XXX-キスキスキス-おまじない

 

 

 

 

 

 

それは夕飯の支度をしている時に起こった。

 

今日はナス味噌炒めに煮物にお味噌汁。

まな板の周りに材料を並べて、まずはナスから。

ナスは、うっかり気を抜くと小さなトゲが刺さり、これがまたことのほか痛い。

以前ひどい目にあって以来、充分気を付けるようにしているけれど…

今日またうっかり、トゲを刺してしまった。

「いたっ」

思わず声を上げると、隣で手伝いをしてくれていた彼が血相変えて指を覗き込んできた。

まるで、重大な病気で倒れた病人に駆けつけるがごとく大げさに。

「ちょっとトゲ刺しただけだから…」

「トゲだって甘く見ちゃダメだよ。ばい菌入って化膿したら、指が腐って落ちちゃうんだからね」

脅し文句につい神妙な顔になる。

その間に、彼は救急箱を取りに走り、戻ってくると、よく見えるよう眼鏡を外し再度指を覗き込んできた。

思いがけない行動に胸が一つ高鳴る。

「見えたよ。動かないでね」

ぎゅっと指先をつままれる。

一瞬ちくりと痛みが走り、反射的に「痛い!」と言う間にトゲ抜きは終わった。

「ごめんね、痛かったでしょ」

心配そうに見上げる顔に、少し恥ずかしくなって首を振る。

 

大きな身体してトゲくらいで痛いだなんて、みっともない

 

「大丈夫よ……」

言うと同時に手の甲に唇が触れる。

「おまじない。これでもう痛くないよ」

励ますように笑って、救急箱を片付けに走る背中を、茫然としたまま見送る。

 

どうしよう……

 

人差し指に絆創膏を巻いた手で、ゆっくり髪をかき上げる。

唇の触れた手の甲が燃えるように熱い。

 

今のって……

 

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