砂時計

 

 

 

 

 

 

 

 

 今朝の冷え込みは格別だと、リビングの暖房をつけながら蘭は思った。
 カーテンを開けた途端に差し込む眩しい朝日が、室内の凍て付いた空気を柔らかくほぐす。
 良い洗濯日和
 大きく伸びをしながら今日の晴天に感謝していると、背後で静かにドアが開き、続けて少し寝ぼけた声が聞こえてきた。
「……おはよう、蘭姉ちゃん」
 笑いながら振り返ったそこには、想像通りの顔でコナンが立っていた。
「おはようコナン君。お休みなのに早いね」
「うん……」
 立ったまま寝ているようなしまりのない声に、笑いが止まらない。きっとまた、夜遅くまで推理小説を読みふけっていたに違いない。
「すぐ朝ごはんにするから、お父さん起こしてきてくれる」
「ああ……」
 はっきりしない意識のせいで、うっかり新一に戻って返事をする様があんまりおかしくて、蘭は必死に声をこらえて笑った。
 当の本人はまるで気付いていない。
 それがまた笑いを誘う。
 これ以上は我慢出来ないと、蘭は洗面所に避難した。
 笑いの余韻が中々消えないのを、冷たい水と一緒に洗い流し、さっぱりしたところで今度はキッチンへ。
 パンは、昨日コナン君と一緒に買った残りで良し、ハムはある、サラダもオッケー、後は、ウインナ―と野菜のスープを作ればおしまい。
 冷蔵庫にある買い置きやテーブルの上を確かめながら、蘭は必要な皿を並べた。
 そこへ、何か手伝いをとコナンがやってきた。
「ありがとう、助かるわコナン君」
 蘭はにっこり笑うと、冷蔵庫から取り出したハムやレタスを指し、盛り付けを頼んだ。
「でも、椅子の上では注意してね」
 付け足しに、以前の失敗にさりげなく釘をさす。
「……はあい」
 横着して、あわや大怪我の惨事を、蘭のお陰で回避できた過日の出来事を思い出し、コナンは苦笑いで応えた。
 居間のテーブルに並べる頃、ようやく起きてきた小五郎が支度を済ませるのを待って、朝食にする。
 朝からアルコールを口にする事はないが、その代わりとも言うべきか、中々野菜を口にしない父親にしきりに食べるよう勧める蘭と、一切れ口に放り込んで食べたと言い張る小五郎のやり取りで、食卓はこの上なく騒々しい。
 昼も、夜も、そして朝も。
 三人の食事風景が静かだった事など、今まで一度としてなかった。
 相変わらずのやり取りを横目に、コナンは黙々と食事を進めた。
 今でこそ平然と過ごせるようになったが、それまでの生活…ただただ静かな一人の食卓と大きく異なる環境に、初めはよく戸惑った。ともすれば今にも取っ組み合いのけんかに発展しそうな険悪さに口を挟んでは、一人痛い目に遭う。幾度か繰り返して学習したのは、傍目にどうあれこの親子はこの状態が最良、という事。
 どんなに険悪に見えてもそれは良い具合に言葉が組み合っているからで、むしろ声を交わさない時の方が最悪なのだと学んだ。
 それからは、余程でない限り口を挟まないようになった。それに、慣れてしまえばこの光景も中々和やかといえる。
 ……とはいえ、相変わらず心の隅ではハラハラしているが。
 蘭の気の強さは、生来の世話好き…相手を放って置けないおせっかいさからきている。少し度を越えた感もあるが、心配しているからこそ言葉を重ねるのだと小五郎も分かっているから、苦々しく思いながらも優しさに感謝していた。
 少しひねくれた方法で。
 今も、出かけようとするのを引きとめ小言を交えて繰り返す蘭に、生返事で応えている。
 どっちも素直じゃねーしな……
 人の事は言えないと前置いて、コナンはひそかに呟いた。
「もう、わかったのお父さん」
「ああわかったって。じゃあ行ってくるからな」
 扉が閉まると同時に、蘭は目を吊り上げたおっかない顔で振り返った。
「もう、お父さんは……」
 悪友に誘われ「いつもの場所」に出かけていった父親にぶつぶつと零す蘭を刺激しないよう、コナンは出来るだけ静かに後片付けを進めた。
 しかし、こういう時に限って目は合うもので、キッチンに一歩踏み出した状態で、コナンは苦笑いを浮かべた。
 と、目が合うと同時に蘭は恥ずかしそうに顔を赤く染め、ごまかす代わりに照れ笑いを浮かべた。
 とばっちりの一つも食うかと覚悟していただけに、彼女の意外な反応に思わず見とれる。
「あ……せ、洗濯が済んだら買い物行くけど、一緒に行く?」
「うん……」
 心なしか上ずった声に、内心首を傾げながら頷く。
「そ……洗い物あったら、出しといてね」
 いつも遠慮なく怒った顔を見せている癖に、時々こうして悪あがきをする。分かるようで分からない彼女を見る度、いいようのない愛しさが胸に広がる。

 

 

 

 小一時間ほどで家の中の用事を済ませ、二人はいつものように手を繋いで買い物に出かけた。
 いつものように…繰り返す日常の些細な仕草が、朝の出来事に引っかかって、無意識を意識に変える。
 しかしそれはコナンだけのようで、蘭はいつもと変わらず小憎らしいほどの無邪気さで手を引いていく。戸惑いながらついていく道のりは、何の変哲もない景色を鮮やかにさせた。
 これだから……
 コナンはほんのわずか力を込め、繋いだ手を握り返した。
「お昼…何食べよっか」
 たどり着いたスーパーの入口からゆっくり野菜コーナーをたどりながら、蘭は小さくうなった。
 夕飯は、昨日が魚だったので今日は肉と、献立は決まっている。
 さあ、昼は何を食べよう。
「そうだ、スパゲティにしようか」
「うん、いいね」
 声を弾ませる蘭に、ちょうど良いボリュームだとコナンは頷いた。
「じゃあ決まりね。あ、コナン君キウイ食べる?」
 通りがかった果物の棚にキウイを見つけた蘭は、一つを手に取りコナンに訊ねた。
「え…うん」
 食べ物の好き嫌いは特にないが、果物の類は好んで食べる方ではなく、こうして誘われてやっと口にするくらいで、毎日のように何かしらの果物が食卓に並ぶ生活は以前では考えられないものだった。
 なので、聞かれるとつい戸惑ってしまう。
 蘭は気にする風もなく三個ばかりかごに入れると、次の棚目指して歩き出した。
 手を繋ぎどこかうきうきと歩く蘭の姿をそっと見上げ、コナンは心の中でしみじみと幸いを噛み締める。
 買い物を済ませ家に戻ると、蘭は買い物袋の中身をてきぱきと各所に納めていった。
 終わる頃には、昼食に必要なスパゲティを茹でる大鍋も調味料も整然と揃えられており、あらためて彼女の手際の良さに感心する。
 手伝うのはかえって邪魔になるかと控えていたコナンは、代わりに紅茶を用意してリビングに持っていった。
 青い砂時計を脇に、やってくる頃を見計らって一杯目をカップに注ぐ。
「うわあ、良い香り」
 部屋に紅茶の香りが満ちていく中、タイミングよく蘭が戻る。
「ありがと、コナン君」
 カップを両手に包んで、嬉しそうに礼を言う蘭に心なしか赤い顔で目を逸らし、コナンは何事か呟いた。
「うん…おいしい」
 ささやかな幸せに蘭が頬を緩める。
 その様子を上目遣いにそっと伺い、コナンは小さく笑った。
 何の変哲もない時間が穏やかに過ぎていく。

 

 

 

 いい具合に空腹を感じ、そろそろ昼にしようかとコナンが思い浮かべれば蘭もまた同じように考えていたようで、一緒に生活していると考えも似てくるのねと何気ない一言に、つい顔が熱くなる。
「あれ、コナン君顔赤いね。熱あるのかな」
 急に真顔になり、心配そうに手を伸ばしてくる蘭に慌てて言い繕い、コナンは一歩下がった。
 彼女の不意打ちはたまに、予想外のダメージを与えてくる。それがまた、悪気がないのだからしまつにおえない。
「ホントに大丈夫?」
「うん、何ともないよ」
「そう…じゃあ、ちょっと早いけどお昼にしようか」
 スリッパをパタパタと響かせ蘭は流しに向かった。
 そこでふと目に入ったキウイの誘惑に負け、一つを手に取る。
「ねえ、キウイはそのまま食べる方?」
 蘭は振り返ると、片手に丸ごとのキウイをかかげ、半分に輪切りにした方がいいか、皮をむいてスライスした方がいいか訪ねた。
「小さく切った方が、食べやすいんじゃない?」
 どっちでもいい、喉元まで出かかったのを慌てて飲み込み、彼女がいつも食べる方をさりげなく選ぶ。
「そうね」
 蘭はにこりと笑みで応え、手際よく皮をむき始めた。
「そういえば昨日の猫、可愛かったね」
 皮むきをしながら、昨日見たテレビの内容を思い出し、他愛無いおしゃべりを始める。
 二度、三度相づちを打つが、コナンの意識はそれよりも、キウイをむく彼女の指先に奪われていた。
 綺麗な指が、器用にくるくるとキウイを回す。
「食べる?」
 さすが、長く家事を努めてきただけの事はあると感心しながら見とれていると、横目で気付いたのか、蘭がそう声をかけてきた。
「え、あ…」
 ろくに話も聞かず見とれていた気まずさから、コナンは少し慌てた様子で言葉を詰まらせた。
「はい、一口」
 蘭はスライスした端を二等分すると、一切れをコナンに差し出し、もう一切れを自分の口に放り込んだ。
「うん、ちょっとすっぱくて、おいしいね」
 食べ頃に熟れたキウイに顔をほころばせ、蘭は肩を竦めた。
「…うん」
 コナンも同じ感想を抱いたが、甘いキウイの小さな幸せを身体中で表現する彼女に心を奪われ、味はすぐにわからなくなってしまった。
 何より、目の前にある綺麗な指が目を釘付けにして離さない。
 甘かったのか酸っぱかったのか、キウイをごくりと飲み込み、コナンは、は、と小さく息をついた。
 気付けば、綺麗な指先に接吻していた。
 キウイの清々しい香りを残らず吸い込むように繰り返し口付け、軽くくわえ込む。
「ちょ……」
 突然の行為に、蘭はうろたえた声を上げた。
 コナンはちらりとだけ目を上げ、キスを続けた。引っ込めようとする手をしっかり掴み、指先から手のひらに向かって唇を這わせる。
「っ……」
 唇で指の付け根をくすぐられ、むず痒さに蘭は顔を背けた。
 向けた視線の先には、たった今切ったばかりのキウイがあった。斜めに倒れかけ、まな板に並んでいる。
「!…」
 瑞々しさに心が落ち着きかけた直後、指先に軽く噛み付かれ、たちまち耳の裏に這い上がってきた淡い痺れに蘭はこらえきれずしゃがみ込んだ。
 目の端にコナンの眼差しを感じ、弾かれたように顔を向ける。
 すぐ傍にあるのは、誰より知っている強い瞳。
 まっすぐに向かってくる視線を数秒見つめ返し、ついに蘭は顔を寄せた。掴まれた途端意思を失った手に力を込め、そこにキスをしてからコナンに口付ける。
 自分の指をしゃぶりながら交わすキスは奇妙で、それゆえ蘭はいつにもまして激しく求めた。
 コナンが吸うのに合わせて指を動かす。ほんのわずかにだが、彼の口の中を支配しているように思え、頭の芯がかっと熱くなった。
「う……」
 興奮する蘭にコナンもまた自身の昂ぶりを感じていた。舌をくすぐる蘭の指を、飲み込んでしまいたくなる。たまらずに噛み付き、驚いて震える唇を深く貪る。
 息苦しさも構わずに蘭は応えた。けれどこれ以上は指は邪魔と、放り投げるように手を引き、あらためて唇を重ねる。
 身体ごとぶつかってくる勢いを受け止め、コナンは腕を回した。
 同時に蘭も抱き返し、昼食の事など忘れ求め合う。
 コナンは抱きしめた身体を更に強く抱くと、背中や腕を優しく撫でさすった。とめどなく湧いてくる愛しさが少しでも伝わるように、頬へ顎へ鼻先へ接吻を繰り返す。
「あぁ……」
 ついばむような口付けに小さく震えを放ち、蘭は胸を満たす幸福感に深く浸った。
 自然、コナンを抱く手に力がこもる。
 強い支配とはまた違った、言葉のない抱擁に、息も出来ないほどの愛しさを覚える。
 喘ぐように息を継ぎながら、蘭は顔をほころばせた。
 小さな手が前髪を梳き上げ、おでこにママのキスをする。そこから瞼におりる熱い唇に、素直に気持ちいいともらす。
「……気持ちいい?」
 聞きながら、コナンは右手を胸元へと這わせた。
「う、ん……」
 敏感な箇所をさらりと撫でられ、瞬間走る快感に蘭は震えながらぎこちなく頷いた。
 手はまっすぐセーターの裾へと向かい、合間から潜り込んで肌に直接触れてくる。しっとりと汗ばんだ手のひらに、蘭の身体がまた小さく震えた。
「あ…あ……」
 胸を目指しじわじわと這い上がってくる感触が、その先の快感を早くも呼び起こす。たまらずに蘭は幾度も肩を弾ませた。
 戸惑ったように背中をまさぐる蘭の手に笑みを零し、コナンは首筋に吸い付いた。
「あん、ん……」
 しっとりと匂い立つ肌に顔を埋めれば、蘭の口から切なげな吐息がもれ、強い目眩を誘う。
「らん……」
 名を口にして、はっと目を瞬く。今にも自制を見失う我に気付き、コナンは軽く頭を振った。
 けれど、嗚呼……
 このまま溺れてしまうのもいい。
 いつもとさして変わらない。
 あらためて、乳房を手のひらに包む。
「はぅ……」
 布越しの愛撫に、蘭が緩やかな吐息をもらす。
 輪郭を覚え込むように数度周りを撫で上げ、コナンはブラをぐいと捲し上げた。
 蘭の身体が小さく跳ねる。
 嬉しさにコナンは口端を緩ませた。
 セーターの下、手探りでそっと乳房に触れる。乳首は既に硬く尖り、心なしか乳輪もふっくり盛り上がっていた。すくうように大きく揉み上げ、合間にくりくりと乳首をこねる。
「んん…、ん……」
 自在に動く手がたまらないと、蘭はしきりに身をくねらせた。
 もれる声はひたすらに甘い。
 様子を伺うように、コナンはまた唇を重ねた。そのまま、少し荒々しく乳房を揉みしだく。押し上げるように手を動かし、もう一方の手で首筋をついと撫でる。
「あぅっ……はあぁ……!」
 一気に蘭の呼吸は乱れ、飲み込むようにコナンは激しく唇を貪った。
 怯え戸惑う舌に強く吸い付き、かと思えば一転して優しくねぶりあやす。そしてまた、思い出したように荒っぽく舌を転がしては翻弄する。
「蘭……」
 息もつかせぬ口淫にだんだんと頭がかすみ始めた頃、耳にするりと低音がすべり込み、絶妙のタイミングに蘭はじわりと涙を滲ませた。
「……吸ってもいい?」
 乳首を上から下へ、二本の指で優しくさすりながらコナンが唇の上で囁く。
「はっ……」
 唇をかすめる熱い吐息、肌を這うぞくぞくとした喜悦に、腰の奥からどっと熱いものが溢れる。
 急かすように蘭はがくがくと頷いた。セーターを捲り上げる手が、しょうもなくもどかしい。
 露わにされた胸元に息遣いを感じただけで、激しく目が眩んだ。
「あはぁっ…ああぁあ……!」
 唇が触れる寸前から蘭は声を上げ、戸惑ったように眉根を寄せ大きく首を振りたてた。
 急かし、煽る蘭にコナンは噛み付かんばかりの勢いで乳首に吸い付いた。
「くうぅ……!」
 頭上で、一際高い悲鳴がもれる。
 熱いため息を交えながら、コナンはちろちろと舌を動かし乳首を弄った。指と舌で交互に転がし、押し潰し、摘み上げる。
「あっ…、だめ……い、あ、あ……」
 応えて震える様がなんとも小憎らしく、コナンは執拗に小さな突起ばかりを責めた。
「あぁん……あ――あぁあ」
 じんじんと痛むほどの快感が、際限なく蘭を襲う。
 狂ったように嬌声をまき散らしながら、助けを求めてコナンにしがみ付く。
 そうする事でより深く乳房を差し出すことになり、でも離れたくないと、蘭は激しく髪を振り乱し喘いだ。
 熱くぬめる唇とかたい歯の感触に、頭の奥が麻痺していく。
 戯れにコナンは軽く噛み付いて引っ張った。途端に蘭はひっと喉を鳴らし、しなやかに背を反らせた。
 絶えず震える唇からは、とめどなく嬌声が零れ落ちる。
 甘えるような喘ぎ声が幾重にも連なって包み込んでくるようで、軽い目眩の連続にコナンは繰り返し目を瞬かせた。
 もっと声が聞きたいと、膨れ上がる欲求に衝かれるまま、片方の手を下腹へと伸ばす。
 気付いて小さく反応する蘭の脇腹を指先でそっとくすぐり、敏感になった臍の周りで繰り返し小さな円を描く。
「ふ、あぁ……い…いっ……」
 引き攣る喉で、蘭は気持ちいいと綴った。
 小さな手が触れた後の肌はどこも敏感になり、内側で渦巻く愉悦は腰の奥を痛いほどに刺して、腫れ上がったような感覚さえ抱かせる。熱さに腰が抜けそうになる。
「あっ、んぅ……くぅう……」
 はちきれんばかりに膨れ上がった欲望に、とうとうそれとコナンの手が触れる。
 同時に蘭の口から、鼓膜を甘く犯す高い悲鳴が迸った。
「ひゃっ…! あぁ――ああぁ!」
 ショーツの上から熱を帯びた花弁に指を滑らせ、幾度も悲鳴を上げさせる。
 そこはすでにしっとりと濡れそぼり、やけどしそうなほど滾っていた。
 半ば無意識に笑みを浮かべ、コナンはじわじわと指先に力を込めた。
「あ、ん……はぁっ…んん――!」
 焦らし焦らし、ゆっくりと蠢くコナンの手がもどかしい。けれどそれを口に出す事は出来ないと、喘ぎながら蘭は唇をわななかせた。
 こねるように押し揉まれるたび、深奥に疼きは広がり、疼きはその更に奥、快感を知って間もない小さな口にまで響いてくる。
 まさかと、自覚した途端蘭はひどくうろたえた様子で瞳を揺らした。
 蘭の動揺に気付いているのかいないのか、コナンの手は相変わらずゆっくりと動き蘭を煽る。
「ダ……メ」
 白い喉を晒して、蘭は声もなく呟いた。
 けれどあまりに小さな声はコナンに届く事はなく、手はついに下着の奥に潜り込んできた。
「はっ……!」
 どこがより感じるか知り尽くした動きに、ひゅうっと息を飲む。
「ダメ……あぁ……」
 ぶるぶると唇を震わせ、蘭は大きく頭を振った。
 聞かず、コナンはぽってりと腫れぼったく熱を帯びた花弁に二度三度指を這わすと、優しく押し開き、指を一本差し入れた。
「んん――!」
 すでにそこは滴るほどに蜜を含み、触れた途端、ねっとりと指に絡み付いてきた。
「……すごいね」
 嘲笑ともつかぬ声音に、蘭はかっと頬を赤らめた。
 首を振り、震える唇で必死にダメと綴る。
 構わずにコナンは静かに指を押し込んだ。抵抗もなく飲み込まれていく。ならばと指を二本に増やし、強めにぐいと抉る。
「うあぁっ……!」
 途端に蘭の口から鋭い悲鳴が迸る。
 満足げに肩を上下させ、コナンは激しく内奥を突いた。
「ああぁっ……いや! コナン……君……、ダメ……ダメ!」
 前屈みで腰を引き、花唇の奥に埋め込まれた小さな手に縋り付いていやいやと首を振る。
 しっとりと濡れた赤い唇が、しきりにダメと繰り返し呟く。
「ああぁ……」
 コナンは俯いた顎を掴み上向かせると、押し込んだ三本の指で内部を緩慢にかき回しながら訊ねた。
「今日は何がダメ?」
 昂ぶった熱をあおる指に唇をわななかせながら、蘭は喘ぐように言った。
「お、お願い……」
「うん。何がお願い?」
 今にも崩れそうな蘭に優しく聞き返す。
 けれど中々口を開こうとはせず、熱い吐息に肩を上下させるばかり。
 と、見る間に蘭の顔が悲痛に歪み、眦からポロポロと涙を零し始めたのに、コナンは少なからず驚いた。
 気付かずに痛みを与えてしまったかとすぐさま手を止めるが、理由は別にあるようだ。
 離そうとするのを蘭は拒み、どころか掴んだ手に自ら腰を押し付けもっと奥へ届くように力を込める。
 欲しがるのに、何故泣くのだろう。
「ごめんなさい……」
 突然謝られ、面食らう。
 蘭は濡れた睫毛を震わせ目を上げると、何度もためらった末にようやく理由を口にした。
「お――おしりも……、触って……ほしいの」
 切れ切れのかすれた声に、コナンはいつの間にか開いていた口を閉じた。
 噤んだ唇に薄く笑みを浮かべる。
「……前だけじゃ満足できない?」
 更に言葉を引き出そうとする低い声が、蘭の胸を強く穿つ。
「だって…コナン君が……」
 きつく眉根を寄せ、どうしていいかわからないと蘭は目の前の少年を強く見据えた。
「…あっああぁあ――!」
 突如動きを再開した指が、花唇の頂点にある小さな突起をくにゅくにゅと転がす。凄まじい勢いで駆け抜ける強烈な快感に、蘭は仰け反りしとどに鋭い叫びを放った。
 親指で花芽を舐めるように愛撫し、揃えた三本の指で深奥をねじり突き上げながらコナンは言った。
「ごめんね……」
 とろんと潤んだ瞳をまっすぐ見据えれば、蘭もまた涙を流しながら熱っぽく見つめ返し、全身で、欲しいと訴えてくる。
 繰り返し、同時にもたらされた前後への愛撫は身体に深く刻み込まれ、一度覚えてしまった快感は片方への刺激でもう一方を欲するまでになっていた。
 そうして繋がりあった互いが互いを高めあい、どこまでも上り詰めていく。
 そんな貪欲な身体。
「あ、ああぁ……いっ…、い……ひぃっ……コナン君……お願い!」
 放って置かれるのはもう一秒さえも我慢出来ないと、抜き差しを繰り返す指に熱く噛み付く。
 コナンは指の動きを緩めると、薄く笑い口を開いた。
「……蘭姉ちゃん、そこの砂時計取って」
 テーブルの上端の方、調味料と並んで置かれた五分の砂時計を指差す。
 蘭は戸惑いながら頷き、ほぼ目の高さになったテーブルにゆっくりと手を伸ばした。時折手が震えるのは、中にもぐりこんだ指がより敏感な箇所を過ぎるせい。
 おこりのように跳ねてしまう手を懸命に伸ばし、意図も分からぬまま砂時計を引き寄せる。
 コナンは受け取ると、青い砂をわずかに傾け蘭に言った。
「この砂が落ちきるまで声を出すの我慢出来たら、してあげる」
 青い砂粒をはさみ、二人は視線を絡ませた。
 片方は薄く笑みを浮かべ、もう片方は、今にも崩れそうに悲痛な表情を浮かべて。
 まるで対照的な熱はしかし、お互いの胸の内で同じく滾っていた。
「出来る?」
 言葉と同時にコナンは内部の指を軽くねじった。
「っ……!」
 喉の奥で声をこらえ、蘭は小刻みに頷いた。頷いてから、そうまでして欲しがっている自分に気付きはっとなる。
 たちまち込み上げてくる羞恥に顔を伏せ、焼けるように熱い頬を隠す。小さく唇を噛む。
 しかしどんなに恥じても、腰の奥、熱に浮かれた欲望を煽る指によって這い登ってくる疼きを消す事は叶わない。
 愛撫の余韻に浸る乳房の頂点はずきずきと痛み、数え切れないほど受けたキスの甘さが、全身をねっとりと包み込む。
「で、できる……我慢する――から……お願い」
 お願い
 言って、蘭はためらいがちに目を上げた。
 すぐ間近にある、青い光を宿した強い瞳に熱っぽい眼差しを向ける。
 こうして肌を重ねるようになって、幾度お願いを口にしただろう。
 傍目には異常とも映る年齢差さえ、今の自分には興奮剤になってしまう。
 ただ見つめられるだけで肌が痛いほどざわめいて、何も考えられなくなっていく。
「お願い……、コナン……君」
 震える唇で必死に囁き、突き入れた指に腰をこすり付けてくる蘭にコナンは笑みを深めた。頬に残る涙の跡を優しく指先でぬぐってやり、そっと口付ける。
 静かに離れる少年にかすかに目を細め、蘭は、焦がれるような沈黙の中返事を待った。
「じゃあ……始めるよ」
 子供に相応しからぬ強い貌にぶるりと震えを放つ。
 それからおずおずと、蘭は頷いた。

 

 

 

 キッチンの流しの前にしゃがみ、十も歳の離れた少年をきつく抱きしめた格好で、蘭はしきりに吐息を噛み殺していた。
 不規則にしゃくり上げる息遣いに混じって、粘ついた水音が響く。
「自分の音……どんな感じ?」
 しがみ付き、必死に何かをやり過ごそうと耐えている蘭の耳元でコナンが問う。
 囁きが触れるのも辛いのか、耳朶から伝わる疼きに蘭の全身が大きく震えを放った。
「ねえ…蘭姉ちゃん」
 肩口に熱いため息を吐くばかりの蘭に微かに口元を緩め、コナンは言葉を重ねた。同時に、彼女の下肢にある手を二度…三度…弾みをつけて突き上げる。
 がくんと頭を揺らし、蘭は叫ぶ形に口を開いた。寸でのところで息を飲み背筋を駆け抜けた強い愉悦をやり過ごす。二度目は歯を食いしばり、三度目は口を押さえ、今にももれそうになる声を懸命になって飲み込む。
 声が出せない辛さは、想像にそう遠くない。始める前から、きっと後悔すると予測はしていた。それでも約束を交わしたのは……何も考えられなくなるまで追い詰めて、苛めて欲しい浅ましい願いがあったからだ。
 言葉のない優しい抱擁が好き
 息もできなくなるくらいの強い支配が好き
 彼がくれる全てが好き
「っ――!」
 今にも泣きそうに眉根を寄せ、それでも蘭は必死に約束を守って声を殺し続けた。抑えきれない分は自分の手に噛み付き、痛みで紛らせる。
 やがて、続け様に内部をこねられたせいか、少しずつではあるが力を抜くコツが見え始めてきた。
 気を抜けば声を出しそうになるが、今のままなら、あの砂が落ちきるまで我慢できる。
 目の端にある砂時計を見据え、蘭は祈るように目を瞑った。
 このまま、五分我慢すればいい……
 それこそが、コナンの狙いだった。
 彼女にそう思わせる為に、わざと単調な動きを繰り返していたのだ。
 ちらりと砂時計を見やり、強い顔で目を閉じた蘭に薄く笑みを浮かべる。
 残りの砂は、あと半分。
 頃合だと、コナンは背中に添えていただけだった左手を蘭の胸元へ伸ばした。手のひらで乳首を転がしながらゆるゆると揉みしだく。
 それと同時に親指で花芽をゆるく押し潰し、そのままくにゅくにゅと左右にこねる。
 続け様二箇所を責められ、互いが繋がったようにどちらもが強く反応した。
 強烈な電流を浴びたごとく蘭の身体は跳ね、今にも悲鳴を上げそうに喉を震わす。
 呼応してきつい収縮を繰り返す内部にコナンは笑みを深め、更に煽るように一際強く突き上げる。
「…っ……!」
 またも悲鳴が零れそうになるのを、蘭は寸でのところで飲み込んだ。微かにもれるうめきに、身体の震えが止まらない。
 ひっひっと、切れ切れに喉を鳴らし喘ぐ。
 敏感な箇所を続け様に責められ、もう呼吸もままならなかった。
 とどめとばかりに、コナンは耳元に口を寄せた。長い髪からのぞく形よい耳朶に軽く噛み付き、吐息と共に「らん」と囁く。
「……好きだよ」
 交わした約束を崩す為の切り札としてではなく、心にあるままの形で、繰り返す。
 蘭の震えが、ぴたりと止まった。
「好きだ……らん」
 今にも消え入りそうに小声なのは、少なからず照れがあるせい。
 どんな間抜け面をしているだろうと、妙に冷静な部分は頭の隅に追いやり、コナンは何度も「好きだ」と囁いた。
「……好きだ」
 繰り返し繰り返し、耳元で甘く囁く低音はやがて、蘭の記憶の中にある新一のそれと重なっていく。
「らん……好きだ――蘭」
 強い衝動を抑え切れず、ついに蘭は声を上げた。
「私も好き……!」
 新一
 最後は胸の内に響かせて目の前の小さな身体を強くいだき、約束も忘れ張り叫ぶ。
 それがきっかけとなり、今まで耐えていた欲求が一気に弾ける。
 頭の奥に走る強い衝撃。
 瞬く間に極みへと持ち上げられる。
「ああぁあ――!」
 受け止め切れない絶頂の歓びに大きく仰のき、蘭は全身を引き攣らせながら絶頂を迎えた。
 奥で凝っていた滾りがどっと溢れ出す。
 忙しない息遣いと不規則な痙攣を繰り返す身体をしっかり抱き止め、コナンはしばらくそのままでいた。
 やがて全身の力が緩んだ頃合いに、そっと指を引き抜く。
 しばらく沈黙が続き、やがて。
「あ……わたし」
 冷静さを取り戻したのか、それまでのきつい抱擁を解きながら、蘭がおどおどと口を開いた。
 乱れた衣服を左手で直してやりながら、コナンは静かに言った。
「……我慢できなかったから、これでおしまいね」
 コナンの見やる砂時計に同じく目を向け、蘭は小さく唇を噛んだ。
 見つめる先で、最後の砂の一粒が音もなく落ちる。
 俯き、小さく頷く。浅ましい自分が心底恨めしい。
 我慢の末に迎えた絶頂は一度で慰めきれるものではなく、乗り越えればお尻を触ってもらえる…期待もあって、疼きはより強くなっていた。
 けれど約束は約束だ。抑え切れない欲求を必死に隠し、唇を引き結ぶ。
 沈む彼女の顎をとらえ上向かせると、コナンはふと笑みを浮かべた。
「どうしても欲しいなら……」
 手を取り、下腹に導きながら言葉を続ける。
「こっちは自分で弄って。そうしたら、お尻を触ってあげる」
 どうする?
 問い掛ける強い眼差しに、蘭は手を伸ばした。
 コナンの笑みが深まる。
 見た目に相応しからぬ嗜虐的な微笑が、奥の方でくすぶる疼きを一気に燃え上がらせる。
 蘭は水の中でもがくように息を吸った。
「今度は、思い切り声を出していいよ」
 その先は二人だけの秘め事のように声をひそめ、耳元で囁く。
 たくさん声を聞かせて
 蘭はぎゅっと目を瞑ると、膝立ちになり、繰り返し耳の奥で響く低音に深く浸った。
「う……」
 伸ばしかけた右手をびくびくと動かし、まだ余韻の残るそこに触れる。まるで粗相した後のようにぐっしょりとぬれそぼった内股にかっと頬を赤らめ、一旦手を止める。それからゆっくり、蘭は奥へとすすめた。
 と、セーターの上から胸をまさぐられ、蘭は過剰に身を跳ねさせた。
「……胸は、いいの?」
 見つめる先の試すような視線に、束の間の沈黙の後、首を振る。
「じゃあ触って」
 コナンは裾を捲し上げると、戸惑う蘭の手をそこに導いた。
 蘭は寸前で手を止め、小さく喘いだ。
「さ……触っても……いい?」
「……まだ、きらい?」
 いつかの言葉を思い出しコナンはそっと問い掛けるが、蘭は答えず、おどおどと目を伏せた。肯定とは違うようだが、ならば理由が分からない。
 束の間沈黙が続き、やがて蘭は口を開いた。
「っ…わたし……嫌いに――ならないで」
「!…ならないよ」
 不安をぶつけてくる蘭にコナンはきっぱりと応えた。
 ようやく納得する。
 笑みを向け、誓いの証に乳房を包む手の甲にそっと接吻する。
「あ……」
 じわりと広がるぬくもりが、蘭の頬に笑みとなって浮かぶ。
 こくりと頷き、蘭は添えていただけだった手を動かし始めた。
 今か今かと待ち構えていた身体は少しの刺激で瞬く間に燃え上がり、それにつれて自然と手の動きも早まっていく。
 左手で乳房を、右手で内と外を自ら慰め、もっと欲しいとばかりに蘭は身をくねらせた。
 目の前で妖しく揺らめく肢体に煽られるまま、コナンは奥へと右手を潜り込ませた。
 滑らかに蠢く蘭の右手に口付けながら、手探りで小さな口を目指す。ほどなくたどりついたそこは、触れた途端きゅっと縮こまり、別の場所で小さく悲鳴を上げた。
「力抜いて……」
 なだめるように唇で右手をくすぐり、ゆっくりと指先を埋めていく。
「あ、ん……あ、あ、あっ……」
 反射的に逃げてしまう腰を追って、焦る事無くコナンは指を進めた。一気に入れてしまわず、半ばまで埋め、軽く引いて、また押し込む。
 少しずつ迫り上がってくる細い異物が、蘭の背中を甘く痺れさせる。
「あ…あっ……い、い……あ――ごめんなさい……」
 付き纏う罪悪感から、蘭は謝罪の言葉を零した。
「もうごめんなさいは良いよ」
 肩口にちゅっと吸い付き、コナンが返す。
 素直に感じて良いと、優しく包む囁きに、蘭はひくと喉を震わせた。
 と、緩やかな侵入を果たしたコナンの指が、ある一点を集中してこすり上げてきた。
「ん、はああぁぁっ…あぁ……!」
 腰が抜けそうな愉悦に、蘭は緩慢に身悶えた。
「これ、蘭姉ちゃんの指でしょ」
 薄い肉襞の向こうにある女の指を探り当て、ぐりぐりとこねる。
「あ…ふぅっ……、そう――そう……」
 がくがくと頷き、蘭も指を動かした。
「ひっ……ああぁ――あああぁあ!」
 互いの指が前と後ろでこすれ合い、瞬く間に広がるとろけんばかりの悦楽に蘭はかすれた悲鳴を迸らせた。
「いい…いいの……ああぁ……い、い……」
 陶酔しきった様子で繰り返し喘ぐ様が、目を釘付けにする。
 たまらずにコナンは顔を寄せ、緩んだ唇に深く口付けた。熱い吐息を交えながら舌を絡ませ、強く吸う。
「ああぁん、ん……」
 たちまちもれる切なげなため息が、腰の奥で大きく弾ける。
 コナンは無我夢中でキスを続けた。
 同時に潜り込ませた手で彼女の深奥を激しく突き、とめどなく悲鳴を紡がせては飲み込む。
「いや…んんっ……ん! あぁん! …あっ、や……あああぁ!」
 きつく眉根を寄せ、何かを耐える官能的な表情で蘭は応えた。
「もっと……、もっと奥まで…入れて……お願い――もっと……!」
 我を忘れ、しきりに卑語を口走る。
 普段からは想像もつかない姿に息も出来ない。
 低くうめき、コナンは二本に増やした指で抽送を続けた。
 次第に蘭の声が、切迫したものに変わっていく。
「熱い……中が熱いの…あ、熱い……あぁ、あ、あっ……ああぁ――!」
 しきりに熱いと訴え、「気持ちいい」「好き」と繰り返す。
 やがて喘ぐ合間に零れる言葉はたった一言…「新一」のみになり、ひたすらに名を呼ぶだけの彼女に深い愛しさを覚える。
 抱き合った肌は互いの熱でしっとり濡れ、重なり合う鼓動が、まるで一つになったような錯覚を抱かせる。
 彼女と共に上り詰める今、それは更に強まっていく。
「新一……あぁ…しん…いち……」
 与える愛撫は自分にも響き、彼女の味わう快感は、自分のものでもある。
「らん……蘭――!」
 耳朶をくすぐる蘭の熱い吐息に、新一は無我夢中で名を呼んだ。
 とめどなく零れ落ちる低い声が、蘭の頬に触れ笑みと変わる。
 直後、激しい衝撃が脳天を直撃した。
「!…」
 目も眩む白さに、二人、声もなく絶叫する。

 

 

 

 ようやく波が引いた後も、二人は抱き合ったままでいた。少し窮屈ではあったが、それ以上に、お互いの鼓動を聞いていたいと離れられずにいた。
 激しく交わすのとはまた違った、心安らぐ至福のひと時。
 そんな穏やかな静寂を壊す音が一つ。
 どちらかの腹が、ぐうと鳴ったのだ。
 抱き合う腕が、不自然に強張る。
「……コナン君」
 コナンの肩の上で蘭が言った。
「蘭姉ちゃんだよ」
 負けじとコナンも蘭の肩の上で言い返す。
「いーえ、コナン君よ」
「いや、蘭姉ちゃんだね」
 互いに一歩も譲らず押し付け合い、どうしてくれようと焦れる静寂を破って、またどちらかの腹がぐうと音を立てた。
 一拍置いて、同時に笑い合う。
「遅くなっちゃったけど、お昼にしようか」
「うん」
 大きく頷き、二人は手を取り立ち上がった。
 どちらからともなく顔を見合わせ、また声を上げて笑う。

 

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