XXX-キスキスキス-ハプニング

 

 

 

 

 

それは旅先の旅館で起こった。

 

発端は、彼女が当てたとある旅館の宿泊券。

豊富な海の幸と地酒が有名な地ということで、三人とも、行く前から心躍らせていた。

特に一人は酒に目がなく、当日朝は行きの新幹線の中、昼は海鮮料理の美味い店で、

そして夜は泊まった旅館で。

止めるのも聞かず軽々と日本酒の小瓶を次々空けていった。

となれば当然、食事の途中でノックダウン。

彼女はいつもの事と気にもせず、目の前にずらりと並ぶ選り取りみどりの海の幸に舌鼓を打った。

 

慣れって恐ろしいな

 

悠然と食事を続ける彼女の隣で身震い一つ。

 

食事の後、心地好い満腹感に浸っていると、温泉へ行こうと誘われた。

つい喜んでしまう下心を慌てて打ち消し、揃って大浴場へ向かう。

途中の渡り廊下からは、中庭に設えられた鯉の泳ぐ池を眺める事が出来た。

「こんな風になってたんだ、綺麗だね」

「うん。あ、ほら蘭姉ちゃん、あそこ金色のがいるよ」

「え、どこどこ?」

同じ目線から探そうと、彼女が隣でしゃがむ。

「あれ、うーん……」

が、うまく見つけられないようだった。

「ほら、あそこ、あの四角い岩のところに……」

それならと指先で誘導し、顔を近付ける。

ところが距離感を誤ってしまい、彼女の頬に顔ごとぶつかってしまった。

「いて、ごめん」

上唇の内側に歯が当たり痛みが走ったが、自分の間抜けさに恥じ入る方が強かった。

「大丈夫、コナン君」

思わぬハプニングに彼女が笑いながら言う。

照れ笑いでごまかし、もう一度指をさす。

「あ、見えた見えた、ほんとに金色だね」

軽く流して、はしゃいだ声を上げてくれる彼女に感謝する。

 

大きな露天風呂にのんびり浸かり部屋に戻ってみると、綺麗に布団が敷かれていた。

しかし小五郎はそのどれにも入らず、座布団を並べた上に寝転がり高いびきをかいていた。

彼女が呼びかけてもまるで反応無し。

「もう、しょうがないなあ」

それもいつもの事と、彼女は掛け布団を隣に押しやりずるずると身体を引き寄せた。

途中で気付いた小五郎が、猫なで声で何事がわめくが、まるで気にせず身体を転がした。

「手伝うよ」

「ありがと。じゃあ、布団に転がしちゃって」

「うん」

敷布団の横に並べた小五郎の身体を、二人がかりで転がし寝かせる。

その上に掛け布団をかけて終了。

「ありがとう」

「ううん、どういたしまして」

「お茶でも飲もうか」

「うん」

頷き合って、同時に立ち上がる。

直後、双方から一点に向かって動いたせいで、彼女の唇が頬にぶつかってきた。

「いた、ごめんね」

「ううん……」

さっきと逆だねと笑おうとして、はたと気付く。

今のは、さっきのは、つまり。

 

気付かずに、ただのハプニングで済ませてしまえばよかった……

嗚呼、そんなつもりじゃなかったのに――

 

後悔してももう遅い。

意識せずにはいられない。

 

こうなっては、落ち着くまで俯いて立ち尽くすしかなかった。

 

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