譲らぬ夜の

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 コナンは満面の笑みで手を合わせ、今朝蘭が約束した通りの夕食、彼女特製のハンバーグに心から賛辞を送った。

「良かった。じゃあ、片付けたらいつも通り、コナン君先にお風呂入っちゃって」
「うん」

 元気な子供の顔で頷き、美味しかったと褒められてニコニコと微笑む蘭を何気なく見やる。
 それより少し早く蘭は動き、重ねた食器を手にさっと立ち上がりキッチンへと運んだ。
 まただ、とコナンは回数に加えた。
 ここ数日、こんな風に蘭と目が合わない時があるのだ。
 かれこれ五日ほどになるだろうか。
 ただタイミングが合わないだけと、始めは軽く考えたが、目を合わせないよう故意に逸らしているのだと気付いてからは、何故そうするのかに考えを巡らせた。
 一番に考えられるのは、自分…工藤新一に関するものだ。
 苛立ちを抑えたような明るい笑顔はやはり、そうなのだろうか。
 あるいは単に虫の居所が悪い…テストで思うような点が取れなかったとか、空手の稽古中に思わぬ出来事に遭遇したとか、単純な理由も考えられる。
 理由は一つだけではなく、いくつも積み重なっているかもしれない。
 どんなに些細な出来事でも、積み重なれば堪え難い苛立ちに繋がるものだ。
 ならば今日、告げたよりも早い時間に自分が帰宅したのも、理由の一つに数えられるかもしれない。
 予定通りなら、今日は五時過ぎに帰るはずだった。
 同じクラスの女子の誕生会に招かれていたからだ。
 一週間ほど前、歩美の提案で誕生会が開かれる事になり、自分含む探偵団の面々やその他数人の親しい友人が誘われた。
 誘われたからにはそれなりのプレゼントを用意しなければと思案に暮れ、蘭に協力を求めた。
 小学一年生の女子に何を送るのが一番無難か、恥ずかしながら自分にはさっぱり思い付かないからだ。
 蘭は喜んで承諾し、彼女の人となりを訪ねてきた。
 そこで、少し前、担任の小林澄子が企てたゲームの最中に知った彼女に関する事を、いくつか挙げてみた。
 転校してきたばかりで、ようやくクラスの子と馴染みだした事や、彼女の出身地、特徴、好きな物…聞く内に大体の傾向を掴んだのか、蘭は二、三の候補を口にした。その中から小学生が贈って不自然でない物を選び、今日の当日を迎えた。
 会は二時から五時まで予定されており、自分も最後まで参加するつもりでいたが、今朝蘭が約束した夕飯の献立につられてしまい、プレゼントを渡すだけにとどめて早々に帰宅した。
 実のところ、あまり乗り気ではなかったのだ。もちろん、彼女本人の誕生日を祝う気持ちは十二分にあるし誘われたのはありがたく思うが、申し訳なく思うが、やはり好きな女と一秒でも長く一緒にいたい。
 しかしそれが蘭には迷惑だったようだ。
 時には自由な時間もほしいだろう。
 時には一人で、気ままに過ごしたいだろう。
 今日、小五郎は、調査の名目で帰りが遅い。
 いないと思って帰ってみれば、のんきな顔した自分がいた…苛々が募ったとしても無理はない。
 思い返してみれば、事務所のドアを開けて入ってきた彼女は、驚くと同時に何とも言えぬ複雑な表情を浮かべていた。
 早くに帰宅した訳を話せば、そうなのといつもの明るい声が納得して頷いたが、本心はきっと違うだろう。
 ちょっと、鬱陶しい…よな
 理由の全てはまだ分からないが、自分も原因の一つなのは明らかだ。
 許してもらえなくとも、とにかく謝らねば。
 答えを見つけられない不甲斐なさを洗い流そうと、コナンは頭からシャワーを浴びた。少し熱い湯が、冷えた肌を刺す。思わず飛び上がりそうになったが、これくらいがちょうどいいとうなだれる。
 入浴を済ませリビングに戻ると、蘭も明日の支度が済んだようで、キチンから出てくるところだった。

「あ……お風呂どうぞ、蘭姉ちゃん」
「おかえり、ありがと」

 声はにこやかだったが、やはり目線は逸れたままだった。
 コナンは微かに喉を鳴らし、自室へと向かう蘭の背中に思い切って声をかけた。

「あの、蘭姉ちゃん……何か怒ってるよね」

 ドアノブに手をかけたまま、蘭は動きを止めた。
 言ってからしまったと、コナンは別の言葉を選べなかった自分に腹を立てた。しかしもう言葉は口から出てしまった。
 唾を飲み込み、次の言葉を投げかける。

「あ……ごめんなさい、分からないのに謝るのは嫌だから、何に怒ってるのか教えて。ちゃんと謝るから」
「やだコナン君、私別に怒ってないよ」

 困った顔で振り返る蘭をじっと見上げ、コナンは眉根を寄せた。
 堪え切れず蘭は目を逸らした。
 それが答えだった。

「怒ってるわけじゃ…なくて……」

 所在なげに立ち尽くし、蘭は消え入るように言った。何と告げればよいやら分からず、出せない言葉にもどかしく唇を噛む。

「じゃあ……どうしたの?」

 彼女の抱えているものが怒りとは違う、そうと分かったコナンが次にしたのは、心配だった。

「何かつらいの? 大丈夫?」

 勝手に思い込んでいた自分を深く反省しながら、コナンは足を踏み出した。

「もう…なんで!」

 突如足を踏み鳴らす勢いで叫び、蘭は自室に駆け込んだ。
 吐き出されたひと言に驚きつつ、コナンは後を追った。ドアは閉められていない。完全に拒絶されてはいないが、勝手に入るのはためらわれ、戸口からそっと中をうかがった。

「蘭姉ちゃん……?」

 ベッドの脇に突っ立つ蘭の背中に恐る恐る声をかける。

「……ごめんなさい」

 すると聞き取れないほどかすかな呟きが、耳をかすめた。
 コナンは一歩、また一歩と慎重に近付き、手を伸ばして届く距離で立ち止まると、もう一度蘭姉ちゃんと呼びかけた。
 と、蘭は崩れるようにしゃがみ込んだ。

「どうした、苦しいのか?」

 ただならぬ様子に慄き、コナンはすぐさま正面に回り込んだ。

「え……」

 直後、思いがけない力で縋り付かれ、面食らった顔で目を瞬く。受け止めようと一歩足を引くと、背中がベッドにぶつかり痛んだ。もちろん、今、そんな無様な声は漏らさない。

「ごめん…ごめんなさい」

 絞り出すようにして、蘭は喘ぎ喘ぎ謝った。その声はすでに涙に濡れていた。

「蘭ねえちゃ…どうしたの?」

 訳を聞こうと肩に手をやるが、蘭は首を振り立てより強く抱き縋った。
 突然泣き出され困り果てるが、今は無理に聞くまいとコナンは手を離した。代わりに、泣きじゃくる女の背中を優しくさすってやる。

「ごめん…ごめんねコナン君……」

 すすり泣く合間に蘭は何度もごめんなさいと繰り返した。
 大丈夫だと、コナンはさする手で伝え泣きやむのをじっと待った。余計な事は口にせず、震える身体を抱きしめてはさする。今の自分には、それくらいしか出来ない。
 激しかった泣き声は次第に収まり、やがて深いため息の繰り返しに変わっていった。
 それにつれて熱を帯びた女の身体も落ち着いてゆき、走るようだった鼓動も鎮まって、縋り付く腕も、少しばかり力が弱まった。
 コナンは変わらず背中を撫でていた。
 しばし後、女が口を開く。

「……あのね」

 声と同時に、蘭は小さく身じろいだ。
 コナンは引きとめず、素直に腕をほどいた。今更遅いかもしれないがとハンカチを取り出し、居住まいを正す蘭に手渡す。
 蘭は俯いたまま小さく頷くと、白いハンカチをおずおずと受け取った。そしてすぐに、隠すようにして濡れた顔を拭う。
 コナンからは髪にも遮られよく見えなかったが、いくらか赤く染まった顔には、悔しさに似た色が浮かんでいた。

「正直に話すから……お、怒らないで…聞いてくれる?」

 つかえつかえ、蘭は言った。
 コナンはすぐさま頷いた。

「ちゃんと聞くよ」

 コナンの答えに蘭は前髪を左右にはらうと、心持ち顔を上げた。

「お誕生日会……行かなくて良かった」

 しかし言葉を口にした途端、深く恥じてか、また顔を伏せた。

「蘭ね……」
「……嫌だったの。行くの」

 そこからしばし沈黙が続いた。
 手渡された二つの言葉が頭の中で繋がる。蘭が何を云おうとしているのか、ここ数日続いていた違和感が何だったのか、コナンはようやく答えを掴んだ。
「勝手に嫉妬してて……わたし…ごめんなさい」
 コナンの心に安堵が広がる。バカだなと言いかけて思い直す。馬鹿は自分だ。身勝手で嫉妬深い愚か者…この部屋であのベッドで、彼女を初めて組み敷いた日の事を思い出す。
 コナンは奥歯を噛みしめた。
 と、蘭の口から濡れた声が零れ落ちた。

「……こんな嫌な女で…ゴメン」
 でも好きでたまらないの

 熱っぽく告げる女にしようもなく頬が緩む。同じだった事を密かに喜ぶ。
 コナンは手を上げると、謝るより深くうなだれた蘭の頭にそっと乗せた。そのまま、素直でまっすぐな髪に沿って手のひらをすべらせる。艶やかな感触はとても心地良かった。

「ボクこそゴメンね。蘭姉ちゃん、ゴメンなさい」

 軽んじたつもりなど微塵もないが、確かに迂闊な行為だった。嫌な思いをさせてしまった。

「不安にさせてゴメンなさい」

 コナンの言葉に大きく首を振り、蘭は違う、違うと何度も否定した。

「私がいけないのに……」

 蘭は顔を上げると、真っ赤に泣き腫らした目でコナンを見つめ、もう一度ごめんなさいと謝った。
 コナンはふと口端を緩めた。

「……そうだよ蘭姉ちゃん、ボクがこんなに想っているのに」

 眼鏡越しに新一の眼差しで熱っぽく見つめ、顔を近付ける。

「っ……」

 頬を包む小さな手に息を飲み、蘭は目を閉じた。
 間を置かず唇が触れる。
 触れるだけの口付け。
 穏やかな接吻が嬉しくて、蘭は自分からも唇を押し付けた。
 数秒、熱が共有される。
 コナンはしずしずと舌を伸ばすと、涙の味がしなくなるまで繰り返し蘭の薄い皮膚を優しく舐めた。
 蘭は目を閉じたまま、じっと身を委ねた。
 端の方を舐められると少しむず痒く、つい笑みが零れた。
 愛くるしい形にコナンも微笑して、声に出さず笑い合いながら唇を重ねた。
 こんなに好きだよ…思いを乗せて、頬に、眦に、少し腫れた瞼に接吻する。
 最後に鼻先に触れ、コナンは一旦身体を離した。

「でもボクもいけなかったんだ。充分反省したから……その証拠、見てくれる?」

 頬に添えていた手で首筋を撫で、そこに唇を近付けながらコナンは言った。

「うん、見せて……あっ」
 喉元に吸い付く小さな唇…始まりを告げる口付けに声をもらし、蘭は頷いた。期待してか、自然と身震いが起こる。身体の奥の方から、甘い疼きが湧き起こる。
 今日は何をくれるだろう、何を上げられるだろう…蘭は小さく喉を鳴らした。
 コナンは彼女から見えない位置で密かに笑むと、首筋を甘食みしながら言った。

「蘭姉ちゃん…ボタン外して」
「……うん」

 喉の奥で頷き、蘭は言われたとおり上から順番にブラウスのボタンを外していった。
 一つ、また一つと胸元が開かれていく。
 その動きに沿って、コナンは愛撫の唇をずらしていった。

「ん、あ……」

 時折かかる淡い吐息と柔らかな唇、むず痒さとゆるやかな快感とが蘭の手を震わせる。
 そのせいでつい止まってしまう動きにコナンはまたそっと笑んで、追い付いた指に軽く歯を立てた。

「意地悪しないで早くう」

 わざとあどけない声で急かすコナンを見下ろし、蘭は微苦笑した。

「もう…せっかち」
「せっかちだもん」

 今頃知ったのかと、小憎らしい顔でコナンが見上げる。青く澄んだ瞳にどきりと胸を弾ませ、蘭は何度も瞬いた。

「……大好き」

 痛いほど真剣な女の声が、コナンの心に沁み込む。

「ボクも大好きだよ。だからなんにも心配いらないよ。……泣き虫蘭姉ちゃん」
「どうせ……泣き虫ですよ」
「知ってるよ、大分前から」

 蘭の身体をベッドに寄りかからせると、コナンは茶化しながらもしっかりと抱きしめてやった。彼女の心を宥めるのが目的だった一度目と違い、二度目の抱擁は際限なく心を昂らせた。
 蘭の手では待ち切れず、申し訳なく思いながらも自分の手で、半ばむしり取るようにボタンを外す。最後の一つは特にもどかしく、そのせいで少しばかり彼女を怯えさせてしまった。

「あ、や……」

 静止の声は聞こえたが、すでに布越しに乳房に触れた後だった。一旦手を止めるが、今は激しい拒絶がないからと誰にともなく言い訳し、下から持ち上げるようにして揉みしだく。

「っ……!」

 蘭の吐息が跳ねる。

「大丈夫…大丈夫だよ蘭姉ちゃん」

 強張りを見せる身体から力を抜くよう誘導しながら、コナンは丸いふくらみを五指で刺激した。

「う…ん……」

 微かに喉を震わせ、蘭は頷いた。小さな手と細い指が動く度、じわりじわりと愉悦が背筋を這い、切ないような感覚が首筋を痺れさせた。
 途切れ途切れに襲うそれを追って、蘭は半ば無意識に膝を擦り合わせた。奥の方で凝る熱が、動きに合わせて膨れ上がる。
 浅ましさに頬が火照り、まだ触られてもいないのに胸の頂点が痛いほど張り詰めた。

「あ……あぁ!」

 恥ずかしさに思わず声をもらすと同時にコナンの指がそこを捕え、たまらずに蘭は鋭い悲鳴を上げた。

「あぁ、ん、あっ…んぅ……」

 強い快感に耐え切れず、蘭はびくびくと身をわななかせながら左右に逃げまどった。しかし手は執拗に追い回し、繰り返し摘まんでは声を上げさせた。

「あ、あ…コナン君……あぁん……あ」

 息を荒げ身悶える様にうっとり溺れながら、コナンは尚も乳房を責めた。布越しでも分かるほどぷっくりと起ち上がった乳首を指の間にはさみ、柔らかなふくらみを大きく揉み上げる。

「あぁ…やん…やっ……あぁん」

 蘭の声にはまだ少し抵抗が残っていたが、それをねじ伏せて、いっそ泣かせてしまいたい欲望が腰を熱く噛む。
 でも聞きたいのはそれではない。

「もっと聞かせて……」

 たっぷりとした柔肉をゆるゆると刺激しながら、コナンはそっと囁いた。

「は……」

 耳たぶに触れた吐息に蘭の身体がびくりと弾む。

「蘭姉ちゃんの甘えた声…もっと聞かせて」

 ねだるコナンに頬を赤らめ、蘭は顔を背けた。
 嫌がってではなく恥ずかしさからくる仕草に笑みを浮かべ、コナンは胸元に両手を伸ばした。
 布を掴み、一旦蘭へと目を向ける。
 ごく微かに頷いたのを見届け、コナンはゆっくりとスポーツブラを押し上げた。
 奥歯を噛みしめたような強張りが頬に見えたが、蘭の手は拒絶の動きを見せなかった。ならばと脱がせ、現れた白く瑞々しいふくらみにねろりと舌を這わせる。

「あぁっ……」

 悩ましいほど熱い吐息が蘭の唇から漏れた。

「……どんな風に触られるのが好き?」

 濡れたようにしっとりと艶めく乳房にちゅ、ちゅと吸い付きながら尋ねる。
 蘭は顔を背けたまま、肩口に埋めるようにして俯いた。
 再度聞こうとした時、かすれる声で蘭は答えた。

「ゆ、ゆっくり……大きくされるの……好き」

 言って、蘭はちらりとコナンを見やった。
 恥ずかしさだけではない目の潤みを見てとり、コナンは口端を持ち上げた。

「んっ……」

 支配者の強い笑みに蘭は喉を引き攣らせた。

「あぁあっ!」

 望んだとおりの刺激を与えられ、我慢せず声を上げて悦ぶ。

「ここはどんな風に触られるのが好き?」

 動きに合わせて形を変える乳房を柔らかく慰めながら、コナンは人差し指で頂点をつついた。

「んぅっ……!」

 瞬間肌を走る鋭い快感に仰け反り、蘭はひゅうと息を飲んだ。腰の奥にまで痺れが駆け抜け、また熱いものが溜まる。

「い…痛くしないなら……何でも好き」

 もたれたベッドに頭を乗せ、蘭は刺激を待った。
 焦らさず、コナンは片方を摘まんで捏ねまわし、もう一方を口に含んだ。

「あぁ……」

 熱い吐息に続いて、ねっとりとした粘膜が頂点を包む。蘭は満足げにため息をもらし、半ば無意識にもっとと欲し胸を差し出した。時折身を襲うあの嫌悪感が、今日はやってこない事に感謝する。今日はどこまでも彼と没頭出来る事に感謝する。

「あんっ……!」

 不意にちゅうっと音がするほど吸い付かれ、音の恥ずかしさも相まって蘭はびくんと肩を跳ねさせた。
 コナンは唾液に濡れた乳首を左右等しく指で撫でさすりながら小さく笑った。

「少しだけなら、痛くされるのも好きでしょ?」

 こんな風に…摘まむ指に少しずつ力を加え、ずきんと沁みる痛みを与える。
 途端蘭の身体がぐっと強張る。

「くぅ、う……それ、ちがう…よ」

 緩慢に身をよじり、蘭は小さく首を振った。

「コナン君だから好き……コナン君だから」

 痛みをこらえながら告げる。

「ボクになら何されても好きなの?」

 コナンは手を離すと、不必要に痛みを与えてしまった乳首に唇を押し当て、詫びるように薄い皮膚でくすぐり、右と左と優しく舐めた。 

「ん……何でもじゃない…けど…好き」
「好き?」

 ねっとり舐められる快感にびくびくと強張りをほどきながら、蘭は吐息交じりにねだった。

「うん…好き……あぁコナンく……も――もっと……」

 そんな言葉を口にする自分がたまらなく恥かしく、舌がもつれたが、言ってしまうと頭の芯がしようもなく痺れて心地良かった。

「おねがい…もっと、触って……あぁ!」

 不意にコナンの指がきつく乳房に食い込み、また襲うずきんと沁みる痛みに肩が弾んだ。
 力はすぐに緩み、一転して柔らかな刺激が続く。
 痛みの後の甘い快感は身体をとろけさせた。

「あ…気持ちい……あん…あぁ、いい……」

 片方の乳房をねぶる舌は自在に動きを変え、乳首を押しつぶし、舐め上げ、何度も弾いて声を上げさせた。

「それ…すき…すき……」

 唇に包まれたまま舌でつつかれるのが好きと、蘭は素直に口にした。
 脳天にまで響く甘い囁きにコナンは小さく身震いし、飽きる事無く乳房を吸った。やがて乳輪までもふっくらと浮き上がり、同時に少し汗ばむ女の肌から、何とも言えぬ誘う匂いが熱気となって立ちのぼりコナンを惑わせた。

「コナンくん……おねがい…あぁ……」

 しなやかに身をくねらせ、蘭は膝を擦り合わせた。身体の内側で苦しいほどに滾る熱が唇から零れ、欲しくてたまらなくなる。

「……どうしたの、蘭姉ちゃん」

 聞かずとも、女の貌を見れば何を欲しがっているのか分かる。二本の指で摘まんだ乳首をくりくりと捏ねまわし、根元から先端に向かって擦り上げる。

「あんっ…おねが……あぁ! おねがい……」

 びくびくと不規則に身をわななかせながら、蘭は下着ごとスカートを膝まで押し下げた。
 今にも泣きそうな顔をするほど羞恥に苛まれながらも、自分から脱いでねだる蘭に分かったとコナンは受け取った。本当はもう少し、彼女の恥ずかしがる姿を愉しみたかったが、それよりも今は彼女の声が聞きたい。
 膝から先、二つを脱がせ、軽くたたんで脇に置く。
 ふと目を戻すと、女の潤んだ目と緩んだ口元に目が釘付けになる。コナンは吸い寄せられるまま身を寄せ、噛みつくようにして口付けた。

「あぁっ……」

 荒々しく差し込まれる舌の熱さと、またがってくる膝の重みとに喉の奥で喘ぎ、蘭は接吻に応えた。小さな手の片方が首筋に、もう一方が脇腹に伸ばされる。

「やっ…はぁ、ん……あん」

 下に伸びた手は更に下を目指して肌を滑り、時折戯れにくすぐられて蘭はたまらずに嬌声をもらした。

 早く…早く……お願い……

 口内でくねる小さな舌に吸い付きながら、蘭は誘うように腰を揺すり立てた。
 動きに気付き、コナンが口端で笑う。

「っ……」

 嗤われた事に眦が熱くなる。それでもねだるのをやめられず、蘭は這い下りてくる手に合わせて膝を開いた。
 焦らさず、コナンは熱く熟れた花弁に指をあてがった。花弁の縁にまで溢れた蜜が、熱く指先に絡み付く。

「!…」

 待ち望んだ刺激に蘭の身体が跳ねる。

「はあぁ……」

 コナンの舌に自分のそれを絡めたまま、蘭は満足げにため息をもらした。
 火傷しそうに熱い吐息がコナンの舌先を焦がす。それだけで脳天がじりじりと痺れ、思わずうめきがもれた。コナンはぺちゃぺちゃと口淫に耽りながら、あてがった指で花弁を下から上に何度もなぞった。

「ん、ん…ん……」

 ぬるりと粘つく透明なものが指を濡らす。
 その淡い淫らな音は蘭にも伝わっていた。下腹から流し込まれるぞくぞくするような愉悦は、肌の内を熱く這いずり、首筋を駆け上がってじわりじわりと脳天を痺れさせた。
 コナンは繰り返しゆっくり指でなぞった。

「こんなにして……」

 吐息交じりに囁けば、蘭も同じくはあはあと胸を喘がせて返した。

「だって……コナン君が……」
「……また人のせいにして」

 楽しげに笑い、コナンは左手に掴んだ乳房をゆさゆさと揺すり立てた。中央でぷっくりと膨れる突起へと顔をずらし、軽い接吻の後きつく吸い付く。

「だって……ひぁっ…あぁ、あぁん……」

 頭上から零れる甘い泣き声をうっとり聞きながら、右手に責める花弁をより強く刺激する。

「あ…それ……あぁ! ああぁ!」

 思った通りの高い声にため息をもらし、コナンは指を一本、花弁の奥へとゆっくり埋め込んだ。二度、三度と軽く抜き差しを繰り返し、二本に増やして根元まで埋める。そのままぬちゅぬちゅと蠢かせる。

「あ…くうぅ……あぁ!」

 自然と浮いてしまう腰をくねらせながら、蘭は甘い嬌声を迸らせた。

「あぁ…コナン君…コナンくん……あぁ、あ、あ、ああぁ……」

 くちゅぬちゅと卑猥な音と共に抜き差しされる指が最奥に届く度蘭は悩ましい声をもらし、ぶるぶると身をわななかせた。

「いい…気持ちいい……あぁ…コナンくん……コナンく……ああぁ」

 蘭はうわごとにように気持ちいいと繰り返した。先程までの恥じらいも忘れ、内奥の愛撫に合わせて妖しく腰をくねらせ浸る。
 煽られるようにして、コナンは愛撫の手に熱を込めた。ぽってりと腫れ開きかけた花弁を手のひらで揉むように刺激し、先端の花芽を親指で押し潰す。

「ひっ!……そこ、そこぉ……」

 親指の腹で花芽を執拗に舐めまわすと、逃げるように、あるいは押し付けるようにして蘭の腰がくねり、とろりとした蜜がまたも溢れた。

「ここ、好き……?」

 親指と人差し指でそっと花芽を摘まむ。

「うんっ…好きぃ……!」

 蘭が悲鳴まじりに叫ぶ。
 コナンは手のひらを上向きに指を二本埋め込むと、弾むように拳を打ち付けた。その間も途切れず花芽を責め立てる。

「あぁっ…それ……ああぁ!」

 そしてもう一方の手で右の乳房を掴み、骨に擦り付けるようにして大きく揉み上げながら、痛いほど膨れ上がった左の乳首を口に含む。唇で根元から先端まで扱くと、その度に蘭の媚肉はきゅうと収縮し、奥まで咥え込んだコナンの指をしゃぶった。

「くあぁっ!」

 敏感になった箇所を同時に責められ、たまらずに蘭は激しく身悶えた。

「そんな、胸まで……コナン君だめ、だめ…あぁ…だめぇ!」
「だめじゃないでしょ……中もすごく熱くなってるよ」

 興奮を隠せず、コナンは息を荒げながら両の乳房を執拗に嬲った。舌先で何度も乳首を弾き、転がし、吸い上げる。しっとりと汗に濡れた女の肌は心なしか甘く、下腹からむっと込み上げてくる匂いとあいまって頭の芯を痺れさせた。
 埋め込んだ二本の指を食む膣内はすっかりとろけきって、妖しく蠢き、悦ぶように蜜を溢れさせた。

「うん……だめじゃない……あぁ…でもぉ……あぁ…やぁん!」

 押し寄せる快感に蘭は全身を波打たせた。手と舌とで外も中もあまさず責められ、下腹の奥をかき回される音に耳までも侵され、脳天が白く痺れる。次第に何も分からなくなっていく。

「気持ちいいでしょ……蘭姉ちゃん」
「あぁ…きもちいい……いい……」
「もっと気持ち良くなって…もっと……」

 極まりが近いのか、抉るほどに内部から蜜は滴り落ち、コナンの手のひらまで濡らした。

「うん…ああぁだめ、だめ……きちゃう……きちゃうぅ……」

 不意に蘭はぐっと息を詰め、苦しそうに眉根を寄せた。

「あ、あ! いく! いく! あぁ…いっちゃう……あ…コナン君……あぁ!」

 何も言えず、ただごくりと喉を鳴らして、コナンは乱れ狂う顔を間近で見つめていた。蘭と同じほどに息を乱し、彼女に迫った瞬間を等しく味わおうと激しく内奥を擦り上げる。

「だめ――ああ! ああぁ!」

 一際高い声を上げ、蘭はぎゅっと足を閉じた。
 挟む足と内部のきつい締め付けに構わずコナンはより強く突き上げ、最後の最後まで絞り取ろうと指先で深奥を抉った。

「いくっ…いくぅ……あああぁぁ――!」

 全身を引き攣らせて仰け反り、蘭は針の振り切れる瞬間に浸った。
 搾り取ろうとするかのようにきゅうと食いつく膣内へもう一度強引に突き入れると、熱い滴がぷしゃあっと放たれた。

「あぁ……」

 ぞっとする感触に蘭は少し濡れた声をもらした。
 それから、思い出したように胸を喘がせ、長い距離を走り抜いた後のように荒い呼吸を繰り返した。
 しばし続いたそれが収まる頃、コナンはそっと内部から指を抜いた。手は、滴るほどに濡れていた。

「っ……!」

 自分のものであそこまでしたのかと、蘭はあまりの恥ずかしさに頬を赤く染めた。それでいて頭に浮かんだのは、舐めてみたいという浅ましい欲求。

「いいよ」

 と、口元に指が差し出される。

「あ、う……」

 そんなに物欲しそうな顔をしていたのかと、蘭は泣きそうに顔を歪めた。 

「大丈夫」

 コナンはやや強引に人差し指を咥えさせ、あやすように言った。

「蘭姉ちゃんがどんなにエッチでもいやらしくても、嫌いにならないから」

 左手で優しく頬をさすり、萎縮する気持ちを宥める。

「……ほんと?」

 コナンの細い指を口に含んだまま、蘭は恐る恐る見やった。

「蘭姉ちゃんにこんな嘘、言わない」
 言った事ないでしょ

 蘭はおずおずと頷いた。

「ほら…舐めていいよ」

 ゆっくり差し込まれる指に吸い付き、蘭はちゅうっと音を立てた。鼻先が触れるほど間近に、ぞっとするほど優しい微笑で見守る支配者がいる。子供らしからぬ色気を立ち昇らせ、強い眼差しは、愛する男のそれと同じ。

「んん……!」

 蘭は息を乱れさせた。
 誰の前で、何をしているのか。
 新一の前で、指をしゃぶっている…彼のものに見立てて、浅ましく。

「んあぁ……ん」

 はっきり思い浮かべるほどに喉が引き攣り、蘭はしゃくり上げるように喘いだ。その間も舌と唇とでコナンの手を愛撫し、自分の匂いを舐め取っていく。
 指先にキスしたところで、またも欲求が湧き起こる。

「コナンくん……」

 ぽつりと名を呼び、蘭は顔を伏せた。そこであらためて、今の自分の恰好に気付く。下半身は全部脱ぎ去り、前をはだけたブラウスを辛うじて着ているだけのはしたない恰好でベッドに寄りかかり、コナンの指をしゃぶっている。
 今更襟を合わせて隠すのもおかしいし…少し笑いたくなった。

「コナン君」

 可笑しさを自覚して、少し気が軽くなる。蘭はもう一度名を呼び、顔を上げた。
 ほぼ同時に、花芯にひたりと小さな手が押し当てられる。

「っ……」

 二度目の始まりに小さく息を飲み、蘭は熱っぽくコナンを見つめた。

「コ…コナン君……」
「なあに……?」

 少し切ない声で名を呼ぶ女に小さく応え、コナンは内部に浅く指を埋めた。そこは内も外も、まるで粗相をした後のようにぐっしょり濡れそぼり、甘い蜜をたらりと滴らせていた。入れてすぐのところをくにゅくにゅと弄くり回し、もう一度聞き返す。

「どうしたの、蘭姉ちゃん」
「あの…ああぁ……」

 少しの刺激で火が付いたのか、蘭は大きく背を反らし、閉じていた足をゆるゆると開いた。
 身体中で欲しいとねだる様に頬を緩め、コナンは応えて指を突き入れた。ぬるぬると熱く滑る内部をくすぐりながら軽い抜き差しを繰り返し、ぐりぐりと膣上部を抉り立てる。

「あぁんっ…や……しんい……」

 瞬く間に舞い戻る強烈な疼きに蘭は我を忘れて身悶え、愛しい男の名を唇にのぼらせた。
 言ってはいけないけれど、言いたい…呼びたい。
 眼差しで訴える蘭を真っ向から見つめ返し、コナンは唇を塞いだ。名前の残りを自分の口内で受け止める。

「んん…ん、んむ…んんっ…あぅん……」

 蘭の舌の根元まで深く吸い付き深く貪り、溢れる唾液を飲み込み飲ませる。
 愛しくてたまらないと、コナンは何度も背中をまさぐった。長い髪を指に絡めて遊び、もう一方は蘭の深奥で遊ぶ。

「うあぁっ!」

 深い場所を細い指先でこりこりとくじられ、蘭は高く鳴いた。

「ここが気持ちいい?」

 蘭の反応に口端を緩め、コナンは同じ場所を今度は強く抉った。

「あ…音はだめっ……!」

 蘭は頷くが、激しくなった動きのせいで蜜がかき回され、ぐちゅぐちゅと漏れる猥雑な響きに羞恥を募らせた。止めようと、咄嗟にコナンの手を掴む。

「でも気持ちいいでしょ?」
 こんなに恥ずかしい音がするくらい

 下腹でぬちゅぐちゅと繰り返される音、真正面からの声に、蘭は真っ赤な顔で俯いた。コナンから手を離し、その手で、赤くなった顔を覆い隠す。

「あぁっ…きもち…いい……!」

 悲鳴まじりに蘭は喘いだ。

 気持ちいい
 恥ずかしい
 だから…もっとして

 顔を隠し、この上ないほど身を縮めながらも、蘭は享楽の声を上げて素直に悦んだ。

「あぁ、あ…ん……ああ! ああぁ!」

 もっと嗤われてもいいと、どこまでも気持ちが昂る。
 それに伴い身体も極まりへと突き進み、焦らす事無く追い上げるコナンの指に息も絶え絶えに喘ぎながら蘭は二度目の瞬間に手を伸ばした。
 半ば無意識に間近のシーツを握り込み、そこに顔を埋めて何度も叫ぶ。

「ああぁ…コナン君、コナン君……! いく…! い、く! いっちゃうぅ……! あぁ! あああぁ!」

 我慢せずにがくがくと腰を揺すり立て、熱い滴を迸らせながら、蘭は絶頂の瞬間にうっとりと浸った。しばし止めていた息をは、と吐き出し、深い呼吸を繰り返しながら、ぎくしゃくと、握り込んだシーツを離す。
 指が静かに引き抜かれる。

「コナン君…すき…好き……」

 呟くと前触れなく涙が溢れ、自分でも理解出来ないそれに蘭は驚いたように目を瞬いた。

「だいじょうぶ……?」
「うん……好き」

 恥ずかしそうに顔を隠しながらも、甘い声で好きと告げられ、コナンは照れくさそうに笑った。

「ボクも好きだよ」

 嫌がらないだろうかと、コナンはそろそろと顔を覗き込んだ。

「私の方がもっと好き」

 と、蘭は間近の小さな身体に抱き付くと、甘えた仕草で頬をすり寄せた。

「ボクの方がもっともっと好きだもん」

 胸に頬をすり寄せ、はっきりと甘えてくる蘭をしっかり抱き返し、コナンは少しばかりむきになって言い返した。

「私はもっともっともっと好き」

 返って来た言葉にコナンは頬を緩めた。そういう遊びがしたいのかと、くすぐったさに笑みが深まる。愛しさが深く募る。
 ならばまた返そうかと口を開くと、それより先に、蘭が顔を上げじっと見つめてきた。
 まっすぐ向かってくる熱心な眼差しに言葉は引っ込み、コナンは耳を澄ませた。

「証明するから……」

 ため息ほどに蘭が囁く。
 何をするのかと見守っていると、蘭は服の上からへその辺りに唇を寄せた。

「!…」

 布越しでもはっきり伝わってくる熱い吐息に、コナンは息を飲んだ。瞬間、腰の奥を甘い疼きが駆け抜ける。
 まさかと唾を飲み込むと、その通り蘭が告げた。

「コナン君の……舐めさせて」

 蘭はゆっくり顔を上げた。
 数秒、二人の視線が絡み合う。
 コナンは微かに頷き、下衣に手をかけた。

 

 

 

 蘭はベッドの前に跪くと、目の前、ベッドに腰かけたコナンの中心に向かって顔を近付けた。

「っ……」

 先端にかかる女の淡い吐息を感じ取り、コナンは喉の奥で小さく呻いた。
 正確には少し違うが、身体に見合った大きさの、無毛のそれを見られるのは屈辱に等しく、こんな身でなければただただ嬉しいだけだろうが…胸中で渦巻くそれらの葛藤は、蘭の熱い粘膜に包まれた途端呆気なく霧散した。
 咥えられただけで息が乱れ、内股を走る甘い痺れに背筋がとろけそうになる。
 半ば無意識に胸を喘がせながら、コナンはじっと蘭の唇を見つめていた。
 甘食みを繰り返しながら時折きゅっと吸い付き、根元まで飲み込んでいく。
 彼女の口にすっぽり収まってしまうのが少し悲しくもあったが、袋ごとちゅるんと吸い込まれ舌で転がされ、同時に唇で根元をくすぐられる快感はこの身だけのもので、コナンは素直に腰を揺すった。
 反応にほっと安堵した蘭は、頭を小刻みに揺すり何度も傾けては、付け根やくびれを唇と舌で丹念に刺激し、口内で硬く屹立したそれを強く弱く愛撫した。

「く……」

 たまらずにもれそうになる声を辛うじて飲み込み、コナンは喉を引き攣らせた。
 と、蘭の口がそこから離れ、腿の内側や下腹の辺りを舐め始めた。

「あ…そこは、くすぐったいよ……」

 少し困った声で告げると、少し怒った顔で蘭が見上げてきた。

「だって……何も言ってくれないんだもん」

 拗ねた声でぼそぼそと零し、蘭はまたへその辺りに顔を近付けた。子供特有のすべすべと柔らかい肌を軽く歯で挟み、痛いと声を上げさせる。

「ど…どこが気持ちいいとかよくないとか……どこを舐められるのは好きだとか嫌だとか……あるでしょ!」

 照れ隠しからか、蘭はまるで叩き付ける勢いで言った。

「いや、あの……」

 参ったと、コナンは指先で頬をかいた。

「証明…したいのに」

 睨む顔から一転して泣きそうになり、蘭は目線を落とした。

「!…」

 愛しさが瞬く間に込み上げる。衝かれるまま蘭の頭を抱き寄せ、コナンは途切れ途切れに言った。

「蘭がしてくれるならどこも全部…気持ちいい…嬉しい……大好き」
 嗚呼…こんなに好きだ

 蘭はにっこり笑むと同じく腕を回して抱きしめ、返した。

「私の方がもっと好きだもん」

 女の愛くるしい囁きが、コナンの胸に甘く沁み込む。そのせいで中心の熱は更に硬さを増し、今にも達してしまいそうに滾った。それもいいと目を閉じ浸っていると、再び熱い吐息と舌とが触れてきた。

「つ、あっ……」

 今度こそ堪え切れず、コナンは切なく喘いだ。蘭の頭をかき抱いたまま、腰を前後に突き動かす。端から見れば随分滑稽で異様な光景だろう。思い浮かべると、余計興奮が増した。

「らん……」

 頭上から降る甘い呼びかけに蘭はにんまりと口端を持ち上げた。口内で熱塊がぴくんと跳ね、驚くと同時に愛しさが込み上げる。もっと悦んでもらいたいと舌と唇とで応える。
 コナンの動きに合わせて唇で撫で扱き、舌を巻き付け、小刻みにつつく。

「ふ、う……!」

 舌で先端をくじられ、途端走る強い愉悦にコナンは思わず声を上げた。ぞくぞくっと背を這う痺れに呼吸が乱れる。息苦しさに喘ぐと、女の甘い髪の匂いに包まれ、目の前がうっすらと霞んだ。
 蘭の唇を出入りする自分のものが、唾液と粘液とにまみれじゅぷぬちゅと卑猥な音を立てる。
 そこに時折、苦しげな、それでいて甘ったるい喘ぎが混じる。彼女の口内を犯している証に息が乱れる。絶頂が近付く。

「出す…ぞ……」

 更に強く頭を抱きしめ、腰を打ち付ける。
 内股が引き攣れ、内部で凝っていたものが勢いよく先端へと集中する。
 と、蘭がいきなり身を引いた。

「あっ……!」

 驚きの声はコナンの口からもれた。
 直後、目を閉じた女の顔に白いものがぶちまけられる。

「ん……」

 かかった瞬間ぴくりとまつ毛を震わせたが、蘭は何も言わず、静かに座っていた。
 思いもよらない失態に取り乱し、コナンは慌てて左右を見回した。机の上にようやくティッシュを見つけ、転がるようにベッドから降りるとこけつまろびつ取りに走る。

「め、目を開けるなよ! じっとしてろ!」

 コナンを忘れた大慌ての声を楽しげに聞きながら、蘭は大人しく待っていた。頬にかかったものがするりと伝って垂れ、少しむず痒い。
 コナンは掴んだ箱から数枚一気に引き出すと、どこから拭えばよいやら、顔全体を汚してしまった事に申し訳なく思いながら顎を押さえ頬を拭い、丁寧に白液を拭き取っていった。

「ゴメン…その、本当にゴメン……いつもあの…飲んでもらってたから……」

 そのつもりでいたと、コナンはしどろもどろに繰り返し謝った。

「風呂入ったらよく洗っといて……」
「うん、いいの。私がしたかったから」
 一回体験してみたかったの

 思い掛けない言葉にコナンはポカンと口を開けた。

「……ご、ごめんね…変な事して」
 嫌いになる?

 突如不安になり、蘭は恐る恐る尋ねた。
 はたと我に返り、コナンは大きく首を振り立てた。

「いや、いや! ならねーけど……」

 嫌いになどならないが、心底驚いた。こういった行為を望むとは、考えてもいなかった。
 何と破天荒で大胆な、彼女らしい証明の仕方だろう。
 少し呆れが混じる。

「もう……目を開けていいよ」

 すっかり綺麗に拭ったのを確認してから、コナンは言った。
 蘭はゆっくり目を開けると、二度三度瞬きをした。

「結構熱いんだね」

 あっけらかんとした蘭の物言いにコナンは肩を落とした。すぐに気を取り直し、小さく笑って言う。

「そうだよ。蘭姉ちゃんの事が好きで好きでたまらないからね」

 コナンの穏やかな笑顔を数秒見つめ、蘭は身を寄せ抱きついた。

「私の方がもっと好きだもん……見境なく嫉妬しちゃうくらい……」

 消え入るような声で呟き、顔を伏せる。
 深く悔いて、身を縮める女の姿がたまらなく愛おしい。

「……ここだけの話だけどね」

 コナンはそっと抱き返し、蘭の耳元に内緒の話を囁いた。

「新一兄ちゃんの方が、もっと嫉妬深いんだよ」
「……それ、知ってる」

 少しして、蘭の口からくすくすと楽しげな声が零れた。
 ほんのりとあたたかさを感じさせる笑い声を聞きながら、コナンはそっと間近のベッドに目をやった。
 蘭もまた、同じくベッドへと目を向けた。ここで彼に初めて組み敷かれた日の事を思い出す。あの日のきっかけもまた、幼稚な嫉妬だった。
 そっと溜息をもらし、蘭は口を開いた。

「じゃあ私ももっと頑張ろう」
「え、え…頑張っちゃうの?」

 思いがけないひと言、朗らかな声に面食らい、コナンは聞き返した。

「うん、だって、新一には負けたくないもん」

 殊更可愛らしい物言いに小さく吹き出す。

「うわあ、新一兄ちゃん大変そう」
「そうだよ…」

 蘭は抱き付いたまま顔を上げた。間近にあるコナン…新一の顔をじっと見つめる。
 熱心に見つめてくる眼差しをしっかり受け取り、コナンは瞬きも忘れてただひたすらに愛しい女の姿を目に映した。

「……ごめんなさい」
「もう大丈夫だよ、蘭…姉ちゃん」

 お互いに許し合い、二人はどちらからともなく唇を寄せた。
 長い接吻の後、またしても言い合いが起こる。
 二人は互いに一歩も譲らず、際限なく好きを積み重ねた。

 

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