サンデッキにて

 

 

 

 

 

 黄金色に輝く太陽が、水平線の向こうにゆっくり沈んでいく。

 遠く後方の空は褪せた水色、太陽に近付くにつれ、赤く、赤く、染まっていく。

 眼下にはどこまでも続く大海原。穏やかな波はすでに、夜の色へと変わりつつあった。

 そんな中縦一文字に輝く波…沈みゆく太陽の光を受け、まるで揺らめく黄金の橋のよう。

 キラキラと乱反射を繰り返す様は、不思議なほどゆったりとした気分へと誘う。

 耳を澄ませても聞こえてくるのは波の音ばかり。

 船の上、遠く陸地から離れて眺める夕日の雄大さに蘭は言葉もなく見とれていた。

 もうどれほどこうして、甲板に立っていただろう。

「綺麗だね……」

 ようやく零れた一言は、瞬く間に波に飲み込まれていった。

「……うん」

 続く声も、波間に零れ泡と変わる。

 低い位置から返ってきた声を受け止め、しばし考えてから蘭は口を開いた。

「こんな綺麗な夕日…新一にも見せてあげたいな……」

 一言一言、大事に綴る。

 うまく、伝えられただろうか。

 二人ではなく三人で見ていること。

 三人で、ここにいることを。

 正面を向いたまま、そっと様子を伺う。

 傍に寄り添う少年は、微動だにせず夕日に見入っていた。

 急に怖くなる。

 もし今の一言が、浅はかな響きを含んで彼の負担になってしまっていたら……

 瞬時に膨れ上がり胸を圧す不安は、こっそり覗き込んだ彼の顔に浮かぶ色――誰にもいえない秘密に少し翳っていたが、それでも強く胸に迫ってくる喜びに満ちていた――によって瞬時に消え去った。

 口に出来ない言葉を残さず受け止めてもらえた事が嬉しくて、思わず名前を呼んでしまいそうで、込み上げてくる喜びに動かされるまま、蘭は彼を抱き上げた。

「え…なに?」

 突然の事に驚いて上がる声にクスクス笑いながら、蘭は言った。

「上からの方がよく見えるでしょ」

「あ……うん」

 すぐに彼は大人しくなって、観念したように頷いた。

 背中越しでも、照れているのがよく分かる。

 でも離してあげない。

 たまにはこういうのもいいでしょ。

 たまに、なんだから。

「綺麗だね、コナン……君」

「……ああ」

 低く耳をかすめた囁きは、遠い日の向こうから聞こえてくるようだった。

 昔の…今の――

 十年を飛び越えて時が繋がったような不思議な感覚に、蘭はそっと笑みを浮かべた。

 抱きしめる腕にぎゅっと力を込め、胸の内でこっそり名を呼ぶ。

 こんなにもゆったりした気分にしてくれる彼に感謝しながら。

 

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