Dominance&Submission

柔らかいもの好きなとこ

 

 

 

 

 

 激しい行為に疲れくたくたになった僚を浴室に運び、神取は隅々まで丁寧に洗ってやった。
 僚は少し…はっきりとふてくされた顔でそれらを受け、無言のまま椅子に座って、髪を乾かす男に身を委ねる。何度、立ち去ってやろうと思った事か。しかし座っているのもひと苦労で、それでは立って歩く事もままならない。たまらない悔しさに悶々としながら、僚は黙って座り続けた。弱い冷風で仕上げを施され、首筋をひんやり冷やすドライヤーの心地良さに思わずため息をもらす。脱力すると同時に息を飲み、慌てて険しい表情に戻すが、そうする端から身も心も弛緩して、髪を整える男の手にゆったりとくつろいでしまう。
 駄目だ、違う、まだふてくされているポーズを取っていたいのにこれじゃ駄目だ。違う違う。
 無駄な抵抗を繰り返す僚の百面相を、神取は鏡越しにこっそり見て取っていた。
 とろんと気持ち良さそうな目をしたかと思えば、次の瞬間にははっと唇を引き締める。なんどもそんな事を繰り返す彼が、たまらなく愛しくておかしい。
 可愛らしくてたまらない。
 それを言葉に出して告げたり、表情に出しては、たちまち彼の機嫌を損ねてしまうだろう。
 彼のプライドを守るには、より神妙な顔をして黙っているのが一番だ。
 耳の辺りで軽快に跳ねる癖のある黒髪を指ですき、神取は後片付けを済ませると、座る彼を腕に抱いて洗面所を後にした。静かに歩み、ソファーへと運ぶ。
 抱き上げる時、彼は渋々といった様子を前面に押し出して腕を回してきた。笑いを堪えるのが大変だった。
 ちょっとした仕草の一つすら愛しさを感じさせるなんて、すごい人だと思う。
 こちらの多少の無茶も受け入れ飲み込んで、より心をくすぐる反応を見せてくれる。
 たまらない。
 たまらなく愛しい人。
 いつか僚は言った…痛いけど、痛くない。平手も、鞭も、痛いし怖いけれど、男がするなら痛くない。
 そうは言ってもかけらも残らない訳ではない。
 実際に肌に衝撃は残る、数えきれないほど重ねられた平手の痛手は、今は奥の方で脈打つ鈍い疼きとなってしつこく僚を苛んでいた。
 耐えられないわけでない、飛び上がりそうなほど痛いわけでない、でも、でも。
 そのせいか、僚は抱っこをせがむ幼子のように男の膝にまたがって抱き付き、少し不貞腐れたような息遣いを繰り返していた。
 ソファーに座り、神取は静かにじっと僚を抱きしめ機嫌が収まるのを待った。
 僚の手は、この格好になった時からずっと、こちらの耳をいじくっていた。指で耳朶をつまんで、ぐりぐり、すりすり、遊んでいる。
 神取は気の済むまで好きなように開放し、抱っこを続けた。
 僚を抱っこして、自然に回った手を片方、尻に下げる。そして時々、ぽんぽんと叩いて宥めた。
 早く機嫌が直りますように。
 本当は更に、ゆらゆらと身体を揺らしたかったが、別の熱が滾ってしまいそうだったので、すぐにやめた。
 代わりにとんとんとあやしてやる。
 彼の身体でとりわけ柔らかいところ、好きなところを、邪な気持ちで触りたくなるのをぐっと堪え、神取は優しくとんとんと宥めた。彼にぐにぐにと摘ままれる耳朶が、段々と熱くなっていくのを感じながら、とんとん、とんとんと穏やかな時間を過ごす。

 

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