Dominance&Submission

そして、つまり

 

 

 

 

 

 自分で洗えると、少し強めに否定する僚にそうだねと頷き、神取は変わらず手を動かして身体を洗った。

「……できるのに」
「わかってる」

 俯き加減で小さく呟く僚に笑いかけ、湯をかける。
 自分で出来るが、やってもらいたい少年と、出来るのはわかっているが、してやりたい男の想いが複雑に絡み合う。

「さあ、綺麗になった」
「……ありがと」

 素直に感謝するのは癪に障ると、ふてくされた態度でくるんで寄越してくるのはいつもの事で、こうでなくてはと思っている男は嬉しさに頬を緩めた。
 僚もまたいつものやり取りが出来る事を楽しみながら、湯船に浸かった。気を付けて、と差し出される過保護な手を面白くなさそうに見やってしっかり掴み、肩まで浸かる。体温より少し高いくらいの、ぬるめの湯が気持ちいい。思わずため息が出る。
 いつもは続いて男も入ってくるのだが、まだ何かする事があるようで、洗い場に屈み込んだ。

「鷹久も……」

 つい、寂しくて、手を伸ばす。その手に、緩く絞った冷たい濡れタオルが渡される。目の上に乗せろと仕草で示され、僚は息を詰めた。

「冷たくて気持ちいいよ」

 泣いたからとは言わないところが、男の憎いところだった。

「……ありがと」

 こういうところも好きなんだ。
 僚は云われた通りタオルを乗せた。

「今、なんて」

 聞こえていてわざと問う男の声に、小さく唇を歪める。

「こういう事してくれるなら、誰でもいいって言ったんだよ」

 わざとつっけんどんに投げてくる僚に、頬が緩む。先ほどの続きという訳だ。彼らしい戯れに愛しさが込み上げる。

「つまり私の事だね」
「誰でもいいんだってば」
「あんなに何度も、好きだと言ってくれたのに」
「誰がそんな事を」

 知らないなあと続くとぼけた声がたまらない。可愛くてたまらない。素直でない言葉で素直に愛情を伝えてくる彼が好きで好きでたまらない。
 笑い声を潜めて見つめていると、まるで幻のように呟きが聞こえてきた。
 そうだよ。つまり鷹久の事だよ。

「他に誰がいるっていうんだよ」

 彼らしい憎まれ口に胸が満たされる。神取は笑いながら頬に唇を寄せた。

 

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