晴れる日もある

 

 

 

 

 

 週末の夜。
 男は朔也を招き、食事ともう一つを共に楽しんだ。
 キスを交わしながらベッドに乗り上げる。
 前面を撫でても、大分骨が当たらなくなった。
 少し肉付きが良くなったように思う朔也の肌を手のひらでさする。
 感じやすい身体はそれだけで敏感に反応し、男を愉しませた。
 肋骨を数えるようにゆっくり動く手を、朔也は目で追った。
 男はそんな朔也に笑いかける。
 痩せて、どちらかといえば貧弱だった身体が、かなり見違えた。
 男は今度は背骨を確かめるように抱き寄せた。
 もう片方の手で熱く反り返った朔也を掴み、いいところを刺激する。
 気持ちいいと素直なため息に男の熱も煽られる。
 今までの会話でさりげなく聞き出せた話からは、朔也は施設にいた時も親戚の家にいた時も、あまり食事を取らない子だったようだ。
 口ぶりから、食べることが、あまり楽しくないことのように感じられた。
 もう入れたいと熱い喘ぎと共に、朔也がまたがる。
 潤んだ眼差しで伺うように見つめられ、男は衝動的に口付けた。
 積極的に絡んでくる舌を吸い、もっととねだる声により深く口内を貪る。
 またがってきた足を男は丁寧に撫でた。
 ここも、大分健康的に引き締まってきた。
 それでもまだ朔也は痩せっぽちだが、以前と比べれば随分見違えた。
 甘い声を上げて、朔也は仰け反った。
 彼の中に入ってゆく感触に男も束の間息を詰めた。
 知る限りでは、朔也は特に食が細いことも残しがちなこともないように思えた。
 一人前にはやや少ないが、きちんと食べきる。
 食べることが、楽しくなったのだろうか。
 ……自分と一緒にいるから?
 思い上がりたい自分をどうにか抑え、男はきつく朔也を抱きしめた。
 そのままゆっくり揺すって味わう。
 腕の中で時折跳ねるしなやかな肢体に見惚れ、男は深くまで貪った。
 少年の口から高い声が上がる度咥え込んだそこが締まり、男を喘がせた。
 自分も以前は、食べることにあまり執着がなかったと、男は片隅で思った。
 けれど彼と一緒にいる時は。
 彼と共にとる食事は。
 彼と過ごす時間は。
 しがみつく朔也の手が強さを増す。
 背筋をぞくぞくとさせるうわずった嬌声に男は息を荒げ、より一層強く突き入れた。
 目前に迫った限界に朔也は髪を振り乱して悦び、高く叫んだ。
 深い場所に注がれる男の熱いものを感じながら、朔也は二度三度と快楽の証を吐き出した。

 

 

 

 自分と入れ替わりに朔也が浴室に向かうのを見届けた男は、クローゼットから取り出したブランケットをソファーの背にかけた。
 以前寝具類を買う際に一緒に購入したもので、シンプルなボーダー模様が気に入って買ったのだが、これまで自分では使わずにいた。
 特に機会がなかったのだ。
 先日彼が体調を崩し、ようやく出番が回ってきた。
 が、そろそろしまう時期かもしれない。
 日が沈んでも、それほど寒さを感じない季節になってきた。
 シャワーを浴びて戻ってきた朔也は、ソファーの背にかけられたブランケットを手に取ると、ありがとうと小声で言っていつものように肩からかけた。
 落ち着いた紫に細めの暖色が横に走るブランケットは、思いの外彼に似合った。
 可愛らしくて、男はつい微笑む。
 朔也は中々座らなかった。
 笑ったことで気分を害してしまったかと、言い繕うつもりで男が口を開くが、それより先に朔也は言った。

「俺がいて、邪魔じゃないか」

 藪から棒の質問に男はそんなことはと目を瞬いた。
 もう何度かこうして隣同士で夜を過ごしてきたのに。
 素直に近付いきてくれない彼がもどかしくもあり、愛らしくもあった。

「いいや。君の方こそ、退屈していないかい?」

 朔也は静かに首を振り、行儀よく隣に座った。

「鷹久といると落ち着くから」

 後に続く言葉はやはり口を噤み、言おうとしない。
 しかし男には聞こえた気がして、肩を抱き寄せる。

「それはよかった」

 朔也の身体を包むブランケットに目を向け、男は言った。

「そんなに気に入ったなら、そのブランケットは君に譲るよ」
「俺が持ってたら、駄目だ」

 朔也は小さく首を振った。
 彼特有の遠慮かと男は言葉を重ねようとした。
 それより先に朔也は言う。

「鷹久の匂いが消えるから」

 男はグラスを手に息までも止めた。

「鷹久の匂いがして、落ち着くんだ」

 自分の言葉がどれほど影響を与えるかなんて素知らぬ顔で、ブランケットに包まりくつろいでいる。
 およそそんなことを言いそうにないのに、時折こうして不意をつく。
 いつだったか、美術館でも息の止まる思いを味わわされた。
 早鐘を打つ心臓をどうにか鎮め、男は酒に酔うのとは違う熱さに苛まれた顔を片手で覆った。
 しかし抑えても抑えても、口元に笑みが浮かんでしようがなかった。
 今日は、初夏並にあたたかい。
 暑いくらいだ。
 男はまいったと笑いながら、グラスを傾けた。

 

 

 

 平日の夜。
 男は朔也のように肩からブランケットを羽織ってみた。
 ほんの少し移った朔也の匂いがして、また笑いが込み上げてきた。
 今日は隣に彼はいなくて少し寂しいが、心はあたたかかった。

 

目次