Sweet

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、行ってくる……」
「気を付けてね」
 玄関先で言葉を交わす二人の男…コナンと小五郎。
 珍しい組み合わせには、訳があった。

「戸締りには充分気を付けろよ」
「はあい」
「あと、蘭にはあんまり近付くなよ」
「うん、わかった」
「メシは冷凍庫にこの前のシチューの残りがあるから、適当にあっためて食え」
「うん、わかった」
「明日の昼までには帰るから、後頼んだぞ」
「うん、任せて」
「鍵は閉めとけよ。じゃあな…」
「いってらっしゃい」
 軽く手を上げ出て行く小五郎に、コナンも同じように手を振った。
 扉が閉まるのを確認してから、言われた通り鍵をかける。
 いつもなら注意もそこそこにせかせかと出て行く小五郎だが、今日は違った。
 依頼を受け、泊りがけで出かける、というのもそうだが、もう一つ、訳があった。
 いつになく心配事を口にして出かける理由。
 それは、今、自分の部屋で寝込んでいる娘…蘭の体調にあった。

 

 

 

 いつも元気に張り切っている蘭だが、まるで病気知らずというわけではない。
 日々の家事に学業、主将を務める部活動に追われ、風邪の一つも引く事だってある。
 大抵は、今回のように季節の変わり目が多い。
 寒気に肩を竦める仕草に気付いてはいたが、思いの外頑固な性質の彼女を説得するのは一筋縄ではいかない。
 そうこうしている内に、本格的に風邪を引き、寝込む事になる。
 ――今回のように。
 せっかくの週末をベッドで過ごすのは辛いだろうが、これも自業自得…ドア越しに聞こえてくる重たい咳に、コナンはやれやれと肩を落とした。
 先ほど小五郎が言っていた、蘭にはあまり近付くなというのは、風邪が移るから傍に寄るなという意味だったのだ。
 素直に頷いたコナンだが、やはり心配で、守れそうになかった。
 部屋の前で気休めのマスクをつけ、そっと扉を開く。
 戸口から伺う蘭は、横になってはいたが咳に邪魔され眠れずにいるようだった。
 二つに分けて三つ編みに結った髪が、咳をする度揺れる。
 熱は微熱程度だが、とにかく咳がひどいのだ。
 それでも、昨夜と比べれば大分治まってきてはいるが、苦しそうに喘ぐ姿には胸が痛んだ。
「………」
 何か手助けになる事はないかと、足を踏み出す。
「……移るといけないから、あっちいってて」
 気付いた蘭が、か細い声で言った。
「うん……」
 頷いたものの、コナンは動けなかった。
「そんな顔しないで……ちゃんとご飯も食べたし、薬も飲んだから、すぐに治るわよ……」
 ベッドの中から笑いかけ、蘭は「ね?」と促した。
「じゃあ…何かあったら言ってね」
「うん……ごめんねコナン君」
 力なく謝る蘭に何か伝いかけ、コナンは口を噤み部屋を出た。
 静かに扉を閉める。
 ちらりと見やった壁の時計は、一時五分をさしていた。
 窓の外は雲一つなく、陽気も良いが、心の中は曇天に覆われ何をする気にもならない。
 彼女の異変に気付いた時にもっと強く言い聞かせていれば、辛い思いをする事もなかったのに…それだけが悔やまれてならない。

 駄目な奴……

 コナンはマスクを外すと、小さく溜め息をついた。

 

 

 

 それから一時間毎に、コナンは蘭の様子を伺いそっと部屋を覗いた。
 二時、三時、四時…薬の作用か、特に苦しむ様子を見せる事もなく蘭は眠り続けた。
 眠れるならひとまず安心だと、確認する度コナンは胸をほっと撫で下ろした。

 

 

 

 そろそろ五時になろうという時、蘭は一旦目を覚ました。
 時計を見ようと身じろいでいると、ちょうどコナンが確認にやってきた。
 はたと目が合う。
 すぐさま駆け寄るコナンに恥ずかしそうに笑いながら、蘭は小さな声で空腹を訴えた。
「え、あ…良かった」
 具合が悪いのではないのだと安堵して、コナンは大げさに肩を落とした。
「……ごめんね」
「そんな、気にする事ないよ。食欲あってほっとした。具合はどう?」
「うん……」
 応えて、蘭は試しに身体を起こしてみた。
 案の定、コナンは制止の声を上げたが、寝てばかりで身体がかちこちになってしまったのだ。
「少し、ほぐさないと」
 笑いながら言うと、複雑な顔で見上げてきた。
「ちょっと頭がふらふらするけど……大丈夫」
 だからそんな顔しないで
 渋々コナンは頷いた。
「じゃあ……窓開けて空気の入れ替えするから、いつものカーディガン着て」
「はい、わかりました」
 素直に受け取り、肩に羽織る。
 身体を動かすと、少し咳が出た。
 途端に、心配そうな目が向けられる。
「なによ……言う事聞かないのはお互い様でしょ。コナン君だって、私の言う事聞かないですぐどっか行っちゃうくせに」
 何か言われる前に言ってしまえと、蘭は咳き込みながら畳み掛けた。
「そ、それは……」
 コナンは言葉に詰まった。そこを突かれると弱い。
「だから、そんなに心配しないで。私が悪いのに、コナン君にそんな顔されると悲しくなるよ……」
 笑って、コナンの手を軽く握る。
「うん…でも、手だってまだこんなに熱いし……」
 両手で蘭の手を包み、困った顔でコナンは見上げた。
「そりゃ…まだ少しは熱があるんだもの……」
 今度は蘭が言葉に詰まる番だった。
「少し?」
 コナンは顔をしかめた。手のひら、手の甲と確かめ、手首を握る。肌はどこも熱く、脈も速い。これで心配するなと言う方が無理がある。
 コナンはベッドに乗り上げると、両手を首筋に伸ばした。
「あ……駄目よ」
 寸前で蘭は身を引いた。
「……汗かいてるし」
「あ…すぐ済ませるから」
 だから気にしないでと押し切り、首筋から耳の後ろにかけて熱や腫れ具合を手早く確かめる。
「……そんなに高くはないけど、顔だってまだちょっと赤いし、目も潤んでる」
「だから、少しって……」
 もごもごと蘭は答えた。
「もう……」
 風邪で寝込んでも尚頑固な彼女に一つ溜め息をつき、コナンはベッドを降りた。
「……ね、コナン君……せめて髪洗いたいって言ったら……」
「だめ」
 ゆっくり、はっきり首を振りながらコナンは言った。
「………」
 何か伝いたそうなのを遮り、食事が済んだら服を全部着替えて、すぐ寝るよう言い付ける。
「……うん」
 膝に置いた手を見つめたまま、蘭は力なく頷いた。
 さすがにきつく言い過ぎたと、コナンはすぐさま付け足した。
「あ、あとで熱いおしぼり持ってきてあげるから、今日はそれで我慢して、ね……」
「うん…ありがと」
 小さく笑って、蘭は頷いた。
「じゃあ、すぐご飯の用意するから、待ってて」
 コナンは窓を閉めると、逃げるように部屋を出た。
 彼女に悲しそうな顔をされると、どうしていいか困ってしまう。
 体調が戻るまでは仕方ない…そう言い訳し、コナンはキッチンに向かった。

 

 

 

 別々の部屋でとる食事はひどく味気ないものだったが、風邪を移したくないと言われては、従うしかなかった。
 食器の音がやけに大きく響く。
 コナンは何度も手を止めては、蘭の部屋を伺った。
 知らず内に溜め息が零れる。
 何度も。
 小一時間経って、様子を見に行く。食べるものを食べて少し元気が出たのか、蘭は笑顔を見せた。
 ほっと安堵する。
 コナンは食器を下げると、着替えの準備に取り掛かった。

 

 

 

 着替えを一通り揃え彼女の脇に置くと、コナンは持ってきた三枚のおしぼりの一つを手渡した
「ちょっと熱いから、気を付けてね」
 頷いたまま受け取ったそれを、蘭は顔に押し当てた。途端にじわりと熱が肌にしみ込む。
「気持ちいい……」
 身体の中にたまっていた疲れがすうっと抜けていく心地好さに、自然と溜め息が零れた。
「さっぱりするでしょ」
「うん。ありがと……」
「じゃあ、着替えちゃおうか」
「え…うん」
 蘭がぎこちなく頷く。
 汗で汚れた下着を人に任せるのは、さすがに恥ずかしいだろう。コナンは出来るだけ何でもない風を装い、手早く事を進めた。
「着替えたらもっとさっぱりするよ」
 彼女の耳に届く声に充分気を付ける。
 小さく頷くと、蘭はパジャマのボタンを外し始めた。
「こっちで、身体拭いて。ボク背中拭いてあげるから」
 おしぼりの二枚目を差し出す。
「あ……ありがとう」
 彼女の声に軽く笑って首を振り、コナンはベッドに乗り上げ背中に回った。
 彼女に負担をかけないように。
 かえって疲れさせないように。
 徹底して、コナンは濡れタオルを手に取った。
 蘭も同じように濡れタオルを取り、身体を拭った。
「はい、いいよ。上着て」
 終わった頃を見計らいそう声をかけるが、蘭は動かなかった。
「……身体冷えちゃうよ」
 不審に思いながら、コナンは用意した下着に手を伸ばした。
 自分では動かなかった蘭だが、渡されると、素直に着始めた。
「どこか気持ち悪いの?」
 心配になり、肩越しに覗き込む。
 しかし蘭は首を振るばかりで、答えなかった。
「……ホントに大丈夫?」
 パジャマを手渡しながら恐る恐る尋ねる。
 それにも、ただ頷くだけだった。
「じゃあ…下も着替えちゃおうよ」
 その言葉に蘭は顔を歪ませた。
「あ……辛いなら、ボクも手伝うから。すぐだから」
 さっき駄目と言ったのがまだ残っているのかと、彼女の表情を伺う。
 しかし、見る限りそうではないようだった。
「ね、蘭姉ちゃん」
 促すと、蘭はますます顔付きを険しくした。
 しばし沈黙の後、彼女は重い口を開いた。
「濡れてるから……だめ」
 耳を疑う。
「……したくなるからやめて」
 聞き間違いかと呆けていると、絞り出す声で蘭が言った。膝に乗せた手をきつく握りしめ、続ける。
「身体が疼いて辛いの……」
 予想だにしない答え、訴えに、コナンは言葉を失った。思わずぽかんと口を開く。
「…今は……」
 言いかけて口を噤む。思い当たる節はいくつかあった。熱のせいだとばかり思っていた、あれは。
「……治ってからじゃ…だめ?」
 問い掛けると、隠すように蘭は顔を伏せた。
 再びコナンは口を噤んだ。唇を引き結ぶ。
 その横で、蘭はただじっと自分の手を見つめていた。なんて事を言ってしまったのだろうと、渦巻く後悔に苛まれながら。
 と、コナンはベッドから降りると、まっすぐ部屋を出て行った。
「………」
 蘭は弾かれたように顔を上げ、何か伝いかけ、口を噤んで、出ていく背中を悲痛な眼差しで見送った。
 わたし…なんてこと……
 ひどい自己嫌悪が心に重く圧し掛かる。
 自分でも、何故あんな事を口走ってしまったのか分からない。
 気付いたら零してしまっていた。
 困らせるだけなのは分かっていたはずなのに。
「やだ…もう……」
 悔しさに涙も出ない。
 いっそ消えてしまいたい。
 何もかも消し去って、いっそ――
 嗚咽に胸が震える。
 直後、コナンが戻ってきた。
 自分の目が信じられず、蘭は何度も瞬きを繰り返し見つめた。呆れて出て行ったのではないのかと、軽い混乱に見舞われる。
「コナンくん……」
 コナンはまっすぐ歩み寄ると、再びベッドに乗り上げ蘭と向かい合った。
 そこで初めて、彼の手が何か持っている事に気付く。
 蘭は目を落とした。
「気休めだけど、これ」
 そう言って差し出されたのは、額に貼り付けるタイプの冷却シートだった。
「……え」
「ただでさえ熱があるのにするんだから、出来るだけ冷やさないと」
 戸惑っている内に、額にぺたりと押し付けられる。
 これを、取りに行っていた……
 面食らった顔の蘭にふと笑いかけ、コナンは口を開いた。
「呆れて出て行っちゃったと思ったんでしょ」
 言い当てられ、蘭は顔を真っ赤に染めて俯いた。
「だ、だって…あんな事言っちゃった……から」
 顔を隠したままぼそぼそと答える蘭にくすくす笑いながら、コナンは言った。
「蘭姉ちゃんにお願いされたら、断れないの知ってるくせに」
「え……あ、じゃあ」
「うん。してあげるから、顔上げて」
 小さく頷き、ためらいがちに蘭は目を上げた。
 目が合うのを待ってコナンはポケットから真新しいマスクを取り出すと、一枚手渡した。
「はい、これで喉守って」
「でも……マスクしてこんなで…みっともない……」
 恥じらい、蘭はまた顔を伏せた。
 それを強引に上向かせ、コナンはキスほどに顔を近付け言った。
「こんな蘭姉ちゃんも、可愛いよ」
 間近の強い眼差しに、蘭は胸を高鳴らせた。そしてすぐに思い直し、顔を背ける。
「だめ、移る……!」
 構わずにコナンは唇を塞いだ。
 重ねるだけのキス。
 いつもと違う熱で少し腫れて乾いた唇も、今は愛おしい。
「……これでもし移ったら、今度は蘭姉ちゃんが看病してくれる?」
「……バカ」
 いたずらっ子のような眼差しに微苦笑で応える。

 

 

 

 少し冷めた濡れタオルで下肢を清め、新しい下着に着替えると、蘭は言われた通り横臥の姿勢でベッドに横たわった。
 隣にコナンが寄り添う。
「膝まででいいから、下ろして」
 蘭は小さく頷き、ゆっくり下着を脱いだ。
「辛い姿勢でごめんね。その代わりうんと気持ち良くしてあげるから」
 閉じられぬよう、コナンは膝の間に自分の足を挿し入れた。
「んん……」
 滅多に触れる事のない素肌に、蘭は息を跳ねさせた。
「コナン君……」
「いい、ちゃんと呼吸してね。無理に息止めちゃダメだよ」
 コナンの言い付けにマスクを押さえこくりと頷く。
 今しがた拭ったばかりだというのに、肌が触れたそれだけで、もうそこは濡れ始めていた。
 それどころか
 熱でドロドロに溶けてしまいそう……
「コナンく……」
 上擦った声で蘭は喘いだ。
「………」
 唇だけで『蘭』と応え、コナンは手を潜り込ませた。
 欲しがって疼いているだろう、蘭の深い場所へ。
「ん……」
 ついに手が触れ、思わず蘭はうめいた。
 コナンは愛しげに腫れた花弁を撫でさすると、ゆっくり左右に割り開いた。いっぱいまで溢れた蜜が途端に指を濡らす。
 軽くくすぐり、コナンはくちゅくちゅと戯れに音を立てた。
「あぁっ……」
 待ち望んだ刺激に蘭は小さく震えを放った。
 しっとり濡れた声に促され、コナンは手のひらも使って前後に撫で上げた。
「ん、んん……」
「辛くない?」
「……平気…だから…もっとして……」
 浅い呼吸は、熱のせいか。それとも。
 どちらにしろ、甘えた声で縋られてはやめられない。
 揃えた二本の指をそろそろと埋め、引き抜き、また埋める。次第に動きを早め、コナンは繰り返し抜き差しを続けた。
「あぁ…コナン君……いい…気持ちいい……」
 呟きながら、蘭は指の動きに合わせて腰をくねらせた。意識してそこを締め付け、もっと奥まで欲しいと、自ら突き出し揺する。
 応えて、コナンは根元まで突き入れ抉るように深奥を蹂躙した。
 動かすほどに蜜液は溢れ、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立て二人の耳を犯した。
「はあぁ……あぁ……!」
 たまらないと言わんばかりの嬌声が、蘭の唇から零れる。
 マスクに遮られくぐもったそれは、コナンの興奮を更に煽った。
 二本の指を三本に増やし、左右に捻りながら強く弱くかき回す。
「やっ…あぁ…くうぅ……」
 続け様の刺激に蘭の膝が自然と閉じる。コナンは強引に自分の足で押し開くと、更に激しく指を蠢かせた。そして同時に親指で花芽を舐め上げ、ぷっくりと腫れ上がったそれを小刻みに転がす。
「!…」
 背筋を這い上がる強烈な痺れに、蘭はひっと喉を鳴らした。
 それがきっかけで、激しい咳に見舞われる。
 全身を震わせて咳き込む蘭に、コナンはすぐさま動きを止めた。
「いや…やめな…で……」
 喉に絡む重い咳を繰り返しながらも、蘭は必死で首を振った。その拍子に、眦に滲んだ涙が零れる。
「……やめないよ。咳が止まるまで待つだけ」
 そうは言いながら、零れる涙に胸が痛んだ。
 相当な負担になっているのは分かっていた。
 こんな事をすべき状態でない事も理解していた。
 彼女が望んだ事…そう自分に言い訳して、非難する理性を黙らせる。
「ゆっくり息して。大丈夫、心配いらないよ。大丈夫」
 ひゅう、ひゅうと苦しげな呼吸を繰り返す蘭に優しく言って聞かせ、安心させるように何度も頷く。
「ごめんね…コナン君……したいの…いきたいの……いかせて」
 コナンの誘導に合わせて深呼吸しながら、蘭は哀願した。
「……うん、いかせてあげるよ」
 言いながら、コナンはゆっくりと指を引いた。身体はこんなにも熱に参っているのに、そこだけは貪欲に快楽を求めてひくひくと不規則に蠢き、退いていく指に名残惜しそうに絡み付いてくる。
「もう少しなの…お願い……いかせて」
 小さな身体に力なくしがみ付き、蘭は胸を喘がせた。
「!…」
 抱き付かれ、図らずも押し付けられた乳房が、コナンの息を乱した。身体を支えていた片手で蘭のパジャマを下着ごと捲し上げ、胸に顔を埋める。
「だめっ……きたない」
 突然の行動に蘭は非難の声を上げ身じろいだ。
「いいから…素直に感じて」
 言うと同時にコナンは乳首を口に含んだ。間を置かずちゅうっと強く吸う。
「っ……!」
 途端に背筋を駆け抜ける強い喜悦。
 嗚呼…頭の芯が痺れる――
「やあぁ……」
 しがみ付いたまま、蘭はびくんと大きく仰け反った。
 反応に満足し、コナンは更に舌を使ってぴちゃぴちゃと乳首を転がした。強く吸いながら離し、ぷるんと震えるそれを何度も口に含む。しっとりと汗ばんだ肌は、少し…病の匂いがした。それでもやめる気にはならない。
「あぁ…やっ…だめ……コナン君だめ……お風呂入ってない…きたないよ……」
「でも……気持ちいいでしょ」
 唾液で濡れた乳首を指先で弾きながら、コナンは顔を上げた。独特の張りを見せる膨らみに五指を這わせ、柔らかさを存分に味わう。
「んっ……」
 答えられない蘭に口端を緩め、更に乳首を弄る。
 指先で軽く摘み、先端に向かって扱き上げ、押し潰して転がす。
「んん……あはぁ…あぁ」
 コナンの指が動く度、蘭はかすれた嬌声をもらしびくびくと身を震わせた。
 切なくなるような、ぞくぞくとした快感が背骨にまで響く。
「や……ああぁん」
 はっきり否定出来ない。離せない。
 目前に迫った極まりを選んでしまった自分を恥じながら、蘭は快楽に身を委ねた。
 して…もっとして……
 再び動き出した下腹の手に合わせ腰をくねらせ、快楽を貪る。
「気持ちいいよ……コナン君」
 うわ言のように呟き、蘭は目を閉じた。片隅に残っていた抵抗を放棄し、身を委ねる。
「あぁ……やぁん」
 くにゅくにゅと柔芽を捏ねる指に素直に享楽の声をもらし、蘭は緩慢に身悶えた。
 ならば、もっと…コナンは目の前の乳房に口付け跡が残るほど強く吸った。同時に埋め込んだ指で最奥をぐいぐいと突き上げる。
「あぁっ……!」
 鈍い痛みすら、今の蘭には心地好い刺激となった。
 同時に責められる二箇所が繋がってしまったかのような強い官能が、目眩を引き寄せる。
「いい…いいの……」
 コナンの手がきつく乳房を揉みしだき、より深い愉悦を引きずり出そうと蠢く。
 すごい…気持ちいい……
 優しく乳首を転がしたかと思うと、一転してきつい圧迫に変わり、また不意に力を緩められる。
 痛みの後の優しい愛撫は、敏感になった肌により大きく響いた。
「あっ……く、ひぃ……あはぁ……あぁ」
 同じようにもう片方の手…下部に埋め込まれた指も動かされ、絶え間なく襲う強烈な刺激に、蘭は喘ぎながら細い悲鳴を迸らせた。
「コナン君…コナンくん……」
 身体中が熱く燃え上がる。
 それが熱のせいか、もう分からない。
 もう何も考えられない。
 あぁ…いく…いっちゃう……
「いや、いやぁ……あああぁぁ! だめ! だめ! だめ! だめぇ!ああぁ――!」
 最後の一歩を踏み出した途端、身体が急激に持ち上げられる錯覚に見舞われ、蘭は声を限りに叫んだ。
 圧迫する動きに逆らって、コナンは一際強く内奥を抉った。
「――!」
 蘭の上げている悲鳴が自分のものでもあるように感じられ、激しい目眩にコナンはきつく目を閉じた。
 擬似的な絶頂が、瞼の裏で弾ける。

 

 

 

 カーテンを閉める音で、蘭は目を覚ました。
 いつの間にか、寝ちゃったんだ……
 ぱちぱちと目を瞬きながら、真っ暗な部屋の中を見回す。
 と、窓の傍に小さな人影を目にし、蘭ははっと息を飲んだ。
「……起こしてごめんね」
「コナン君……」
「ちょっと、空気の入れ替えしてたから」
「……ありがとう」
「ううん。それより、具合はどう?」
「うん……いいよ」
 眠ってしまう前の出来事を思い出し、蘭は恥ずかしさに肩を竦めた。
「ホント? 頭痛いとかない?」
 優しく額を撫でながら、コナンは重ねて聞いた。
「……ないよ」
 申し訳なさに蘭は何度も首を振った。
「コナン君…優しい……ごめんね」
 涙で潤んだ声にコナンは激しく動揺した。
「あ、えと……し、新一兄ちゃんはもっと優しいよ。でも、一番優しいのは蘭姉ちゃん」
「……ふふ」
 どこかかみ合わない答えに、蘭は小さく噴き出した。
 合わせて、コナンも小さく笑った。自分でもおかしな事を言っている自覚はあったが、蘭の涙が引っ込んだので良しとする。
 少々、恥ずかしくはあるが。
 気を取り直して口を開く。
「明日には、きっと治ってるよ」
「……うん。コナン君が元気くれたから、きっと治ってる」
 感謝を込めて、蘭は額に触れる手を握りしめた。
「ありがと…コナン君」
 囁きにコナンは笑みを浮かべた。
「元気になったら、美味しいハンバーグ作ってよ」
「うん。とびきり美味しいの作るから」
「楽しみにしてるね。じゃあ…お休み」
 言って、蘭の手にキスを一つ。
「お休み……コナン君」
 蘭は小さく手を振り、部屋を出る背中を見送った。
 静かに扉が閉まる。
 彼の唇が触れた手に自分のそれを押し付け、呟く。
「……お休みなさい」
 残り香にそっと笑みを零して。

 

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