病弱探偵奮闘記-毛利蘭-

 

 

 

 

 

「この餌と今回の策があれば、今度こそあのにっくきコソ泥……白き翼を持つ怪盗キッドを召し取る事が出来るわ! 見ておれキッドめ、今度こそ儂の自伝に貴様の名を刻んでくれる!」

 

 

 

「……てなわけで、今回も次郎吉おじ様は大張り切りってわけ――あ、梓さん、私『今日のおすすめランチ』で!」

「はーい」

「んじゃ俺はミックスピザにするかな。それとコーヒー、アメリカンで」

「私はカルボナーラとオレンジジュースお願いします。コナン君は、何にする?」

「ボク、ポアロ特製ピラフとコーラ!」

「かしこまりました」

「……しっかし毎度毎度懲りないねえ、あのジイさん」

「私はキッド様に会えれば何でもいいけどね…ああんキッドさまぁ!」

「また園子はもー……うっかり京極さんに電話しちゃおうかしら」

「んもう蘭てば、そういう意地悪は言いっこなし!」

「今度の満月の夜八時だっけ、予告時間は」

「そうらしいな……ま、オメーは今回留守番だけどな。普段ならいざ知らず、片手にギプスしたお子様は邪魔以外のなにものでもないからな」

「だよね、えへへ」

「……コナン君――」

「お待たせしました、今日のおすすめランチが園子さん、ミックスピザとコーヒーが毛利さん、カルボナーラとオレンジジュースが蘭さんで、ポアロ特製ピラフとコーラがコナン君! コナン君のは更に特製で、怪我が早く治るように特別にサラダ付きにしたから、よかったら食べてね。マスターと私からのおごり」

「うわあ、ありがとう梓姉ちゃん!」

「ありがとうございます! 良かったね…コナン君」

「うん!」

 

 

 

「ふぃー……オメーと風呂入ると長くなっていけねえや……」

「……おっちゃんが毎度毎度我慢大会しかけてくるのが悪いんだろ……乗るオレもオレだけどよ……」

「ん……なんか言ったか?」

「ううん、お風呂ありがとう、おじさん!」

「蘭に、風呂あいたって言ってこい。したら髪乾かしてやっから」

「はーい。蘭姉ちゃん……あ、お風呂どうぞ」

「ありがと。今日も真っ赤っかになっちゃって……ふふ」

「そ…そんなに赤い?」

「うん、今日も立派なゆでダコ。可愛い!」

「……えへへ」

「……後で話があるから、部屋に来て」

「え……?」

「じゃあお風呂いってきまーす」

「あ……うん」

 

 

 

「おいボウズ、九時からヨーコちゃんのドラマが始まるから、時間になったら起こしてくれ。頼んだぞ」

「ちょ…おじさ……ってもう寝ちまいやんの。相変わらずはえーな。へいへい分かりましたよ……で、……」

「あの……蘭、姉ちゃん」

「どうぞ」

「え、と…は、話って何かなあ」

「あのさ」

「うん……」

「行けばいいじゃない」

「……え」

「キッドよ。行きたいんでしょ、行けばいいじゃない」

「蘭…姉ちゃん」

「私も行くし。一緒に行こう、コナン君」

「え、でもボク…今こんなだし……」

「今そんなでも、一人でこっそり行こうとしてる事くらいお見通しなんだからね」

「……ううん、行かない。蘭姉ちゃんに心配かけたくないから、行かないよ」

「まーったく……今まで散々心配も迷惑もかけてきた癖に、今更何言ってんだか」

「だから……行かないよ……」

「へえー……我慢出来るの? どーしようもない推理バカの癖に。我慢なんか出来ない癖に……だから、行こうよ。怪我なんて、なんだい! でしょ?」

「でも…蘭姉ちゃんに心配かけるのは……」

「だから一緒に行くの」

「え……」

「今頃何しているのかはらはらしながら一人で過ごすくらいなら、起こる物全部自分の目で見て納得した方がずっといいもの。一緒に行くわ。一緒に連れてってくれるって、言ったじゃない……それともあれ、嘘だったの? やだもうコナン君のウソツキ!」

「ウソじゃない! 言ったのは、ウソなんかじゃない……けど、これは……」

「そんな顔しない。コナン君は、そんな顔しないんだから」

「あ……」

「嘘だなんて、思ってないよ。まったく…何年付き合ってきたと思ってんの。私は探偵じゃないけど、声聞けばわかるわよ」

「………」

「でも多分…時々は声が出ると思う。止めたりとかすると思う…でもコナン君は気にせず前を見てて。コナン君の思う通りにやって」

「……うん」

「私はそんなコナン君を見てるから」

「……うん」

「私はそういう風に生きているって…そうじゃないと生きられないの。いつか新一が戻ってきたら、アイツにも伝えて。ちゃんと伝えてよ、コナン君」

「うん……」

「それから!」

「はい!」

「私が隣にいるって事、忘れないでよ。コナン君もアイツも、時々その事忘れちゃうんだから。いい、それだけはちゃんと頭に置いといてよ!」

「よく分かったよ…蘭姉ちゃん」

「困った事になったら右手くらいは貸して上げるから、心配しないで」

「蘭姉ちゃんの? じゃあ百人力だね!」

「でしょう、今度こそキッドにぎゃふんて言わせてやろう、二人…三人で!」

「うん!」

「よーし、じゃあお父さんはほっといて、今日はもう寝ましょう。早寝早起き!」

「え、で…でも……おじさん」

「お父さんなら大丈夫よ、時間になったら絶対起きるに決まってるんだから。今までもそうだったでしょ」

「うん、確かに。今までグーグー寝てたのに、ぱっと目を覚ましてた」

「でしょう、ヨーコちゃんに関してはもうすごいんだから……はぁ」

「あはは……」

「だからコナン君は気にしないで休んで。推理小説で夜更かしとかせずに!」

「う……はい」

「あら、何か不満そうね……いいわよ別に、夜更かししても。その時は、コーヒーとレーズンサンドの差し入れしてあげるから」

「い……いやいやいや! しないしない! もう、すぐ寝るよ!」

「冗談よ。でもホントにダメなのね。ちょっとかわいそ……」

「ああ……」

「お父さんは私が見るから、コナン君はゆっくりして……早く治りますように」

「ありがとう、蘭姉ちゃん」

「じゃあお休み」

「お休み…また明日」

 

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