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 扉越しに流水音が聞こえ、しばし続き、完全に止んだ後、ようやく蘭が中から出てきた。
 洗面所の戸口に立ち待っていたコナンは、出てきた蘭にほんの少し頭を動かすだけではっきりと見る事はせず、しかし目の端ではしっかりと、様子を見守っていた。異変があれば、すぐにでも飛んでいけるように注意を払う。
 ぐったりと疲れた表情を顔に貼り付け、いささかふらつきながら、蘭は洗面所へと進んだ。
 目を見合わせず見守るコナンから顔を背けたまま、横を通り過ぎ、洗面台で手を洗う。
 水を止め、手を拭い、そのまま数秒立ち尽くす。
 何度か、振り返ろうとする動きが見られたが、その度に蘭は躊躇って思いとどまり、俯き、しきりに左右を見回した末観念したように向きを変えた。
 足元に落としていた視線をおずおずと持ち上げ、コナンを見やる。
 目が合うのを待ってから、コナンは言った。

「一人で偉かったね」
「コナン君……」

 優しくかけられた愛くるしい声に、蘭は泣きそうな顔で跪いた。

「大丈夫だった?」

 抱きしめようとするコナンの腕から慌てて身を引き、蘭は今にも消え入りそうな声で駄目と制した。

「……どうして?」

 素直に動きを止め、コナンは聞いた。

「だって…あの……なんか汚い」
「どこか汚しちゃった?」
「そ、そうじゃ……」

 大丈夫かと心配するコナンから顔を背け、蘭は真っ赤になって首を振った。
 自分は今しがた、排泄を済ませてきた。
 自然のものならば、ここまで拒否反応も出なかっただろう。しかし浣腸薬を使っての強制的な排泄は別だ。どこか汚したわけではなく、事後にきちんと全て拭ったが、最中の音と臭気が、今も身体にまとわりついているような気がしてならないのだ。
 それがせいで、コナンの抱擁を受け入れられなかった。
 本当はとっくに、一度目の時に、排泄の始めから終りまですべて見て聞かせてしまったとはいえ、やはり躊躇われてならなかった。

「ああ……」

 蘭の態度から遠からず答えを掴んだコナンは、ふと頬を緩めた。

「これから一緒にお風呂に入るんだし、気にしなくて大丈夫だよ」

 そう明るく言ってコナンは腕を回した。

「……うん」

 蘭は少し身を固くしながらも、今度は素直に抱擁を受け入れた。
 本当は、抱きしめてもらいたかったのだ。
 偉かったねと、優しくあやす言葉に涙が滲んだ。
 いつもならそんな言葉、小さな子供に向けるような言葉は癪に障るが、のたうち回るような苦しみを早く癒してもらいたくて、最中からずっとその事ばかりを考えていた。
 彼ならきっと抱きしめてくれると、甘えていた。
 そしてその通り、彼は意地悪も言わずからかいもせず、ただ優しくとだけで頑張ったねと迎えてくれた。

「……すごく…苦しかった」

 蘭は抱き縋り、こそっと囁いた。
 しかしこの二度目の苦しみは、自分から言い出したものだ。
 今日、そこに至った経緯はよく覚えていない。
 二人で済ませた夕食後、彼との他愛ない話から始まって、いくつか言葉を交わした後、気付けば使う事に賛成していた。小五郎が朝から調査で出かけ不在だったのも、要因の一つ。
 身体中、残らず触ってほしいと胸の内に湧いた欲求からそこに至ったのだが、コナンはしばし目の奥をうかがっていた。
 心配しての事とは分かったが、その一方で、嗤われている錯覚を抱く。
 そうまでして触ってほしいの?
 この前あんなに苦しがっていたのに
 それは自分自身の言葉、浅ましい欲望に身を縮めながらも蘭は頷いた。

 たくさん…触ってほしいから

 告げる自分の声が聞こえなくなるほど羞恥が込み上げたが、言ってしまうと更に欲求は増した。
 コナンは分かったとだけ頷き、薬液によって生じた痛みに耐える蘭をトイレへと連れて行った。
 一人で出来ると蘭は手を離し、ならば気を付けてとコナンは見送った。
 それから数分。
 痛みに喘ぐ、気の遠くなるようなほんの数分の後、蘭は心配ごとを全て流してトイレから出てきた。
 ふらつく足で洗面所に向かうと、一人で偉かったねとコナンに迎えられ、少し涙が滲んだ。

「よく頑張ったね、蘭姉ちゃん。風邪引いちゃうといけないから、お風呂に入ってあったまろう」
 ね、蘭姉ちゃん

 優しく包み込む声音にひと粒、涙が零れた。
 こんな事で泣いてしまうなんて…恥ずかしさに蘭は慌てて拭おうと手を上げた。
 それより早くコナンは唇を寄せると、頬に零れた涙を吸い取った。

「苦しかった分、うんと気持ち良くさせてあげる」

 今しがた聞こえた声…風呂へと誘う子供らしい高音とは打って変わった支配者の声が、鼓膜を甘く犯す。

「あっ……」

 間近で目を覗き込むコナンに唇をわななかせ、蘭は瞳を揺らした。

「おねがい……」

 熱っぽい囁きにふと頬を緩ませ、コナンは女の鼻先をさらりと撫でた。支えてやり立たせると、中へと促す。
 すでに下着のみになっていた蘭は上下とも脱ぎ去ると、髪をまとめ上げ、促す手に従い浴室へと足を踏み入れた。

「今日は、すごく寒かったね」

 からからと戸が閉まる音を聞きながら、コナンは振り返って他意なく言った。

「……うん、風も強かったしね」

 いつの間にか心まで縮こまってしまっていた事に気付いた蘭は、引き上げてくれる可愛らしい声に内心感謝しながら明るく言葉を繋げた。
 洗い場にしゃがんで互いに湯をかけ合い、合間に首をくすぐったり背中をつついたり少しばかり戯れながら、湯船に浸かる。

「あっ……つーい!」

 足の片方を入れた途端、蘭はうーんと息を詰めた。
 自室もリビングも暖房を効かせていたが、長く半裸でいたせいですっかり肌が冷えてしまっていた。湯温はややぬるめに設定していても、冷えた身体には銭湯の熱い湯ほどに感じられ、蘭は中腰のままぴたりと動きを止めた。

「蘭姉ちゃん、ほら早く、肩までちゃんと浸かって」

 熱くて中々入れないと身を縮める蘭に笑いかけ、コナンは手を掴み引っ張り入れた。

「わ、分かってるわよ……」

 無邪気な声がいっそ憎たらしい、息も絶え絶えに笑い返し、蘭は険しい顔付きで耐えながらじわりじわりと肩まで身体を沈めた。

「……ふう」

 首元に波立った湯を感じる頃には大分身体も慣れて、今度は気持ちいいとため息がもれた。

「寒い日のお風呂は最高だね、コナン君」
「うん、ホントだね」

 にこにこと嬉しげな蘭につられ、コナンも笑顔で返した。あたためられ少し朱が差した女の頬が、ふと目に入る。まとめ上げた長い髪、露わになったうなじ。気持ちいいとひと息つく愛くるしい笑顔。コナンは一つひとつをじっくり目に焼き付けた。
 頬が熱く感じられるのは、湯船に浸かったせいだろうか。
 こんなちょっとした事で息が詰まったり、胸が騒がしくなったり、落ち着かなくなる。ちくしょう、みっともないと遠ざけようとするが、本当は嬉しい。
 こんな事がこれから先ずっと続くのかと思うと、たまらなく嬉しくなる。
 毎日見ているのに毎日新しい彼女を目にする、こんな事がこれから先ずっと続いていく。

「お風呂気持ちいい…嬉しい」

 ため息交じりにうっとり呟く蘭の声に、つい、いたずら心が湧く。

「あれれ、蘭姉ちゃん」

 少し湯を揺らして、コナンは傍に寄った。

「ん?……きゃ!」

 応えて顔を向けた途端いきなり両の乳房を持ち上げられ、蘭はざぶりと飛び跳ねた。

「ここ、立ってるよ。どうして?」

 コナンの視線の先にある、己の乳房の頂点…淡く色づいた乳首を真っ赤な顔で見やり、蘭は口ごもった。
 今そこは、熱く沁みる湯の刺激で一時的にかたく尖ってしまっていた。もう少し身体が馴染めば形も落ち着くもので、自分では普通の事と気に留めたこともなかったが、突然指摘されたせいで頭が真っ白になり、恥ずかしさも相まって、蘭は何と言ってよいやら分からずにいた。しどろもどろに説明し、ようやくコナンを納得させる。

「ふうん……そうなんだ」

 コナンは感心したように頷きながら、ゆっくりと乳房を撫でさすった。時折揉む動作を交え、柔らかな手触りを愉しむ。

「うん…そ、そうよ」

 少しくすぐったい愛撫に息を飲み、蘭は答えた。まだはっきりとした刺激ではないが、小さな手がもたらす淡い痺れと、動きをあまさず見ているせいで、身体の芯は昂りつつあった。

「……てっきり、これからする事に期待してこうなっちゃったのかと思った」

 あどけない子供の面のまま、コナンはきゅっと乳首を摘まんだ。

「んんっ!」

 突然の強い刺激に蘭はびくんと肩を弾ませた。手は一度では離れず、捏ねるように、扱くように小さな突起を弄くり回した。その度にぞくっとした疼きが首筋を駆け抜け、少し切ないような愉悦が、残らず腰の奥に集まっていった。

「あぁっ…あ……、そ…それも…んん……ある」

 腰の奥からどろりと湧いてくる熱望に膝を擦り合わせながら、蘭は途切れ途切れ頷いた。素直に答える恥ずかしさ、敏感に反応してしまう身の恥ずかしさに震えが止まらない。

 それでも…気持ちいい
 気持ちいい
 もっとほしい
 もっと…全部あげるから
「ん、あ……あぁ…やぁん」

 蘭の口から、とろりとろりと喘ぎがもれる。
 コナンは更に身を寄せると、間近に目を覗き込んだ。
 蘭は身を竦め、恐る恐る支配者の貌を見上げた。
 眼鏡越しまっすぐ向かってくる強い青に目を見開き、小さく頷く。

「…ある……」
「あるんだ」

 快感に潤む声を受け止め、微笑し、コナンは飲み込むように口付けた。

「はっ……」

 寸前、蘭は喉を引き攣らせた。

「んん、ん…んむ……あうん」

 口腔をねぶられるだけでなく、同時に両の乳房も揉み回され、舌と指とでもたらされるとろけるような快感に蘭はくぐもったうめきをしとどにもらした。

「んくっ…ん、ん、んん……!」

 コナンはそれすらも、息継ぎすらも許さぬ激しさで舌を吸い、噛み付き、唇の内側まであまさず舐め上げた。
 たまらず、蘭は片手をコナンの肩に、もう一方を乳房の手に伸ばして押しやろうとするが、どうしても後一歩力が入らなかった。

「んぐっ…ん! ふぅ……んん」

 たまらなく苦しかったが、それ以上に、彼ともっと溺れたい気持ちがあった。身体の内で渦巻き滾る欲望が、際限なく膨れ上がっていく。

「んぅっ!」

 突如胸の先にピリッとした痛みが走る。摘ままれた乳首ごと引っ張られたのだ。それでも蘭は、背を反らしてやり過ごすだけで、振り払おうとはしなかった。
 責める手はすぐに動きを変え、一転して優しく撫で始めた。親指で乳首を軽く押しつぶし、そのまま捏ね回す。
 少しくすぐったい、可愛らしい刺激。

「あぅ……う、んん……ふぅ」

 口内を強く吸われながら、蘭は微かに笑った。
 彼は決して、本当に嫌な事はしない。
 本当に恐ろしい事はしない。
 いつもぎりぎりを見極めて苛めてくる。時に慄き涙を零す事もあるが、決して、彼は、嫌な思いをさせない。
 そんな事は一度もない。
 だから何度でも、恥ずかしい姿を見せたくなる。

「はぁっ…は、はぁ…あぁ……」

 貪るような接吻からようやく解放され、蘭は喘ぐように息を吸った。しかしいくらもしないでその息遣いがまた跳ねる。
 乳房に触れている手が、まだふくらみを弄んでいるからだ。
 蘭は立てた膝を身体に引き寄せ、もぞもぞと揺り動かした。

「……ねえ、蘭姉ちゃん」
「な、に……?」

 胸への愛撫に時折びくんと身を竦ませ、蘭は答えた。

「どんな事してもらいたい?」

 指先で乳首を繰り返し弾きながら、コナンは聞いた。

「え、あ……いつも、みたいに……」

 語尾を濁し、蘭は俯いた。

「どこを?」

 コナンはすぐさま顎に手を添えて上向かせると、より詳しく言えと重ねて問うた。
 思いがけず強い力ですくい上げられ、蘭は咄嗟に目を閉じた。それは恐怖からではなく、痺れるような官能。
 単純に力だけでいうなら、七歳児の蹂躙などたやすく振り払える。
 それでも従うのは、単純に好きという感情。
 そして奥深い底なしの欲望。

「あ、あの……」

 蘭はちらりと目を上げた。視線の先には、少し困った風に笑っているコナンの貌があった。
 途端に全身がかっと熱くなった。
 数えきれないほど肌を重ね、奥まで見せつけ、隠していた物を晒してもまだ恥ずかしいのかと、呆れているように見えたからだ。

「だ…だって……」

 蘭は消え入るような声で呟いた。何度あられもない姿をさらしても、恥ずかしさは拭えない。
 最中、どんなに乱れてしまったとしても。
 また俯きかけた蘭に、コナンは明るく声をかけた。

「一旦出ようか、蘭姉ちゃん。背中流してあげるよ」

 言いながらざぶりと洗い場に出るコナンに慌てて腰を浮かせ、蘭はおずおずと続いた。

「座って」

 コナンは石鹸片手に促すと、申し訳なさそうにしゃがみ込んだ蘭の背に周り、泡立てた手で優しく背中を撫でた。

「っ…」

 小さな手が肌をすべる感触に、蘭ははっと目を見開いた。同時にもっとも恥ずかしい箇所…後孔がずきんと疼きを放つ。
 以前も、こうして身体を洗ってもらっている時に、そこを嬲られた。
 その記憶が唐突に思い出されたからだ。
 決して手荒にはせず、ただ撫でるだけの抽送が執拗に繰り返された。ただそれだけの刺激に、自分はうっとりと酔い痴れ浸った。
 瞼の裏にその時の光景が蘇った途端、身体の奥の方から、熱く滾った欲求がどろりと溢れ出た。

「やぁ……」

 ぞっとする感触に、蘭は思わず甘い声をもらした。
 自分の発したはしたない声を恥じ、慌てて口を押さえる。
 しかしすでに、それはコナンの耳に届いていた。

「……蘭姉ちゃん、膝立ちになって」

 言われた瞬間、蘭はぶたれた子犬のように身を竦めた。心なしか嘲りを含んだ少年の声に、震えが止まらない。
 蘭は今にも泣きそうに貌を歪め、俯いた。

「蘭姉ちゃん」

 しかしそうしていても逃れられるわけもない。再度呼びかけられ、蘭は諦めた顔でぎくしゃくと膝立ちの恰好を取った。

「綺麗に洗ってあげるね」

 コナンは明るく言うと、まず右手側に立ち、新たに泡立てた石鹸で指の先から丁寧に撫でていった。

 腕上げて……いいよ下ろして
 じゃあ今度はこっち…いいよ
 顎上げて…今度は下げて

 一つひとつの指示に素直に従い、蘭は上を向き下を向き、片方ずつ腕を上げては下げた。
 優しく丹念に洗ってくれる小さな手。

 でも……

 蘭は気付かぬ内に顔を伏せていた。
 焦らして遊んでいるのだと、内心不満を抱く。
 耳の後ろも足の付け根も洗ってくれるのに、いつまでたってもそこには触れてくれない。感じる触り方ではないが、乳房まで撫でられ、身体は高まる一方なのに…両足の奥、際どいところまで迫っておきながら引き返した手を小さく恨む。

 どうして……

 蘭は、ずきずきと腫れたように疼く下腹を抱え途方に暮れていた。
 疼いてたまらない。
 じっとしていられない。
 恥ずかしさをこらえ、蘭は下腹に力を込めてみた。
 熱く滾った欲望はもうそこまできている。内側に凝る蜜の粘りを感じ取り、蘭は唇だけでコナンの名を呼んだ。
 気付いているのかいないのか、素知らぬ顔で立つコナンに恨みがましい視線をぶつけ、蘭はもう一度呟いた。

「お願い……」

 声に出すと、もう止まらなかった。

「コナン君お願い……お願いします」

 手のひらをぎゅっと握り、胸の内で渦巻く欲望を残らずぶつける。

「お、お尻も…お尻の中も洗って…お願い……!」

 濡れた声で叫び、蘭は大きく喘いだ。こんなはしたない頼み事をしたというのに、心はひどく興奮し、今にも極まりを迎えそうに昂っていた。

 触られただけで、いってしまうかもしれない……
「いっぱい……気持ち良く…して」

 両の腕を胸に抱き寄せ、蘭は喘ぎ喘ぎねだった。

「……いいよ」

 くすくすと笑い交じりの声が背後でもれる。
 恥ずかしさに身の竦む思いを感じるが、直後、願った通りの刺激が後孔に訪れ、もうそれだけで身も心もとろけてしまう。

「ああぁ……」

 ゆっくりと入り込んでくる細い指に熱い喘ぎを零し、蘭は全身をぶるぶるとわななかせた。

「そんなに嬉しい?」

 躊躇いつつも蘭はこくりと頷いた。

「中も悦んでるよ…ほら…ほら」

 言葉と同時にコナンはゆっくり押しては引き、また根元まで埋め込み、抜き差しを繰り返した。

「あぁ…あぁん…あぁん……」

 動きに合わせてため息をもらし、蘭は何度も目を瞬いた。彼にお尻の中を洗ってもらっている…何より恥ずかしい事なのに、涙が零れそうなほど気持ち良くてたまらない。

「初めて入れた時より、柔らかくなったね」
「やっ…そんな……言わないで」
「でも本当に、柔らかくなってる」
「だめぇ……!」
「もうあまり、怖くはないでしょ」
「う、ん…あぁ……でもぉ」

 甘えた声で蘭は首を振った。指摘されて羞恥が湧くも、恥ずかしいのが気持ちいい。

 わたし…なんて……

 蘭は陶然とした表情で上向き、ごくりと喉を鳴らした。

「あぁ…だめ…あぁん……コナンく……」

 じくじくと腰の奥を這いずるもどかしい快感に腰をくねらせ、蘭は濡れた声を零した。もっと欲しいと、自ら意識して指を締め付ける。直後、なんて浅ましい事と慌てて力を抜くが、締め付けた瞬間ぞくっと背骨をくすぐった強い快感には抗えず、また味わいたいと、蘭は下腹に力を込めた。

「まだ洗ってるだけなのに、我慢出来なくなっちゃった?」

 きゅっきゅっと食いついてくる後孔の動きをそれとなく指摘し、コナンは小さく笑った。

「あ…、だって……笑わないで」
「可愛い蘭姉ちゃん。もうちょっとだけ待ってね」

 今にも消え入りそうな蘭の声にそう返し、コナンは指の抜き差しを繰り返した。手のひらを上向きに埋め込んでは引き抜き、下向きに差し入れては引き抜く。
 一度ごとに指は完全に引き抜かれ、またこじ開けて入り込んでくる。
 コナンの言葉通り、後孔をいじられる事にもう怖さはない。おぞましさもすっかり薄れ、あるのは、はっきりとした官能。

 ああこんなところで…でもだめ…もうだめ……

 蘭は息を乱れさせた。今すぐにでも乳房を、下腹を自分で慰めてしまおうかと、越えそうになる。
 寸前、コナンが動いた。
 棚に置かれた手桶を取ろうとする小さな影に、蘭はびくんと肩を弾ませた。
 目が合う。

「……すごくエッチな顔してる」
「してない……」

 弱々しく返ってきた声にコナンはふと口端を緩め、手桶に組んだ湯で蘭の身体を流してやった。

「そっか。じゃあ、ボクの気のせいだったかな」

 二度三度繰り返しかけ湯して泡を洗い流し、コナンはことりと手桶を置いた。
 蘭は俯き、顔を背けた。そのままぎくしゃくと、腰を落とし少し崩れた正座で座る。

「でも……」

 言い淀むコナンの声に、蘭は反射的に顔を上げた。

「……確かめさせて」

 言うが早いか、コナンは手を伸ばし蘭の下腹にするりともぐりこませた。

「あ……だめっ!」

 咄嗟に膝を閉じ拒む。しかし一歩遅く、手のひらが濡れた花弁にひたりと当てられる。
 溢れんばかりにぬるぬると欲望を湛えたそこについに触れられ、蘭は心底恥ずかしそうに身を縮ませた。

「あぁ…ごめんなさい……」
「どうして謝るの。うんと気持ち良くしてあげるって、約束したでしょ」

 潤んだ目で支配者の青を見つめ返し、蘭はおずおずと頷いた。

「でも、さっきどんな事してもらいたいかちゃんと教えてくれなかったから、ボクが触りたいところ、全部触らせてもらうね」

 花弁に押し当てた手を、コナンはゆっくり左右にくねらせた。いつからそうなっていたのか、そこはぽってりと熱く腫れあがり、開いて、中からたっぷり蜜を溢れさせていた。慣れた手つきで花弁を割り開き、くちゅくちゅと音を立てて前後にくすぐる。

「ああ……コナンく……あぁん」

 弄くられるまま、蘭は声をもらした。少し切ないような淡い痺れが、小さな手からとめどなく沁み込んでくる。

「だめ…ごめん……すぐいっちゃうぅ……」

 はあはあと喘ぎ、蘭は震えを放った。
 まだ感じるところに触れていないのにと、コナンは小さく驚いた。

「そんなにお尻、気持ち良かったの?」

 耳元で囁くと、また蘭の身体がぶるりと震えた。

「……うん」

 気持ち良かった
 蘭は恥ずかしそうに俯いたまま、コナンに身を寄せた。

「コナン君の手……好き」

 遠慮がちに縋ってくる女の声が、コナンの鼓膜を甘く犯す。振動は瞬く間に腰へと駆け抜け、せり上がって脳天を白く痺れさせた。

「……もっと気持ち良くしてあげる」

 コナンはひくつく喉でそう告げると、下腹に伸ばした手で一気に追い上げた。

「ああぁ…コナン君……そこっ…やぁん!」

 不意に訪れた強い刺激、花芽ばかりを責めてくる親指の執拗な舐め上げに蘭は鋭い悲鳴を上げて仰け反った。
 腰を浮かせ、戸惑うようにくねらせる。しかしどこに逃げても手は的確に柔芽を追い回し、耐え切れないほどの愉悦を続け様与えた。

「だめ……コナン君――だめぇ!」
「だめって言わないの」
「でも、……あぁん」
「蘭姉ちゃん、ここいじられるの、好きでしょ」
「うん…あ、うん……でもぉ……」
「ほら…ほぉら…ね、気持ちいいでしょ」
「あぁ…ああっ…いい……あぅ――!」

 あやすようなコナンの声音にぐっと息を詰め、蘭は小さな身体に抱き付いた。

「あぁ! ああぁ! いく……いっちゃう!」

 高い悲鳴とともに蘭は四肢を強張らせ、極まりを迎えた。見誤らず、コナンは二本の指を突き入れると、狭まった内壁をぐいとばかりに抉った。

「あぁ――!」

 とどめの一撃に蘭はわなわなと身を震わせた。尚も続くコナンの重苦しい突き上げによって、熱い滴がどっと吹き出す。その、ぞっとする感触すら、今の蘭にはうっとりするほど心地良いものだった。
 忙しなかった呼吸は次第に落ち着いてゆき、それにつれて、締め付けていた内襞からも力が抜けていく。
 その中を、コナンはくにゅくにゅと刺激していた。

「や…コナン君……一旦抜いて……」

 蘭は腰を引き、何とか逃れようと身悶えた。

「あぁ…お願いだから……」
「だぁめ」

 涙に濡れた懇願も必死の身じろぎもあえて聞き入れず、コナンはぐちゅっぬちゅっと大きく指を動かして蜜をかき回し、強引に二度目を始めた。

「いやあ……あぁ!」

 下がって逃げようとする蘭の動きを、乳首を摘まむ事で引き止め、コナンはゆっくりと唇を塞いだ。

「んん、やん…んむ……」

 怯えて縮こまる舌をちょんちょんとつついて誘う。
 愛らしい顔を泣きそうに歪め、蘭は小さく首を振った。
 構わず、コナンは下腹の手を動かし続けた。摘まんだ乳首をくっと引くと、呼応して内襞が締め付けをみせた。蘭の身体もまた同じく跳ね、この小さな一点でこんな風に支配出来るのが楽しくて、コナンは確かめるように何度も乳首を擦り上げた。

「あぅん…んんんっ……ん、や……」

 必死に顔をずらし、蘭はいやいやと首を振った。
 それ以上無理には追わず、コナンは、耳元で荒い息を繰り返す蘭に囁いた。 

「ボクが触りたいところ、全部触るよって言ったじゃない」

 いっそ毒を含んだ可愛らしい声が、蘭の耳を穿つ。

「そんな……んっ!」

 ついに親指が花芽に触れる。
 ぷっくりと起ち上がったそこをどう弄くれば一番感じるか良く知りつくした手が、少し強めに捏ね回す。たまらずに蘭は高く鳴いて仰け反った。一度目の熱が収まる前にもたらされる刺激はあまりに強烈で、一瞬頭の中が真っ白に染まる。

「あぁ! ああぁ――!」

 浴室内に響く甘い声をうっとり聞きながら、コナンは三本目の指を強引にねじ込んだ。少しきついのも構わずひねりながら何度も膣上部を擦り立て、そこからも花芽を刺激する。

「ああぅ……もうだめ…だめっ…だめぇ」

 コナンの身体にしがみつき、蘭は腰を浮かせた。

「コナン君…いっちゃう…もういっちゃ……ああだめ……いっちゃうぅ」
「大丈夫、ちゃんと受け止めてあげるから」

 拳を打ち付けるようにして重苦しい突き上げを与えながら、コナンはしっかりと足を踏ん張った。
 力強い言葉と迎える腕に蘭の快感は更に強まり、一気に絶頂へと引き上げられる。

「あ、あ、あ……コナン君…ああ、ああぁ!」

 最後にひゅうと息を飲み、しがみついたまま蘭は極まりを迎えた。

「くっ……!」

 コナンは小さくうめいた。
 加減は辛うじて出来ているだろうが、回された腕の力はかなり強く、コナンの華奢な骨を幾分軋ませた。
 いささか怖さを感じさせる圧迫だが、今のコナンには返って心地良かった。これが彼女の感じているものの激しさだと受け止めると、頭の芯が白く痺れた。擬似的な絶頂すら、迎えるほど。
 内部の不規則な痙攣が収まる頃合いに、コナンはそっと指を引き抜いた。

「んん……」

 去っていく指を逃すまいと、蘭は半ば無意識に力を込めて締め付けた。

「あぅっ……」

 力んだ弾みに後孔がずきんと妖しい疼きを放つ。思わず声がもれてしまうほど甘く耐え難い欲求が湧き起こる。

「お尻が……」
「お尻がどうしたの?」

 離そうとしない蘭の内部に素直に指を残したまま、コナンは聞き返した。

「なんでもないっ……」

 気付かぬ内にもらしてしまったひと言に顔を赤らめ、蘭は何度も首を振った。

「うそばっかり」

 離れようとする身体を抱きしめて引き止め、コナンは浅い箇所でくねくねと指を遊ばせながら言葉を重ねた。

「お尻がどうしたの、蘭姉ちゃん」
「……べ、べつに…なんでも…ん!」
「さっきは素直に言えたのに」
「あ、あん……や、あ…あ!」

 隠す蘭から引き出そうと、嬲る手に力を込める。
 ぐぷっぐちゅっともれる下腹の浅ましい音が、蘭の脳天に響く。強烈に。

「あぁ…だめ――やだ、やだぁ……!」

 わざといやらしい音を立てるコナンの手に縋り、蘭は何度も首を振りたくった。

「またいやって言う…気持ちいいでしょ、蘭姉ちゃん」

 掴んでくる手に構わず繰り返しねじり、左右に揺すり立て、尚もコナンは猥雑な音を響かせた。
 途端に蘭の手から力は抜け、一旦だらりと下がった。少しして持ち上がり、おずおずとコナンの肩に抱き縋った。

「あぁ…うん……気持ちいい、いいよ…きもちいい…」
「他にも言う事あるでしょ」
「あ…やぁん……」
「どうして嫌なの? さっきは素直に言えたのに」
「あぁ…だって……ああぁ」
「お尻の中洗って下さいって、素直に言えたのに」
「いやぁ……あぁっ!」

 言葉に反応し、蘭の内襞がきゅうっと収縮する。
 少し狭まった媚肉を押し開くようにして、コナンは抽送を続けた。すっかりとろけきったそこは熱く柔らかくコナンの指を食んで、複雑に蠢いていた。

「蘭姉ちゃん可愛い。本当に可愛い」

 コナンは、間近にある上気した頬にちゅっと唇を寄せた。
 荒い息い胸を喘がせながら、蘭はおそるおそるコナンを見やった。

「恥ずかしそうにしている蘭姉ちゃん……可愛い」
 大好きだよ

 優しく包み込む声音に涙が滲む。

「こ、コナン君……あの…あぁ」
「気持ちいい?」
「うん、うん……でも、あぁん……」

 頷き、蘭は妖しく腰をくねらせた。
 口で言えない代わりに態度で表し、蘭は、繰り返し背を反らせ、俯き、媚肉を責め立てるコナンの手の上でなまめかしく踊った。

「……でも、足りない?」
「ああぁ……」
「足りないんだね?」

 重ねて問われ、ようやく蘭は頷いた。

「どこにほしいの?」
「お…あの……あぁ…おしりに……」
「そっちも触ってほしいの?」
「だってコナン君が…コナン君がそうしたのにぃ……」
「……だって蘭姉ちゃん、全部くれるって言ったでしょ」
「うん…ぜんぶあげる……コナン君にあげるからぁ…ぜんぶ…ああ…おねがいコナンくん……ほしい……ほしいの」

 よだれを垂らさんばかりに酔い痴れ、とろんとした目付きで女がねだる。

「…らん……」

 ぞくぞくと背骨をくすぐる強烈な愉悦に、コナンは喉を引き攣らせた。
 いってしまえと、指を根元まで埋め込み更に突き上げて、内奥を激しくくじる
 親指で花芽を押しつぶしぐりぐりと捏ねると、蘭は一際高い声を迸らせた。

「だめ…あぁ――だめぇ! いくぅ……いっちゃう! ああぁ――!」
「いいよ、何回でもいかせてあげる」
「ああぁ……コナン君…コナンく……あぁ!」
「うんと気持ち良くしてあげるって…約束したでしょ」

 ちゅうと乳首に吸い付き、コナンは軽く歯を立てた。

「ひぃ……!」

 かたい歯に挟まれたまま引っ張られ、ずきんと沁みる痛みすら快感となる。

「っ……!」

 蘭は声も出せず、絶頂を迎えた。
 コナンの手の動きに合わせてがくがくと淫らに腰を揺すり、奥から熱いものを噴き出す。

 ああ…なんて恥ずかしい……

 失禁と変わらぬはしたない様も気持ち良くて、たまらず、荒い息に胸を喘がせながら蘭はひと粒涙を零した。
 ひくっひくっと不規則に締め付ける内襞が少し緩みはじめると同時に、蘭は硬直させていた身体から一気に力を抜き、がっくりとコナンにもたれかかた。

「蘭姉ちゃん……」

 コナンはそっと指を引き抜くと、ずるずると崩れそうになる女の身体を踏ん張って支えた。

「……ごめんね…大丈夫……あの、ちょっとだけこうさせて……すぐに…おさまるから」

 だから支えなくていいと、蘭は洗い場に四つん這いになってうずくまった。
 本人が希望するならと、コナンは肩の辺りに立ち、静かに待った。多少心配ではあったが、彼女の言う通りあれほど荒かった呼吸はすぐに収まっていった。
 と、蘭が慌てた様子で口元を拭う。
 具合でも悪くなったのかと驚いて見やれば、口を開けたまま呼吸していたせいでよだれを零してしまったのだ。手で口を押さえたまま、泣きそうに顔を歪めている姿に思わず笑いがもれる。

「ごめん……!」

 悲痛な声に胸が痛んだが、やはり可笑しい。
 蘭は慌てて手桶に湯を汲むと、汚したところを洗い流した。
 コナンは正面に跪き、恥ずかしさに四つん這いのまま縮こまってしまった蘭の頬を優しく撫でた。

「大丈夫だよ、蘭姉ちゃん。後でまとめて綺麗にするんだから」
「っ……」

 蘭は顔を伏せたまま、何事か呟いた。

「もっと恥ずかしいところ、いっぱい見せてるのに」
「ご、ごめん……」
「謝る事なんてないよ。後で綺麗にするんだから、もっとぐちゃぐちゃになっていいよ」

 コナンはやや強引に顔を上げさせると、申し訳なさに眉根を寄せ恥じる蘭の唇をぺろりと舐めた。

「コナンく……」
「ボクももう我慢出来ないから」

 低い声でうめき、コナンは噛み付くように口付けた。

「はんっ……!」

 きつく吸い付いてくる小さな唇のせっかちな動きに、蘭は戸惑いの声を上げた。
 置いていかれまいと応えれば、両の手が身体をまさぐってくる。
 もう我慢出来ない…耳の奥で蘇る低音が背筋を甘く駆け抜け、蘭は繰り返し身震いを放った。

「蘭姉ちゃん…もっと舌出して」

 唇の上で囁かれる。余裕のない響きがたまらなく愛しい。
 蘭は言われるまま彼へと舌を突き出した。

「あん…んんっ…ん!」

 すぐに、ちゅうと音を立て美味そうに吸われる。くすぐったさに引っ込めそうになるのを堪え、蘭は舌先に感じるコナンの熱い吐息と愛撫に息を荒らげた。
 背中を這っていた細い指が乳房に食い込む。

「や、いたい……いたいよぉ……」

 舌を突き出しだらしなく口を開いたまま、蘭は小さな手に胸を押し付けた。
 痛いと言いながらもっとと差し出してくる女の動きに目眩を感じ、コナンは接吻に耽りながら更に揉みくちゃに乳房を愛撫した。

「あぁ…気持ちいいよぉ……」

 ずきりと沁み込んでくる甘い毒の様な刺激が、蘭の脳天を白く犯す。

「蘭姉ちゃん…痛いの好きだもんね」
「違うからぁ……あぁ…コナン君だから……あぅん」

 腰をとろけさせる可愛らしい言葉に堪え切れず、コナンは舌先に噛み付いた。飲み込むように唇で食み、ぺちゃぺちゃ音を立ててじっくり味わう。

「えぅ……う、んんっ」

 蘭は小さくえずいた。それでも、美味そうに自分の舌をしゃぶるコナンが狂おしいほど愛しくて、たまらなくて、止める気も起きなかった。膝立ちになって両手を頬に差し伸べ、無心で吸い付いてくる。自分より少し低い位置で、顔を上げ、もっと欲しいと息を荒らげる様は、餌を欲しがるひな鳥のように見えた。

 じゃあわたし…親鳥かな…わたし……もっと食べて……!

 喘ぎながら、蘭は熱く願った。
 純粋な愛しさと浅ましい欲望がとめどなく湧いてくる。
 いつもとは違う姿勢、四つん這いという格好も、官能を燃え上がらせる一つになっているのだろう。
 真下を向いた乳首を摘ままれ、そのままゆさゆさと乳房を揺すられる。かと思えば手のひらで重たそうに持ち上げられ、骨に擦り付けるようにして揉みしだかれる。

「あん、んん…んぅっ……」

 ぴちゃぴちゃとねぶられる口内からの愉悦と、胸から送り込まれる快感とに翻弄され、蘭は気付かぬ内に腰を揺すり立てていた。
 後ろから見れば、全てが露わになっているはしたない恰好で。
 やや遅れて、それを自覚する。
 また、後孔がじわりと疼いた。

「あぁ……あああ……」
 コナン君……

 泣きそうになりながらも、蘭は目で訴えた。
 そこでようやくコナンは舌を解放した。
 蘭は舌を引っ込めると、何度も唾を飲み込んだ。ごくりと喉を鳴らし、少しばかり込み上げていた吐き気を飲み込む。

「ごめんね、苦しかったでしょ」

 いたわるように、コナンは頬を撫でた。

「少しだからへいき……」

 あたたかい手のひらに頬をすり寄せ、蘭はゆるく笑みを浮かべた。

「蘭姉ちゃんの身体…どこも美味しいから」
「……ばか」

 照れ隠しに蘭はぼそりと零した。視線をコナンの胸元辺りに向けて逃げ、何度も目を瞬く。

「だから…舐めさせて」

 吐息交じりに囁くコナンに、蘭は逸らしていた視線を戻した。

「蘭姉ちゃんのお尻…舐めさせて」

 言われた瞬間、耳の奥がぶわりと膨れ上がる。蘭はぎこちなく瞳を揺らし、間近の青をじっと見つめた。

「ぜんぶ…あげる……」

 瞳を潤ませ、蘭は呟いた。ようやく欲しいものをもらえると胸がはちきれそうに熱くなるが、背後に回り込んだコナンの小さな手がひたりと尻に当てられた途端、びくんと身が震えた。

「やっぱりお尻は……――」

 恥ずかしい…そう口にするより早く、コナンの熱い舌先が窄まりに触れた。

「はぁんっ……」

 鼻にかかった甘い声をもらし、蘭はびくんと仰け反った。

 ああ…とうとうきた……

 待ち焦がれていた物を与えられ、充足感に手足から力が抜けそうになる。必死に踏ん張り、蘭は後孔にもたらされる愛撫にひたすら酔った。
 ぬるりぬるりと舌は蠢き、後孔の皺を一つひとつなぞるように這いずった。

「くぅ…ううぅ……あぁ…あ、ん」

 蘭は絶えずびくびくと身をわななかせた。動いてしまう。動かずにいられない。ねろりと舐められる度ぞわりとおぞ気にも似た快感が背筋を駆け上がり、首筋を痺れさせた。

「あ、あぁ…お尻…お尻に……」

 彼の舌がある。
 汚いと思う以上に、はちきれんばかりの喜びがあった。こんなに恥ずかしい事をしてもらっている、してくれている…思うほどに官能は深まり、頭の中が甘くとろけていった。

「あぁ、ああん…は、はぁ、は……ああぁ!」

 浴室内を満たす嬌声が響く中、コナンはじっくりと愛撫を続けた。もっと聞きたい。もっと鳴かせたい。
 女の感じる声をもっともっと聞きたい。
 うっとりと酔い痴れ、触れれば触れるだけ反応する身体にのめり込む。

「あぁん!」

 時折、コナンの舌先がぐっと力強く内部に入りかける。その度に蘭は高い悲鳴を放ち、しなやかに背を反らせた。刺激が、後孔だけでなく花唇にまで響いて、声を上げずにいられない。また溢れてくる。

 触られていないのに……

 花弁の縁が痛むほど熱く、腫れぼったくなっていくのを蘭は感じていた。
 乳房も同じだった。小さな手で好きなだけ揉みくちゃにしたコナンの荒々しい愛撫が思い出され、それだけで頂点はかたく尖り、全身に痺れが走った。

「ん、んん!」

 蘭はぎゅっと手を握りしめ、やりすごそうと首を打ち振った。しかしそうするほどに欲求は高まり、堪えようのないものに育っていく。

 ああ…どうしよう……どうしよう……

 コナンの舌によってとろけていく四肢に蘭は泣きそうに顔を歪めた。くらくらと頭は眩み、上手く物が考えられない。もっと溺れたい。もっと欲しい。
 腰が抜けそうに強烈な快感の中、気付けば涙が零れていた。
 顎まで伝ったそれを拭い、蘭はそのまま、手を下腹へと持っていった。一度二度ためらいが生じるが、欲しがってひくつく媚肉を慰めない事には、どうにも収まらなかった。

「あああぁ……」

 すっかり濡れそぼったそこに指を這わせ、蘭は悦びの声をもらした。
 それを待っていたかのように、コナンはより力強く舌先を内部に埋めた。

「あぅんっ!」

 柔らかいもので後孔を押し広げられる感触に、蘭は鼻にかかった甘い声を撒き散らした。
 度を超えた愉悦に、辛うじて支えていた腕は萎え、前のめりに蘭は崩れた。そうする事でより高く腰を差し出す格好になる。
 恥ずかしさが込み上げるが、今は目の前の快感に浸りたい気持ちが強かった。いっそもっと見てほしいと、タガが外れる。

「あ、あぁ…ああん…あああ!」

 コナンはしっかりと腰を掴み、ぴちゃぴちゃと音を立てて窄まりを舐め回した。

「あぁ……あぁ、あ…いい…気持ちいい…きもちいい」

 もつれる舌で蘭は何度も気持ちいいと繰り返した。後孔をくすぐるコナンの舌に合わせて花弁を撫で回し、ぬるりと二本の指を内奥に潜り込ませる。腰の奥が、頭の芯がびりびりと痺れて何も考えられない。

「ああ、だめ…だめぇ……こんな、あぁ……」

 一度自慰を始めてしまうと、もう歯止めが利かなかった。右手は媚肉をめちゃくちゃにかき回し、左手はコナンがしたように乳房を揉みくちゃに嬲り止まらない。

「ああ…しんいち…ごめんね…こんな……でもきもちいいのぉ……」

 すっかり溺れて尚、申し訳なさを訴えてくる蘭に、震えが生じた。

「あぁ…好き……んん、ん…だいすき……だいすき」

 崩れた四つん這いでうずくまり、自ら感じるところを擦り上げて浸り、涙を流して悦んでいる。
 そして最後に溢れるのは、好きという感情。
 恥ずかしいものも隠したいものも全部さらけ出してくれる愛しい女。

 嗚呼…大好きだ……蘭

「ひっ…いぃ……もうだめ……だめ…だめぇ…いっちゃう……ああ! あああ!」

 よだれを垂らさんばかりに緩み切った貌で、蘭は一際高い悲鳴を迸らせた。
 甘い泣き声が響き渡る中、コナンにも等しく、真っ白な絶頂が訪れる。

 

 

 

 

 

 髪を洗い、身体を洗い、充分あたたまって風呂を出ると、リビングの時計は、二時間経過を示していた。
 そんなに長い間浴室にこもっていればのぼせてしまうのも当然かと、二人は、出したばかりのコタツにもぐり込んで、少し疲れた顔を見合わせ笑った。

「コナン君と入ると、いつも長風呂になっちゃうね」

 くすくすと蘭は目尻を下げた。

「うん……ごめんね」
「やだ、そんな意味で言ったんじゃないからね」
「ふうん……?」
「……えっち」
「ボク、何も言ってないけど」
「じゃあいじわる」
「もう、蘭姉ちゃんはまた……」
「だってコナン君、いじわるだもん」
「う…それは――」
「焦らしたりしていじわるするじゃない」

 いきなりそこへ飛んでいった蘭の言葉に息を飲み、コナンは何度も目を瞬いた。と、見つめる先で蘭の頬がみるみる真っ赤に染まっていく。
 恥ずかしさをごまかす為か、蘭は唇を尖らせ幾分険しい顔付きになった。
 そんな顔をするなら最初から言わなければいいだろうに、心底おかしい…愛しくて、コナンは改めて口を開いた。

「だって蘭姉ちゃんがあんまり可愛いから、たくさん見たくなっちゃうんだもん」
「か、可愛いって……いじわる」

 唇の先でぼそぼそと呟き、蘭は忙しなく左右を見回した。
 コナンは観念して、素直に認める事にした。

「そりゃ…いじわるって言われたら……」
「ほら、でしょう」
「……で、でも、好きでしょ」
「好きじゃないもん」

 何とも素っ気なく蘭は言い放った。その顔付きは、先程までと打って変わっていたずらっ子のそれだ。

「じゃあ…嫌い……?」
「ううん、大好き!」

 まさかと恐る恐る問えば、はつらつとした声がよく似合う輝くような笑顔がぱっと咲き零れた

「!…」

 浮かんだ表情がコナンの目をくぎ付けにする。
 これで、もう、何も言えなくなる。

「大好きだから……あんな事も、あの……」

 急に語尾をもごもごと濁し、蘭はさりげなくそっぽを向いた。

「全部あげたんだから!」

 そして放り投げる勢いで言う。
 恥ずかしさをこらえた勝ち気な横顔を、コナンはしみじみと見つめた。

「ボクも大好きだよ、蘭姉ちゃん。全部くれて……ありがとう」

 その言葉に、蘭はぎこちなく顔を戻した。おずおずと目を見合わせ、そのまま数秒、視線を絡める。
 気付けばどちらの顔にも、嬉しげな笑みが浮かんでいた。

「でもあの…、まだ、全部じゃないと思うから……、その……」

 と、テーブルの上に乗せて組んだ手をもじもじとさせながら、蘭は口ごもった。言葉の合間にちらちらとコナンを見やる。
 何を云おうとしているのか、コナンは静かに次の言葉を待った。

「……ま、また今度も、一緒に長風呂…付き合ってくれる?」
「うん、うん。もちろん」

 期待を込めて見つめる蘭に笑い返し、コナンはテーブルの上の手に自分のそれを軽く重ねた。

「……ありがと」

 女の顔に浮かんだ少し恥ずかしそうな満足げな笑みが、たまらなく愛おしい。

「そうだコナン君、おみかん食べる?」
「うん、食べる!」
「じゃあ取ってくるね」

 玄関先に置いてある箱に取りに行こうと、蘭はコタツから立ちあがった。
 コナンもすぐに続く。

「ボクも行くよ」
「あ、じゃあ、一番美味しいの選んでくれる? 一番甘いの!」
「えー…そういうのは、蘭姉ちゃんじゃないと」
「あら、コナン君にはお得意の推理があるじゃない!」

 だから任せると告げる瞳に分かったと応え、コナンは真剣な顔で箱を開いた。
 果たして選んだ綺麗な二つの橙色は、二人に幸せな笑顔をもたらした。

 

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