支配と…

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、コナン君……」
 蘭の声に、コナンは読んでいた漫画雑誌から目を上げた。見ると、少しためらうように目を伏せて、蘭がキッチンとリビングの境に立っていた。
「なぁに? 蘭姉ちゃん」
 心なしか潤んで見える蘭の瞳に、十中八九の予測を無邪気な子供の仮面…屈託のない笑顔で隠し、コナンは応えた。

 

 

 

 

 

 とある簡易調査の帰り、駅前で知り合いにばったり出会い、そのまま飲みに出かけてしまった為、今日は小五郎のいない蘭とコナン二人だけの夕食となった。
 食後、空いた食器を運ぶ手伝いをし、その後コナンはリビングに戻り、読みかけの漫画雑誌を手に取った。
 蘭は、いつものように部屋着の上にエプロンをつけ、後片付けに取り掛かった。
 つけたままのテレビからニュースを、キッチンから食器を洗い流す音を、それぞれぼんやりと耳にしながら、コナンは適当に雑誌を読み進めた。やがて、背後の水音が止み、いつもならすぐにリビングにやってくるはずの蘭がなかなかこちらに来ないのを、もしやと内心ほくそえみながらコナンは様子を伺っていた。
 しばらくして、心を決めたのか、迷いながら近づいてくる足音がかすかに耳に届いた。

「ねえ、コナン君……」
「なあに? 蘭姉ちゃん」

 呼びかけた後、蘭はなかなか口を開かなかった。
 その理由を、コナンはとっくに見抜いていた。しかし自分からは決してその事には触れず、相手が言い出すまで、笑顔のまま蘭を見上げていた。
 やがて沈黙に耐え切れなくなったのか、蘭は前に組んでいた手をぎこちなく動かしながら、途切れ途切れに言った。
「今日、お父さん…遅くなるって、言ってたよね……」
「うん」
 即座に返され、蘭はそこでまた一旦口を噤んだ。
 言いたいのに言えない、恥ずかしくて口に出来ない、全身でそう訴える蘭に、内心仕方ないかと軽く肩を竦め、コナンは誘導を始めた。膝から雑誌をのけ立ち上がり、蘭の元へ近付く。
 近づいてくる少年に一瞬ぎくりと肩を強張らせ、蘭は何か伝いたげにせわしなく視線をさまよわせた。
「蘭姉ちゃん、顔が赤いよ。どこか具合でも悪いの?」
 間近で蘭を見上げ、白々しくたずねる。
「え、ううん。そうじゃないの……」
 慌てて否定するも、理由を言えず、蘭はまた口を噤んだ。身体中がどうしようもなく熱い。顔はもうとっくに、真っ赤になっていることだろう…
 そんな蘭をじわじわと追い詰めるべく、コナンは少しずつ『無邪気な子供の仮面』をずらしていった。
「じゃあ、目が潤んでいるのは……どうして?」
 最後の一言をあえて低く発し、薄く笑みを浮かべる。
新一と同じ青い瞳で鋭く射抜かれ、蘭は観念したように言葉を紡いだ。
「この前の……が…忘れられないの……だから――」
「だから?」
 言葉尻を捕らえ聞き返す。
「……また…してほしい…の」
 お父さん…今日は遅いし……
 喉でつかえる言葉をどうにか紡ぎ出し、蘭は恐る恐るコナンを見やった。
 見た目にそぐわぬ強い眼差しに、身の竦む思いを味わう。瞬間恐怖が背筋を駆け抜けたが、そのすぐ後にやってきた痺れるような陶酔感に、全身がとろけそうになった。胸のふくらみの頂点が、痛いほど張り詰める。そんなはしたない自身を内心諌めるも、どこかでは酔っていた。
「また、してほしいの? この前みたいに」
 静かに耳に届く低音に、蘭は熱に浮かされた病人のようにぼうっと瞳を潤ませ、ゆっくり頷いた。声に含まれた蔑みの響きすら、今はどうしてかひどく心地いい。
「……この前はあんなに嫌がっていたのに…ああでも、最後の方はすごく欲しがってたっけ」
 ゆるく口端を持ち上げ、コナンは静かに言った。
「自分から、足を開いてたくらいだしね」
 目の前に並べ立てられる過日の出来事に、蘭は恥じ入って顔を伏せた。そうしても、コナンから表情を隠すことは出来なかった。下を向けば、必然的にコナンと目を合わせることになるのだから。
 まっすぐ見上げる何かを含んだ視線に、蘭はやや遅れて目を合わせた。
「意地悪…言わないで……お願い」
 今にも泣きそうに、赤い頬で、呟く。目が合うごとに、身体の芯が熱く疼いてどうしようもない…
「いいよ。他ならぬ蘭姉ちゃんの頼みだものね。何でも…してあげるよ」
 いっそ残酷なほど優しい笑みを浮かべ、コナンは囁いた。

 

 

 

 部屋の扉を閉め、コナンはゆっくりと振り返った。
 部屋の中央、ベッドの脇には、顔を真っ赤に染め俯いた蘭が所在なさげに立ち尽くしている。
 しばらくの間、コナンはその場から動かず蘭をじっと見つめ続けた。
「っ………」
 一つ、しゃくり上げるように蘭が肩を上下させる。
 沈黙に耐えかねてか、前に組んだ手をしきりに撫でさすり、何か言いたげに口を開いてはまた閉じる。
 見れば、足の重心を右に左に移し、そのわずかな動作で膝をこすり合わせてはもじもじと、身じろぎを繰り返していた。
 コナンは密かに笑みを零すと、一歩ずつ蘭に歩み寄った。充分手が届く距離で足を止め、蘭姉ちゃん、と呼びかける。
「服、脱いで。ゆっくり」
 背筋にぞくりと響く低い声音に、蘭は小刻みな震えを放った。コナンの口元に浮かぶ薄い笑みから、目が離せない。こくりと頷き、ブラウスのボタンに手を伸ばす。
 強張った指先で一つまた一つとボタンを外し、それに合わせて露わになっていく肌を、コナンの目に晒す事に、頬がますます熱くなる。
 自分からおねだりした事、この先に待ち受けるものを思うと、それだけで身体の芯が疼き、どうにも止められない欲望に今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。
 それでも、ああ、とめどなく湧き上がってくるどろりとした、何もわからなくなるくらいの欲求に支配されたくて、最後のボタンを外す。
 蘭はためらいがちにブラウスを脱ぐと、足元に落とした。恐々、タイトスカートのホックに指をかけファスナーを外し、すとんと落ちたスカートを跨いで脱ぎ、下着姿になる。
 綺麗なレースの縁取りがされた白のブラジャーと、対になった白の小さなショーツ。
 身につけているのは、それだけになった。
 相変わらず、正面のコナンは笑みを崩さず、だまって見つめていた。
 服を脱げと言う事は、下着も含めてだというのは分かっていたが、どうしても抵抗があった。
 周りの女子は、胸が大きいのをしきりに羨ましがっていたが、正直自分は疎ましく思っていた。
 もちろん、ある程度のふくらみは欲しい。けれど、必要以上に目を引く大きすぎる乳房は、恥ずかしさ以外のなんでもなかった。
 わがままなのは充分承知している。
 それでも、恥ずかしくてたまらないのだ。
 だから、本来着けるべき大きさのものより下のカップを選び、無理やりに胸を押し込めていた。
 必要以上に目立たないように。
 窮屈そうに収まった自身の乳房にちらりと目をやり、蘭はコナンをかすめ見た。
 一度…いやもう何度も、彼には素肌を晒している。
 今更隠しても、手遅れなのだ。
「……蘭姉ちゃん」
 急かすでもなく、コナンが静かに呼びかけた。
 一瞬びくりと肩を震わせ、蘭はこくりと頷いた。密かなコンプレックスを飲み込み、背中に手を回す。
 ゆっくりとホックを外した。
 締め付けから解放された二つの乳房が、ふるりと零れる。張りのある、たっぷりとした白い果実の頂点には、薄く色付いた桜色の突起がつんと上を向き存在を主張していた。
 ふっともれたコナンの笑みに、蘭はきゅっと唇を結んだ。笑われた事でより一層、身体の表面がぞくぞくと沸き立った。それにつれて乳首が痛いほど疼き、下腹がどくんと脈打った。

 きっと、もう濡れてる……

 スカートを脱ぐ時に気付いたぬるりとした感触が、思考を更に淫らにさせた。そして今また新たに透明な何かが増した事に、耳の後ろまでがぞわりとざわめいた。
 コナンが一歩前に出る。
 間近で、それこそ匂いすら届く距離にまで近付いたコナンに、蘭は全身を強張らせた。

 ――動かないで

 ――早く触って

 相反する願いがぐるぐると渦巻き、満足に息もできない。
 触るなら、早く触って……
 言葉に出来ない分視線で訴え、蘭はじっとコナンを見下ろしていた。
「どうしたの、蘭姉ちゃん。そんなに怖い顔して」
 とっくに気付いていながらも分からぬ振りで意地悪く問い掛け、コナンはぴんと立てた人差し指で蘭の下腹…ヘソから幾分下がった一点に触れた。
「ん……」
 反射的に身体がびくんと弾む。
 熱く吐息をもらし、蘭は瞬間的に両足に力を込めた。
 構わずコナンは、ショーツ越しに突起を刺激した。
「あ、ぁ…」
 ぽってりと熱い花弁の割れ目に沿って指を動かされる度、ぞくぞくするような強烈な刺激に見舞われ、蘭はびくびくと身悶えながら甘い声を零した。
「……濡れてる」
 どうしてももれてしまう自分の声が恥ずかしくて、唇を噛んで必死に耐えていたその時、囁くようなコナンの声に蘭ははっと息を飲んだ。
 嘲るような声音に目の奥が潤んだ。

 言わないで……

 心の中で必死に懇願し、けれど本当は欲しがって、どうしていいかわからず蘭は顔を背けた。
 なぞるだけだったのがやがてくにゅくにゅとこねる動きに代わり、円を描いて蠢くコナンの人差し指に、蘭は息を乱れさせた。
「これだけで、そんなに気持ち良いの?」
 指を動かしながら、コナンは意地悪く問い掛けた。
 まだ直接触ってもいないのに。
「気持ち…いい」
 目の端に涙を潤ませ、蘭は囁くような声で答えた。
「そう。良かったね、蘭姉ちゃん」
 無邪気に言って、コナンはショーツ越しに小さな突起を軽く摘んだ。
「んんっ!」
 突然の強い刺激に、びくんと全身が弾む。背筋を駆け抜け脳天を直撃した快感に、蘭は咄嗟にコナンの手を掴んだ。
「……やめる?」
 ゆっくり綴られる言葉に、蘭は即座に首を振った。
「して…もっと……お願い……」
 喘ぐように言って、恐る恐るコナンを見やる。普段のあどけなさはすっかりなりを潜め、代わりに浮かぶ嗜虐的な表情に、目が眩んだ。

 もっと支配して……

「……いいよ。下も脱いで、ベッドに横になって」
 蘭はこくりと頷くと、ショーツを脱ぎ去った。
 匂いたつような、柔らかい女の稜線がくっきりと浮かび上がる。
 目の高さが同じだった頃とはまったく違う、低い視点からの眺めに、コナンは一瞬目を眩ませた。もうすでに隅々まで知り尽くしているというのに、あらためて目にするそれに、圧倒される。
 軽く瞬いて、コナンは持っていた四つ折のバスタオルをベッドに敷いた。その上に腰が乗るよう蘭を促し、自分もベッドに乗り上げると、耳元に手をつき見下ろして言った。
「最初は、自分でしてみせて」
 蘭の目を見据え笑みを浮かべたまま、左手を伸ばし、そっと乳房に触れる。
「好きな人に触られてると思いながら、自分でしてみせてよ」
 小さな手に余るたっぷりとした白いふくらみを優しく揉みながら、コナンは付け加えた。
「蘭姉ちゃんの好きな人って、誰?」
「……新一」
 まっすぐ見下ろす少年の瞳を熱っぽく見つめ返し、蘭は返した。
 偽りの姿を透かしてまっすぐ自分を見つめてくる蘭に、コナンはそれまでとは違う色の笑みを浮かべた。
「そう、じゃあ、新一兄ちゃんに触られてると思って……始めて」
 そう言ってコナンは、蘭の手を取った。
「う、ん……」
 蘭は戸惑いながら、左手を胸に、右手を下腹に伸ばした。
 始めはぎこちなく双方の上を動いていただけだったが、身体はとっくに高まっていたせいで、少しすると蘭の手は的確に、貪欲に快感を求め出した。
「ん、あ……」
 二本の指で右の乳首を摘み、くりくりと捏ね回し押し潰して、時折手のひらで揉みしだく。その時に手のひらが突起の先端をかすめ、それが気持ちよくて蘭は何度もその行為を繰り返した。
「ふ…うっ……」
 足の付け根に添えた手をぎこちなく動かしながら、蘭は、楽しそうに自分を眺める眼差しに恐る恐る目をやった。その途端、また新たに熱い蜜が溢れて、ただ添えているだけの手指にはっきりと触れた。
 にちゃ…
「んん……!」
 思いのほか大きく耳に届いた水音をかきけすように声を上げ、蘭はコナンから顔を背けた。赤い頬を更に熱くさせ、徐々に指を滑らせる。
 くにゅくにゅと中指で刺激し、更に奥を目指す。
 次第に滑らかになっていく動きに合わせて膝が立ちあがり、見せ付けるように、開かれていく。
 コナンはその膝にそっと抱き付くと、眼下で繰り広げられる手淫に口端を持ち上げた。
「新一兄ちゃんの指は、気持ち良い?」
 新一の名に、蘭の手が一瞬反応を見せる。
「うん…気持ち…良いよ……」
 恥じらいながらもこたえ、それがきっかけとなり蘭は更に激しく指を動かした。
 花弁の縁を撫ぜていた指を中に埋め、奥へ奥へと進める。
「あっ、あぁあ……」
 抜き差しを繰り返す指は溢れた蜜によっててらてらと光り、いやらしく蠢いていた。
「いい…いいの……」
 やがて指は二本に増え、時折内部を抉るように動いてはにちゃにちゃと淫らな音を立てた。
「気持ち…いい……」
 胸をまさぐりながら、蘭は熱い吐息を零した。くねくねと腰を揺すりたて、素直に快楽にふける。
 もっと欲しいとばかりに、蘭は下腹の突起をこすり上げた。瞬間、強烈な快感が目の奥で閃く。自然と持ち上がった腰をがくがくと震わせ、動かす指に合わせて身悶える。
「ああぁぁぁ……!」
 気持ちいい……
 聞かれて答えた自分の言葉を、今更ながら頭の中で反芻する。とてつもない恥ずかしさが込み上げてきて、でもそれが気持ちよくて、もっとはしたない言葉を今にも口走ってしまいそうになる。
「コ、コナン君……」
 ハァハァと胸を喘がせながら、膝に抱き付く少年に声で縋る。
 コナンは振り返ると、快楽にとろけた蘭の表情にふっと笑みを浮かべた。
「そんなに、気持ち良いんだ。新一兄ちゃんの指」
「うん……うん」
 大きく頷き、蘭は鼻にかかった甘い声を漏らした。
 その合間を縫って、ぬちゅにちゅといやらしい音が二人の耳に届く。
「ふうぅ……」
 指の動きが更に早まる。
 いきそうになっているのを見てとり、コナンは口を開いた。
「良かったね。でも――」
 素早く蘭の両手を掴み、強引に身体から離させる。
「あ……!」
 突然の中断に、蘭は短く声を上げた。
「ずっと続けてると、疲れちゃうでしょ。一旦休憩にしよう」
 驚き見上げる蘭の瞳をじっと見下ろし、コナンは無邪気な声で言った。
 驚きはすぐに、不満そうな色に変わり、薄く笑って意地悪く見下ろす瞳に無言の抗議を告げる。
「ね、え…コナン君……」
 もぞもぞと腰をくねらせながら、蘭は途切れ途切れに言った。掴まれた手を振りほどこうとするが、思いのほか力は強く、たった今まで自慰に溺れていた身体では抵抗は無駄に等しかった。
「なあに? 蘭姉ちゃん」
 がっちりと掴んで動きを封じたまま、コナンはにやりと笑った。
「どうかしたの?」
 眼鏡越しに見える新一の瞳に、蘭は恥じ入るように目を逸らした。
「いや…お願い、だから……」
 今にも消え入りそうな声で囁き、蘭は恐る恐る目を上げた。
 目が合うのを待っていたかのように、コナンは掴んでいた蘭の右手にゆっくり顔を近付けると、濡れている指を舌先で舐めた。
「やっ……!」
 咄嗟に目を瞑り、蘭は悲鳴まじりの声を上げた。
 構わずに、指の付け根から先端までをねっとりと弄り、舌を這わせる。
「やめてぇ…はあぁ……!」
 小さな舌が這う度に背筋がぞわりと疼き、たまらずに蘭は嬌声をもらした。
「コ、コナン君……いやぁ」
 やろうと思えば力ずくで振りほどく事も出来たが、口で言うのとは正反対の欲求が蘭を支配しているせいで、虚しく言葉を繰り返すしかなかった。
 嫌と言って拒む自分を、もっと苛めて欲しい…
 自分でもぞっとするような欲望は、思いのほか心地好かった。身体のほとんどをコナンに預け、蘭は口ばかりの抵抗を繰り返した。その内に、段々と意識がぼんやりしだして、自分が何を口走っているのかわからなくなっていく。
「お願い…やめ、て……あぁ……、新一――」
 そのせいで、たとえ二人きりの時でも呼んではいけない名を口にしてしまった。
 途端にコナンは動きを止め、蘭の手から顔を離すと、少しぼやけた視線を絡め取りゆっくりと笑みを浮かべた。
「あ、あ……私……」
 ようやく気付いたのか、蘭は眉根を寄せコナンを見つめた。ぞっとするほど、優しい笑み……
 と、コナンは両手を掴んだまま、蘭の乳房に顔を寄せ片方ずつに口付けた。左よりも感じやすい右の乳首を舌で転がし、すくい取るように舐めては強く吸う。
「ん、んふ……あぁ……」
 その一つひとつに蘭は吐息で応え、甘く喘いだ。
 そうして充分弛緩した頃を見計らい、コナンは乳首に歯を立てた。そのまま徐々に、力を込めていく。
「あ――いやっ……!」
 鋭い悲鳴が蘭の口から漏れると同時に力を抜き、一転して優しく舐め上げる。
「あ、ん……」
 痛みの後の優しい愛撫は、より強烈な快感を伴って蘭を包み込んだ。じわりと広がる刺激に、全身が淡く痺れる。
 やがてコナンは口を離すと、ゆっくり言った。
「蘭姉ちゃん、ボクは新一兄ちゃんじゃないよ」
 半ば予測のついていた言葉に、蘭は何度もごめんなさいと謝った。
 コナンはふっと笑うと、ようやく両手を解放した。形良い蘭の唇を親指でなぞりながら、付け加える。
「今度ボクの事新一って呼んだら、お仕置きだよ」
 撫でさする親指に目をやり、次いでコナンを見上げ、蘭は頷いた。
「……ごめんなさい」
「いいよ。許してあげる」
 不穏な光りを瞳に宿し、コナンは囁いた。蘭と目を見合わせたまま下腹に手を伸ばし、欲しがってヒクつく花弁にそっと触れた。
「あん!」
 半ばで中断された刺激を不意に与えられ、蘭は高い悲鳴を上げて身体を弾ませた。
「すごいや蘭姉ちゃん。まるでお漏らししたみたいだね」
 コナンは言いながら三本の指でぐちゅぐちゅと秘部をいじくり、びっくりした顔をしてみせる。
「いや、あ…ああぁ……」
「凄い音。ほら、わかる?」
 わざと音を立てて弄り、真っ赤になってシーツに顔を埋める蘭にくすくすと笑いをもらす。
「いやっ…そんな……言わないでぇ……」
 かすれた声で返し、蘭は熱いため息をもらした。
 口では嫌と言いながら腰を突き出してくる蘭に笑みを深め、コナンは三本の指をまとめて花弁の奥へ埋め込んだ。
「あん…あああぁぁ!」
 間髪入れずに三本の指をそれぞれに動かし、熱く滾る内部をかき回す。
「はぁん…あぁっ……んふぅ……!」
 とろけるように甘い声をしとどにもらし、蘭は激しく身悶えた。シーツにこすりつけるようにして腰を蠢かし、もっと欲しいと全身でねだる。
 それにつれて揺れる乳房に、コナンは再び顔を寄せた。指の動きは止めずに乳首を口に含み、更に蘭を鳴かせようと舌先を動かす。もう片方の乳房も手のひらで揉みしだき、柔らかな弾力を楽しむ。
「く、ふぅ……いい、いいの……!」
 一際高い声を迸らせ、蘭はびくびくと身体を跳ねさせた。頭の中が真っ白になるような強烈な痺れに、なにもわからなくなる。
「だめっ……あぁあ……いっちゃう……――!」
 恥じらいながらも零れた言葉に、コナンは指の動きを早め蘭を高みへと誘った。
 なにもわからなくなる……
「新一……しんいちぃ……――」
 頂点の寸前、蘭は悲鳴混じりに新一の名を口にした。凄まじい勢いで駆け抜ける絶頂の快感に、自然と涙が零れる。
「ああぁ……」
 コナンの指をくわえ込んだまま、蘭は内股をきつく締め付けた。
 折れんばかりの内部の収縮に、コナンは根元まで指をねじ込み、とどめとばかりに突き上げた。
「っ………!」
 最後は声も出せず、蘭は全身を突っ張らせてその瞬間を味わった。
「はんっ……!」
 しかし余韻に浸る間もなく再び動き始めた指に、蘭は鋭い悲鳴を上げた。
「コ、コナン君……待って……あっ!」
 直後の敏感になった身体に、コナンは容赦なく刺激を与えた。
「ダメだよ、蘭姉ちゃん」
「ど、どうし……ああぁぁぁん」
 まだ締め付けのほどけない内部を強めに抉られ、親指で小さな突起を転がされて、再び高みへと持ち上げられる。
「言ったでしょ。今度ボクの事新一って呼んだら、お仕置きだって」
「あ、あれは……あん…ご、ごめんなさ……」
「今更謝っても、もう遅いよ」
 コナンは乳房に這わせていた手で蘭の膝を掴み、強引に開かせると、下腹に顔を寄せた。
「ちゃんと足を開いて」
 わずかな抵抗を見せる蘭に言いつけ、ヒクヒクと収縮を繰り返すそこに顔を埋める。
「いや、いやぁ……だめ、ぇ……」
 熱い吐息のすぐ後に、ねっとりと湿った柔らかい舌が触れてきて、脳天を痺れさせる強烈な快感に蘭は大きく仰け反った。いやいやと首を振りたて、何度もやめてと懇願する。
「おねが、い……コナン……君」
 しかしコナンは聞き入れず、突き入れた三本の指で徐々に緩んできた内部を激しく愛撫しながら、ぷっくりと立ち上がった突起を舌先でつついた。
「んん――!」
 それだけで、呆気なく蘭は二度目の頂点を迎えた。
 またも締め付ける内壁に逆らってコナンは突き上げを繰り返し、尚も蘭を鳴かせた。
「いや……だめ……だめなのぉ……」
 涙まじりに訴え、蘭は胸を喘がせた。
 頭が変になる……
「…おかしくなっちゃう……」
 ポロポロと涙を零しながら上ずった声でもらす。
「いいよ、蘭姉ちゃん。もっとおかしくなって」
 言うなり、激しく音を立てて花弁に吸い付き、口中に含んだ突起を舌で優しく転がす。
「ああぁ――ああ……、いいっ…すごく……気持ちいいよ、ぉ……」
 蘭は我を忘れて泣き叫び、コナンの顔に押し付けるようにして腰をくねらせた。
「あぁっ……いく、ぅ……いく……またいっちゃうの……」
 鼻にかかった甘えた声で繰り返し、自ら乳房をまさぐる。下腹から聞こえるぐちゅぐちゅという音に更に狂わされ、果ててはまた貪欲に高みを目指して蘭は喘いだ。
 気が付くと、目の前にコナンの顔があった。それまでの意地の悪い嘲笑とは違う、慈しむような眼差しに、蘭は顔をほころばせた。
「あぁ……」
 快楽に溺れ潤んだ瞳で見つめ返し、おそるおそる手を伸ばす。どろどろに溶けてしまいそうな愉悦の波の中、蘭はそっと唇を近付けた。
「コナン君……新一――」
 後でどんなに咎められても構わないと、蘭は三度新一の名を口にした。
「蘭……愛してる――」
 唇が重なる寸前、囁きが耳をかすめた。
 はっと目を開き、間近の顔を見つめようとしたが、大きくうねる悦びに飲み込まれ、確かめる事は叶わなかった。
 ただ顔に幸せな笑みを浮かべ、蘭は意識を手放した。
「新一……」
 最後にもう一度、愛する人の名を呼んで。

 

 

 

 何かが倒れる物凄い音に、蘭ははっと飛び起きた。
 目覚めたばかりの頭はうまく回転しなくて、部屋が真っ暗な事に軽い混乱に見舞われる。起きるのは朝と決まっていて、朝は当然、明るいものだからだ。
 徐々に頭が働き出す。
 何故辺りが暗いのか、何故眠っていたのか、ようやく思い出した蘭はばたばたと一人慌てふためいて自分の身体を確かめた。
 パジャマを着て、しっかり毛布もかけていた。腰の辺りを探るが、どこにも不快感はない。
 恐らく、コナンがすべて整えてくれたのだろう。
 途端にかっと熱くなる頬を押さえようとした時、リビングからひどくご機嫌な小五郎の声が聞こえてきた。
「うぉーい、蘭。帰ったぞー」
「ダメだよおじさん、静かにして。もう遅いんだから」
「おーい、らーん」
「おじさんってば!」
 扉越しに聞こえるコナンのたしなめる声に時計を確かめると、もうそろそろ今日が終わろうとしていた。
 蘭はすぐさまベッドを降りると、一旦呼吸を整え、怖い顔を作りリビングに出た。
「……お父さん」
「はっ、毛利小五郎、ただ今戻りましたあ!」
 酔っ払い特有の間延びした喋り方で、小五郎はコナンを下敷きに床にへばったまま蘭に向かって敬礼した。
「ら、蘭姉ちゃん…たすけて」
 どうやら、肩を貸そうとして体格のせいでかなわず、そのまま潰されてしまったようだ。
「ほらお父さん、しっかり立って」
 情けない声で助けを求めるコナンの上から力ずくで小五郎をどかすと、あっちにふらふら、こっちにふらふらよろける父親を強引に部屋に押し込んだ。
 もちろん、寸前までお小言を欠かさずに。
「じゃあね、お休みなさい!」
 ばたんと扉を閉める。その後も何かわめいていたようだが、すぐにそれは大きなイビキに変わった。
「……まったくもう」
 腰に手を当ててふうとため息をつき、蘭は零した。
「じゃあ、ボクも寝るね」
「あ……待って」
 肘をさすりさすり脇をすり抜けるコナンに、蘭は思わず引き止める言葉をもらした。
「なあに?」
 きょとんとした顔で聞き返すコナンに、蘭も一拍遅れて合わせる。
「ううん……お休み、コナン君」
「お休みなさい、蘭姉ちゃん」
 無邪気な子供の顔でそう返し、コナンは部屋に戻る蘭を見送った。

 

 背中に、優しく笑みを浮かべる。

 

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