STEP BY STEP

 

 

 

 

 

 いつも一緒にいるのが、当たり前のようになっていた。

 クラスメイトにからかわれ、否定したり鬱陶しがってそっぽを向くけど、それは言葉だけで、本当にそう感じた事は一度だってなかった。

 いつも一緒にいるものだと、意識すらせずにいたから。

 隣にでもそうでなくても、ほんの少し見渡せばいつもそこにいる人。

 きっと自分が思うよりもずっと、意識してそうしていたんだろう。

 いつも一緒にいるのが当たり前でなくなってしまってから、そうと気付いた。

 声を聞かない日はないというくらい、毎日を共に過ごしてきた。

 

 そういう存在だった。

 

 ……今は違う。

 

 いつも一緒にいるのが当たり前ではなくなり、初めて抱く心細さが、たくさん零れた。

 でも自分以上に、辛い思いをしていた。

 そうと知らずに、零れたものをたくさんぶつけてしまった。

 怒りに任せて、不安がるままに、たくさんぶつけてしまった。

 

 声が聞けて嬉しいと言えば済むことなのに。

 

 電話越しの声、いつも密かに喜んでいた。

 どんなに憎まれ口を利いても、上手くかわしてくれる。

 だから安心して、ぶつけられる。

 自分以上に辛い思いをしている人に。

 

 声が聞けて嬉しいと言いたい。

 いつも、喉元まで出掛かっているのに、結局言えずに電話を切ってしまう。

 次の機会に言えばいいと、軽く考えていたからだ。

 

 ある日を境に、電話は二度とかかってこなくなった。

 

 私はまた、失敗してしまった。

 

 

 

 ぱっと目が覚める。

 毎朝の事で身体に自然染み付いた行動…枕元の目覚し時計を振り返ると、やけに視界がぼやけて見えた。

「…あれ」

 おかしいなと、蘭は目元に手をやった。睫毛が少し濡れているのに気付き、小さく驚く。

 指を見つめどうしたんだろうと考えをめぐらせば、うっすらと、夢の内容が頭を過ぎった。

 途端に胸が強く締め付けられたように苦しくなり、わけもなく切なさが襲ってくる。

「………」

 蘭は唇を引き結んだ。

「違う。違う」

 布団を頭まで被り、大げさに首を振って呟く。

 そうすると頭の中だけで思うよりずっと強く刻み込める気がして、蘭は繰り返し違うと言って聞かせた。

 他でもない、自分自身に。

 それでも――夢の中、取り返しのつかない過ちにいっそ消えてしまいたい気持ちを抱いた瞬間は、中々薄れてはくれなかった。

 自然と顔が歪む。

 けれどすぐに表情を変え、蘭は飛び起きた。

 まっすぐ洗面所に向かい、思い切りよく顔を洗って振り向くと、今日が休日だからとまた夜遅くまで読書に耽っていたのか、笑ってしまうほど寝ぼけ顔で立っているコナンが目に入った。

「あ……おはよ蘭姉ちゃん」

 だらしなく緩んだ顔に、思わずぷっと吹き出す。

「おはよう、コナン君」

 恥ずかしそうに苦笑いするコナンに身を屈め、蘭は言った。

「でも私は、コナン君がいるから大丈夫よ」

「え・え?」

 突然の一言に、コナンはぱちぱちと目を瞬いた。

 それが、彼女の夢から続いている言葉だとは、分かるはずもない。

「パン買いに行くけど、一緒に行く?」

 言うだけ言って部屋に引っ込む蘭に、一人残された新一は長い事考え悩んだ。

 

 

 

 結局、謎の一言が解明される事はなかった。

 真っ向から聞いてもはぐらかされ、ならばと仕掛ける誘導尋問にもまるで引っかからない。

 昨日の出来事、一昨日の出来事、彼女自身になったつもりで学校でのあれこれを推測してみるが、答えは出ない。

 謎は何が何でも解明したい性質だが……

 ――ま、いいからいいから

 崩せそうにない笑顔が相手では、さしものコナンも諦めるしかなかった。

 ……まあ、いいか

 しっかりと手を握り、並んで歩く蘭を見上げ、渋々納得する。

 日曜日の早朝はまだ人も車も少なく、そのおかげかどことなく空気も澄んで感じられた。

 冬が近いせいもあるだろう。

「寒くない、コナン君」

 吹き抜けた冷たい風に首を竦め、蘭は訊ねた。

「うん、平気だよ」

 出掛けに、一度はいいと断った上着を彼女が強引に着せてくれたお陰で、寒さは感じない。

 何より、手を繋いでいるのが心強い。

 傍目にはしっかりした姉とやんちゃな弟に映るものだが、自分たちには別の意味がある。

 二人…三人だけの秘密。

 そういえばと、コナンはふと気付いた。

 あの夜以来、こうして二人で出かける事が多くなったように思う。

 行き先は大抵近所で、目的も日々の買い物だとかただぶらぶらする為とか、どれもそう大層なものではない。

 それでも蘭は、家に自分がいる時は必ず誘って出るようになった。それ以前も同じようなものだったが、今ほど頻繁ではなかったと思う。どんな意味合いを込めて誘うのか、薄々感付いてはいた。

 あの夜以来、電話が出来なくなってしまった事に起因しているのだろう。

 蘭が自分を工藤新一と知る前なら、まだごまかしようもあるだろうと連絡を続けられたが、状況が変わってしまった今、それがどれほど危険な行為かは充分すぎるほど承知している。

 だから、工藤新一からの連絡を一切断つ事にした。

 そのせいでまた顔を曇らせる事になるのかと暗い気持ちになったが、予測は見事外れた。

 三人でいられるから大丈夫だと嘘偽りなく笑う彼女に、心救われる。

 彼女の完璧な協力には、いつも頭が下がる。

 百万べん礼を言ってもまだ足りない。

 だからこそ、失うわけにはいかない。

 何が何でも守る、誓う。

 いつか取り戻すと信じて待つ彼女の為にも。

「今日も混んでるね」

 頭上からの声に、コナンは顔を上げた。

 角を曲がってすぐの小さなパン屋は、昔からの馴染み客が多く、今日も朝から繁盛していた。

 ガラス越しに少しびっくりした声を上げ、蘭は店内へ入っていった。コナンも後に続く。

 この店一番のおすすめは、何の変哲もないバターロールだ。ふかふかでしっとりとした食感に、つい食べ過ぎてしまう。

「お父さん、四個じゃ足りないかな」

「五個は食べると思うよ」

「そうね。じゃあ、私が二個でコナン君が三個で、お父さんが五個……と」

 ひょいひょいとトレイに移し、蘭は一歩下がった。

「他に食べたいパンある?」

 遠慮しないでねと付け加え、棚を見回す。

 楽しそうにパンを選ぶ姿は、見ている方も幸せな気分にしてくれる。

「え、と…じゃあカレーパン!」

 せっかくの笑顔を曇らせてはもったいないと、コナンはたまたま目に入った正面の棚から一つを選び出した。

「ああ、できたて。ここのカレーパンも美味しいんだよね」

 にこにこしながら話し掛ける蘭に、ついつられて笑顔になる。

 このささいな一瞬が、誓いをより一層強いものにする。

 心なしか、顔が熱く感じられた。

「ありがとうございました」

 店を出ると、行きと同じく手を繋ぎ、蘭は歩き出した。

 少しこそばゆい、至福のひと時。

 と、蘭の視線がじっとこちらを向いているのに気付き、変な顔でもしていただろうかとコナンはどぎまぎしながら訊ねた。

「な…なあに蘭姉ちゃん」

「あ…ううん」

 対して蘭も、自分でも気付かぬ内の行動だったのか、慌てた様子で首を振った。

「あ…ねえ、今日は何も予定ないんだったよね」

 少しつかえながらも、さりげなさを装って話題を振る。

「う、うん」

 普段ならばはぐらかされた事に気付いただろうが、この時はごまかすので精一杯だったらしく、コナンは気にも留めず頷いた。

「じゃあさ、お昼どこかに食べに行かない? お父さんどうせお昼からパチンコ行っちゃうし」

 悟られぬよう声の調子に気を付けながら、蘭は続けた。不審には思われていないと知り、危ないところだったと密かに胸を撫で下ろす。

「二人で?」

 少し照れた顔でコナンは聞き返した。女性からのお誘いを断るなんて野暮な真似はしないが、どうにも照れ臭い。見た目はどうあれ、二人で出かけるという事は自分たちにとっては……

 そんな浮かれた気分は、蘭の次の一言で一気に崩れた。

「そうよ。せっかくいいお天気なのに、誰かさんみたいに家にこもって本ばっかり読んでたらもったいないじゃない。行こうよ」

 新一に対する遠回しの皮肉に、複雑な表情でコナンは見上げた。明るい声でさらりと嫌味を言ってのける。まったく、彼女には敵わない。

「……いいよ」

 むすっと唇を尖らせてみるが、これっぽっちも効き目はない。

「じゃあ、十一時半になったら出発ね」

 ほころぶ横顔に、コナンは笑って肩を竦めた。

 

 

 

 いつもよりのんびりとした朝食が済むと、いつもよりきびきびと身支度を整えて、小五郎は足取りも軽くうきうきと出かけていった。

 昨日珍しく勝ったのがよほど嬉しかったのだろう。

 呆れ気味に見送る二人の視線もなんのその、夜までには帰るからと言い残し弾むように階段を下りていく。

「もう、しょうがないなあ」

 そんな父親に文句を零しながら、蘭は後片付けに取り掛かった。

 すっかり見慣れた光景だ。こういう時は、何か別の話題を繰り出すに限ると、端で片付けを手伝いながらコナンは訊ねた。

「お昼食べに行くのって、どこ?」

「ああ、駅の向こうにある、小さなイタリアンのお店よ」

 すると、それまでの地を這う低い声から一転して明るい調子で、蘭は答えた。

「前に新一に連れて行ってもらった事があるんだけどね、どれもすっごく美味しいのよ」

 少しはにかんだ笑顔の蘭に、コナンは相槌を打った。

 もちろん――よく覚えている。

 静かで落ち着いた雰囲気に、彼女は緊張を隠せないでいた。そんなにかたくなる事ないと笑いながらその実、自分も肩に力が入っていたのを思い出す。

「あそこのケーキの食べ放題、まだあるといいなあ」

 きらきらと目を輝かせる蘭に、それが目当てだったのかと小さく吹き出す。

「蘭姉ちゃん、甘い物だーい好きだもんね。でもあんまり食べ過ぎると……」

「…ふーん、そういう事言うんだ。コナン君て意地悪ねー。まるで誰かさんみたい」

「……ごめんなさい」

 遠回しの皮肉はよく利く。

 コナンは素直に謝った。

 途端に笑顔になる蘭を悔しそうに見上げ、呆気なく白旗を揚げてしまった自分に小さく落ち込む。

「自分で言っといてなんだけど、誰かさんて誰かしらね。コナン君わかる?」

 わざと真剣な面持ちで聞いてくる蘭に、えへへとごまかし笑いを浮かべる。

「ま、いっか。そうだ、洗濯しちゃうから、洗い物あったら出しといてね」

「は、はーい」

 洗面所に歩き去っていく蘭の背中に大きくため息をつき、コナンは肩を落とした。

 ……やっぱ勝てねーな

 乾いた笑いをひとつ。

 

 

 

 手を引かれて歩く休日の町並みは、平日とはまた違った忙しなさで賑わっていた。

 駅前の広場で待ち合わせをする若い男女、親の手を引っ張り得意げに歩く子供、声高にお喋りをかわす女たち。

 低い位置からの眺めには慣れたつもりでいたが、あらためて見渡せば新鮮でもあり、少々辛い違和感でもあった。

「………」

 何とはなしに目に映る人の群れの中、気付けばカップルばかり追っている自分がいた。

 一旦地面を向いて区切り、コナンは顔を上げた。

 周りの誰より、綺麗な黒髪をなびかせ颯爽と歩くこの女が一番だと、心密かに自慢する。

 では、そんな彼女に手を引かれて歩く自分はどうなのかと問われれば――今はまだ上手く答えられる自信がない。

 と、隣で蘭が声の調子を上げた。

「……って言ってね、園子ったら怒って携帯切っちゃったのよ!」

 あんなに、京極さんからの電話待ってたのに!

 いよいよ話は佳境に差し掛かったとばかりに、少々大げさに表情を作り一度言葉を切る。

 言葉の大半を聞き流していたコナンは、大慌てで頭を切り替えた。

 ……ええと

「そ、それでどうなったの」

 いつもの他愛無いお喋りだと、ろくに聞かずにいた事を心の中で謝りながら先を促す。

「かかってきたよ、電話。それもすぐに。おかしいのがね、言葉は怒ってるのに顔は泣きそうになってて。ホント、園子ったら素直じゃないんだから」

 繋いだ手を揺らしながら、蘭は続けた。

「嬉しい時は嬉しいって、すぐに言わなきゃダメよね。今度言えばいいなんて後回しにしてて、その今度がなかったらどうするのよ、って、人のこと言えないんだけどね」

 ここだけの話よ

 付け加え、ふふと首を竦める蘭にわずかばかり複雑な顔で頷く。

 何を思って、誰を指して言っているのか、わかったからだ。

 俯きかけた顔をすぐに上げ、コナンは言った。

「そうだね、蘭姉ちゃんも素直じゃないしね」

「あら、悪かったわね」

 わざと斜めに見上げてくるコナンに、蘭もまたわざと怒った顔をしてみせた。

 そして二人して、声を上げて笑う。

 

 以前のように、同じ目の高さでからかう事も出来ないけれど、そんなことと笑い飛ばしてくれる彼女がいるから、自分もまたしっかり立っていられるのだ。

 

「帰りに地下街寄って、今日のおかず買って帰ろうね」

 通り過ぎる駅ビルの中、ずらりと並ぶ秋冬物に目を奪われながら蘭は言った。

「今日の夜は何食べたい?」

「えっとね、カレーライス」

「カレー好きね、コナン君」

 穏やかな微笑みを向けられ、照れ臭そうにコナンは目をそらした。

 そこで一旦、蘭が足を止める。おやと思う前に歩き出したが、売り場に未練があるらしい事はひと目でわかった。

「なんなら、ぐるっと見てく?」

「え…ううんいいの」

 目的の店は、駅ビルを通り抜けて行った先にある。

「ボクは平気だよ、別に。ゆっくり行こうよ」

 今にも倒れてしまいそうなほど空腹というわけでもない。

「そ、そう? じゃあ帰りに寄らせてね」

 約束を取り付けはにかむ蘭に、ふっと笑みを零す。同時に、少し気が――遠慮がちに申し出たのは、買い物が長くなる自覚があるということ――気が重いのも否めないが。

 賑やかな店内から賑やかな通りに出た二人は、両側に並ぶ様々な店を思い思いに眺めながら歩き、ついに目的の店に到着した。

 すぐ前を歩いていた若い男女が、一足先に店内へと消えていく。

 腕を組み、楽しげに言葉を交わしながら連れ立って歩く二人を、蘭はどこか嬉しそうに見つめていた。

 見た目はどうあれ、自分たちも彼らと同じ。

 それでいて、歳の離れた姉弟のような――

 二人…三人だけの秘密。

「ね、コナン君は何にする?」

 ショーケースに並んだサンプルと、それらの前に置かれた『本日のおすすめランチ』を指しながら、蘭はうきうきと声を弾ませ訊ねた。

 以前よりもメニューが多彩になったデザートにばかり目がいってしまうのが、ちょっぴり恥ずかしい。

 抑えても、はしゃいでいるのは一目瞭然とコナンは密かに笑いをもらし、伸び上がってショーケースを眺めた。少しずつ、目を上げていく。

 実を言えば、今日ここに来るのはあまり乗り気ではなかった。決まった瞬間から、上手く言葉では説明できないが、悔しい気持ちに似た感情がくすぶっていた。

 けれど、彼女が笑顔を見せるたびそれが取るに足らないものに変わっていって、こだわっていた自分が馬鹿らしく思えてくるから不思議だ。

 今では、一緒に来られて良かったとさえ思っている。

 

 ……これだから

 

 そっと感謝する。

 以前の自分では考えられない。素直に抱くのも照れ臭くて、否定していただろう。

 そんな、蘭の笑顔に誘われて浮かれた気分が、一瞬にして凍り付く。

 入口横の白いプレートに『小学生以下の入店お断り』の文字を見たからだ。

「………」

 どっと後悔が押し寄せる。

 蘭はまだ気付いていなかった。

「中に入って決めようか」

 優しく手を引き、店内へと誘う彼女を。

「……蘭!」

 渾身の力で引き止める。

 扉に手をかけたところで、蘭は足を止めた。

「ごめん……」

 不思議そうに振り返る蘭に、ごめんと言うしかない自分が歯痒い。

「え……あ!」

 そこでようやく蘭も、プレートの存在に気付いた。

「ごめ……」

「蘭姉ちゃんは謝んないで!」

 辛うじて『蘭姉ちゃん』と呼ぶ。思いがけず声を荒げてしまったが、そこまでは頭が回らなかった。悲しい顔をする女に、どう声をかけるべきかそれだけで頭が一杯になる。

 通りを行き交う人の群れから切り取られた二人は、しばし俯いたままただ立ち尽くしていた。

 少しずつ周りの喧騒が甦ってくる。

「……こういう所はさ、新一兄ちゃんと来たらいいよ」

 持てる力を振り絞って、コナンはなんでもない顔をしてみせた。

 彼女を傷付けないように

 悲しまないで済むように

 そこへ、食事を済ませた二人連れの女性が店から出てきた。彼女たちの邪魔にならぬよう脇に退き、しばしの躊躇の後、蘭は手を引いて歩き出した。

 まっすぐ前を見据えて。

 落ち込んでいるのだろうか。

 それとも、怒っているのだろうか。

 

 無言で歩き続ける彼女の表情を、恐る恐る見上げる。

 タイミングを同じくして、蘭は立ち止まった。

「べいかデパートの九階で、何か美味しいものでも食べよっか」

 繋いだ手を振り、蘭は明るい笑顔を見せた。

 一点の曇りもなかったが、まっすぐ見つめるのは心苦しかった。

「もー、そんな顔しないでよ。本当はどこでもよかったんだから。コナン君と一緒に食事が出来れば」

 しばし間を空けて、続ける。

「どこだって、思い出には変わりないでしょ」

 彼女の素直な気持ちが、ゆっくり、コナンを笑顔に変えていく。

 

 おいしいものいっぱい食べようね

 

 キラキラと輝く瞳が、目を奪う。

 少し涙に似て見えたが、零れる事はついになかった。

「今度――」

 ふと、先を行く蘭が言いかける。コナンは顔を上げて応えた

「……うん」

「――機会があったら、三人で来ようね」

「!…」

 夢のまた夢、どう頑張っても叶いっこない願い事なのに、彼女の口から出るものは、きっと本当になる、何が何でも叶えたいと力になる。

「うん、絶対来ようね」

 強く頷き、コナンは握る手にぎゅっと力を込めた。

 

 どこでだって、思い出に変わりはない。

 何の変哲もない今日に、特別な思い出を作ろう。

 

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