おまじない

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝は、眩しいほど強い陽射しの照りつける、雲一つない青空が広がっていた。

 

 

 

 休日に晴天に恵まれるのは数週間ぶりで、ここぞとばかりに蘭はたまった洗濯物に取り掛かった。
 ついでに、布団もクッションも座布団も全部まとめて屋上に広げる。
「この分なら、今日中に全部乾いちゃうね」
 手伝ってくれるコナンにそう声をかけ、蘭は大きく伸びをした。
 やっぱりお日様って気持ちいい。
「そうだね」
 青い空に輝く太陽に負けないくらい晴れやかに笑う蘭を、少し眩しそうに見上げ、コナンは頷いた。
 ところが、昼を過ぎて少しした頃、急に空に雲が広がり始めた。
 太陽の光を厚い雲が遮り、にわかに辺りが暗くなる。
「やだなあ」
 ほとんど雲に覆われてしまった青空を見上げ、蘭はがっかりしたように零して洗濯物を残らず取り込んだ。
 でも、ほとんど乾いているからいいか
 ここ何週間かじめじめとした天気が続いたせいで、きちんと外に干せなかった洗濯物を残らず済ます事が出来たので、良しとする。
「じゃあコナン君、タオルたたんでくれる?」
「はーい」
 取り込んだ洗濯物を山のように積み、二人がかりでたたみ始める。
 ……こうして見るとたくさんあるようだけど、たたんじゃうとそうでもないのよね
 そんな事を取りとめもなく考えながら、蘭はたたみ終えた衣服を父親と自分とコナンの三つの山に分け、それぞれの部屋にしまっていった。
 最後に自分の衣服をしまおうと部屋に入った時、外から、ゴロゴロと腹に響く雷鳴が聞こえてきた。
「きゃあ!」
 お化けと並んで苦手な雷に、蘭は悲鳴を上げしゃがみ込んだ。
「どうしたの!」
 洗面所にタオルをしまいにいったコナンが、悲鳴にすぐさま駆けつけた。部屋に入ると同時に、再び空で雷鳴が轟いた。
「っ……!」
 音がすると同時に両耳をぎゅっと押さえ、蘭は首をすくめた。もう、声も出せない。
 何かアクシデントでもあったのかと肝を冷やしたが、原因が分かってコナンはほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫、蘭姉ちゃん」
 近付いて様子をうかがうと、蘭は目に涙を浮かべくすんと鼻を鳴らした。
 また、外で雷鳴が轟いた。
 空はますます暗くなる。
 今にも泣きそうに眉を寄せうずくまっている蘭に、コナンはすっと手を差し伸べた。これ以上雷が聞こえないようにと、耳を塞ぐ手に自分の手を重ねる。
「あ、ありがとう……」
 手の甲から伝わるぬくもりに、心配そうな眼差しに、蘭は少し強張った顔で笑った。大丈夫という代わりに。恐る恐る、肩の力を抜く。
 時々意地悪をするけれど、本当は今みたいにすごく優しい
 ……すごく好き
「コナン君て、ホント新一みたいね……」
 蘭の言葉に、コナンは一瞬目を見開いた。

 

 江戸川コナンの正体が工藤新一であると、蘭が確信を持って訊ねた時、自分は「はい」とも「いいえ」とも答えなかった。しかし沈黙は立派な肯定となり、それを以って蘭は得心した。そしてそれ以上は問い詰める事をせず、こちらからの説明があるまでは何も聞かない、誰にも言わないと約束を交わした。
 それまでとそれからとで、蘭の態度に何ら変わりはなかった。妙によそよそしくなる事も、逆に秘密を共有する者同士が見せる馴れ合いもせず、完璧に貫き通した。
 全てではないがイコールを得た蘭に『コナン』と呼ばれるのは、呼ばせるのは辛くもあったが、彼女にとっては傍にいること自体が充分な精神安定に繋がるようで、また自分にとっても、揺らぎなく真実の自分を見ていると十二分に確信させる彼女の声は、大きな救いとなった。
 そして時折、今のように遠回しでイコールを持ち出しては、再確認する。
 その度ごとに自分は、彼女の強さと愛情の深さを知るのだ。

 

 ついに雨は降り出した。
 ぽつぽつと窓を叩く雨粒はすぐにざーっと激しい音に変わり、その合間を縫って、段々と近付いてくる雷鳴が空を轟かせた。
 コナンは手を重ねたまま、静かに口を開いた。
「蘭姉ちゃん、前に新一兄ちゃんに教わった雷が怖くなくなるおまじない、してあげようか」
 薄暗い部屋の中、囁くようなコナンの声が、鮮やかに鼓膜に響く。
「……うん。して」
 雷に惑わされないよう、蘭は近付いてくるコナンの瞳だけを見つめていた。
 その眼差しは、小学一年生に向けられたものではなかった。
 熱心に見つめてくる蘭の瞳を受け止め、コナンは顔を近付けた。
 ややあって、二人の影が重なる。
 あたたかい唇の感触に、蘭は目を閉じた。
 軽く押し当てられた唇は一旦離れ、また近付いて、ついばむような軽い口付けの繰り返しに、段々と身体が熱を帯びていく。
 まだ残る緊張をほどくように、コナンは頬から首筋へゆっくり顔をずらしていった。
「ん……」
 くすぐるような唇の愛撫に、かすかに声をもらす。小さな唇がむず痒い…愛しい。
 蘭は無意識の内に微笑みを浮かべた。
「……あ」
 胸元に軽く吸い付かれ、思わずため息をつく。
 反応を見ながら、コナンはそっと手を離しブラウスの襟元に寄せた。ゆっくりと一つ、ボタンを外す。
 その動作に、蘭の身体が一瞬強張りを見せた。一度手を止め、様子をうかがう。沈黙を肯定と受け取り、コナンは再びボタンを外していった。
 また、口付ける。
 今度は深く。
「んふ……」
 蘭もそれに応え、するりと入り込んでくる舌に自分のそれを絡め、柔らかく吸った。口中で踊る小さな舌がたまらなく愛しくて、半ば我を忘れて戯れる。
「ふぅ……んん」
 キスの合間にもれる互いの吐息が、激しく降りしきる雨音と共に生々しく部屋に響く。
 ボタンを全部外し、襟を開くと、コナンは首筋から胸元に向かってゆっくり指先を滑らせた。
「っ……」
 ぴくんと肌が緊張する。手触りを楽しみながら指を這わせ、コナンは尚も接吻に耽った。
「はぁっ……、は…ぁ……んぅ」
 苦しさに、蘭は唇をずらして息を飲み込んだ。
 すぐさまコナンは追いかけ、逃げ惑う舌に軽く噛み付いた。
「ん…ん、あ……」
 甘噛みにびりびりと背筋が痺れ、たまらずに蘭は小刻みな震えを放った。
 耳を押さえていた手はいつしかほどけ、目の前の小さな身体を求めて縋り付く。
「…コナン君……」
 どこか切ない響きで蘭は名を呼んだ。
 応えてコナンは抱き返した。触れ合う肌から伝わってくる幾分早い鼓動に、目が眩む。
「………」唇だけで『らん』と綴る。
 密やかに届いた声に、安心しきった表情で蘭は目を閉じた。もう耳を覆わなくても、雷鳴に脅かされる事はない。
 薄暗い部屋の中、互いの鼓動だけが聞こえる。
 現実味の薄れた空間で、一つ二つと数える内、過日の出来事がぼんやりと頭の中に甦ってくる。
 蘭はうっすらと目を開き、コナンの肩越しに見えてくるあの日を緩やかに追った。

 

 

 

 あの日―― 
 いつもと同じ朝、いつもと同じ日常が、突然、豹変した。
 いつもとは違う態度、いつもとは違う眼差しに追い詰められ、気付けばベッドに組み敷かれていた。
 中身がどうあれ、見た目はただの小学生なのだ。
 言葉に出来ない不快感はことのほか強く、そのせいで恐怖が勝って拒絶に結びついてしまった。
 同意を求めず、半ば無理やりにというのも恐怖に拍車をかける一因となった。
 それで心底嫌ならば突き飛ばしてでも逃げればいい。
 けれど見た目はどうあれ、中身は間違いなく新一なのだ。
 見知らぬ誰かでも、小学一年生の江戸川コナンでもない。
 そして自分は、他でもない新一に求められたいと思っていたのだ。ずっと。
 隠し持っていた、深い欲望。
 だから、口では嫌だと拒みながらも本気で抵抗する事はしなかった。
 ――出来なかった
 押さえ付ける腕に、きつく唇を噛む。

 

 ――拒絶の言葉を吐く彼女に、怒りが募る。
 七歳児の小さな身体で出来る蹂躙などたかが知れている。相手が本気を出せば、やすやすと払い落とされてしまうだろう。
 ――それをしない事に、更に怒りが増す。
 身体が元のままであったなら、組み敷く事など造作もなかっただろう。そもそも、こんな暗い欲望など抱く事もなかったはず。
 身体が元のままだったら、こんな歯痒い思いなど――
 怒りに任せて、強引に蘭の服を剥ぎ取る。

 

 上体をひねりシーツに顔を埋め、けれど腰だけは正直に彼に突き出して、蘭は飲み込みきれない嬌声を上げ続けた。
「いや……ああぁ……」
 恥ずかしさに顔を覆う。
 既に一度、強制という形で極まりを迎えていた。
「も、う……やめてっ……」
 弱々しい訴えはことごとく無視された。
 一度では満足しないのか、再び指で追い詰められ、蘭は涙まじりの悲鳴をしとどにもらした。
「気持ちいい? 蘭姉ちゃん」
 頭上から、嘲笑まじりの声が聞こえてくる。
 ぐちゅぬちゅと粘ついた水音をわざと上げながら繰り返される抜き差しに、蘭は顔を覆ったまま激しく首を打ち振った。
「いやっ……気持ちよく…ない……」
「だったらどうして逃げないの?」
 即座に突きつけられた矛盾に、ぎゅっと唇を噛む。
「嘘ついてもダメだよ。だってほら――」
 言葉と同時に根元まで指を埋め込まれ、そのままで膣上部を三本の指で刺激される。
 自然と腰が浮いてしまうほどの強烈な快感に、蘭は息を乱れさせた。
「やぁっ……あ、あ、あ……!」
 三本の細い異物が、敏感な箇所を的確に責めてくる。
「自分から腰振っちゃってるじゃない。気持ち良いんでしょ?」
「ちが、う……」
 駆け抜ける快感を必死に払い除けながら、何度も「違う」と否定する。
「ホントに嘘吐きだなあ、蘭姉ちゃんは」
 あどけない子供の振りが、かえって毒々しい。
「ね、顔見せて。気持ち良いって、言ってよ」
 そう囁き顔を覗き込んでくる少年を頑なに拒み、蘭はぎゅっと指先を額に押し付けた。
 業を煮やしたのか、それまで緩やかに蠢いていた指が強い突き上げに変わる。
「うああぁぁぁぁ……あぁっ…あ――!」
 鋭い悲鳴を迸らせ、蘭はがくがくと腰を揺すりたてた。
「良いんでしょ。ねえ」
 こちらの気持ちを無視して好き勝手に続ける少年に、怒りがゆらゆらと過ぎる。
 乱れる息に喘ぎながら、蘭は手をのけて見上げた。
 薄笑いを浮かべ、蔑む眼差しで見下ろしている。
 けれど、どこか追い詰められているようにも受け取れた。
 本心をひた隠しにして歪んだ表情が、じりじりとした痛みを伴って胸に強く迫ってくる。
 そんな顔をするくらいなら……!
 怒りも痛みも哀れみも突き抜けた激しい感情が、胸の奥でわっと弾ける。
 気付けば、抱きしめ口付けていた。
 涙が後から後から溢れる。
 何故泣くのか自分でもわからない。
 ただぬくもりが欲しかった。
 確かなぬくもりが。
 こんな間違ったやり方ではなく……
「あげる…から……」
 すすり泣きに肩を震わせながら、蘭は途切れ途切れに呟いた。
「私は……わたしは……、全部……――」
 全部新一のものだから……
 もう一度口付け、顔を伏せ泣きじゃくる。
 ややあって、腕の中で小さな身体が身じろいだ。
 そのまま離れていってしまうのではないかと、蘭は咄嗟に抱きしめる腕に力を込めた。
 こんなに近くにいるのに、どうして苦しんでいる彼の為に出来る事が一つもないんだろう
 言いようのない寂しさに胸がねじ切られそうになる。
 苦しさに意識が遠のきかけた直後、ためらいがちに抱き返され、蘭ははっと目を見開いた。
 微かに耳に届いた許しをこう言葉に、また涙が溢れた。
 はっきりと首を振る。
「触って……コナン君…もっと……、触って」
「……触ってほしいの?」
「うん…触って……お願い」
「……いいよ。触ってあげるから、だから……もう泣かないで、蘭…姉ちゃん。全部――あげるから……」
「コナン……君」
 戸惑いながら近付いてくる顔に、蘭は自ら唇を差し出した。
 優しく触れる口付けに、そっと瞼を閉じる。
 押されて眦から一粒、涙が零れた。

 

 

 

 あの日と同じように、蘭は自ら唇を差し出しコナンに口付けた。声は出さずに、絡める舌先でぺちゃくちゃと言葉を交わす。
 コナンは抱きしめていた腕をゆっくりほどくと、舌を貪りながら、蘭の乳房を手のひらに捕らえた。
「あん……」
 下着の上から与えられる刺激に、蘭の口から甘えたため息がもれる。
 コナンはそのまま何度か撫でさすると、肩紐をずらして緩め、じかに乳房を包み込んだ。すくうように揉み上げ、ずっしりと重い乳房を思う存分楽しむ。
「やっ……」
 すでに硬くそそり立った乳首を摘み上げると、蘭の身体は素直にぴくんと反応し、それがおもしろくてコナンは繰り返し摘んでは弾いた。
「あぁ…あ……コナン……君」
 縋るような蘭の声に、しっとりと汗ばんだ肌の艶めかしい感触に、段々と息が上がる。いっそ喰らってしまいたい衝動に目を眩ませながら、コナンは手のひらで弄ぶ乳房目指して愛撫をずらしていった。
「あ……、あぁっ……」
 火傷しそうに熱い吐息が、頬から首筋へと移る。音を立てた口付けでついばみながら乳房へと向かうコナンを、蘭は慈しむように抱きしめた。
「っ……」
 肩に残っていたもう一方の手が、タイトスカートの奥へ入り込む。蘭は半ば無意識に膝を開き、コナンの手を受け入れた。
 小さな手は迷う事無くショーツの中に潜り込み、待ち焦がれて蜜を溢れさせた花弁にそっと触れた。
「うぅん……」
 確かめるように二度三度と撫で上げる指に、蘭はゆらゆらと腰を揺すった。
「…もっと……」
 赤い頬を更に熱くさせ、蘭はかすれた声で囁いた。
「……もっと、なに?」
 自ら足を開きねだる蘭に意地悪く聞き返し、コナンは妖しく笑った。
「あ……」
 自分の口で言えと促すコナンを潤んだ瞳で見つめ返し、蘭は途切れ途切れに告げた。
「触って……お願い、コナン君……触って――」
 最後は声にならない悲鳴に喉を震わせ、ぎゅっと目を瞑る。
「……いいよ」
 望み通り、花弁の一端にあるぷっくりとした柔芽を二本の指できゅうっと摘んだ。
「はん……ああぁ――!」
 途端に蘭はびくびくっと背を反らせ、鼻にかかった甘い声をもらした。
「…蘭……!」
 鼓膜を犯す甘い響きに、他の事が何も考えられなくなる。コナンは目の前の白い乳房に噛み付くと、音を立ててきつく乳首を吸った。同時に下部に潜り込ませた手を、激しく動かす。
「やぁ、ん……あぁあ!」
 二ヶ所で起こる卑猥な水音に、蘭はいやいやと首を打ち振った。それに合わせて長い黒髪が乱れ踊る。
 しかし声とは逆に蘭の手は力を増し、逃すまいとコナンを拘束した。
「くぅ、ん……! あ…はぁ……んん」
 ねっとりと湿った粘膜に包まれた乳首が、舌先で縦横に転がされる。足の奥にもぐりこんだ手は、柔芽を摘んでは捏ね回し、腹の指で舐め上げるように動いて、十二分に蘭を翻弄した。
 ああ…すごく……気持ちいい
 頭の中が真っ白になるほどの甘美な刺激に、痺れてとろけてしまいそうで、蘭は我を忘れて淫らに鳴いた。
「あぁ、ん……コナン君……そこ……、そこ…っ……」
 ぐちゅぬちゅと蜜をかき混ぜながら行き来する指に、蘭はうわ言のように何度も「気持ちいい」ともらし、自ら腰をくねらせた。
「あ…はぁ……はっ……んん……ふぅう……」
「もう…いきそう?」
 コナンは一旦乳房から顔を離し、頭上ではあはあと熱い吐息に喘いでいる蘭を見上げ、そっと囁いた。
「うん……もう……あぁ、あ!」
 弱々しく頷く姿に満足そうに口端を持ち上げ、コナンは指の動きを早めた。
「じゃあ、いくって言って」
 目の前まで迫った絶頂が欲しくて、いつもなら恥ずかしくて言いにくい言葉を、蘭はするりと口から零した。
「あ、はぁ…ん……いく……いっちゃう…もっ…あぁああ!」
 心の片隅に過ぎる羞恥さえ、今は心地好かった。
 全て投げ出し、与えられる快感にのみ身体を委ねて、蘭は極まりの瞬間を迎えた。
「あぁ……――!」
 わずかに腰を浮かし、頭の中が真っ白になるほどの絶頂感にきつく目を閉じる。
 見計らい、コナンはずぶりと指を突き立て強く抉った。
「ひぃっ……」
 蘭は飲み込んだ指を食いちぎらんばかりに締め付け、びくびくと身体を痙攣させた。
 やがて頂点から緩やかに波は引いていき、それに合わせて蘭も少しずつ身体から力を抜いていった。
 滾っていた熱が治まると同時に、周りの音が徐々に聞こえ出す。
 激しく降りしきる雨の音に包まれ、二人は抱き合ったまましばし余韻に浸った。
 さっきまであれほど乱れていたのが嘘のように、穏やかな時間が流れる。
 やがて、折れんばかりの収縮もほどけた頃、コナンの指が再び内部で動き出した。
「ん……」
 一度目とは違う柔らかな愛撫に、腰の奥がじんわりと熱くなる。
 二度目の始まりはいつも、まだ残る余韻のせいで過敏になっていて、正直いじられるのが辛い時もあるのだが、今はそれがまったくなかった。
 いたわるように優しく、ゆっくり与えられる愛撫はゆるゆると心地好く、指の動き一つひとつが頭の中に思い浮かぶようで、より強い官能を蘭にもたらした。
「あぁっ……」
 今、どこを触っているのか、どんな風に動いているのか。あたかも目の前で起こっているような錯覚に身体の芯がじわじわと疼いた。
「コナン君……」
 切なげな吐息に、コナンは顔を上げた。
「好き……大好き」
 満たされた心から溢れる思いが涙となってとめどなく流れ、頬を伝う。
「蘭……」
 泣きながら笑う女の名前をひっそりと呼び、コナンはゆっくりと指をくねらせた。
「あぁ……」
 いつものところから少しだけ浮き上がって、そのまま穏やかに浮遊を続けているよう……
 このまま緩やかに、穏やかに上り詰めて、絶頂を迎えるのもいい。
 コナンの額に口付け、蘭は頬をすり寄せた。
 次第に雨音に混じって、艶を含んだ熱い吐息が部屋を満たし始める。
「うぅん……いい……、すごく……」
 早くなっていく自分の鼓動を耳の奥で聴きながら、蘭は再びやってきた快楽のうねりに素直に身を委ねた。
「あぁ……――!」
 長く細く嬌声を迸らせ、蘭は二度目の絶頂に意識を飛ばした。

 

 

 

「……大丈夫?」
 達した後の心地好い脱力感に素直に身体を横たえ、しばしそのままでいた蘭に、コナンが恐る恐る声をかける。
「うん……もう平気」
 恥ずかしそうに横目で見やり、蘭はゆっくり起き上がった。
 その後二人でシャワーを浴び、着替えて部屋に戻ってみると、雨はすっかり上がって日が射し始めていた。
「わぁ……」
 雨上がりのすがすがしい空気に誘われて、蘭は窓辺に歩み寄った。
 開け放った窓から空を見上げる。
「新一のおまじない、すごいね。雷が怖くなくなるどころか、雨まで止んじゃうなんて」
 すっかり遠ざかった雨雲、広がる青空に、嬉しそうに声を上げる蘭の横顔を、コナンはちらりちらりと見上げた。
「……ありがとね、コナン君」
「う、うん……」
 少し照れたように囁く蘭に複雑な笑顔で頷き、同じように窓の桟に手をかけ空を見上げる。
 と、傍にあった蘭の手がコナンの上にそっと重ねられた。
「!……」
「………」
 二人はしばしそのままで、空を眺めていた。
 たったこれだけでとても落ち着く。
 たったこれだけで、胸がどきどきしてくる。
 ゆったりした静寂の後、蘭は顔を見合わせ言った。
「ね、アイス食べよっか」
「うん!」
 眩しいほどの笑顔につられてコナンも笑い、大きく頷いた。

 

目次