07:12

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だーからやめとけっつったのによ

 半ば呆れ顔で、コナンは目の前の扉を見上げていた。
 つけっぱなしのテレビから流れる通販番組の賑やかな口上を何とはなしに聞きながら、溜め息を一つ。わざと音量を上げているのには、理由がある。
 一つは、いつもならテレビに向かってひっきりなしにがなり声を上げ家中騒がしくする人物…小五郎が、町内会の小旅行に誘われ出かけているからで、もう一つは――
 ややあって、中からコンコンとノックの音が聞こえてくる。
 渋々といった顔で、コナンはコツコツとノックを返した。

 ……ったく

 今ここで電気を消したら、彼女はどんな悲鳴を上げるだろうか。
 扉の横のスイッチをちらりと見やり、コナンは、忠告を聞き入れなかった彼女…蘭へのささやかな仕返しを、溜め息に混ぜて吐き出した。
 と、間もなく当の本人が済まなそうな顔でトイレから出てきた。
「……ごめんね」
 恥ずかしそうに笑い、手を洗いにそそくさと洗面所へ向かう背中にまた一つ溜め息をもらし、後に続く。
 一歩、二歩離れたところで待っていると、手を洗い終えた蘭が控えめな声で言ってきた。
「怒ってる……?」
「べつに……」
 怒ってはいない。
 呆れているだけだ。
 人一倍怖がりで、二倍も三倍もお化け嫌いの癖に、一緒なら多分大丈夫とホラー映画を見て案の定、一人でトイレにも行けなくなった事に対して。
 呆れているだけ。
 すると、見るからにしょげ返り今にも泣きそうな顔で、蘭は呟いた。
「……やっぱり怒ってる」
「お、怒ってないよ」
 そんな顔をされるのは…泣かれるのはゴメンだと、コナンは懸命に首を振った。
「ホントに怒ってない……?」
 正面でしゃがみ、不安げに上目遣いで見つめてくる蘭になんとか納得してもらおうと、何度も頷く。
「じゃあ…お願いがあるんだけど……」
 と、眼差しが色を変えた。
 一つ、予感が過ぎる。
 次に蘭の口から出たのは、果たしてその通りだった。
「い……いっしょに寝ても…いい……?」
 断らないよねと期待を込めた瞳で見つめられて、誰が断れようか。
「いいよ……」
 見ると言い出した時から、こうなる事はある程度予測していた。
 ほっとした顔で笑う蘭を見て、やれやれとコナンも小さく笑った。

 

 

 

 各部屋の戸締りを確認し、コナンは三階に戻った。
 玄関のドアを開けた途端、蘭の部屋から聞こえてくるラジオの音が耳に飛び込んだ。
 苦笑いを一つ。
「蘭姉ちゃん、近所迷惑だよ」
 部屋の扉を開けながら、コナンは言った。
「だって……」
 言いよどみ、蘭はすぐさまラジオを消した。自分でも多少うるさく思ってはいたが、消せば消したで、それまで隅で身を潜めていた薄ら寒い何かがじわじわと迫ってくるような、そんな錯覚に見舞われる。
 慌ててコナンをベッドに座らせ、口を開く。
 今日の授業の事や、昼間のちょっとした事件、怖くないからと園子に映画を薦められた事。
 まだ纏わり付く恐怖を追い払う為か、いつになく饒舌な蘭につい笑ってしまいそうになるのをぐっとこらえ、コナンは相づちを打った。
 今日見た映画は、確かにホラーのジャンルに入るが、幽霊や化け物が出るにしても物陰から突如飛び出して驚かすといったいわゆる『ビックリタイプ』のものとは違って、ショックを受ける場面も数えるほどしかなかった。どちらかというと、見た後に少々の物悲しさを残すそんな映画だった。
 けれど、人の二倍も三倍もお化け嫌いの彼女には、それでも充分恐怖を感じたのだろう。
 反動でか、普段でもそうなのに、今日は二倍も三倍も甘ったるい話題を選んで喋っている。
 さすがに辟易しながらも、それは胸にしまい込んでコナンはお喋りに付き合った。
 しかし何事も限界はある。
 ここらで一つ、仕返しをしてやろう。
 タイミングを見計らい、コナンは不意に窓へ視線を移し表情を強張らせた。
「え……なに?」
 果たして蘭は震えた声をもらした。
「………」
 けれどコナンは何も答えない。
「なに…ちょっと……、なによ……」
 相変わらず窓を凝視したままのコナンに焦れた声を上げ、蘭は答えを急かした。
「いや……」
 返ってきたのは、心ここにあらずといったコナンのおぼつかない声。
「ねえ……なんなのよ」
 曖昧な返答に、蘭は喉をひくつかせた。
 彼が、おどかそうとしてやっているのは分かったが、一度『怖い』と思ってしまった以上、それを仕掛けた本人が解除するまで緊張を解く事が出来ない。
 今にも叫びだしたいのをぐっと飲み込み、蘭は相手の反応を注意深く見守った。

 ねえ…やめてよ……
 早く…こっち見てよ……
 コナン君……

 何もない、何もないと言い聞かせながらも、はっきり確かめてない今は『ある』も同じ。呼吸が引き攣る。

 お願いだから早く何か言ってよ……

 願いが通じたのかどうか、コナンの手がすいと持ち上がり窓の一点を指差す。
「ほら……」
「!…」
 いっそ静かな声音に過剰に反応し、蘭は勢いよく振り返った。
 次の瞬間。
 大きな掛け声と共に肩を叩かれる。
「いやあっ……!」
 叫び、蘭はその場にうずくまった。
 長い黒髪が、まるで彼女を守るようにばさりときれいに広がる。
 一泊置いて、コナンはくくくと笑い出した。
 分かっていたのに…まんまと騙された自分を恨めしく思いながら、蘭はうずくまったままコナンを睨み付けた。
 なんと言って仕返ししようか。
 必死に考え、蘭は、その姿勢のまま手でコナンを押しやった。
「……あっちいって」
 ベッドから押し出そうとする蘭に慌てて顔を近付け、どうしても笑ってしまうのを無理やり引き締め『ごめんなさい』と謝る。
「やだ。知らない、コナン君なんて……」
「ごめんなさい蘭姉ちゃん」
 覗き込んだ瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。コナンはもう一度謝り、広がった髪を丁寧に片方に束ねてやった。
「……知らない」
 それとは反対の方を向き、拗ねた声を上げる。
 コナンもそちらへと顔を向け、言った。
「ごめんなさい。もうしないから」
「……笑った」
「ごめんなさい。もう笑ったりしないから、こっち向いて」
 蘭はちらりと見やると、またそっぽを向いた。
「怖いの嫌いなの……知ってるくせに」
 口を尖らせて言う。
「機嫌直して……ね?」
 囁きと同時に伸びた手が、前髪をさらりと梳き頬に触れる。
 不意のぬくもりにどきりと胸が高鳴る。
 見上げて、蘭は息を飲んだ。
 間近にあるのは、いつもと同じ――違う、青い瞳。

 まっすぐ見つめてくる眼差しは、子供のそれではなく……

 胸の内で密かに名を呼んだ途端、目の奥にじわりと熱が滲んだ。
「コナン……君……」
 無意識に呟き、近付いてくる彼の唇を素直に受け入れる。
 これで許してしまうのは少し癪だったが、だからといって拒むなんて出来ない。
「……ごめんね」
 寸前唇の上で囁き、コナンは口付けた。
 起き上がろうとする身体を抱き寄せ、甘食みと共により深く重ね合わせる。
 蘭も同じように腕を回し、口付けに浸った。
 しばらくそのまま、何もせず、互いの熱を感じ合う。
 やがてどちらからともなく自然に身体を離し、視線を絡ませ余韻に浸る。
 蘭は姿勢を直すと、困ったような笑いたそうな眼差しでコナンを見やった。
「……まだ怒ってるんだから」
 零れた呟きは、口先だけの脅し。
「どうしたら、許してくれる?」
 尋ねるコナンに何も答えず、伏目がちに視線を逸らせる。
「ねえ、教えて…蘭姉ちゃん」
 あどけない声のまま、コナンは顎に指を添えた。
「さあ……」
 吐息だけで囁き、蘭は目線を上げた。じっと見つめたまま、コナンの指を追って顎を引き、ちゅっと口付ける。
 優しく触れた薄く柔らかな皮膚にふと口端を緩め、コナンはゆっくりと指を滑らせた。
 頬から首筋へ。
 なめらかな喉を撫でると、蘭の身体がわずかに震えを放った。
 笑みを深め、寝衣のボタンに指をかける。
 一つ、また一つボタンが外されていくのを、蘭は熱っぽく見下ろしていた。
 コナンは触れていた首筋から顔を離すと、潤み、少しとろけた表情を浮かべる蘭の顔を見上げ緩やかに口端を持ち上げた。
 唇だけで、言葉に満たない何かを呟く。
 反射で、蘭も同じように唇を震わせた。
 直後、ボタンが全て外される。
 その一瞬、蘭の瞳が曇った。
 彼がそれを見逃す事はなかったが、何も言わない限りは、口を閉ざしたままでいる。
 脱がせる動きに合わせて、蘭は身じろいだ。
 コナンは簡単にたたんで脇に置くと、彼女の胸を覆う白いスポーツブラに目を向けた。一番に目を引くそこから、愛おしさを感じさせる柔らかな丸みを帯びた肩や腰のくびれ、そしてまだ衣服で隠されているその先へと進み、ゆっくり全身を辿る。
 蘭は強張った視線を他方へ逸らし、じっとしていた。
 コナンは膝立ちになって身を寄せ、抱きしめながら首筋に顔を埋めた。
「あ……」
 熱い吐息と唇が、続け様に肌に触れる。途端に背骨がぞくりと震え、蘭はこもった吐息を切れ切れにもらした。
 微かにわななく肌を愉しみながら、コナンは肩口から鎖骨にかけて唇をすべらせた。もう一方も指先で同じようにくすぐり、撫で回し、なめらかな肌の感触を存分に味わう。
「う、ん……」
 蘭の唇から、控えめな声が零れる。
 これがじきに激しさを増していくのだと思うと、そだけで目が眩むのをコナンは感じた。
 思わず急いてしまうのを慌てて押しとどめ、ちゅっと喉元に吸い付く。そのまま何度も、ついばむような軽いキスをしながら、手探りで肩紐を外す。
 同時にびくんと蘭の身体が跳ねる。
 コナンは一旦そこから手を離すと、強張った肩から力が抜けるようにと繰り返し頭を撫でてやった。
「………」
 穏やかな手に蘭は小さく溜め息を零すと、気恥ずかしくも心地好い感触にそっと目を閉じ浸った。
 けれど、小さな手が乳房へと向かう動きを見せた途端、また全身に緊張が舞い戻る。
 即座に感じ取ったコナンは、触れる寸前で手を止め、口を開いた。
「……やめる?」
 彼女の中に、どうしても拭いきれないコンプレックスがあるのは分かっていた。辛い思いを押し殺してまでする必要はないと、コナンは一旦身を離し返答を待った。
「大丈夫……」
 見上げてくる視線に申し訳なさそうに返し、蘭は力なく笑みを浮かべた。ほとんど感じる事もなくなっていたから、もうとうに消えたと思っていたのに…どうして今日に限って、こんなに気になってしまうのだろう。自分でも説明のつかないもやもやが、頭から追い払えない。
 でも……大丈夫。
「……には見えないよ」
 ぎこちない笑顔が少しでもほぐれるようにと、コナンは両手で頬を包み込んだ。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ」
 俯く蘭に軽く首を振る。
「ごめんなさい。でも……したいの」
 今にも消え入りそうな声で、蘭は遠慮がちに縋り付いた。
 しばし無言で見つめた後、コナンは静かに言った。
「……蘭姉ちゃん、それ、外して」
 強い瞳にぎこちなく頷き、蘭は脱ぎ去った。
 緊張の為か、晒された乳房はうっすらと白桃色に染まり、頂点の淡い色付きも、存在を主張してつんと上を向いていた。
 平気…大丈夫…そう言い聞かせるも、見つめられる不快感にどうしても身体が震えた。何度も隠したい衝動に駆られ、その度思いとどまりびくびくと身震いを放つ。
 その様を、コナンはきつく見据えていた。
「……見ないで」
 とうとう耐え切れなくなり、蘭は涙に潤んだ声をもらした。ぎくしゃくと腕を持ち上げ、胸に押し当てる。
「ごめん……」
 そしてぽつりと、呟く。
 コナンはふっと視線から力を抜くと、膝立ちになって身を寄せた。
「謝らないでって、言ったでしょ」
 言って、また優しく頭を撫で笑いかける。
「でも……」
 蘭は済まなそうに身を縮めると、言いよどんだ。何とか腕を下ろそうと試みるが、どうしても一歩が踏み出せない。
「でもはいいから…ね。そんな風に無理にするの、好きじゃないもの」
 まっすぐで艶やかな髪にそって、コナンは何度も頭を撫でた。それでも、まだ、蘭の顔は晴れない。
 今にも零れそうな涙に、コナンは一つ提案した。
「後ろ、向いてみて」
 蘭は俯いたままこくりと頷き、言われた通りおずおずと背を向けた。
 コナンは膝立ちのまま寄り添うと、肩に腕を回した。
 案の定強張る蘭の耳元で、静かに『大丈夫』と繰り返す。
「ほら、顔が見えなければ大丈夫……」
「っ……」
 蘭は抱きしめる腕にそっと手を触れると、コナンの後に続けて『大丈夫』と呟いた。
 繰り返し言葉を紡ぎながら、コナンは少しずつ右手をずらしていった。
 うっすらと浮き上がった鎖骨から、胸のふくらみが始まるところへ。
 案の定、蘭の身体がぴくんと反応を見せる。
 コナンは素直に手を止め、おさまった頃合にまたそろそろと手をすべらせた。また震えれば、手を止め、少しずつ動かす。
「大丈夫、大丈夫……」
 囁きを流し込みながら、繊細な肌を傷付けぬようそっと指先で乳房をなぞる。丸みをたどり、右から左へ、また右へ。
「ふ……」
 くすぐりながら丁寧に左右の乳房を愛撫する小さな手に、蘭は半ば無意識に笑みを浮かべた。
「大丈夫……?」
 コナンが吐息で尋ねる。
「……大丈夫」
 そっと返し、肩を抱く左手に頬をすり寄せる。
 直後、たわむれに乳首を摘まれ、蘭はびくりと身を弾ませた。
「や……ん」
 とろんとした甘い声が、零れる。
 それを合図に、確かめるだけだった動きが一転して力強いものに変わる。
 はっきりとした刺激を与え、快感を送り込んでくる指に、蘭はかすれた喘ぎをもらした。
「あっ……や…あ、ぁ……」
 瞬く間に身体の芯がほてっていく。熱は腰の奥へ流れ込み、身震いするほどの疼きとなって蘭を滾らせた。
「あ…ふぅ……やん……」
 背後からの手は休むことなく這い回り、甘やかな快楽をもたらした。
「あぁん……く、ふぅ…やぁ……んん」
 どこか戸惑いがちだった嬌声は次第に艶を含んだものに変わり、緩む唇からしとどに零れた。
 引き攣る喉でコナンは喘ぎ、手の中の柔らかな感触に浸った。
 下から捕らえ小刻みに揺すり、大きく揉み上げては、五指で優しくさする。
「や…いや…あああぁ…ん…あぁ……」
 乳房の頂点で張り詰める突起を摘む度、一際高い悲鳴を上げて蘭が応える。妖しく、腰をくねらせて。
 もっと声が欲しいと、コナンは執拗に乳首を責めた。見なくても分かるほどにしこり起ち上がったそれを指の間に挟み、そのまま乳房を揉みしだく。
「ひゃ…あっ…あああ、あぁ……くうぅ」
 ぞくぞくと首筋を這い上がる甘い快感。
「ん…くぅん……っ、あぁん……!」
 腰の奥に流れ込み凝っていた熱が、喘ぐ度溢れて内股を濡らしていく。もぞもぞと膝をこすり合わせ、蘭は身悶えた。
「あっ……!」
 不意に、耳の後ろに口付けられる。
「だめ…あぁ……だめ…まって」
 首筋をたどろうとする動きを制し、蘭はぶるぶると震えながら肩越しに振り返った。
 思わず暴走しそうになる昂ぶりを寸でのところで抑え、コナンは手を…名残惜しそうに手を離した。乱れる息を飲み込み、そっと問い掛ける。
「……やっぱり、気持ち悪い?」
「違うの……顔が見えないのが…寂しい」
 言って、蘭はためらいがちにコナンを見上げた。
 恥ずかしそうに笑い見つめてくる愛らしい顔に、たがが外れる。
 噛み付く勢いでコナンは口付け、突然の事に驚き戸惑う舌を強引に絡め取る。強く吸う。
「あ、はっ……コナン…く……」
 応える間も惜しいと口腔をねぶり、ようやく動き始めた蘭のそれを舌先で何度もくすぐる。
「ふぅ…あぅん……ふっ……んん」
 甘えるような声…熱く柔らかな舌に触れる度、頭の芯が白く痺れるのをコナンは感じた。
 高まっていく興奮のまま接吻に耽る。
 不意にはたと思い出し、再び乳房に手を伸ばす。
 しっとりと汗ばんだ感触を愉しみながら、コナンはゆっくりと揉み上げた。
「ああぁ、あ…ん……」
 痛みを感じるほどの強い愛撫なのに、身体が疼いてたまらない。もっと欲しくなる。

 もっと……

 蘭は自ら胸を押し付け、無言でねだった。
 応えて、コナンは乳房へと顔をずらした。
「コナン君…あ、あぁ……コナンく……」
 早く…早く…小さな身体にしがみ付き、身悶え喘ぐ。
 嫌悪感は既に消えていた。
 そんなものを抱いていた事すら忘れて、蘭はひたすら快感に酔い痴れた。
「………」
 コナンは乱れる息で蘭の名を呼ぶと、目の前の白い肌…今はうっすら朱く染まったなめらかなそれへと唇を寄せた。
「ん……」
 彼女が望む乳首にはあえて触れず、ふっくらと腫れ上がった乳輪の際を強く吸う。
「いや、ぁ……」
 じれったさに身じろぎ、蘭はゆるゆると首を振った。
 コナンは密かに笑みを零すと、反対側も同じように焦らした。そのまま甘食みを繰り返して乳房を唾液で濡らし、もう片方も、指先でそっとくすぐりながら乳首の周りをくるくると刺激する。
「いや…コナン君……ど…して……」
 ひくひくと喉を震わせ、蘭はぐっと息を飲み込んだ。
 待ち焦がれて、乳房の先端がじんじんと痛む。

 早く…欲しいよ……

 目の前の身体をより強く抱きしめ、訴える。
 しかしコナンは、あえてそれを無視した。
 少し窮屈な腕の中で、彼女の欲しい箇所を避けて愛撫を続ける。
「コナン…くん……」
 あと少しなのに…愛らしい顔を泣きそうに歪め、蘭はひっそりと呟いた。
 欲するままの刺激を与えられた時の、あの目も眩むような快感を瞼の裏に思い浮かべ慰める。しかし、そうすればそうするほど飢えは深まり、叫びたくなるほどの疼きが腰の奥を鈍く噛んだ。
「あぁっ……」
 切なさに蘭は吐息をもらした。
 直後、きついひと噛みが乳首を襲う。
「!…」
 突然の事に声も出せず、蘭は大きく仰け反りびくびくとわなないた。
 長く尾を引く不規則な痙攣に、コナンは、彼女が軽く達した事を悟った。今にも倒れそうになる身体をしっかり抱きしめて支えてやり、息が整うのを待つ。
 やがて、ぐったりとうなだれたままだった蘭の顔がおずおずと上を向き、少し息を乱しながらコナンを見つめそっと微笑んだ。
「……いじわる」
 吐息で綴り、間近の唇に接吻する。
 笑って受け止め、コナンは片方の手をそろそろと下腹へ伸ばした。
「ん……」
 布越しに触れた内股は汗とそれ以外とでしっとりと湿り、熱を帯びていた。コナンはゆっくりと手を挿し入れると、ショーツの上から軽く触れてみた。濡れた感触が指先に伝わる。
「あっ……!」
 恥ずかしさにおののき離れようとする蘭の頭を押さえ、口付けを続ける。
「……触ってもいい?」
 キスの合間に尋ねると、蘭はためらいながら頷いた。
「さわって……」
 呟き、わずかに膝を開く。
 コナンはショーツの中に手をもぐり込ませると、下腹を慎ましく覆う繊毛をそろりと撫でた。
「ば、か……やめてよ」
 予想外の行為に蘭が抗議の声を上げる。
 コナンは言葉の代わりにごめんねと首筋に口付け、そっと花弁に触れた。
 そこはすでに熱い滾りを蓄え腫れ上がり、わずかに口を開けていた。
 甘い甘い蜜を滴らせて。
 そこに、指先だけをそっと埋める。
「濡れてる……」
 コナンの一言に頬を赤らめ、蘭はぼそぼそと返した。
「だって……コナン君の指が…気持ち良いから……」
 零れた熱い吐息に目が眩む。
 これ以上は我慢できない。
「……舐めさせて」
 揃えた二本の指でくちゅくちゅと入口をくすぐりながら、コナンは顔を上げた。
「………」
 背筋を這い上がる強烈な痺れにわななきながら、蘭はぎくしゃくと頷いた。下衣に手を伸ばす。

 

 

 

 膝立ちになるよう促され、蘭は恥ずかしさに何度もためらいながら言われた通りの姿勢を取った。
「ん……」
 壁に手を沿え、見下ろす。

 その先には、自分を支配する強い瞳――

 熱に潤む眼差しをコナンに向け、蘭は口を開いた。
「…して……」
 恥じらいながらお願いする姿が、強烈な目眩となってコナンを襲う。
「………」
 しゃくり上げるように息を吸い、コナンはぽってりと腫れた花弁を両の親指でじわじわと開いていった。
「うっ……」
 見られる恥ずかしさから、蘭は喉の奥で小さく声を上げた。それが引き金となり、新たな蜜がまたどっと溢れ出る。
「コナン君……」
 仰のいたまま、蘭が名を呼ぶ。
 ねっとりと、妖しく絡み付く女の匂いに興奮を抑え切れない。
 思わず震えてしまう舌を伸ばし、コナンはそっと花芽を舐め上げた。
「あんっ……!」
 口に含むと同時に、蘭の唇から高めの悲鳴が迸った。
 鼓膜を犯す喘ぎに酔い痴れながら、何度も甘食みを繰り返す。
「あ…ああぁ……やぁっ…あぁん」
 内股をびくびくと震わせながら、蘭はしとどに喘ぎをもらした。
「あっ…そんな…に……だめ…あぁ……」
 非難めいた声をかき消すように、わざと下品な音を立てて吸い付き更に奥へ舌をねじ込む。
「だめぇ……や…、やめて……はぁ……ああぁ」
 何とか逃れようと、妖しく腰をくねらす。
 逃すまいと、掴んだ腰を追いかける。
「あぁあん……コナン…くぅん……ふうぅっ……」
 蘭は鼻にかかった甘い声を撒き散らしながら、いやいやと首を振った。指とはまるで違う感覚が、濡れたそこを縦横にねぶる。浅い箇所に入り込んだ舌がちろちろと内襞をくすぐる度、全身から力が抜けていって頭の中が真っ白になる。

 ああ…コナン君……

 陶酔しきった顔で、蘭は何度も仰のいた。
 舐め取っても飲み込んでも、尚じわりじわりと湧き出てくる甘やかな蜜。
 そしてこの声。
 かけらも思ってやしないのに繰り返す女の悩ましげな声に息が上がる。

 だめ
 やめて
 いや

 嫌がり拒む言葉を吐きながら誘ってくる。
 より深い奥の方へと。
 今は決して叶わない重なりを錯覚させ、白く弾ける絶頂を味わわせてくれる女。
 もっと欲しい。
 もっと欲しい。
 もっと声が欲しい。
 今にも食い付きそうになる自分を何とか押しとどめ、コナンは代わりに指を埋め込んだ。
「!…」
 迫り上がってくる細い異物におののき、蘭はひっと喉を鳴らし仰け反った。続け様に熱い吐息を零し、小刻みに震えながらコナンを見下ろす。
「あ、ああぁ……」
 恐々と、けれどどこかうっとりとした眼差しで、自分の内部に入り込む指を見つめ溜め息をもらす。
 認識した途端、熱いものがまた腰の奥から溢れた。
 視線に気付き、コナンは顔を上げた。
 しどけなく緩んだ女の顔にふと口端を歪め、埋め込んだ指をゆっくり上下させる。
「ねえ、蘭姉ちゃん……ほら、中がヒクヒク動いてるの…分かる?」
 ねじるように手を動かしながら、わざとあどけない声で聞く。
「っ……わ、かんないよ…そんなの」
「うそばっかり。ほら…わかるでしょ……?」
 とめどなく滴る蜜を指に絡めて、コナンは更にかき回した。
 じゅぷ…くちゅ…絡み付く蜜の音にカッと頬を赤らめ、蘭は激しく首を振った。
「だめ…コナン君ダメ――!」
「わかる?」
 言葉と同時に強く突き上げ、大きく揺さ振る。
「やああぁぁぁ……!」
 途端に零れる高い悲鳴。
「ほら。ヒクヒク動いて、指を締め付けてくるよ……」
 三本目の指をねじ込み、それぞれに動かして内部を抉る。
「…いやぁ……いじわるしないでっ…ああぁ……!」
 脳天を甘く犯す快感に堪え切れず、蘭は膝立ちの姿勢を崩し小さな身体にしがみ付いた。切れ切れに喘ぎ、抱きしめた背中をまさぐる。
「……ごめんね」
 さすがにやりすぎたと、コナンは口を噤み指だけを動かした。
 しばし、淫靡な水音だけが部屋に響く。
 やがて蘭の口から、熱い吐息交じりの呟きが零れた。
「ああ……気持ち良い……」
 コナンに頬をすり寄せ、うっとり歌う。
「どこが気持ち良い……?」
 内部を柔らかくこねながら問う。
「あ、ん……中の…浅いところが……」
 とろんとした表情で、蘭は素直に答えた。
「ここ?」
 言われた箇所を小刻みに抉る。
「んん…そこ……」
 びくびく震える四肢にふと口端を緩める。
「じゃあ…こっちは……?」
 言って、コナンは親指で花芽をくるりと舐めた。途端に埋め込んだ指がきゅっと締め付けられる。
「あうぅ……」
 自らも腰を揺すり、蘭はがくがくと頷いた。
 目の前の媚態に胸の内で何かが弾ける。
 コナンは押し当てた親指で柔芽をくにゅくにゅと転がしながら、同時に中の指を蠢かせ内奥を刺激した。
「はぅっ…だめ……ああぁん」
 強すぎる快楽に蘭の腰が妖しくくねる。
「コナン君……あ、あ、あぁ……だめ、いやぁ……コナンく……!」
 聞き入れず、更に乳首を口に含みちろちろと舌先でくすぐる。
「やっ……胸は――!」
 驚いて蘭が身を捩る。
 逃げるのを追って、コナンは殊更強く吸った。
「やああぁぁ……」
 鼓膜を震わす悲鳴を聞きながら、震える乳房に交互に口付け、音を立てて吸い、指の腹で優しくこする。
「だめ……お…、かしくなっちゃう……」
「いいよ…ほら、もっとおかしくなって……」
 煽り、下部に伸ばした手の動きを早める。
 とろとろと溢れる蜜は手のひらまで伝い、尚も零れてくる。
 深い愉悦を訴えるように。
「やぁ…や、だ……あ、んん…いや…もういやぁ……あぁんっ……」
「大丈夫。ねえ、ほら、怖がらないでもっと気持ち良くなって……」
 手に余る乳房を大きく揉み上げ、人差し指で乳首をこねる。
「あぁっ……コナン君…コナンく……」
 ためらいながらも、導くコナンに身を任せる。
「大好きだよ……蘭姉ちゃん」
「コナン君――し…しん……はっ…う、…くうぅ……」
 思わず口にしてしまいそうになる名を辛うじて飲み込み、蘭は唇を引き結んだ。
 しゃくり上げる女の頭を抱き寄せ、コナンは耳元で低く言った。
「呼びたきゃ呼べよ……」
 ひと飲み息を吸い込み、すぐに言葉を足す。
「……呼んでくれよ」
 今だけ、身体の解放に任せて何もわからなくして、二人…三人だけの秘密をあやふやにする。
 耳朶に触れた囁きに蘭は喉を鳴らし、ひっそりと吐息だけで「新一」の名を口にする。
「らん……」
 身体中に歓喜が満ちていく。
 今だけ、身体の解放に任せて何も分からなくしてしまおう……
「新一…新一……しんいち……」
 目の前の少年に向かって何度も名を呼ぶ。これもまた真実だと思う。
 柔らかな頬に繰り返し口付け、蘭は身体中から溢れる甘い歓びに深く深く潜った。
「ああぁ……あぁ――!」
 瞬く間に身体は上り詰め、弾け飛んでしまいそうなほどの喜悦が背筋を直撃する。
「蘭……!」
 幾度も締め付ける内襞の動きに逆らって繰り返し突き上げ、最後に一際強く押し入れる…自分のもので貫いている錯覚を味わいながら。
 目眩と共に襲った擬似的な絶頂にひゅうと息を飲み、コナンは仰のいた。

 

 

 

 早起きの鳥の声が、窓の向こうから微かに聞こえてくる。
 ベッドに仲良く並んで眠る二人の片方…コナンが、その声に促され目を覚ました。
 いつもと違う視界に一瞬動揺し、隣を見て、ほっと安堵する。
 仰向けに横たわり眠る彼女。
 見慣れているようで何度でも初めてのように戸惑ってしまうその寝顔を、まだ寝ぼけた眼で静かに見守る。
 うっすらと緩む唇が、静かに呼吸を繰り返している。
 昨夜の激しさがまるで嘘のような――
 ふと壁の時計に目がいく。
 休日、二人だけの朝なら、まだ起きるには早い。
 彼女が目を覚ますまで、もう少しこうしていよう。
 時計の秒針がコチコチと時を刻む。
 ぼんやりと聞きながらコナンは、彼女の横顔を見つめ浅いまどろみを繰り返した。
 じきに耳にする愛しい人の声を待ちながら。

 

目次