one day

 

 

 

 

 

 休日だからと楽をして、ポアロの出前で三人揃ってお昼の最中、今日の晩ご飯は何が食べたいかリクエストを募る。
 まず挙がったのは、この季節には定番の鍋物。おとといもその前も鍋をつついたが、寒さに震えながら目を覚まし、寒さに震えながら一日を過ごした後は、やはりあたたかい鍋を囲んでほっとしたいもの。
 では今日は…今日も鍋に決定。
 さて、何の鍋にしようか。
 すると父からコナンから、メモに書くのが追い付かないほど候補が挙げられた。

――これもいいな、これもいいよね。
――あれも美味しいよ、あれもいいよな。
――おでんにするって手もあるな、じゃあボク大根と、つみれと、こんにゃくと…

 二人は次々意見を出してはお互いの言葉に際限なく頷き合い、とてもまとまりそうになかった。
 ひとしきり聞いてから何にするか再度尋ねる。
 自分たちだけでは決めかねていた二人は、鍋なら何でもいいと「お任せ」を選んだ。
 お任せ、お任せね。
 じゃあ実際買いに行って、そこで決めようか。
 そうと決まればさっそく出かけよう。
 お供のコナン君を従えて、いってきますと事務所を出る。

「うーん……今日は何のお鍋にしようかな」
「ねえ、ねえ、蘭姉ちゃん、この前の、肉団子が入ったお鍋が食べたいな。あれ、すっごく美味しかった!」
「ほんと、嬉しいな、ありがとう。隠し味が良かったのかな」
「へえー。隠し味ってなに?」
「ふふ、内緒」
「えー、なんで? 教えてくれてもいいじゃん」
「だめー、内緒。じゃあ今日は肉団子鍋に決まりね」
「ちょ…ごまかさないで、教えてよ」

 だーめ。
 絶対内緒。
 だって作る楽しみがなくなっちゃうじゃない。
 もし教えたら、単なる『お手伝い』だけでなく最近色んな事を覚えて楽しくなってきたあなたの事、あの作り方もすぐに身につけてしまうだろう。
 そうしたら、私が作って、あなたが食べて、美味しいって喜んでくれる顔が見られなくなるじゃない。
 そんなのごめんだわ。
 だから絶対教えない。
 どんなに聞かれても、絶対内緒。
 そんな風に『可愛いコナン君』を出したって、絶対絶対教えない。
 繋いだ手を振ってみたり、拗ねてみたり、しょんぼりした声を出してみたり…どんなに策を弄しても折れないから。
 真面目な顔して推理しても無駄な事。
 でも。
 今はまだ左手が万全でないから『お手伝い』もごく簡単な事しか出来ず、一緒にキッチンに立つ時間が少ないから隠す事も出来るけど、いつまでも隠し通せる事じゃない。
 でも、でも。
 一緒に作って一緒に美味しいって言うのもきっととても嬉しいに違いない。

 嗚呼、なんて馬鹿げた悩み事。
 こんな事を思い悩んでいるなんて、どんな名探偵でも解き明かすのは無理に違いない。
 もし解けたとしても、理解も納得も程遠いに違いない。
 でも、だけど、そう。
 こんな事も楽しいと思ってしまう。
 それはきっと、ここに二人…三人でいるからに違いない。
 さあ今日も、腕をふるって美味しいお鍋に仕上げよう。
 私が作って、あなたが食べて、美味しいと喜んでくれる最高の瞬間の為に。

 

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