スマイル!-春-

 

 

 

「ほらコナン君、見て見て!」

 水曜日の朝、いつものように学校へ向かう道すがら、ある家の前で蘭は足を止めコナンに呼びかけた。

「どうしたの?」

 はしゃいだ声に立ち止まり振り返ると、コナンは指差す方に目を向けた。
 綺麗に整えられた花壇一面に、淡い紫色の小さな花が咲き乱れていた。
 蘭はその前にしゃがみ込んで、花々に見とれていた。

「綺麗だね。ついこの間までつぼみだったけど、今は満開」

 零れ落ちそうなほどの笑顔で、蘭が言う。

「これは……」

 花の美しさにひかれるより情報の羅列を口にしかけて、コナンははたと口を噤んだ。

「そうだね」

 そして、彼女と同じく、風にゆれる花をただそのままに楽しむ。
 すると顔に自然と笑みが浮んできた。
 彼女の笑顔を見ていると、古ぼけた百科事典のかび臭さしかない心に、風が吹くのだ。
 比喩じゃなく、本当に風が吹く。

 淀んだ空気を一掃してくれる、柔らかな風が。
「さ、学校行こ!」
「うん!」

 差し出された手を握り、コナンは元気に頷いた。

 

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