one day

 

 

 

 

 

学校帰りに買い物を済ませ、いつものようにキッチンに立つ。

買い物袋の中身を冷蔵庫に移していると、ふと、テーブルに目がいった。

隅の方に、少ししわくちゃになった薬の袋が二つ。

片方は空っぽ、もう一方は。

半分残っている、咳止めの薬。

形容しがたい色の液体を目の高さに掲げ、蘭は眉間にしわを寄せた。

ラベルにある『小児用』の文字をきつく睨み付ける。

もうこれは必要ない、もうこれは用なし。

 

だって、帰り道、公園で子供たちとサッカーに熱中する彼の姿をこの目にしたから。

 

荒っぽくテーブルに置き、蘭はしばし考え込んだ。

何度か迷い、もう一度薬を手にする。

ふたを開け、そこにほんの少し薬を入れる…思い切って飲み込む。

「………」

思っていた以上の後味の悪さに、言葉も出ない。

ぎこちなく容器に目を落とし、蘭は長い事見つめていた。

大声を出したくなる衝動が強く弱く胸でうねる。

何も出来ないまま、ただ立ち尽くしていた。

ふと我に返り、薬をテーブルに置く。

途端に目の奥が、熱く滲んだ。

 

なんだろう…

 

こんな涙が出てくる自分に腹が立った。

 

もう…なによ

 

苛々をぶつけ指で弾く。

ごとんと倒れた容器はコロコロと転がり、並んだ調味料の瓶に当たって止まった。

忌々しげにぐすんと鼻を鳴らし、蘭は拾い上げた容器をゴミ箱に投げ入れた。

薬の袋もひねって丸め、同じように放り投げる。

ゴミ箱の中に埋もれた薬と袋。

 

少し、気が晴れた。

 

さあ、晩ご飯の支度をしよう。

今日は飛び切り美味しいハンバーグを。

あなたに。

 

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