休日の午後に

 

 

 

 

 

 今の今まで晴れてたってのに……

 急に降り出した雨に大慌てで、コナンは洗濯物を取りに走った。
 シャツもタオルも靴下も全部いっぺんに掴んで担いで、転がり落ちないよう気を付けて階段を下りる。
 手にぐるぐると巻き付けて担いだシーツをリビングでほどきながら、コナンはふうと溜め息をついた。
 幸い、降り出してすぐ気付いたお陰で被害はほとんどない。
 一緒くたに運んだ風呂場の足拭きマットやキッチンの手ぬぐいをそれぞれの場所に収めながら、やれやれと肩を落とす。
 今日は、小五郎も蘭もいない。
 朝食の後、小五郎はいつものごとく例の場所へ、蘭は、園子と一緒に買い物に出かけていた。
 本当は蘭についていきたかったが、そう毎度毎度くっついていくのも、今の自分の外見を思うとためらわれた。

 まあ……しょうがねーよな

 リビングに戻り、部屋一杯に散らばる洗濯物を前に頭をかく。
 さて、たたんじまうか
 コナンは床に座り洗濯物に手をかけた。
 しかしすぐに立ち上がって、玄関に向かい、鍵を開けて外に出た。
 階段の下に目を凝らす。
 まだ、帰ってくる気配はない。

 傘…持ってったかな

 心配になる。
 と、軽やかな足音が建物に近付いてくるのが聞こえた。
 もしやと思いしばし待っていると、案の定、濡れないよう頭に手をかざして蘭が駆け込んできた。
 その姿を見るやコナンは踵を返し、山になった洗濯物の中から適当にタオルを一枚拾い上げると、また玄関先に戻った。
 タイミングを同じくして、蘭が玄関のドアを開け入ってきた。
「お帰り蘭姉ちゃん。濡れたでしょ、はいタオル」
「わあ、ありがとう、ただいまコナン君。うん、ちょっとだけね。もう、すぐそこまで来てたから」
 蘭は笑顔でタオルを受け取ると、肩や髪を手早く拭った。
「それで、良いもの買えた?」
「うん、バッチリ。後で着てみるから、見てくれる?」
 肩に下げた紙袋を軽く持ち上げて、蘭ははしゃいだ声を上げた。
「うん、見せて見せて」
 コナンも同じく声を上げ、楽しみだと付け加えた。
「その前にシャワー浴びてきちゃうね。もう蒸し暑くて、汗だらけになっちゃったから」
 少しおどけた声で言い、蘭はリビングの隅に荷物を下ろした。
「あ、洗濯物、ありがとね。大変だったでしょ」
「ぜんぜん、すぐにたたんじゃうね」
「いいよ、一緒にやろう。それからシャワー浴びるから」
「え、ダメだよ。ちょっとでも雨に濡れたままじゃ、風邪引いちゃうよ。それに、汗かいた後は身体が冷えるし」
「大丈夫、このくらい平気よ」
 そう言うや座り込み、洗濯物に手を伸ばす蘭を無理やり引っ張り立たせると、コナンは風呂場へと押しやった。
「だからダメだってば。ここはボクがやっておくから、蘭姉ちゃんはシャワー浴びてきて」
「だってそんなにたくさん、一人じゃ……」
「いいから、早く」
 有無を言わさぬコナンに折れ、蘭は微苦笑で頷いた。
「……じゃあ、お願いしちゃうね」
「うん、冷たい麦茶入れておくから」
「ありがとう、じゃあちょっといってくるね」
 素直に向かうのを見届けてから、コナンはまたもやれやれと肩を落とした。

 

 

 

「ああ、さっぱりした」
 軽やかな声と共に戻ってきた蘭を振り返り、コナンはおかえりと声をかけた。
「ありがとう」
 居間は適度に冷房が効いており、ほてった身体にすっと沁みて心地良かった。
「涼しくて気持ちいい…麦茶、ありがとね」
 もう待ちきれないと、座るやコップに手を伸ばし、半分ほどを一息に飲み干した蘭に軽く笑って、コナンは隣に腰を下ろした。
 脇に置かれた二つ三つの紙袋を何気なくちらりと見やると、蘭も同じく視線を向けて笑み、引き寄せた。
「気に入ってもらえると良いんだけど……」
 期待と不安の入り混じった声音が、コナンの心をくすぐった。深く…大きく。紙袋の中身は全て、彼女が自分の好みで買ったものばかり、自分が気に入ればそれでいいだろうに、そこに誰かへの気持ちも織り交ぜているという事実にたまらなく嬉しくなる。
 また愛しさが増す。
「あ、待って蘭姉ちゃん」
 袋の口を閉じるシールを慎重にはがして、さあ中身をと手を伸ばす蘭に制止の声を上げる。
「着替え終わるまで後ろ向いてるから、出来たら声かけてくれる?」
 言葉の意味を即座に理解し、蘭はきらりと目を輝かせて頷いた。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
「うん」
 コナンは自分のコップを手に、蘭に背中を向けた。背後で起こる着替えの音を聞きながら、程よく冷えた麦茶をひと口、ふた口。今日はどんな可愛らしい彼女に会えるのかと期待が増すほど、喉が詰まり、上手く飲み込めない。こっそり苦笑いを零す。
 と、ついに控えめな声が自分の名を呼んだ。
 コップを置き、向き直る。
「……こんな感じ」
 はにかむ愛くるしい笑みにまず目を奪われる。慌てて瞬き、コナンは彼女を包む爽やかな色を見渡した。
 淡い水色に細い白の縞が縦に走るブラウスと、濃いグレーの七分丈パンツ。
 ブラウスは同布の細いリボンが付いており、胸元にはフリルがあしらわれていた。とても可愛らしく、それでいて甘さに傾き過ぎない絶妙な柔らかさがあった。パンツはすっきりとしたシルエットで、彼女の形良い足をさらに細くすらりと見せてくれた。
 夏にふさわしい清々しさに、コナンは何も言えずただ見惚れていた。
 その沈黙が恥ずかしいと、蘭は打ち消すように小物類を手に取った。
 これはパンツに合わせて買ったベルト、これも合わせて買った髪留め、これは…律義に頷きはするが、まだ見惚れているコナンには半分も聞こえていなかった。やっと我に返り、遅れて理解する。慌てて見回す。
「そ、それでね……」
 不意に、蘭の声が色を変えた。
 少し硬さを帯びた声音にコナンはわずかに目を見開き、次は何を見せたいのかと視線を注ぐ。
 その前で膝立ちになると、蘭はブラウスのリボンをするりとほどいた。
「いつもは適当に買ってたんだけど……今日は、ちゃんと…お店の人に測ってもらって……」
 言いながら、ブラウスのボタンを一つひとつ外していく。
 時折手が不自然に止まるが、コナンは何も言わず見守っていた。
 呆けていた、というのが正解か。
「か…買ってきたの……」
 恥ずかしそうに俯いて、蘭はおずおずと前をはだけた。
 思ってもいない展開に息が上がる。同時に、彼女が自分から、片隅ではまだ好きになれないでいるものを見せようとする心の動きに沿うように、慎重に目を向ける。
「ど…どう、かな」
 強張った顔で壁を凝視し、蘭は喉に詰まらせながら言った。
 彼女が見せたのは、レースのあしらいが可愛らしいピンクのブラだった。いつもつけている、適当に選び無理に押し込めているそれとは違い、今身につけているのは彼女にぴったり合ったサイズの物だった。
「正直に言っていい?」
 コナンの声に一瞬肩を弾ませ、ぎこちなく頷く。
「すごくカッコいいよ、蘭姉ちゃん」
 途端に蘭は睨み付けるようにコナンを見やった。もちろん、憎しみを込めて…ではない。
「本当に。とても綺麗」 
 半ば予測した通りの蘭に小さく笑いかけ、コナンはもう一度称賛の言葉を口にした。
 迫力がある、と言っては失礼かもしれないが、たっぷりと大きい乳房がしっかりと収まり、支えられ、形良く上を向いている様は実に美しかった。綺麗に引き締まったウエストや鍛えられた腹部と相まって、何べんでも褒めちぎりたくなる。それで調子に乗って言葉を重ねては、彼女の傷付きやすい部分に触れてしまう事になるだろうからもったいなくも飲み込むが、ただ素直に美しいとコナンは思った。
「あ…ありがとう……」

 ああ、やはり来たか。

 嬉しそうにしながらも涙を滲ませる蘭に、コナンはすぐさまハンカチを取り出した。嬉しさだけか、他に含むものがあるのか、彼女自身も把握しきれていないだろう。条件反射となっている部分もあるだろう。
 とにかく今出来るのは、彼女の気持ちが落ち着くまで静かにしている事だけ。
「ごめんね…すぐ…甘えちゃって……」
 目頭を押さえるハンカチに身を委ね、蘭は申し訳なさそうに呟いた。
「大丈夫だよ」
 何ともないと聞こえるよう、コナンは軽やかに返した。
「こんなに綺麗なんだから、もっと自信持っていいよ、蘭姉ちゃん」
 不安げにしながらも、蘭は小さく頷いた。かすれる声がありがとうと呟く。
「に…似合ってた……?」
「うん、どれも蘭姉ちゃんによく似合ってた。可愛くて、綺麗で、カッコよかったよ」
 言うと、少し間を開けて蘭は恥ずかしそうに声をもらした。笑ったのか、何か呟いたのか。
 コナンはそっと眦を拭ってやりながら、静かに頭を撫でた。
 と、わずかに蘭が動いた。それまで伏せていた顔をおずおずと動かし、ほんの少し顎を上げる。
 それがキスをせがむものだと気付くや、コナンは口端で笑い、指を添えて更に上向かせた。
 やや抵抗があったが、すぐに力は抜けた。
 笑みを深め、静かに接吻する。微かに強張った唇を何度かついばみ、コナンは緩むのを待った。
「っ……」
 ため息ほどに蘭の唇が開く。コナンはそこから舌を挿し入れると、控えめに動く蘭のそれをつついて誘った。
「ふ、…ん」
 遠慮がちに声をもらし、蘭は誘う舌について行った。始めは鈍く動いていたそれだが、深い口付けの訪れとともに大胆さを増し、ねっとりと絡む小さな舌を包み込み妖しく蠢いた。
「ん…はぁ……」
 零れたうめきは自分のか彼のか。分からなくなるほど吐息を飲み込み唾液を絡め、蘭はぺちゃぺちゃと舌の根元まで絡めて吸い合った。
 ようやく唇を離した時には、息が上がり、肩までも上下させていた。
「……する?」
 言葉を濁しながらはっきりと、コナンが尋ねる。
 途端に頬がほてる。ほんのり顔を赤く染め、蘭は「したい……」と伏し目がちに答えた。
「あ……」
 小さな腕が頭を抱き寄せる。思いがけず強い抱擁に驚き、甘え、蘭はそっと頬をすり寄せた。
「じゃあ蘭姉ちゃん…全部脱いで。せっかく買った服が皺になったら嫌でしょ」
 優しく耳をくすぐる気遣いの声に嬉しく頷き、蘭は目を上げた。
 はっと息を飲む。
 間近にあるのは、今聞こえたあどけない声とはかけ離れた支配者の貌…青く怜悧な瞳。
 見た目に相応しからぬぞっとするほどの色気が、蘭の目を釘付けにする。身体の深い場所でじわりと熱いものが滲み出る感触に、震えが止まらない。
「しよう……コナン…君」
 熱っぽく訴える蘭にふと笑って応え、コナンはするりと頬を撫でた。

 

 

 

 テレビを正面に座り壁にもたれ、ショーツをはいただけの姿で蘭は接吻にふけっていた。膝にまたがるコナンに頬を両手で押さえ込まれ、苦しさに呻くほど飲み込まれながら懸命に舌を吸うる。
「あ、ん…んん……うっ……」
 長い事、湿った音と二人の荒い息遣いだけが部屋に響いていた。
「うぅ……」
 さすがに耐えきれなくなり、蘭は仰のき肩で息をついた。胸を隠していた手で半ば無意識に心臓の辺りを押さえ、ごくりと喉を鳴らす。
「大丈夫?」
 コナンは乱れた前髪を軽くすいてやった。
「へいき……」
 二度三度頷き、蘭は恥じらいながら正面に目を戻した。熱っぽく、求める眼差しで間近のコナンを見つめる。
 息も途切れるほどのキスは、コナンが強制したわけではない。蘭の方からも積極的に動き、呼吸も忘れるほどに耽っていたのにはわけがあった。
「……縛られて…興奮しちゃった?」
 蘭を見つめたままコナンは後方に手を伸ばし、彼女の足首に巻き付くベルトをひと撫でした。
「っ……!」
 言い当てられ気まずい時するように、蘭はよそへ目を逸らし押し黙った。
 視界の端に足首の戒めを映し、しきりに瞬きを繰り返す。
 柔らかい皮革を使った編みベルトは若干の余裕をもって蘭の足首に絡み付き、自由を奪っていた。
 それは、罰でもご褒美でもあった。

 

 

 

 コナンに称賛を受けたブラウスとパンツを脱ぎ、ブラも外したところで、蘭はちらりと視線を送った。腰の深奥で欲求ははちきれんばかりに膨れ上がっているのだが、いざ全て脱ぎ去ってしまうのには抵抗があった。
 おどおどと腕を引き寄せ乳房を隠し、探るようにコナンを見つめる。
「無理なら、今はいいよ」
 確かめるように上目づかいに見やると、再び抱き寄せられた。耳元に囁きがかかる。
「だって、蘭姉ちゃん……」
 その後に続く言葉が容易に想像出来る。始めてしまえば、すぐに何も分からなくなって、自分からねだるでしょう…そう続けようとするコナンに蘭は慌てて首を振った。言わないでと、腕の中小さくもがく。
「じゃあ、その代わりに」
 抱きしめたまま、コナンが身じろぐ。傍にある何かを引き寄せた動きに、蘭は恐る恐る身体を起こした。
 彼が手にしたのは、パンツに合わせて買ったこげ茶の編みベルトだった。金具で留めるのではなく、緩く結んで使うタイプのそれをどうするのかと目を細め、すぐに理解して、蘭ははっと目を見開いた。
 胸を隠す手に力を込める。縛られる…縛ってもらえると思うだけで、ほんの少しの恐怖と期待とが強烈な疼きとなって背筋を走った。
「ううん、違う…そっちじゃないよ」
 妖しく笑って、コナンはゆっくり首を振った。
 ではどこに使うのかと強張る蘭の眼差しを引き連れて、コナンは胸元に唇を寄せた。
「!…」
 咄嗟に腕に力が入る。
 ぎゅっと身体に押し付け庇う腕に軽く口付け、コナンは目を上げた。
「手はまだ、隠してていいよ。今日はお願いされてないし、蘭姉ちゃんの綺麗でカッコいい姿見せてもらったから。……その代わり」

 こっち

 コナンの手が触れたのは、足首だった。
「え……」
 喉の奥で小さくもらす蘭にふと笑いかけ、膝を立て座る彼女の正面に回り込み屈む。
「ここを縛らせて」
 言って、コナンはきゅっと引き締まった足首に恭しく接吻した。くすぐったさに驚いたのか、瞬間足の親指がぴくりと跳ねた。
「いいでしょう……蘭…姉ちゃん」
 どこまでも優しい支配者の声が、低く鼓膜を犯す。
「あ……」
 奥からどろりと湧いてくる熱欲に身を震わせ、蘭は目を閉じた。やや置いて、微かに頷く。

 

 

 

 巻き付けられた柔らかいベルトがきつく結ばれた瞬間を思い出し、蘭は喘ぐように身じろいだ。
 答えを待ち口を噤んだままんでいるコナンへと目を向け、喉元で絡む言葉を何とか紡ぐ。
「し……して、る」
 目の端まで赤く染めた蘭にくすくすと笑い、コナンは口付けほどに顔を寄せ囁いた。
「どこが一番興奮してる?」
 薄い皮膚にかかる吐息に身をわななかせ、蘭はしきりに瞬きを繰り返した。
「教えて…蘭姉ちゃん。興奮してるとこはどこ?」
 言い終わるやコナンは上唇を舐め、吸い付き、小さく震える女の唇を自分のそれで撫でてやった。
 触れた箇所から沁み込む痺れんばかりの快感に蘭は何度も喘ぎ、自分の頬を押さえる手に右手を伸ばした。手首を掴み、目を見合わせたまま胸元へと導こうとする。
「触ってもいい?」
「ん……」
「見てもいい?」
「うん……」
「他には……?」
 まだそこへは目を向けず、コナンは全て引き出そうと奥まで求めた。
「ほ、ほかに……」
 左手からも力が抜けかけているのを、蘭は感じていた。ああ、始めれば、彼の言う通り自分からねだってしまう…傍らに残る羞恥に身をすくめながらも、蘭は、わざと足を動かし確かめる、拘束されている自分に酔って興奮するのを止められなかった。
「いつも…いつもするみたいに……全部して」
 全部…おねがい
「全部してほしい?」
 引き攣る喉でコナンに縋る。
「ああ…コナンく……くるしいの……」
「大丈夫……ゆっくり息して」
 何度もしゃくり上げ、今にも泣きそうに顔を歪める蘭に優しく笑いかけると、コナンは頬を撫でて宥めてやった。足首の拘束に昂りすぎて、呼吸の仕方も分からなくなってしまう女がただ愛しい。だからいじめたくなる。
「大丈夫だから……」
 言って唇を塞ぐ。待ちかねていたように、蘭は舌をさし出した。
「あぅ……」
 伸ばされた舌を甘噛みし、コナンはきつく吸った。同時に導かれた右手で蘭の乳房をそっと撫でる。
「うっ……」
 もれたのは、まだ戸惑いの残る低い声。
 しかしかまわずに、コナンはゆるゆると揉みしだいた。小さな手にたっぷりと乗る柔肉を五指で撫でさすり、右と左とを行き来しながらひとしく愛撫する。
「あ、んん…んぅ……」
 ぞくりと肌を走る淡い刺激に戸惑い、ふらふらと蘭の手が揺れる。コナンは宥めるように、肩の辺りを少し強く撫でてやった。
「あっ、ん……や…あ、ぁ……」
 戯れに首筋をくすぐると、小さく抗議するような甘い声がもれた。たまらずに唇でそこを追い、ついばむ口付けを与える。
「あ…つい……」
 触れた唇に半ば無意識にもらし、蘭は途切れ途切れ愉悦の声を上げた。そして吐息に紛らせもっととねだる。
 どこまでも遠慮がちに貪欲にねだる女に目を眩ませ、コナンは昂る気持ちのまま歯を立てた。首筋だけでは足らず耳たぶにも噛みつき、その度にもれる艶めいた嬌声に喉を震わせる。
「ひっ……!」
 前触れなく小さな指に乳房の頂点を摘ままれ、瞬間ぱっと弾ける疼きに蘭は高い声で鳴いた。
「あ…、ん…や…だめ……」
 鼻にかかった声で制し身をよじるが、二本の指ではさみくりくりといやらしく捏ねる手は決して離れず、ぞくぞくと切なく首筋を這い上がる快感を続け様に送り込んでくる。
「あ…あ…はぁ…ああぁ……や…いや……」
 緩んだ唇から吐息と甘い喘ぎとをしとどにもらし、形ばかりの抵抗で首を振る蘭に脳天が淡く痺れる。もっとと欲して、コナンは肩口に鎖骨にきつく吸い付いた。
「あ、あぁ……」
 徐々に肌を這い下りていく熱い唇に胸を喘がせ、蘭は目を閉じた。もうあと少しもすれば、あの目も眩む快感に包まれ、欲しいところを全部触ってもらえる…閉じた瞼の裏に浮かぶ淫らな自分に恥じ入りながらも、腰の奥から溢れ出る熱の勢いは止められず、蘭は身をくねらせ愛撫に悦びの声を上げた。
「……自分でも触りたい?」
 不意に声が耳に届く。
 はっと目を下ろすと同時に指先に接吻され、蘭はかっと頬を赤らめた。
「ち、ちがっ……そうじゃな……」
 ふらついていた手を強張らせ、何事か呟く。
「あぁっ!」
 直後乳房の頂点を強く吸われ、蘭は反射的にコナンの肩を掴んだ。
「ご…ごめんね……」
 慌てて離す。
 ぎくしゃくと手を下ろし申し訳なさそうに眉根を寄せる蘭に首を振り、コナンはうっすらと笑った。
「蘭姉ちゃん……手を後ろで組んでみて」
 言葉に蘭の瞳がおどおどと揺れる。そこに、怯えだけでない色が浮かんでいるのを見て取り、コナンはもう一度同じ言葉を、ゆっくりと綴った。
「手を…後ろで。蘭姉ちゃん……」
 まっすぐ目を見据えたまま、親指で乳首を優しくこすり上げる。
「や…あぁん……」
 指の動きに合わせ柔らかく形を変えるしこった突起を弄くりながら、コナンは動くのを静かに待った。肌を走る刺激にびくびくと身じろぐ蘭の反応がたまらなく愛おしい。
「……後ろで組んで」
 ついに蘭は頷き、霞む目を瞬きながら両手を後ろに回した。互いの手で手首を掴む。思わずうめきがもれた。
「いい子だね」
 つんと上向いた乳首の際にちゅっと音を立てて接吻し、コナンは微笑を浮かべた。
 その様を表情を、蘭は涙の滲む目で見下ろしひゅうと息を飲んだ。鼓膜を震わせた一言…いい子だと、支配者の低い声に身体の芯が熱くなる。

 ああ…わたし……

 足を動かせない上に、手の動きまで禁じられた自分を憐れみ、なのに強い興奮を感じている事におののいて、蘭は叫びの形に口を開いた。
「こ…コナン君……もっと……」
 しかしもれたのは、悲痛な叫びではなく甘いおねだり。
「もっと……なに?」
 くすくすと笑い交じりに聞きながら、コナンは執拗に乳首を責めた。
 蘭の視線があるのを確認し、小さな突起に舌を伸ばす。
「あ…や……!」
 今にも触れる直前ぶるりと震えた身体に喉の奥で笑い、見せつけるように舌先で突き、ねっとりと嬲る。
「あぁ…い……あん…ああぁ……!」
 唾液に濡れた乳首を指で弾かれ、蘭はびくっと肩を跳ねさせた。間を置かずもう片方を口に含まれ、ぬるりと押し包む粘膜の感触にまた声がもれる。
「いいの……あ…、すごく……!」
 下から掴み上げられ、そのままゆさゆさと小刻みに揺すられる。優しく撫でたかと思えば指が食い込むほどにもみくちゃにされ、緩くきつく乳房を翻弄する小さな手に蘭は自分でも恥ずかしくなるほど声を迸らせた。
 痛みと快感が交互に襲ってくる。

 なのに…気持ちいい

 蘭は浅ましい自分に首を振った。そうしながらも身体は際限なく快楽に傾き、浸るのを止められなかった。
 だって…動いてはいけないといわれたから…コナンの言葉で自らを縛り付け、更に激しく酔い痴れ乱れる。
「いい…気持ちいい……ああぁあ……あぁん……」
 動かせない手足…自ら縛り上げた四肢に切なく泣いて、蘭は髪を振り乱した。
腰を揺すり立て、じわじわとせり上がってくる耐えきれない愉悦に喉を鳴らす。
「ダメ…もうだめぇ……コナンく……」
 応えず、コナンは乳房の愛撫に耽った。何かを我慢する動き…奥からこみ上げる欲求を、膝を押し付け合う事で慰める蘭には気付いていた。しかし白い柔肌からうっすら立ち上る女のにおいに魅了され、離れられない。はたと我に返り、そんな自分に苦笑する。
「なにが…ダメなの?」
 ゆるゆると乳房を揉みしだきながら問いかける。
「あ、ぁ……した…も……あん……」
 気まぐれに乳首をかすめる指先に言葉を跳ねさせながら、蘭は縋るようにコナンを見つめた。
「下も……興奮してるの?」
 コナンの言葉にごくりと息を飲み込み、蘭はぎくしゃくと顎を引いた。
「し、してる…から……おねが――んんっ」
 最後まで言い切らぬ内に唇を塞ぎ、コナンは舌をすくい取り舐め上げた。小さく驚く声ごと飲み込み、ひと舐めふた舐め口腔をねぶる。
「んふ……うぅ、ん……」
 頷くように首を動かし口付けに浸る蘭に隠れて、コナンはポケットから髪留めを取り出した。先刻、ベルトと一緒に隠し持ったクリップ式のそれを乳首へ近付け、先端でつつく。
「ひゃっ!」
 突然の刺激、硬く冷たい感触に蘭は全身を跳ねさせた。
「な、にを……?」
 手でも爪でも歯でもない未知の接触に慄き、目を向ける。
「あ……」
 自分の目で見てもまだ信じられないと、蘭はコナンへと非難めいた視線を向けた。
「驚かせてゴメンね」
 謝りながら、コナンは先端でくりくりと柔肉の頂点を捏ねた。無機質なもので嬲られ形を変える様は、ひどく卑猥に映った。
「や…めてよ……」
 おどおどと怯える声が、コナンの嗜虐心を強く煽った。脅すだけ、本当にはやらないと誰にともなく言い訳し、昂る気持ちのまま口を開く。
「挟んでもいい……?」
 こんな言葉を吐く自分にどうしようもなく喉が震えた。けれど止められない。
「や…いや!」
 必死に首を振り拒絶する蘭に薄笑いを浮かべ、コナンは軽く先端を開いた。
「お願いだから……」
 蘭は懇願し、今にも痛みを与えられるそれを悲しく見やった。
「もう…どうしてそんなこと…するの……?」
 涙に潤む声でコナンを見やり、蘭はすすり泣くように小さくしゃくり上げた。
「……だって…蘭姉ちゃんの困った顔も好きなんだもの」
 答えに瞬間的に頭の芯がかっと熱くなる。
 そんな理由で。
 けれど、腹立たしいのにどういうわけか怒りが湧いてこない。熱に潤んだ瞳でまっすぐ見つめられると、つい許してしまいそうになる。
 彼が与えるならば、痛みも乗り越えられるかもしれない…怖いのに、そんな事を考える。
 今までいくつも、そうしてたやすく壁を乗り越えてきたのを思い出し、蘭はちらりと過ぎらせた。
 出来るかもしれないと、頭の隅に過ぎらせた。
 でも、やっぱり怖い。
「痛いのは…いや……」
 目を伏せ呟く。
「……うん。やめる」
 コナンは髪留めを脇に置くと、優しく頭を撫でながら、眦にたまった涙を吸ってやった。
「ごめんね」
 瞼に口付けながら許しをこう。
「すぐ…いじわるするんだから」
「ごめん」
 鼻先に触れた唇に、蘭は少し困った顔になる。
「ごめんね……」
 吐息の熱さと唇の熱さが頬をくすぐる。
 肌を走る感触に震え、軽くついばまれてまた震える。
 恐怖に大きく傾いた反動か、優しいキスが沁みてたまらない。
 その合間に喉元から胸のふくらみへと指先がすべる。
 唇はまぶたに触れ、小さな手は乳房をとらえる。その一つひとつが強いうねりとなって、腰の奥へと流れ込んでいく。
 蘭は握った両腕に指を強く食い込ませた。
「あぁ……」
 そうでもしていなければ、身体が溶けてなくなってしまいそうだった。
 腰の奥がじりじりと痛いほど疼き、じっとしていられない。
 熱のこもったうめきを零しながら、逃れるように首を振る。
 しかしコナンの愛撫は執拗に続き、たまらずに蘭は仰け反った。
 空気を求めて開いた唇を塞ぎ、コナンは舌を伸ばした。
「だめっ……」
 拒絶を無視して、舌をすくい取る。
「んむ…だめ……コナン君……」
 緩慢に身悶えながら、蘭は繰り返しだめと訴えた。
「……何がダメなの?」
 そこでようやく、コナンは聞き返した。けれど愛撫は止めない。
 無機質で無遠慮な物で脅してしまった償いに、優しく乳房を慰める。手のひらでそっと撫でさすり、同時に親指で先端をくるりと捏ねる。
「んぅっ……」
 ただでさえ敏感になった肌にそれは大きな疼きとなって腰の奥に響いた。びくびくと全身を弾ませ、大きく喘ぐ。尚もコナンの手は自在に動き回り、しっとり汗ばんだ柔肉を飽きる事無く揉みしだいた。
「あ、あぁ……おかしいの……」
 わずかに怯えた声音で、蘭は弱々しく訴えた。
「どこがおかしいの?」
 指先でそっと喉元をかすめながら、優しく聞き返す。
「教えて……どこがおかしいの?」
 すると蘭は、困惑気味に眉根を寄せ、口ごもった。
 彼女が何に戸惑っているのか、コナンには薄々分かっていた。
 静かに囁く。
「一番気持ち良いトコ触られてないのに…いきそうだから……?」
 先に言われてしまう予感があったのか、蘭は目を瞑り恥ずかしそうにしながらもおずおずと頷いた。
「コナンくん……」
 少し濡れた声で蘭が呟く。
 コナンはふと頬を緩めた。

 まったく、この女は……

 直接刺激を受けなくても達してしまうなんて、自分はおかしくなってしまったのではないかと動揺しているのだ。
 気分が高まればもっと過激な事だってしてみせるのに、思ってもみないところでこんな反応をしたりして。
 あまりの愛しさに、胸が弾けそうになる。
「やだ…こわい……」
 今にも泣きそうに顔を歪め、蘭は喉を引き攣らせた。
 コナンは前髪をすいてやりながら優しく宥めた。
「大丈夫、何も怖くないよ。ほら……気持ちいい……ほら」
 言って、喘ぐ動きに合わせて震える乳房を大きく揉み上げ、頂点を強く摘む。
 それまでの緩やかな愛撫と正反対の強い刺激が、甘い囁きが、止めの一撃となって蘭を襲う。
「っ……!」
 ひっと喉を鳴らし、蘭は身体を強張らせた。
「……ああぁっ!」
 そして、たまった息を吐きながら短く叫びを上げた。
 一瞬の硬直の後、忙しなく息を継ぎながら、何が起こったのか分からないと怯えた表情で目を左右に泳がせる。
 コナンは手を離すと、膝立ちになって蘭の頭を引き寄せしっかり抱きしめてやった。
 腕の中、蘭はいやいやと身体を揺すった。
「きらい……」
 少しも本気の混じっていない声で呟き、顔を背ける。
「ホントにきらい……?」
 頭上から降る切なげな声に俯き、ずるいと心の中で抗議する。
「知ってる癖に……」
 蘭は震えながら後ろ手の腕をほどくと、コナンを抱き返し、肩の上でそっと囁いた。
「好きだって…知ってる癖に」
 その言葉でより強く抱きしめられ、蘭はじわりと胸の内に広がる喜びにこっそり笑みを零した。
「……でも怒ってるんだから」
 こわかったよ
 こんな甘えた声では通じないのは承知の上で、力なくコナンに叩き付ける。
「ごめんね」
「……やだ」
「許して…蘭姉ちゃん」
 髪を撫でる手がひどく気持ちいい。微かに身震いを放ち、蘭はため息をもらした。
「おねがい……コナン君」
「……うん」
「下も…触って……」
 いつもみたいに…して
 恥ずかしさに途切れる言葉を何とか繰り出し、蘭は熱く欲した。
「蘭姉ちゃんがキスしてくれたら」
 コナンの要求に蘭の身体がぴくりと跳ねる。
「……コナン君のエッチ」
「蘭姉ちゃんもね」
 楽しげなコナンの声に唇を尖らせ、引き結び、蘭はゆっくりと腕をほどいた。
 俯いたままちらちらとコナンを見やり、頬に両手を伸ばす。余裕を見せる微笑が癪に障ったが、触れたそこは自分と同じくらい熱を帯びていた。小さく驚き目を上げる。
 ひたむきに見つめてくる眼差しに今更息を飲み、蘭はじわりと涙を滲ませた。
「キスして……」
 頬に触れる手に自分の手を重ね、コナンが真剣な眼差しで訴える。

 それ…反則だよ

 今にも零れそうな涙を瞬きでごまかし、蘭は喘ぎながら顔を近付けた。あえて目を閉じず、間近に迫った支配者の青い瞳をまっすぐ覗き込む。
 大きな眼鏡越しの視線が、同じくまっすぐに注がれる。
 途端に鼓動が跳ね上がり、蘭は昂りに任せてコナンの口腔を貪った。
 ああ、誰かを押さえ付けて交わす口付けはこんなにも興奮する…
「ん……」
 小さくもれたコナンのうめきに、全身がかっと熱くなった。
 十も歳が下の子供を、蹂躙している…頭の片隅に思い浮かべる自分に震えながら、蘭は尚も口淫に耽った。
 わざと下品な音を立てて舌を吸い、何度も甘食みを繰り返しては唇を舐める。
 頭の芯が痺れて、何も考えられない。
「あぁ……だめ!」
 唐突に高い悲鳴を上げ蘭は身を竦めた。その拍子に口端から零れた唾液を慌てて隠し、堪え切れないと全身で喘ぐ。
 と、膝からコナンの重みが退いた。
 おずおずと目を上げると同時に足首の拘束が解かれる。
「……つらくさせてごめんね」
 言葉と共に頬に手が差し伸べられ、優しく撫でる手のひらに蘭は泣き笑いで首を振った。
 コナンは身を寄せると、微かに笑み、耳元でそっと言った。
「触らせて……」
 ついに訪れた瞬間に蘭はぶるりと身震いを放った。ようやく自由になった足を開き、ショーツを脱ぎ去る。もはや隠しておきたい羞恥はどこかへ消えていた。仰向けになると、ためらいなくいつもと同じ姿勢…足を片方ずつ抱え、彼に向ってさらけ出す。
「お…お願い……」
 もう一秒も待てないと全身で訴え、恥じ入りながらもお願いする。
 散々焦らされ煽られたそこは、すでにたっぷりと甘い蜜を滴らせ、触れてもらえるのを今か今かと待ち望んでひくついていた。
 ぽってりと腫れ上がり、愛撫を期待してうっすらと口を開いたそこへ、コナンは指先を伸べた。
 まだ奥へは埋めず、際をゆるゆると撫でる。
「あっ……」
 微かな刺激にも敏感に反応し、蘭は短くうめきをもらした。
 切なげな声が、コナンの鼓膜を甘く犯す。何かへと小さく首を振り、引き付ける力に従い顔を寄せる。
「すごい濡れてるよ…蘭姉ちゃん……」
 指先で何度も撫でながら、軽く吸い付く。
「あん…だっ、て……」
 接吻に高い悲鳴を上げ、蘭は抱えた足をふらつかせた。
「あぁ、…あ…あん…やぁ……」
 ゆっくりゆっくり花弁を舐め上げる舌に、蘭は何度も首を振りながら喘いだ。
「ああん……あ、いい……い、あっ……」
 時折ぬるりと入り込む舌に一際高い声を上げて応え、蘭は腰を揺すった。
「だって……なに?」
 押し当てた指先を小刻みに揺すりくねらせながら、コナンは薄く笑って顔を上げた。
 くちゅくちゅと耳に届く粘ついた水音に胸元まで赤く染め、蘭は顔を背けた。
「だ、だって…あぁ、ん……コナン君…が……」
「ボクが、なに?」
 揃えた二本の指を一息に根元まで埋め、ぬちゅくちゅと内部の蜜をかき回す。
「あぁっ……あぁん…ん、んん……!」
 無遠慮に蠢く指に享楽の声をもらし、蘭は何度も仰け反った。奥を抉られるたび新たな蜜が湧き出し、ぞくりと走る愉悦にたまらず震えを放つ。
「ボクがなあに、蘭姉ちゃん」
 左右にひねりながら抜き差しを繰り返すと、ただ喘ぐだけになりもう蘭は何も言えなくなる。それでもあえて意地悪く追いつめ、コナンは引き攣る喉で息を吸った。
「い…やぁ……あぁ…あんん……!」
 何度も首を振りたくり、蘭は身じろいで抗議した。しかしコナンには、それはただの甘い身悶えにしか見えない。
 早くいかせてほしいと、全身でねだってくる甘やかな誘惑。
 誘われるまま、コナンは花芽を口に含んだ。唇で食み、強く弱く吸い上げる。
「あぁ…くぅ、ん……んぅ!」
 びくびくと身を波打たせ、蘭は切なく喘いだ。
「あぁ…もう……も……だめ…だめぇ……」
 間近に迫った一瞬に怯えながら、蘭は切羽詰まった声を上げた。
「いく…あ、ああぁ……いく…いっちゃ……」
「いっていいよ……ほら」
 潜めた声に極まりが近い事を察したコナンは、内奥に埋めた指で内側からも花芽を刺激し、焦らさず追いやった。
「いく、あぁ…いくぅ……コナンく……!」
 潤んだ声で何度も名を呼び、蘭は腰の奥から全身に広がる喜悦に素直に身を委ねた。
「あああぁ――!」
 うっすら汗ばんだ肢体をしなやかに反らせ、蘭は悲鳴を迸らせた。
 きつく締め付ける動きに逆らってコナンは尚も深奥を抉り、最後のためらいさえ残らず奪い取る。
「だめぇっ……!」
 蘭が高く鳴くと同時に、ぷしゃあっと熱い滴が放たれた。頬をかすめるそれを気にせず、もう一度コナンはぐいっときつく抉った。最後の最後、自分のもので突き上げるのに見立てて。
「!…」
 蘭は声もなく仰け反り、しばし置いて全身を弛緩させた。
 二人分の乱れた呼吸が、ただ部屋を満たした。
 いまだ不規則に締め付けを繰り返す内部から静かに指を引き抜き、代わりにコナンは顔を寄せた。ぐっしょりと濡れそぼり淡くひくつく花弁に舌を這わせ、全部舐め取ろうとする。
「あ…やだ……」
 少し気だるげに零し蘭は身じろいだ。
「……どうして?」
「だって…また、したく…なる」
 息を整えながら、蘭は不安げにコナンを見やった。
「じゃあもう一回させて」
 濡れた指を一本、浅く埋めて、コナンは欲した。
「んっ……やだ」
 ふいと目を逸らし、蘭は大きく喘いだ。
「……ダメ?」
「い…一回じゃ……やだ」
 辛うじて聞こえるほどの声をどうにか聞き取り、その可愛らしいおねだりにコナンは込み上げるまま笑った。
「じゃあ何回でも」
 指を二本に増やし、軽い抜き差しを加える。
「あぁ……ホント……?」
 内部を擦り立てる指に腰を揺すり、蘭は聞き返した。腰の奥で消えかけていた疼きが強まり、瞬く間に目覚める。
「本当に……何度でもいかせてあげる」
「うん…おねが……あ、あぁ……」
 柔らかい膣上部をぐりぐりと抉り突き上げる指に甘く鳴いて、蘭は二度目の始まりに胸を高鳴らせた。
「あ、あ、あぁ……しん…い……」
 うねり押し寄せてくる波に溺れながら、愛しい男の名を呼ぶ。

 蘭――

 遠く霞む向こうから記憶にあるままの声が聞こえた気がして、蘭は一際強く身震いを放った。それがきっかけとなり、再び高みへと持ち上げられる。
「あぁ…い…くぅっ……!」
 内襞をかき分け激しく突き上げる律動に酔い痴れ、蘭はびくびくと四肢を突っ張らせた。
 凄まじい勢いで愉悦が駆け抜け、脳天を直撃する、
「うああああぁぁ!」
 全身が引き攣れ、ただ声を上げるしか出来なかった。

 

 

 

 シャワーを浴びたコナンが、髪を拭き拭き居間に戻ると、先に済ませた蘭が座卓の前に座り喜色満面でカップアイスを楽しんでいるのが目に入った。
 スプーンにすくい、口へ運ぶ。
 一口ごとに訪れる小さな幸せに目じりを下げ、美味いとほころぶ口元は見ているだけで幸せな気分にさせた。
 がしかし。
 自分だけ、一人分だけ。
「え…と……」
 少々気まずく立ちつくし、コナンは小さく声をもらした。
 そこでようやく、蘭の目がちらりと向けられる。
 がしかし。
 すぐに正面に戻り、また同じように濃厚で味わい深いカップアイスの楽しみに浸る。
 さっき意地悪したお返しって訳か
 態度からそう察したコナンは、こっそり苦笑いを零した。
「ちぇ……どうせ仕返しされるならもっとやっとけばよかった」
 聞こえぬよう小声で零すが、蘭の耳にはしっかり届いていた。
「何か言った?」
 笑顔で、蘭が聞き返す。
 しかしその笑みは、奥歯を噛みしめた強烈に恐ろしいもの。
 コナンは慌てて首を振り、何でもないと呟いた。
「もう、コナン君のエッチ!」
 そう言うと、蘭は立ち上がり、キッチンへといってしまった。

 ――オメーだってそうだろ

 今度は口に出さず心の中でだけ反論し、むくれた顔を蘭の背中に向ける。
 すると、冷蔵庫から何かを取り出し、蘭は戻ってきた。
「あげたくないけど、はい、コナン君の分」
 そう言って差し出されたのは、ガラスの器に盛り付けられた、カシスの赤いマーブルが鮮やかなアイスクリーム。
「……いいの?」
 まだちょっとおっかなびっくりにコナンは尋ねた。
「嫌なら別に食べなくていいわよ。なんなら、私のラムレーズンと交換する?」
「あ…いや、レーズンは……ごめんなさい」
 大げさに口をひん曲げ、コナンは本気で首を振った。
 と、蘭の表情がそれまでの仏頂面から一転して華やかな笑みに変わる。
「冗談よ。ほら、一緒に食べよう」
 笑顔一つでごまかされる…心が晴れる。
 コナンは頬を緩めた。
 まったく、どうしてこんなにいい女なんだろう。
「いただきます」
 スプーンにひとすくい、口に運ぶ。
「おいしい?」
 食べながら、蘭が目を見合わせにっこり微笑む。
「うん、冷たくて甘くて、すっごくおいしいよ蘭姉ちゃん」
 コナンも同じように笑みを返す。
「よかった」
 蘭の肩越しにふと外を見やれば、先程までの雨が嘘のように晴れ渡っていた。
 彼女の笑顔と同じく、清々しいほど眩しい青空。

 

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