蘭もくすくすと楽しげに笑った。

「そういう蘭姉ちゃんも、顔に出てるよ」
「……え、わたし?」

 思いもよらない言葉に蘭は小さく目を見開いた。

「うん。ちょっと目を閉じてて」

 言ってコナンは、蘭のすぐ前に移動した。
 蘭は少し訝りながらも言われた通り目を閉じた。
 その顔を、コナンはしっかりと見据えた。
 やはり、見間違いではなかった。風呂に入る前、トイレからやってきた彼女を見た時はそれのせいかとそこまで気に留めなかったが、理由はそれだけではなかったのだ。
 気持ちよさそうに湯船に浸かっているが、彼女の顔には間違いなく、一週間分の疲れがうっすらと浮かんでいた。

「そんなに変な顔してる……?」
「ヘンな顔なんてしてないよ。ただ…ちょっと疲れてる」
「それはっ……」

 仕方ないだろうと、蘭は小さく眉根を寄せた。
 今日こうして彼と風呂に入る前、これで何度目になるだろう、そろそろ使い慣れたと言ってもいいあの浣腸薬を使用して、強制的に排泄を済ませていたのだ。自然な便意に促され自力で排泄するのとは全く違う、あの苦しみを味わったのだから、多少は顔にくたびれた色が浮かんでも仕方の無い事。
 恥ずかしさのせいで言葉が続かず、はっきり説明出来ないが、薬液を注入したのは他でもない彼。一度きりだが、その後どれほど苦しい目に遭うか、かつて彼も一緒に見ている。ほんの数分とはいえ、ひどい食あたりに似た症状に苦しめられ脂汗が滲み意識が朦朧とする。済ませてしまえば苦しみは無くなるが、しばらくは身体もへとへとになるというもの。

「でもこうしてお風呂に浸かってれば、すぐに疲れも抜けちゃうから、平気よ」
 大丈夫だから

 言ってから蘭は、少し気まずい時するように顔を俯かせた。
 疲れが抜けて、平気になった後は…遠慮なんかせず身体中全部触ってほしい。
 そういったも同然の自分の言葉に、少し恥ずかしくなったからだ。

「うん、でも、それだけじゃなくて蘭姉ちゃん、やっぱりちょっと疲れてる」

 家での事、学校での事、そしてこの厄介な居候に関する事。今日はそれに加え、小五郎が依頼人の調査で泊りがけで出かけ、留守を預かるという責任を負っているせいもあった。様々な疲れ、気苦労が、女の眦や口元に浮かんでいるのをコナンは痛ましげに見つめた。 

「大丈夫だってば。大丈夫だから……」

 笑い飛ばそうとする蘭の声が、不意に弱々しい物に変わる。
 探偵の耳が変化を聞き取る。
 気遣って、今日はしないという流れになったら嫌だと、そう言っているのだ。

「わたしは大丈夫だから……」

 あれだけ大変な思いをして準備したのに、今更やめるなんて切ないではないか。そんな気遣いはいらない。だからお願い。
 蘭はもごもごと少し口籠った後、途切れ途切れに言った。

「……し…しようよ」

 果たして推測は当たった。
 コナンは口端を緩めると、目を閉じたまま不安そうに待つ蘭に言った。

「もちろん、するよ。今日も一杯してあげる。蘭姉ちゃんもするでしょ」

 はっきりとしたコナンの言葉に蘭は恥じいって縮こまったが、それでもしっかりと頷いた。

「でもその前に、少しでも蘭姉ちゃんの疲れが取れるように」
「……何するの?」
「上手く効くか分からないけど、マッサージ。こめかみ触るね」
「うん……」

 返事を聞き、コナンは両手を伸ばした。
 子供の力では思うように彼女をリラックスさせられないのがもどかしいが、少しでも足しになればいいと、コナンはこめかみ、首筋と親指を押し当てた。

「あぁっ……やだ、変な声出ちゃった」

 思わずもれ出た喘ぎに慌てて口をふさぎ、蘭はごまかすように「あはは」と続けた。

「良かった。少しは効いたみたいだね」
「少しじゃないよ、すっごく気持ちいいよ……」

 言って蘭は、押される強さに合わせてはあっと息をはいた。自分でも気付いていなかった痛みや疲れが、彼の手によってほろほろと崩れ身体から抜け落ちてゆく。全身がみるみる軽くなっていく感触に蘭は自然と笑みを浮かべた。
 直後、鼻の奥が少し熱くなった。
 反射的に手を上げる。

「悪い、痛かったか?」

 涙を拭う仕草を見せた蘭に慌てて手を離し、コナンはおっかなびっくり顔を覗き込んだ。

「あ、違うよ」

 蘭は慌てて目を開けると気恥ずかしそうに肩を竦め、何でもないと首を振った。

「ちょっと、あの…すごく嬉しかったから」

 蘭は急いで残りの涙を指で拭うと、むず痒そうに笑った。
 コナンは半ば呆れ顔になって、嬉しげに笑う女を見ていた。たかがこんな事くらいで、こんなに喜ぶなんて…まったく、嗚呼。
 本当に可愛い女。
 もっと喜ばせたくなる。
 うんと優しくしたくなる。
 それから――苛めたくなる。

「……あ、また笑ってる」

 蘭は口を尖らせ、ぼそぼそと呟いた。自分でもおかしな事で泣いている自覚はあった。きっと、ヘンな女だと思っているに違いない。怒りと恥ずかしさがないまぜになった顔で、横目にコナンを見やる。
 コナンはそれを笑みで受け止め、言った。

「バカにしてるわけじゃないよ。蘭姉ちゃん、可愛いなあって」
「……そういうの、バカにしてるって言わない?」
「言わないよ」

 きっぱりした答えに蘭は唇を引き結ぶと、視線を湯船に落とした。たまらなく照れくさいが、悪い気はしない。

「ホントに可愛いもん、蘭姉ちゃん」

 コナンは首元まで湯に浸かって蘭を見上げ、まっすぐに言った。
 まっすぐに向かってくる瑠璃色の綺麗な瞳から一瞬目を逸らし、すぐに戻すと、蘭は何事か呟くように唇を動かした。
 果たして言葉は出なかったが、その代わりに顔を寄せる。

「いつものエッチなの、ちょうだい」

 ゆっくり近付く唇に囁き、コナンは子供の貌からほんの僅かずれた眼差しで蘭を見やった。
 蘭の唇が、一瞬怒ったようにきゅっと結ばれる。
 それでも動きは止めず、求める少年に応えて接吻した。
 そっと、薄い皮膚で撫でるように甘食みを繰り返す。
 はあっと熱いため息をもらし、蘭はより大きく唇を動かしてコナンのそれをくすぐった。まだ触れただけだというのに、身体の奥から熱いものがこみ上げてくる。少しの気恥ずかしさと、大きな充足感。蘭は大きな方をより欲して、口付けたままゆっくり舌先を割り入れた。

「ん、ふぅ……」

 添えるだけだった手で少年の顔をしっかり押さえ、上向かせ、口内をゆっくりとねぶる。
 コナンも同じように両手を蘭の頬に当て、舌先を絡めて応えた。
 熱い吐息に時折混じるぴちゃぴちゃと湿った言葉は、いつもより短く不意に途切れた。
 蘭が中断したのだ。
 どこか困ったような顔で、蘭が離れる。

「今のはまだ、あんまりエッチじゃなかったね」
「!…」

 言葉に蘭は戸惑ったように唇を小さく尖らせた。その言葉のせいだと、恨みがましい視線をぶつける。いつものエッチなキス…自覚はなかった。好き、愛しい、沢山触れたい。その気持ちのまま素直に触れているだけ。だのに言葉で表わされると、いささか不満が募る、羞恥に頭を抱えたくなる、戸惑ってしまう。
 だからどうしていいか分からなくなり、中断したのだ。

「……だ、大体、私の何がそんなにエッチだっていうのよ」
「さあ。ボク、蘭姉ちゃんとしかした事ないし」
「じゃ、じゃあなんでエッチだなんて言うのよ」
「蘭姉ちゃんがエッチだから」
「……なによ。どうせ…わたしは……」
「だから好き。蘭姉ちゃん大好き」
 全部好き

 あっけらかんとした笑顔で言い放つコナンに、蘭はますます唇を尖らせた。そんな言葉にごまかされるものか。尖らせた唇の先でぶつぶつと零す。

「嘘じゃないよ。だからそんなに怒らないで」

 コナンは右手を上げて蘭の唇に触れると、尖がった部分を引っ込めようと軽く押した。
 一旦は素直に従った蘭だが、コナンの手が離れると同時に再び唇をぎゅっと突き出した。

「もう、そんな顔してると、ずっとそんな顔になっちゃうよ」

 困った顔で笑いながら、コナンは肩を竦めた。

「そうなったら、コナン君のせいだから」

 蘭はぷいとばかりにそっぽを向き、思い切り尖らせた唇の先でもごもごと言った。本当のところはもう、すっかり、気持ちは元通りになっていた。だからといって素直に従うのが癪に思えて、蘭は怒ったふりを続けていた。
 目の前の探偵は、そんな事とっくにお見通しだろう。やれやれと言わんばかりに余裕の笑みを浮かべているのがいい証拠。ああ、癪に障る。結局言葉にごまかされてしまう自分が癪に障る。
 そこで、違うと、蘭はもう片方の声を挙げた。彼は一つも嘘など言っていない。彼自身嘘の塊だけれど、彼の言葉に嘘は一つもない。矛盾極まりないが、それが彼の真実で、自分はそれを知っていて、どんな些細な事でも、彼の口から出るのは本当なのだ。
 いつも、今も。
 蘭は時折瞬きを交えながら、熱心にコナンを見つめていた。その内に力が抜け、尖っていた唇が元に戻る。

「じゃあ、責任持って直さなくちゃ」

 それを見届けてから、コナンは顔を寄せた。

「……うん」

 強い笑みで近付いてくる支配者に喉の奥で頷き、蘭は目を閉じた。薄く唇を開いて接吻を受け止める。

「んっ……」

 ちゅっと小さく吸い付かれ、思わず声が出る。恥ずかしさに身が強張るが、ゆっくりゆっくり入り込んでくる舌先で口内を舐められると、それも徐々に薄れていった。
 好き、愛しい…もっと触れたい。
 膨れ上がる欲求に従い、蘭はキスに耽った。

「ん、ん…あふ……うっ……」
「…あっ……」

 優しく、力強く絡み付いてくる女の舌にコナンは思わず声をもらした。ねっとりと妖しげに蠢くうねりに腰の奥が熱くなる。息を荒げ、コナンもまたキスに溺れた。接吻しているだけなのに、燃えるように熱い手で抱きしめられているような、甘い錯覚に見舞われる。彼女とキスしていると、必ず陥る感覚。頭の芯が白く痺れて、身も心も震えてしまう。
 コナンはより深く唇を合わせると、きつく舌先を吸った。

「あぅ……」

 驚いたような、嬉しげな声が女の口から零れる。
 びりびりと背骨をくすぐられる、たまらなく心地いい。
 コナンはもっと声を欲して、頬に添えていた手を下にすべらせた。うっすらと汗ばんだ首筋を撫で、震える肌を愉しみながらより下を目指す。

「あ、う……」

 蘭がほんのわずか身を引く。
 小さな手がどこに向かっているか察知したのだろう。

「ん、うふ……あっ……」

 ややぎこちなくなった口中の動きを味わいながら、コナンは白い膨らみの端の方をそっと撫でた。
 今日は大丈夫だろうか。
 彼女のコンプレックスに障ってしまわないだろうか。
 そう思いながら慎重に触れるが、むっちりとしたきめの細かい乳房を手のひらに感じた途端、制御が難しくなる。

「もっと触ってもいい?」

 唇の上で囁く。駄目だと言われても、もう止められそうになかった。

「あぁ……」

 蘭は目を閉じたままぶるぶると震えを放った。唇に触れた吐息が、乳房にかかる手が…頭の芯がかっと熱くなる。

「も、もっとして……」
 大丈夫だから

 蘭は震えながら頷き、自らぐっと乳房を差し出した。
 許しを得たコナンは、再び唇を重ねると両手に乳房を捕え、大きく押し上げるように揉み始めた。

「あっ…んむ……ん!」

 小さな手が、両の乳房を撫でさすってくる。その間も口腔をねぶる舌は動きをやめず、腹の奥底からぞくぞくと込み上げてくる淡い痺れに蘭は喉を引き攣らせた。下腹が、そして後孔がじくじくと疼きを放つ。

「う、う…ん……あ」

 堪えても堪え切れず、蘭はとうとう腰をうねらせ始めた。コナンは口端で笑うと、舌先でちろちろと口内をねぶった。そうしながら、愛撫されすっかりかたく屹立した乳房の頂点をそっと指先で摘まむ。

「んぅっ!」

 より強烈な刺激に、蘭はびくびくとおこりのように身をわななかせた。

「あ…はっ…そこ……!」

 ぐっと顎を上げ、泣きそうに、うっとりと顔を緩ませる。

「蘭姉ちゃん、ここが気持ちいいんだよね」

 目を閉じて浸る蘭の顔を見つめたまま、コナンはくにくにと乳首を弄った。

「う、うん……あ、あっ……そ、そこ……あ、や!」

 忙しない呼吸の合間に頷き、蘭は戸惑いがちに享楽の声を上げた。とろっと濃い物が下腹に満たされ、その、少しおぞ気のする感触にまた身ぶるいが起こる。

「蘭姉ちゃん…もっとキスしよう」
「やぁ…も、…んんぅ!」

 今はとても無理だと蘭は顔をずらすが、尚追ってくるコナンに観念したように唇を合わせた。

「う、ん、う…はぅ……くっ」
 震えながらも健気にキスに応える愛しい蘭を貪りながら、コナンは愛撫を続けた。
 ぷくんと膨らんだ淡い色の乳首を親指の腹でゆっくり転がし、時折きゅうっと押しやる。さっと指を退けるとすぐにぴょこんと起ち上がり、もっとしてと言わんばかりにその存在をコナンに主張した。

「う、く…や……あぁう、も……」

 キスの合間に喘ぎ、蘭は小さく首を振った。
 苦しげな蘭の吐息を飲み込んで、コナンは尚も口中をねぶった。

「んっ…ん、…あん……やっ! あっ!」

 コナンは突起を二本の指ではさむと、何度もきゅっきゅっと摘まみ、更に嬌声を紡がせた。根元から先端に向かって何度も扱き、たっぷりとした乳房を揺すり、大きく揉みしだく。

「あぁ…だめぇっ……!」

 これ以上はもう耐えきれないと、蘭は必死に顔を背けた。
 悲鳴交じりの声を上げ、少し苦しげに息を吸う姿さえコナンには興奮材料になった。

「苦しかったね、ゴメンね」

 肩で喘ぎながら、蘭は首を振った。
 平気だとうっすら笑う様がたまらなく愛しかった。
 優しくしたい、苛めたい。
 もっともっとこの女に溺れたいと、コナンは喉元にちゅっと吸い付いた。
 蘭は仰け反ってそれを受け入れ、その後きっとくるだろう愛撫を期待して、少し身体を湯船から浮かせた。
 動きに気付いてコナンが小さく笑う。

「もっとしてほしい?」
「う……そ、そっちこそ…もっとしたいくせに」

 言いながら蘭は、なんて事を口にしているのだろうと羞恥に見舞われたが、同時に心地良い疼きも感じていた。

「うん、したい」

 子供のそれとは違う貌で笑い、コナンは言った。

「わたしも…したい」

 熱に浮かされぼうっとした眼差しで蘭は答えた。
 コナンの唇が自分の乳房に向かうのを、恐ろしげに見守る。

「して……もっと」
「してあげる。もっとたくさん」

 コナンはすくい上げるように乳房を持ち、湯船から顔を出した頂点の突起に吸い付いた。

「はぁうっ……」
 安心しきったような声が、蘭の口から零れ落ちる。
 それはコナンの背骨を妖しくまさぐり、脳天を痺れさせた。そんな声を聞かされては、もう止まらなくなる。がむしゃらに乳首にしゃぶりつき、わざと下品な音を立てて吸い上げる。

「やあ、や…いっ…コナン君…あっ……んん!」

 熱い粘膜がねっとりと乳首を覆う。それだけでじーんと身体が痺れてしまうのに、コナンは唇をすぼめきつく吸って、より強い快感をもたらした。

「ああ…コナン、く……やぅ……あぁ、あっ…そ、そこ……」

 気持ちいい…そう言うのすら追い付かないほどの強烈な刺激に蘭はしきりに身悶えた。
 コナンは片方の突起を唇にはさみ、扱いて、舌先でぐりぐりといびった。そしてもう一方は指先で転がし、揉みしだいては押しつぶした。

「あっ…ああぁ……や、あ…あく……い、いい!」

 もっと声を出させたいと、コナンは愛撫の手に力を込めた。

「コナンく…コナンくん……あぁっ……!」

 絶え間なく襲う愉悦に蘭は何度も顎を上げ、腰をくねらせた。時折コナンに向かって突き出す動きになっているのに気付きはっと自制するが、恥ずかしいほどぷっくり膨れ上がった二つの突起を舐められ、転がされ、扱かれて、みるみる内に身体の中に溜まっていく切なさには勝てず、どうにも止めようがなかった。

「蘭姉ちゃん…すごくいい声」
「だ…だって、あっ……こ、コナン君の、手も唇も舌も…き、気持ちいいから」
「それで……時々ひどくしてもらえると、もっと気持ちいいんだよね」
「んっ……」

 言い当てられ、蘭はぐっと息を詰めた。目をよそへ逸らし、しきりに瞬きを繰り返す。
 しかしついには認めて頷き、コナンへと視線を戻した。
 コナンは視線を受け取ると、淡く笑んだ。

「今日は、どんな風に痛くしてほしい?」

 くにゅくにゅと乳首を転がしながら訊く。
 蘭はぎこちなく目を落とした。
 指でつままれ、軽くひねられている自分の乳首。
 頭の芯までびりびり疼くほど気持ちよく、声が抑えられない。

「あ、あ…あ……」

 なんて気持ちいいのだろう。
 でも嗚呼、そこをひどく扱われ痛め付けられるのもたまらないのだ。
 蘭はきつく目を閉じて、喘ぐようにお願いした。

「あ、の……つめ…爪でぎゅって……してほしい」

 コナンは何も言わず支配者の貌で笑ったまま、要望通り爪をじわじわと食い込ませた。

「うぐ…うう……」

 急所を鋭く責められ、女が苦悶の声を上げる。
 だのに耐える姿はどこかうっとりとして見え、コナンはほっと安堵した。
 余裕ぶった顔をしてみせていたが、本当は気が気ではなかった。湯に浸かってふやけ、柔くなった肌に爪を立てるなどとても恐ろしくて出来ない。しかも急所になんて、いくら女が望んだとはいえ自制が働いてろくに力が入らなかった。
 それでも、いやそれが丁度良かったのだろう。
 冷静であったならさして痛くもない責めだったろうが、望んだとおりしてもらえたという事実が何より重要で、だから彼女は酔い痴れた。
 そう推測して、コナンは今度は爪ではなく指先で強めに突起を摘まんだ。

「や、いたぁっ……」

 またも蘭は苦しげに嬉しげにうめいた。

「痛いのが気持ちいいんでしょ」

 言葉で追いうちをかけ、コナンは強く引っ張った。この時も本当はおっかなびっくりで、大した力も入らなかったが、ぞっとするほどの色香を浮かべた笑みで頷く蘭を目にした途端、自制が吹き飛ぶ。
 容赦なく責められ、蘭は泣き濡れた声で叫んだ

「あぐ、いたいっ……あ、あ、あ……い、いたいの…気持ちいい……!」

 つねられる度ずきっと沁みる毒々しい痛みが、しようもなく心地良かった。
 コナンが…新一がそうしているのだと思うほどに快感は膨れ上がり、ただ痛いだけの行為は愉悦になり替わる。

「あ、ぁ…コナンく……いたいよぅ……で、でも…きもちい…の……」
 ごめん

 これ以上恥ずかしい自分を見ないでほしいと、蘭は両手で顔を覆い隠した。

「大丈夫。言ったでしょ、蘭姉ちゃんが全部好きだって」
「あぁ……うん」

 コナンはふっと力を緩めると、散々痛め付けてしまったお詫びにと優しく口に含んだ。

「あふっ……ん!」

 蘭は淡く喘いだ。じんじんと痺れるほどの痛みが、瞬く間に消えていく。まるでコナンの舌が苦痛を舐め取っていくようだった。

「あ、ああぁ……」

 痛みで縮こまっていた身体をゆっくり弛緩させ、蘭は優しい愛撫に酔った。すると再び、下腹にどっと熱い物が押し寄せた。呼応するように後孔までもずうんと痺れた。
 びくっと腰を震わせ、蘭は囁いた。

「ああ…だめ、コナン君……もう胸は…だめ」

 乳房を撫でてくる手に自分の手を重ね、やめるようせがむ。

「ダメじゃなくて……ねえ、蘭姉ちゃん」

 コナンはあやすように言って、引き止めてくる蘭の手を取った。それを自分の口元に引き寄せ、ちゅっと接吻する。
 蘭は熱っぽく見やると、言い直した。

「胸ばっかりじゃなくて……し、下も、触ってほしい……」
 ……おしりも

 最後は消え入るように零し、蘭は恐る恐る支配者の貌をうかがった。

「一杯してあげるよ」

 強い笑みと共に低音が放たれ、蘭の身も心もぞくぞくととろけさせた。
 コナンはふっと笑みを子供のそれにすり替えると、掴んだ蘭の手を引いて立ち上がった。

「まずは身体洗わなくちゃね」
「……うん」

 身体の内に籠る熱が際限なく膨れ上がっていくのを感じながら、蘭は後に続いて湯船を出た。

 

 

 

 腕も足も首元も、つま先まで撫でるようにして石鹸の泡で洗われ、残るは一番欲しいそこ…お尻の膨らみに、とうとうコナンの手がかかる。
 そこで蘭は言われるより先に膝立ちになり待った。

「こ、コナン君……お尻……お、お尻の中も……洗って……」

 つかえながらもお願いすると、またひくひくと後孔が疼くのを感じ、身体を洗われている最中から数えてこれで何度目だろうかと、蘭はうっすら頬を染めた。小さく唾を飲み込み、お願いしますと付け加える。身体の内も外も全部触ってもらう為の準備が、この一つで全て終わる。そうしたら、やっと…だから蘭は、恥ずかしさに竦みながらもお願いした。

「……いいよ、綺麗に洗ってあげる」

 コナンは背後に回り込んで、再び石鹸を泡立てた。
 蘭はしきりに瞬きを繰り返し、今か今かと待ち望んだ。なんてはしたないのだろうと泣きたくなるような切なさも、ついに訪れた瞬間に跡形もなく吹き飛ぶ。
 後孔に触れてきた指は、間を置かずぬぷりと内部にもぐり込んだ。

「はあぁっ……!」

 それだけで軽く達してしまったかのように熱く鳴いて、蘭はぶるぶると肩を震わせた。

「すごく気持ちよさそう…蘭姉ちゃんの声」
「だ…て……」

 楽しげなコナンの声に恥じ入り、蘭は口ごもった。

「ずっとこうしたかったんだもんね」
「……うん」
「身体洗ってる最中、蘭姉ちゃん凄い目で見てたもんね」
「……え!」
「腕とか足とかいいから、早く触ってーって、顔してたよ」
「や――やだ、わたしそんな……!」

 おろおろとうろたえる恋人にくすっと肩を竦め、コナンはすぐに嘘だと告げた。

「もう、コナン君……!」

 耳まで真っ赤に染め、蘭は振り返った。
 コナンはその顎を捕え、詫びの意味を込めて軽く接吻した。

「ゴメンなさい」
「ば、バカ……」

 蘭は触れた唇を小さく舐めると、視線を左右にさまよわせた。

「でも、そう思ってたのは間違いじゃないでしょ」

 言いながらコナンは潜り込ませた指を根元までひと息に突き入れた。

「あぅっ……」

 ぐっと抉られる感触に蘭は切なげに鳴いた。ぞくぞくっと愉悦が込み上げてきて、苦しいほどに身体が痺れる。

「……蘭姉ちゃんの声も大好き」
 ホントに可愛い

 コナンはゆっくりと手を引き、完全に指を抜き去った。

「あっ……」

 名残惜しそうに淡く零す蘭の声をもっと聞きたいと、コナンは再び指を埋めた。ぐっと一気に突き入れ、ゆっくり引き出す。そしてまたぬぷりと埋め込む。完全に引き抜く。

「あっ…あぁ…や、んぅ…う……あぁ」

 細い異物が、何度も何度も後孔を出入りする。ぬぷぬぷと繰り返される抜き差しに蘭はたまらないとばかりにくねくねと腰をうねらせた。そんな風に動いてしまう自分の浅ましさがどうにも恥ずかしかったが、それ以上に悦びがあった。

「あ、ああ…う…お尻、お尻が…ああコナン君……」
「お尻がなあに。まだ洗ってるだけだよ、蘭姉ちゃん」

 コナンがくすくすと笑う。

「だめ…笑っちゃだめぇ……」

 蘭は濡れた声で首を振った。
 ただ指を抜き差しされているだけで、どこも擦ってはいないし抉ってもいない。だから切ないのだ。物足りないのだ。蘭はより強い刺激を欲して自ら力を込め、きゅうきゅうと指を締め付けた。
 まだ準備の最中だというのに、もう我慢し切れなかった。

「可愛い蘭姉ちゃん……もういきたいの?」
「く、う……」

 しゃくり上げるように息を吸い、蘭は沈黙した。
 俯いたまま頷く事も首を振る事もしなかったが、顔を見れば何を云っているかすぐに分かった。

「じゃあまだ我慢出来る?」

 肩越しに覗き込んでくるコナンへと顔を向け、蘭は何事か呟いた。しかしそれはとうとう意味のある言葉にならず、蘭は困り果てた顔でまた俯いた。

「もっと素直になれば、もっと気持ちよくなれるよ」

 その言葉に後押しされ、再びコナンへ目を向けると、蘭はつかえながらも告げた。

「お…お、お尻でしたい……し、し、して……」
 コナン君……いきたい

 胸元まで真っ赤に染め、出ない声を必死に絞り出して訴える蘭にコナンは喉を引き攣らせた。愛しい女にこんな風に求められて、どうして平然としていられるだろう。

「……一杯してあげる。いかせてあげるよ」

 鼓膜を震わす心地良い低音に蘭は声もなく仰け反った。
 直後、四肢が突っ張る。ただ出入りするだけだった指が、大きくうねりだしたのだ。

「あぁあっ!」

 高い悲鳴を張り上げ、蘭はびくびくと震えを放った。欲しくて欲しくてたまらなかった刺激の訪れに声が止まらなくなる。

「あ、あ…いっ…あぁ……そこっ……!」

 ぐりぐりと抉ってくる指に合わせて右に左に腰をくねらせ、蘭は甘い声をしとどにもらした。

「ふっ……くぅ! あ、あ、あぁ、ああ!」

 仰いては俯き、絶え間なく嬌声を紡ぐ女に息も出来なくなる…コナンは目を眩ませながらひたすら抽送を続けた。
 蘭が陶酔するようにコナンもまた、享楽の時間に酔い痴れていた。
 女の甘えた声は、熱い手に似ていた。絶え間なくもれる声が耳に入ってくる度、熱い手でひたひたと身体中まさぐられているように思えるのだ。背骨はびりびりと疼き、立っているのもやっとな程の強烈な愉悦に頭が白く痺れる。たまらない、もっと欲しい。
 膨れ上がる欲望に素直に従い、コナンは強くきつく女の後孔を擦り立てた。

「あ、いっ……こ、コナンくん……お尻…あは……お尻いいの……はうぅ!」

 妖しく蠢かせていた腰をびくっと引き攣らせ、蘭は低くうめいた。
 奥まで指を埋め込む度ひくついて嬉しそうにわなないていた後孔が、きゅうきゅうと締め付ける動きに変わる。極まりが違いのだと気付いたコナンは、時折びくっと腰を跳ねさせる蘭に背後から腕をまわして抱きしめ追い上げた。

「やっ…んぅ…だ、め……あ、だめ……!」

 蘭は苦しそうに息を詰めて、喉元に回されたコナンの腕に縋った。じくじくと腰の奥底で緩くうねっていた快感が、急にはっきりとした刺激となってせり上がってきたのだ。身体はひと時もじっとしていられず、ともすれば大声で叫びたくなるような衝動が後から後から込み上げてくる。

 ああ…お尻でいっちゃう

 感じ取った蘭はぶるぶると首を打ち振った。どんなに噛み殺しても鋭い悲鳴が口から迸り、目の前が白く霞む。

「大丈夫。ちゃんとつかまえてるから、いっていいよ」

 蘭の耳朶に囁きをかけ、コナンはとどめとばかりにぐいぐいと抉った。

「ん、んん! くっ! ああぁ……!」

 コナンの腕にしっかりしがみ付き、蘭は高い悲鳴と共に絶頂を迎えた。
 浴室を満たす女の甘い声に、コナンも擬似的な極まりを迎える。腕の中縮こまり、数秒硬直する蘭をぼんやり眺め、そういえば身体を洗い流していなかったな…そんな事を取りとめなく思う。

「あ…あぁ……はぁあ……」

 ようやく呼吸を取り戻し、蘭は何度も喘いだ。掴んでいたコナンの腕から手を離し、洗い場にへたり込むと同時にそのままだらりと下げる。
 コナンは腕をほどくと、後孔からも指を引き抜いた。手を洗い清め、蘭の身体にまとわりつく石鹸の泡を手桶に汲んだ湯で洗い流す。

「ありがと……」

 はにかんだ顔で蘭は振り返った。ちらっと一瞬だけコナンの顔をかすめ見る。

「なあに、蘭姉ちゃん」

 二度、三度と繰り返し肩から湯をかけてやりながら、コナンは聞き返した。

「あ、あのね……」

 蘭の言いたい事は分かっていた。先刻彼女が自分に言った通り、顔に書いてある。絶頂の余韻が残る潤んだ眼差しや、口元に、表れている。

「さっきも言ったでしょ。もっと素直になったら、もっと気持ちよくなれるって」
「……うん。だから、あの……」 
 もう一回したい

 熱く注がれる眼差しを笑みで受け止め、コナンは言った。

「もう一回だけで足りる?」
「!…」

 途端にびくんとはずむ蘭の肩を見て、コナンは笑みを深めた。

「だ…だってそれは、コナンくんが……!」

 しどろもどろに言い繕って、蘭は忙しなく目を泳がせた。
 コナンは両手を頬に差し伸べ、自分の方を向かせた。戸惑いつつも見上げてくる視線をまっすぐ見つめ返し微笑む。

「……そうだよ。ボクがそうしたんだよ。蘭姉ちゃんの身体全部、どこもかしこも全部気持ち良くなるように、一杯触ったから」
「じゃ…じゃあ、分かるでしょ……」

 蘭は弱々しく言い返した。
 少し困った風に笑い、コナンは顔を寄せた。
 それを蘭は寸前で押しやるように止めた。そんな顔をさせてしまったのが心に堪えて、思い直したのだ。
 はっきり伝えようと。

「たくさん…たくさんしたい」

 告げて、蘭は手を離した。
 ほっとしたように笑って、コナンは唇を重ねた。

「してあげる。うんとたくさん…蘭姉ちゃんがほしいだけしてあげる」

 そしてまた口付ける。
 唇を重ね合わせたまま、蘭はこくこくと頷いた。それからコナンの唇にちゅっと吸い付き、おずおずと舌を差し入れた。
 コナンは触れていた手で何度も頬を撫でると、喉元から胸へとすべらせた。

「ん、あふ…ん」

 親指で乳首をくにゅりと転がすと、蘭がうっとりした声で応えた。

「蘭姉ちゃんがもういいって言っても、してあげる」
「そんな……」

 抗議するように眉根を寄せ、蘭は呟いた。

「お尻だけで何回いけるか…試してみようか」
「やっ……」

 怯えに似た声が零れた唇を自分のそれで優しくくすぐり、コナンは深く口付けた。
 大きく食んでくる接吻を受けながら、蘭はしきりに身ぶるいを放った。今まで何度も、それこそ数えきれないほどコナンに責め抜かれた記憶が、くっきりと脳裏に浮かんだからだ。もうやめてほしいとどんなに泣いて訴えても許してもらえず、本当に限界が訪れるまで…本当に満足するまで解放してもらえなかった。そこまで追い詰めながらも、彼はいつだって本当に嫌がる事は強いたりしない。危うい境目で苛めて、全身で愛してくれる。
 終わった後はもうこれっきりにしたいと思うのに、何故かまた欲しくなる強烈な快感。
 今日もまたそれを味わわせてくれるのだと思うと、蘭は震えてしまうのをどうにも止められなかった。

「……あっ!」

 乳房を離れ下腹にもぐり込んだ小さな手が、迷わず花弁を探り当てる。蘭は鼻にかかった甘い声を零し、びくんと身を竦めた。

「……蘭姉ちゃん、もうここぐしょぐしょ」

 わざとあどけない声で言ってくるコナンにかっと頬を赤らめ、蘭は唇を噛んだ。

「こ…コナン君がそうしたの……」

 いやというほど乳房を貪られた時から、はしたなく濡らしていたのは自覚していた。その上、愛撫に我慢しきれなくなり後孔で絶頂を迎えた後とあっては、仕方のない事。そう割り切りたかったが、やはり言葉で指摘されると身の竦む恥ずかしさに苛まれる。

「このままじゃつらいでしょ。素直に言えたご褒美に、こっちもいかせてあげる」

 よくも言うものだと、コナンは内心で自分に呆れる。
 実のところ、自分がそうしたいのだ。一回でも多く、彼女の声を聞きたい。あの熱い手で触ってもらいたい。

「ん! う……おねがい……」

 蘭は眦まで真っ赤にしてコナンを見上げた。

「いっぱいして…お願い、コナン君」

 熱に浮かれとろんと潤んだ瞳で愛しい男を見やる。

「ぜんぶあげるから……」
「可愛い蘭…ねえちゃん」

 低く囁き、コナンは慣れた手つきで花弁を左右に割り開いた。そしてねっとりとした蜜をたたえる膣口を中指の先でくちゅくちゅとくすぐる。

「あ、あ…やん……」

 たちまち蘭の唇から甘ったれた声が零れ落ちる。
 ぞくぞくっと背筋を這い上がる痺れるような愉悦がたまらないと、蘭は素直に喘いだ。
 腰を砕けさせる声にコナンはうっとりと目を細めた。どこをどう触れば彼女が悦ぶか知り尽くした手で、更に愛撫を続ける。

「あぁ…あ、そこ…気持ちいい……」

 蘭はとろんとした目で呟いた。小さな手が、ぬちゅぬちゅと粘ついた音を立てて媚肉を前後に擦り立てる。切なくなるような淡い痺れがその度に全身に広がって、声が抑えられない。恥ずかしいのに腰が動いてしまう。

「ああっ、やぁん!」

 間を置かず、親指が花芽を舐めてくる。思わず発してしまった媚びるような自分の甘ったるい声に竦み上がって、蘭はぎゅっと目を瞑った。

「ここが一番気持ちいいんだよね」

 反応に満足して、コナンはくにゅくにゅと花芽を弄った。

「うん、やっ、だめぇ……あっ…あ、そこはぁ……!」

 蘭は反射的にコナンの肩にしがみ付き、腰を浮かせるようにして逃げた。しかしすぐに追い付かれ、また親指の腹でぬるぬると花芽を舐められる。途切れる事なくもたらされる強烈な悦楽に蘭はびくびくと身体を強張らせ、踊るように腰をくねらせた。

「そ、そこばっかり…やっ…だめ、ああ気持ちいい…ああっ! コナンくぅん……やぁ!」

 甘えるような嬌声と鋭い悲鳴が交互に女の口から放たれる。

「ああぅ…いいっ……や、だめ、だめ…コナン君…そこ――いやぁ! あぁ――あああっ!」

 抱き合う形で愛撫しているコナンには、彼女の声はすぐ耳元で発せられ、間近でこんなにも熱い喘ぎを聞かされてはひとたまりもなかった。もっと鳴かせたい、狂わせたい、どろどろに滾った欲求が瞬く間に膨れ上がる。

「ここされるのイヤ? じゃあやめようか?」

 言葉は拒絶のそれだが、本当に嫌がって言っているわけではない事をコナンは知っていた。きっと、今、顔に浮かんでいるのは、拒絶の苦悶ではなくとろけるような官能だろう。それを知っていて、あえて意地悪く彼女を追い詰める。

「あうぅ…や、やだぁ……」

 ぴたりと動きを止めた親指に蘭は今にも泣きそうな顔で首を振った。触られている間は、脳天が真っ白に痺れてもう耐えられないと逃げたくなるが、いざ手が止まると身体の内に欲求が溜まり、しようもなく切なくなる。

「どっちもイヤなの?」

 あやすように言ってコナンは笑った。

「い…いじわるしないで…い、いかせて…ん、あっ……いっぱいしてくれる…て…言ったでしょ……」

 すすり泣くように息を吸い、蘭は少し拗ねた声で言った。しがみ付いたコナンの肩を抱き寄せて、半ば無意識に腰をうねらせ、自ら親指に擦り付ける。

「ゴメンね。蘭姉ちゃんの声がいっぱい聞きたかったから意地悪しちゃった。ゴメンね」
「そんなの……あぁっ!」

 蘭の口から高い悲鳴が上がる。
 不意に動きを再開され、蘭は一気に絶頂へと押し上げられた。

「や、いく、いくぅ! いっちゃう…ああぅ…あ、あ……いくぅっ!」

 瞬間ぶるぶると大きく身体をわななかせ、蘭はぐっと息を詰めた。
 花芽を責めていたコナンは、蘭が硬直すると同時に二本の指を膣内に突き入れ、彼女の好む強さで深奥をごりごりと抉った。内部のきつい収縮を心行くまで味わおうと、締め付けに逆らって何度も指をくねらせる。

「ひぃうっ――!」

 針の振り切れる感触に蘭はうめきを上げ、ひくっひくっと小刻みに震えを放った。

「あ……はあぁ……」

 止まった呼吸が戻ってきたのを合図に、コナンは指の動きを止めた。

「ああ…あぁ……きもちいい……」

 うっとりと呟き、蘭は脱力した。
 そんな女の様子に陶然とした笑みを浮かべていたコナンは、呟く声に思い出したように目を瞬いた。
 そっと耳元でささやく。

「……もっとしてもいい?」
「や…すぐはダメ」
「お願い。もっとさせて」

 コナンは軽い抜き差しを始め、再度聞いた。

「だめぇ…すぐはきついから……」

 蘭はいやいやと首を振り、しないでと懇願した。けれど本当はそれを期待してもいた。お願いを聞き入れてもらえず、苦しい中強引に何度もいかされるのを期待していた。

「してもいいでしょ、蘭姉ちゃん」
「ああ…だめよ……だめ――あぁっ!」

 熱っぽく喘ぎながら、蘭は口先だけの拒絶を繰り返した。達したばかりで敏感になった身体にもたらされるあの息も出来ないほど苦しくて強烈な快感は、怖いと思うと同時にひどく魅力的だった。とことんまで乱れ狂ってしまう様を、自分の中に潜む露悪的な部分をありのまま見せたい。
 けれどそれを自分から要求するのはまだ抵抗があった。きっと、何度繰り返してもそれは出来ないだろう。もっとしてほしいとは言えても、苦しいのがほしいとはとても言えない。だから受動の影に隠して、反対の言葉でねだる。
 自分の事を全て知り尽くしている彼にだからこそ、委ねられるお願いだった。
 果たしてコナンはそれを理解していた。始めの頃は本心から嫌がっていた。敏感になった個所を更に責められるのだ、身体が慣れてない内は辛いだけのものなのは当然だ。それが、いつからか変化した。言葉は変わらないものの声音は微妙な変化をみせ、能動を隠してねだってくるようになった。
 一緒に探して育んだものにコナンは薄く笑みを浮かべた。

「やっ……胸だめ!」

 深奥をくじりながらもう一方の手で乳房をゆるゆると揉まれ、蘭はうろたえた声を発した。

「ねえ……しようよ」

 ぷるんと弾ける膨らみの上でつんと尖った乳首を口に含み、舌で転がして、コナンは執拗にねだった。

「んぅっ!」

 熱い粘膜に包まれた途端、呼応して蘭の下腹がきゅっと収縮する。潜り込ませた指に絡み付いてくる感触に口の端で笑い、コナンはしつこく乳房を弄った。

「やぁ、コナンくん…胸しちゃだめ……」
「奥までこんなに濡れてるのに、どうしてダメなの……?」

 深くまで指を埋め、柔らかく包む粘膜を愉しむように抉る。
 絶頂の余韻に浸る間もなく再び火を灯され、蘭は涙交じりの声を振りまいた。

「やっ…だ、だめ…だめなのにぃ……」

 またすぐに達してしまうと、コナンに泣き縋る。
 膣内の奥深くから浅くまで残らず擦られ、かき回され、身体がどうにかなってしまいそうだった。その度にもれる粘ついた水音に耳までも侵され、脳天が甘く痺れる。おかしくなる。蘭は真っ赤な顔を振りたくった。

「そんな顔で泣いてもダメ。蘭姉ちゃん、もういきたくてたまらないでしょ」
「そ、そんな事……や、だめぇ! 気持ちいい、あぁ! そこ気持ちいい……やだ、あうぅ! んんっ!」

 いやというほど内襞を擦り立てられ、呼応して後孔までもひくつき始める。それに気付き、蘭は恥ずかしさに涙を浮かべた。けれどやはり、こんなにも乱れる自分が、ここまでしてくれる彼の手が、たまらなく気持ちよかった。
 そこで不意に手の動きが緩められる。

「ああっ……あう……」

 ゆっくりとした抽送を繰り返すコナンに、蘭はいささかの不満を込めて身じろいだ。

「続きは蘭姉ちゃんがして」

 コナンは言葉と共に、肩にしがみ付いていた蘭の右手を掴んで離させた。

「……え?」
「ボクはお尻を触ってあげるから、続きは蘭姉ちゃんがして」

 そう言って右手を下腹に導かれ、ようやく蘭は言葉の意味を理解した。

「やぁ……」

 自分の手でそこに触れてしまう前に拒み、おずおずとコナンを見やる。
 コナンは薄く笑ったまま何も言わず、膣内に埋め込んだ指をゆっくり引き抜いた。

「あ、いや……」

 蘭は反射的に下腹に力を込めたが、抜けていく異物をどんなに締め付けても引きとめる事は叶わなかった。返って、恥ずかしい思いをするだけだった。

「うくっ……」

 自分の行為に恥じ入って俯いた蘭の眼前に、コナンは濡れた手を差し伸べた。
 自分の匂いにまみれた手を目にして、ますます蘭は縮こまった。見れば手の甲には、白くとろっと濃いものまで垂れていた。

「こんなになってるのに、途中でやめたらつらいでしょ。だから続きは蘭姉ちゃんがして」

 ボクはお尻を触ってあげる
 まっすぐ目を覗き込み、コナンは再び蘭の手を下腹へと持っていった。

「う……」

 強制という自発で、蘭は自らの媚肉に触れた。
 コナンは満足げに笑んで、蘭の手に自分のそれを重ね中指と薬指に力を込めた。添えられた蘭の中指と薬指が、濡れそぼりひくつく媚肉の中にぬぶりと入り込む。

「ほら、もっと奥まで入れて」
「ああ…や、こんな……」

 恐る恐る自らの指を咥え込み、どこかうっとりした声で蘭は仰のいた。
 コナンの前で自慰をするのはこれが初めてではない。今まで何度も、痴態を晒してきた。消えてしまいたいほどの恥ずかしさに苛まれるのに、それを上回るはちきれんばかりの悦びに際限なく興奮してしまう。昂る気持ちを止められない。
 媚肉に食い込んでいる様ははっきりとは見えなかったが、内部を満たす指の感触、指に絡み付く熱いほどの粘膜の感触に、身体の震えが止まらなかった。

「こ…コナンくん……!」

 戸惑って喘ぐ蘭をしっかり抱きしめ、コナンは大丈夫と囁いた。

「お尻…触ってもいい?」

 小さく頷き、蘭はすぐに首を振った。

「だ、だめ……そんなにしたら…わ、わたし……だめぇ」

 悲痛な声で拒みながらも、蘭は膝を開いてコナンを誘った。

「触っていいよね……蘭姉ちゃん」

 誘われてコナンは濡れた手を奥の窄まりへと伸ばした。

「だめぇ…だめっ……おかしくなっちゃうから……」

 自分の手をぬるりと撫でながら奥へ進むコナンの小さな手に蘭は恐ろしげに顔を歪め、小さくしゃくり上げた。

「………」

 おかしくなりそうなのは自分の方だと、コナンは喉を鳴らした。蘭を見れば、熱っぽく潤んだ瞳を向けて小さく震えていた。視線を絡ませたまま、コナンはゆっくり指を這わせた。

「あぁ……コナン君」
「……なあに」
「お、お尻…触って。中もっ――!」

 切れ切れに綴る蘭の声が半ばで途切れる。
 ついにコナンの指先が窄まりを探り当て、触れてきたのだ。

「くぅ、ん!」

 鼻にかかった甘い声をもらし、蘭は肩を弾ませた。

「蘭姉ちゃんのお尻…全部触ってあげる」

 触れた途端きゅっと引き締まる動きを愉しみながら、コナンは何度も窄まりをつついた。

「ああぁ……そこっ……!」

 揉むように蠢く指先に蘭は腰をくねらせた。

「ん…ん、や…あぁ……」

 折り重なった襞を確かめるようにしつこくなぞられ、その度沁み込んでくるぞくぞくするような淡い刺激に蘭は何度も喉を鳴らした。
 時折指先に力が込められ、中に入りそうになるが、まだお預けとばかりにすぐ力が抜かれる。入りそうで入ってこない。力を抜いても、逃すまいと縋り付いても、指は意地悪く途中で侵入をやめてしまう。じれったい刺激の繰り返しに蘭はいやいやと弱々しく首を振った。力を込めると、当然媚肉に咥えた自分の指をも締め付ける事になる。それもたまらなく心地良かったが、だからこそ、後孔への刺激がほしくなってしまう。今ある愉悦と、物足りなさとに腰がとろけてしまいそうだった。
 とうとう耐え切れなくなり、蘭は口を開いた。

「ああおねがい……中も、触って……」

 わなわなと震える唇で告げ、かたく目を閉じる。

「……触ってあげる」

 低く素っ気ない、それでいて熱い囁きが鼓膜を犯す。

「!…」

 直後、ぐぐっと指先が内部にもぐり込んできた。目を閉じているせいか、よりはっきりとした快感が身を襲ってくる。自分のそこにどんな異物がどんな動きで入り込んでくるか、よりはっきりと感じ取る事が出来た。

「あ、あ、あああぁ――!」

 後孔への侵入に蘭は細い悲鳴を迸らせ、愉悦の震えを放った。
 コナンの全身をまた熱い手が這う。甘い痺れが何度も脳天を直撃して、息も出来なくなる。
 苦しくて、それ以上に心地良かった。
 コナンは指を二本に増やすと、間を置かずぐぐっと根元まで埋め込んだ。

「んぅっ!」

 狭い口をこじあけ、力強く分け入ってくる異物に蘭はくっと顎を上げた。
 根元まで埋め込まれた指は更に深くまで押し入れられ、ぐいぐいと抉る動きをみせた。

「やあぁっ、それだめぇ!」

 後孔にもたらされる甘美な刺激に蘭は高い声で泣いた。
「ダメじゃないよね。こうすると蘭姉ちゃん、ほら……すごく気持ちよさそうにするもの……」

 ひ、ひ、と引き攣る喉で何度もしゃくり上げながら懸命に頷く蘭にうっとり目を細め、コナンは同じ責めを繰り返した。

「やっ…だめぇ、それ…あ、ああ、いいの、いい…ああだめ……ああっ!」
「この辺を拡げられるのも好きだったよね」
「あ、あ、あああぁ……!」

 狭い深奥を拡げるようにぐりぐりと擦られ、もうじっとしていられないとばかりに蘭は妖しく腰を蠢かせ始めた。埋め込んだままだった指で半ば無意識に自身の膣内をかき回し、より深い快感を求めて溺れる。
 蘭の指が動き出したのに気付いて、コナンは薄い肉壁越しに擦って刺激した。

「やっ…それだめっ、苦しい……あぅ…ううん、気持ちいい……コナンく…ああ…なんでこんな、あ、あ…コナンくん……ああっ!」

 蘭は我を忘れたように喘ぎ続けた。
 甘い嬌声と忙しない吐息が続けざまに零れ、どれほど感じているか目を閉じていても分かるほどだ。もちろん目を閉じるなんてもったいない事はしない。形良い眉を少し寄せ、恥ずかしいと思いながらも抗えない愛撫に酔い痴れ、うっとり浸る女の顔にコナンはじっと視線を注いだ。後孔に食い込ませた指はその間も絶え間なく動かし続け、高い悲鳴と共に何度も跳ねる身体を存分に味わう。
 女の手が動く度ぐちょっぬちゅっと淫らな音がもれ、二人をより興奮させた。

「あ、あふっ…きもちいい……気持ちいいの……くううぅ――コナン君…ああぁ…気持ちいい!」
 もっとして……いかせて!

 度を超えた悦楽にぽろぽろと涙を零し、蘭は首を打ち振った。自らの手で媚肉を慰めている事が浅ましい、後孔を抉られて喘いでいる事が恥ずかしいと思う気持ちはほとんど薄れていた。
 すっかり溺れ切って享楽に耽り、悶えてよがり狂う女にコナンは目も眩む思いを感じていた。喘ぎ喘ぎ声をかける。

「……そんなに、気持ちいいんだ」
「ああ、あ、ああ! き、気持ちいい! ああだめ! そこ気持ちい……腰が抜けちゃう……ああ、コナンく…きもちいい!」
「どこが気持ちいい?」
「どっちも…あ、あぅ…どこもきもちいい……お尻も、前も……お、奥まで、ぜんぶ…あ、あ、ああぁ、ぜんぶいいのっ、あ! ああぁっ! 擦っちゃだめ――おかしくなるぅ……!」

 絶頂が目前まで迫っているのだろう。蘭の腰が時折びくんと鋭く跳ねる動きを見せ始めた。

「いきそう?」

 蘭は唾を飲み込み、がくがくと頷いた。

「い、いきた…いきたい……いかせて、おねがい…ああコナン君おねがい……もういっちゃう!」

 声が切羽詰まったものに変わる。低くうめくように喘ぎ、息遣いもかなり激しい。

「いきたい?」

 焦らす事なく追い上げながらコナンは聞いた。

「ん、うっ…い、いきたい…ああいく……いく! もう、もう……!」

 いく…目の端に涙を溜め、蘭はうわごとのように繰り返した。眉根を寄せ、全身に広がる強烈な快感に激しくわななく。
 後孔を擦るコナンの指に合わせて自らの手を動かし、更には手のひらで押しつぶすように柔芽をきつく揉みしだく。

「あう、だめ――だめぇ! もういく、いくっ…いくうぅ! あぁ……しんい……しんいち――!」

 迸る女の高い声にコナンの背骨がずきんと疼く。

「くあぁっ……!」

 蘭はぐっと背を反らせると、自身の奥深い場所をぐりぐりと抉り抜いてとどめをさし、針の振り切れた絶頂の快感に酔い痴れた。刺激を受けて、膣内から熱い物がぷしゃあっと吹き出す。

「あぁ……」

 己のはしたなさに震える声で泣き、蘭は新たな涙をひと粒零した。
 しかしその顔には、うっすらと喜悦も浮かんでいた。
 眼前の恍惚とした表情に、コナンは呆けたような、うっとり見惚れるような笑みを浮かべていた。
 浴室にはしばし二人分の忙しない息遣いが続き、やがて静まっていった。

 

 

 

 

 ふう…と深いため息が、向かいにいる蘭の口から静かに零れる。
 心底すっきりしたと表情で語る蘭をコナンは穏やかに見つめていた。
 あの後、再び身体洗い髪を洗い、またこうして二人一緒に湯船に浸かっていた。
 すっかり冷えてしまった身体にぬるめの湯が心地良く沁みる。
 肩まで浸かり、気持ちよさそうに目を閉じた蘭の表情が、風呂の良さをじみじみと語っていた。
 そんな女の様子をじっくり眺めながら、自分も同じだとコナンもまた肩まで沈めた。
 女の顔にあった疲れはすっかり消え去っていたが、今は別の疲れがうっすら浮かんでいた。誰が、どんな疲れをもたらしたのか。コナンは申し訳なさそうに眉を寄せ、心の中でそっと詫びた。

「ねえ、今笑ってるでしょ。私の事見て」

 と、蘭の口からそんな言葉が零れる。
 半分辺りで半分外れだと、コナンは口端を緩めた。

「間抜けな顔して風呂入ってるなーとか、思ってるでしょ」

 蘭は目を開けると、きっとばかりにコナンを見やった。
 けれどそれは本当に怒って、機嫌を悪くしてのものではなかった。
 いつもの軽口、他愛ないやり取りのそれだった。
 声の調子と表情からコナンは的確に読み取る。少し面倒で、それ以上に愛しく思う瞬間。
 大げさなしかめっ面、ぎゅっと結んだ口まで可愛らしくてたまらなくて、コナンは調子を合わせた。

「えへへ、バレちゃった?」
「もー、コナン君はホント意地悪なんだからあ」

 屈託なく笑うコナンに合わせて波顔して、蘭も肩を揺すった。
 そんな明るい声が、不意に潜められる。

「ねえ……あのさコナン君……その…どのくらいまでエッチなの…許せる?」

 ひどく言いにくそうに口ごもりながら蘭は聞いた。
 藪から棒の質問にコナンはぱちぱちと目を瞬き、素っ頓狂な声を上げた。

「だって、だって私……、もうかなり…いっちゃってるから……」

 自分が今までしてきた痴態の数々を思い出し、蘭は小さく縮こまった。視線は落ち着きを失い、きょろきょろと揺れ動いた。
 段々と弱まっていく女の声にコナンは思わず笑ってしまいそうになる。喉まで出かかったのを急いで飲み込み、大きく首を振る。

「蘭姉ちゃん、ホントに可愛いね」
「か、可愛いで済ませられるものじゃないじゃない……あ、あんな事とか、いっぱいしてるし……」

 数々の「あんな事」を思い浮かべて恥じ入る姿にますますコナンは笑みを深めた。
 どんなに貪欲になろうと恥ずかしい姿を晒そうと、自分は全て受け入れられる自信がある。
 もちろん、条件付きだが。

「大丈夫だよ。ボク、蘭姉ちゃんどこまでも好きだから」
「私も好きよ、大好き。好きだから…やっぱり怖くなる」

 不安に駆られふらふらと下方をさまよっていた視線が、唐突に上向きコナンをまっすぐ捕えた。

「……コナン君が、コナン君がそうしたんだから、最後まで責任とってよ」

 至極真剣な顔で蘭が告げる。
 言われるまでもない、最初からそのつもりだと、コナンは真っ向からの視線に応えた。
 目が少し潤んで、今にも涙が零れそうになっている。
 そこまで思い詰める事もないだろうに、嗚呼、可愛い女。

「蘭姉ちゃんをこんなにエッチにしたのは、ボクにも責任があるもんね」
「……そうよ」
「だから最後まで責任取るよ。絶対に……離すもんか」

 最後の言葉は自分にも向けて言う。
 少し怖いほど真剣な眼差しに蘭は眦をほんのり赤く染めた。大声で叫びたくなる衝動が胸の内で激しく渦巻く。

「だからバカな心配しないで、ゆっくりお風呂あったまって」
「……バカじゃないもん」
「じゃあ、マヌケ。やーいやーい蘭姉ちゃんのマヌケ」
「んもー……コナン君!」
「うわぁ、ゴメンなさい!」

 特別痛そうなゲンコツを振り上げた蘭に急いで頭をかばい、コナンは必死に謝った。
 大げさな顔がおかしくて、蘭はつい笑ってしまう。
 二人は目を見合わせ、浴室一杯に笑い声を響かせた。

 

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