スマイル!-夏- |
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一面の青空と、陽射しの白と、高く伸びた木々の緑が眩しい初夏。 そろそろ蝉が鳴き始め、夏服の季節が訪れる頃。 いつものように二人揃って登校途中、蘭が何かに驚いたようにぎくりと足を止めた。 前を歩いていたコナンが一拍遅れて気付き、振り返ろうとした瞬間、あっという間に抱き上げられ面食らう。 「ど、どうしたの?」 「見て、そこ!」 突然の事にびっくりしながら、蘭の喉に絡まったようなおっかなびっくりの声が指し示す方に目を向ける。 中々立派なミカンの木。葉は青々と茂り、ところどころ新芽が覗いて、小さな刺も堂々としたものだ。 「え……なに?」 まさかこれが見せたいわけではないだろうと、コナンは振り返って首を傾げた。 「ほら、そこよ。葉っぱの上!」 すると、焦れたように蘭は顎で手前の枝を示した。 「……ああ」 目を凝らし、ようやく理由を察する。 そこにいたのは。 「……青虫〜」 今にも悲鳴に変わりそうな声。 そんなに嫌なら、無視すればいいのに。 「大丈夫だよ蘭姉ちゃん。これ、アゲハの幼虫だよ。進むのも遅いし、刺も毒もないから、触っても平気だよ。ほら」 試しにと手を伸ばすと、蘭は「やだぁ、触らないでよ!」と大声を上げ、盾のごとく腕を回しきつく抱きしめてきた。 身体が密着して喜ぶより、あばらを一気に締め上げられた危機感の方が勝る瞬間… 「蘭姉ちゃん……くるし……」 ヤバイ、視界が霞む。 「あ…ご、ごめんね」 ようやく解放され、コナンは思い切り息を吸った。 「ねえ、そんなに嫌なら、いっそ育ててみれば?」 一息ついてから、仕返しとばかりに横目で見上げる。 「えぇ、やだぁ!」 途端に蘭はぶるぶると震え上がった。 「もう、コナン君のいじわる!」 「冗談だよ、ごめんなさあい!」 逃げながら振り返ると、いたずらっ子を叱るようなくすぐったい笑顔が目に入った。 振り返るといつもそこにある、何気ない幸せ。 |