Dominance&Submission

腕の中で

 

 

 

 

 

 柔らかな拘束…チャコールグレーのマフラーが巻き付く両手をほんの僅か軋ませ、桜井僚はひくりと喉を鳴らした。啜るようにして息を飲み込む。
 背後から抱きしめてくる男の手が、硬い布の下に隠されたそれの形を確かめるように蠢く。上から下へ、下から上へ。そうするごとに段々とはっきりしてゆく形を慈しみ、時に包み込むようにして男は手を動かした。

「っ……」

 微かな喘ぎと共に肩が竦む。恥じらい匂う仕草に神取鷹久は口端を緩め、ジーンズの中に手を潜り込ませた。下着越しに触れたそれは驚くほど熱く、何故だか嬉しさが込み上げた。
 付け根をさすり、先端を撫でながら、同じように硬くなった自身のものを彼の背部に押し付ける。
 また、肩が跳ねた。
 神取は抱きすくめたまま肩や腕を撫で、同時に下腹を優しくあやした。

「ん……」

 布越しの愛撫に焦れ、僚は小さく身じろいだ。さっきからやけに頬が熱い。腿に擦り付けられる男の形に、顔がかっかと燃えるように熱くなった。
 この手が自由なら、男をもっと悦ばせられるのに。
 もどかしく思いながら、自ら腰を押し付けて煽る。身体中どこもかしこも疼いてたまらない。触られていないところはないくらい感触を覚え込まされた身体が、男の手を欲して切なくよじれる。
 鼻を啜った時、男の濃い匂いがした気がして、喉が引き攣った。僚はごくりとつばを飲み込んだ。口内にある舌を意識した途端、男のものを一杯に頬張りたくなる。喉の奥まで圧迫されて、息が苦しくなるあの瞬間に酔いたくなる。
 と、まるで心を読んだかのように指先が唇に触れてきた。僚はぎょっとして身を強張らせた。
 男の指はしばらく下唇を行ったり来たりなぞった後、内部に入り込もうとする動きを見せた。一瞬抵抗してから、僚は素直に口を開けて指しゃぶりを始めた。
 指はするりと入り込み、舌を撫でた。僚は口をすぼめて含み、くねる指に舌を絡めた。
 いやらしい。
 背後から、幻のように囁きが聞こえた。
 一瞬でかっと頬が熱くなり、怒りが込み上げ、だのに嬉しくもあった。笑いにも似た囁きに目がくらくらする。
 相変わらず、硬いものは後ろで存在を主張していた。嗚呼なんて硬いんだろう。意識を向けると、自身のものも同じだけ張り詰め、張り裂けそうに痛みを伴って脈動した。

「ああぁ……」

 とうとう我慢出来なくなり、僚は大きく身震いを放った。愚図るように身じろぎ、背後に立つ男に身体をすり寄せる。
 再び、吐息ほどの笑いが耳をかすめた。口の中の指がゆっくりと抜き去られる。僚は慌てて吸い付き、名残惜しそうに見送った。
 神取はゆっくりと抱擁を解き、向き合う形になる。
 僚は心持ち俯き、目だけを上げて男を見やった。支配者の貌でゆったりと微笑み、満足そうに眺めてくる眼差しを、少し恨めしげに見やる。

「手首はきつくないか」

 尋ねる声に大丈夫と曖昧に答え、僚は唇をぎゅっと結んだ。自分だってあんなに興奮しているのに、どうして平気そうな顔が出来るのだと見当違いの怒りが込み上げる。
 目付きや唇の強さから、彼の抱える不満を読み取った神取は、ますます楽しくなって頬を緩めた。
 彼が今すぐにでもしたい事やしてもらいたい事は自分も同じで、我慢して堪えるのも中々きついところだが、じれったそうに顔を強張らせる様を見るのはやはり楽しくて、ついつい長引かせてしまう。

「さあ、脱いでしまおうか」
「!…」

 言葉と同時に手を伸ばすと、大げさなほど身体がびくりと反応した。一瞬の事で、神取は気にせずジーンズを脱がしにかかった。
 ホックを外し、ファスナーを下ろし、彼の輪郭に沿って引き下げる。

「………」

 僚は呼吸を最小限にとどめ、されるがままになった。まるで親に世話される幼児になったようで、身の竦む恥ずかしさに頭が眩んだ。
 肩を縮め、羞恥に耐える姿に神取は笑いが止まらなかった。もちろん、心の中だけに留める。表面上は、彼が不満をぶつけたくなるような、余裕たっぷりの貌を取り繕う。
 右足を抜き、次いで左足に移る。
 恥ずかしそうにしているのを殊更じっくり眺める。少しでも長く楽しめるように、休み休み手を動かす。彼は耳まで赤くして俯いた。上向いて目を見合わせると、慌てて顔を背けた。
 一瞬一瞬がぞくぞくする、たまらない。
 彼とこうして遊ぶのは嗚呼なんて愉しいのだろう。
 下着越しに、彼の形がはっきりうかがえた。脱がそうと手をかけると、抵抗まではいかないが、咳き込む音に似た息遣いが口からもれ落ちた。
 神取は笑みを深め、するすると薄い布を引き下ろした。
 今にもはち切れそうな若い猛りが姿を現す。
 低い、短い呻きがもれた。
 しばし顔を見つめる。
 見ている事は視界の端に捉えてわかっているだろうが、僚は決して目を合わせようとはしなかった。
 なにかしらからかいの言葉を投げかけられるに違いないと、そうなってもいいように、はっきりわかるほど強く奥歯を噛みしめているのが見て取れた。
 ならば逆に何も言うまいと、神取は目線と手の誘導でソファーに乗せる。
 その格好はさながら、窓の外を見たい電車の中の子供。
 拘束した両手は背もたれを掴ませる。きっと、汚してしまわないか心配しているだろうから。この位置から動かさなければ、彼が恐れる事態にはならない。
 神取は背に覆いかぶさるようにして寄り添い、冬着の少なく貴重な露出している肌…頬や顎に順繰りに唇を押し当てた。
 少し癖のある艶やかな髪を撫で、ついばむように頬に接吻する。
 ん、と喉の奥で小さく鳴き、僚は顔を向けた。
 相変わらず目を見合わせようとしない。羞恥かそれとも不満からか、意地でも目線を反らしたまま、しかし甘えた仕草で頬をすり寄せ、唇に吸い付いた。
 いっぱいに首を曲げて接吻してくる彼に応え、舌を絡めると、思いがけず胸が熱くなった。肉欲の直接的な興奮と、純粋な愛しさからくる甘さがないまぜになって、胸に渦巻く。
 神取は衝動に突かれるまま彼の身体を撫でさすった。むき出しの腿は若者らしく張りがあり、少々細いが触り心地が良かった。くすぐったそうに時々身体が小刻みにわなないた。その反応が面白くて、つい夢中になって撫でまわす。

「あ…たかひさ……」

 いつまでも脚を撫でるばかりの男に焦れ、僚は何度も目を瞬きながら呼びかけ
た。
 どうした、と愉しんでいるかのような声が返ってくる。半ば予測した通りだが、腹が立ってしようがなかった。
 むず痒さに反射的に震えてしまう度、下腹で己のものがびくんと揺れるのが伝わってきた。硬く張り詰めたまま、ちっとも萎えず、痛いほど反り返っている。そうなるように触ったのに、どうして今は触ってくれない。

「たかひさ……」

 不満を込めて口を開くと、一番に男の名が出た。もうすっかり口に馴染んだ、愛しい人の名前。

「ここにいるよ」
「……もっと、触って」
「もっと……どこを?」

 笑い交じりに言いながら、神取は腿をさすって単調に手を上下させた。

「もっと……っ」

 言いかけて、僚はひくりと息を飲んだ。男の手が何かしらのいたずらを仕掛けたからではない。
 自分がいる場所が、思いとどまらせたのだ。

「だめ!」

 直後、男の手がそっと熱茎を包み込んできた。僚は腰を揺すって拒んだ。

「触ってほしかったのは、ここじゃない?」

 僚のひどく焦った様子から、それとなく読み取った神取は、楽しげに口端を持ち上げ手を動かした。

「ちが…あ、まって……!」

 うろたえ、僚は泣きそうな声で首を振った。
 しかし神取は手を止めない。ゆるゆると扱き、親指で先端を舐める。だめ、と繰り返される声は、始めは切羽詰まっていたものの、次第に甘ったるい力の抜けたものになっていった。拒む動きも、すぐに応えるものに変わった。素直な、欲張りな彼が出てきたところで、神取はどうしたと尋ねた。

「このままじゃ…ソファーが……」

 濡れた、弱々しい声が僚の口からもれる。
 粗相をして汚してしまうのを恐れ、僚はもじもじと腰を揺すった。
 思った通りであった。だから彼は、してもらいたい気持ちと申し訳なさの間で揺れてうろたえたのだ。
 彼が見ていないのをいいことに、神取は思う存分笑みに唇を歪めた。
 出来るだけ冷たく聞こえる声音を、背中に投げかける。

「なら、何をされてもいかずに我慢しなさい」

 そんな、と僚の四肢がびくりと強張る。

「先走りの一滴も零さずに。出来るね」
「むり……むり」

 力なくうなだれ弱々しく首を振る様に、腹の底がぞくぞく疼いてたまらなくなる。

「では、これでおしまいにするかい」
「いやだ……!」

 僚は髪を振り乱した。

「ではどうする?」

 考え込む沈黙がしばらく続き、やがて僚はかすれた声で言った。

「ゴムつけて…おねがい……おねがいします」

 辺りに飛び散らせて汚してしまわないように、そうしてほしいと願う僚を喉の奥で笑い、神取は用意した小さな包みを彼の鼻先にちらつかせた。

「そこまでして続けてほしいのかい」

 からかいに僚は奥歯を噛みしめた。一つきり頷く。

「たかひさだって…もう」

 そしてせめてもの抵抗に噛み付く。
 見えないところで神取は肩を竦めた。唇が笑いの形に歪んで戻らない。包みを破り開け、背後から手探りで彼のものを包み込む。たちまち、熱い声が零れた。

「んっ……!」
「いい声だ」
「……うるさい」

 力のない声を笑って受け流す。

「そう……私も、君とこうしたくてたまらなくなってる」

 心配事を取り除いた彼の熱塊をやんわりと手中に収め、軽く扱く。たったそれだけで僚は切なげな吐息をもらし、素直に腰を揺すった。
 しかし神取はすぐに手を離し、代わりに白く形良い尻を撫でた。

「ん……」

 もう一方の手は服の裾から潜り込ませ、呼吸で上下する様を確かめるように腹をさする。
 適度に弾力のある尻を存分に楽しんでから、奥まったところへ中指を差し向ける。
 たちまち、びくりと腹が緊張した。
 慎ましく閉じた窄まりを指先で柔らかく刺激し、円を描くように揉み込む。
 時折中に入りかける動きをすると、僚は敏感に反応した。その度に腹部が引き締まり、つい面白がって繰り返してしまう。

「うぅ……」

 ついにじれったい声がもれ、僚は膝立ちの足をもじもじと動かした。
 鷹久、と縋る声音に首筋がぞくりと疼く。
 我慢している声を聞くのがいいか。感じている彼を味わいたいか。選び難い二つに束の間揺れ、神取はゆっくり中指を進めた。

「ああぁ……」

 甘い、間延びした声を聞きながら、根元まで埋め込む。彼の内部はねっとりと熱く絡み付くようで、相変わらず心地よかった。
 早く自身のもので味わいたい。込み上げる衝動を飲み込み、神取はじわりじわりと抜き差しを繰り返した。指を折り曲げ、内側から性器を刺激する。くるりと捻って背中側を抉る。ねじりながら手を前後させる。
 僚は背後から送り込まれる快感に仰け反り、うなだれて、淫撫に酔った。

「うっ……」

 内部を弄る指が二本になる。少し増した圧迫感すら気持ち良くて、自ら腰を蠢かせた。最初きり放っておかれている下腹が、遅い脈動を刻んでいる。今すぐにも開放したくて、我慢出来なくなる。

「あ……」

 不意に頬に口付けを受け、僚は小さく身震いを放った。唇は耳朶やうなじに移り、微かな吐息が肌にかかる度、どうしてか泣きたくなるほどの気持ちが込み上げてきた。
 無意識に、口が笑みの形になる。
 後ろで絶えず動く手から、卑猥な音が聞こえてくる。それにつれて興奮が高まってゆく。
 ああいきたい。男の硬いもので奥まで突かれたい。
 激しさに頭が真っ白になる瞬間を味わいたい。
 頭の中で妄想を巡らせていると、胸の一点を軽く摘ままれ、僚は過剰に反応した。
 口から飛び出た声は色気のない、びっくりした時のそれ。たちまち恥ずかしくなり、僚は身を捩りながら喉の奥で唸った。

「そういう声も好きだよ」
「っ……」

 唇を動かすが、何も言う事が出来ない。
 構わず男は指にはさんだ突起を指先で擦った。くにゅくにゅと転がすと、今度は甘い吐息が零れた。同時に後孔がきゅうっと締まる。ふっと緩みまた食い絞めてくる内部の反応を堪能しながら、神取は二ヶ所を弄った。
 反応すまいと身を強張らせても、すっかり覚え込まされた身体は愛撫に感じてしまい、奥まで埋められた指を締め付けてまで快感を貪ってしまう。切ないような感触が次から次へ湧き上がり、腰が、身体全体が熱くなっていった。

「あぁ……もうだめ」
「……何が駄目?」

 聞きながら、左右の乳首を交互に弄る。後孔は休みなく責め続けた。
 ぶるぶると震えながら、もうだめ、と僚は繰り返した。

「おねがい……入れて」

 僚は、男のものを求めて手を動かそうとした。やりかけて、拘束されているのを思い出す。仕方なく元のようにソファーの背を掴み、首を一杯に曲げて見やる。

「たかひさ……欲しい」

 潤んだ瞳をまっすぐぶつけられ、わずかに身震いが湧いた。神取は気付かれぬようそっと喉を鳴らし、視線を絡め合わせた。

「何が欲しい?」
「ああぁっ!」

 後ろの指を小刻みに揺する。そうすると僚はわなわなと唇を震わせて、快感に喘ぐしかなくなる。過ぎるほど敏感な反応に気を良くし、神取は執拗に後ろを責めた。乳首を苛める手も休めない。少し痛いくらい強く摘まんではすぐに緩め、くすぐるように転がす。
 しばらくの間そうして震えるばかりの少年をたっぷり楽しみ、神取は手を緩めた。

「あ、あぁ…んっ……」

 荒れた息を何とか飲み込み、僚はごく小さな声で言った。
 お願い、と。
 気付けば涙が滲んでいた。拭おうとして慌てて思いとどまる。マフラーが汚れてしまう。仕方なく瞬きで追いやる。
 と、ゆっくり指が引き抜かれた。最中は、もうこれ以上苛めないでほしいと切なくなったが、去ってしまうとなるとまた別の切なさが込み上げてきて、身体が自然と震えた。最後の方は、自身の底なしのいやらしさにおののいての事だ。
 とうとう圧迫感がなくなる。それでもまだ内部に何か残っている気がして、ひくひくと喘ぐようにわなないているのが感じられた。

「ん……!」

 また指が触れてきたのだ。今度は中に入らず、震える様を楽しむ動きで這いまわった。

「い……入れて」

 鼻を啜りながら訴える。
 男の腕が、支えるように抱きしめてきた。
 ソファーから降ろされ、自分の足で立つまで、男は肩を抱きしめていた。ついうっとりと唇をほころばせる。

「じゃあ準備をして」

 一瞬の間を置いて理解した僚は、ぎくしゃくと頷き、ゆっくりゆっくり顔を上げた。
 神取は束の間少年に見入った。
 向かい合った顔はすっかりのぼせて紅潮し、息遣いも荒い。曖昧に向けられた瞳は潤み切って、眦が少し濡れていた。
 目線で誘導する男に従い、僚は真向かいにしゃがみこんだ。薄れかけていた幻の匂いが過ぎり、息も出来なくなる。
 意識して吸い込み、僚は胸元辺りに上げていた手を差し向けた。ベルトに触れたところで、それ以上動けなくなってしまう。
 男に奉仕するのが嫌なのではない。むしろ逆だ。心が逸るが、マフラーが気になって手を使うのをためらってしまう。もし汚してしまったら…でもしたい。でも嗚呼。
 ベルトに手をかけたきり硬直してしまった僚をしばし見下ろし、彼が何に葛藤しているのかようやく掴んだ神取は、楽しげに目を細めた。
 片手でマフラーの結び目を握り、そのまま高く引き上げる。ほんの少しだけ、乱暴に。
 一瞬抵抗があり、僚の顔が悲痛なそれに染まる。だのに唇にはうっすらと笑みが透けて見えた。彼を支配しているようでその実己が支配されている事実をあらためて思い知らされ、神取は腹の底がぞくぞく疼くのを止められなかった。
 これだから、彼と遊ぶのをやめられない。
 僚の眼に、興奮の涙がじわっと浮かぶ。こんな格好で迫られる事に恥ずかしさや惨めさがふつふつと込み上げてくる。異様なほど昂ってしまう。惨めな状況に追い込まれた自分に、うっとり酔い痴れる。
 神取はマフラーを掴んだまま、左手でベルトとホックを外した。
 ァスナーが下げられるのを、僚はもどかしく睨み付けた。下着越しに男のものを目にした途端、気のせいでなく全身が痺れた。膝でにじり寄り、何度も唇を押し付ける。くっきりと浮かび上がる男の輪郭に一撃食らい、鼻奥に入り込んでくる男の臭いにまた一撃食らう。

「……っ」

 なんて浅ましい真似をしているのだろうと頭の片隅で自覚しながらも、自ら顔を押し付けるのを止められなかった。
 ようやく下着がずらされ、僚は間髪を入れずむしゃぶりついた。小鼻をひくつかせながら口淫に耽る。
 喉奥まで受け入れ、唇で扱くにつれ、硬さは増していった。感じているのだと思うと無性に嬉しくなり、僚は無我夢中で男を貪った。
 時折、口中で怒漲が跳ね、同時に頭上から不規則な息遣いが降ってきて、更に喜ばせた。
 男の呼吸を乱しているのは他でもない自分なのだ、嬉しくてたまらなかった。
 舌や唇、硬い歯の感触、はあはあと苦しい息遣いまでも使って、僚は奉仕を続けた。
 少しして、男の左手が頬に触れてきた。僚は反射的に目を上げて確認した。
 きつく引き上げられていた腕が少し緩められる。立つように仕草で促され、僚は足を踏みしめた。

「さあ、さっきと同じ格好になって。おねだりしてごらん」

 ソファーの方へ誘導しながら男は言った。
 僚はぼうっと潤んだ瞳でふわふわと頷き、男に背を向けてソファーに乗り上げた。

「上手に出来たら、入れてあげよう」
「ん……」

 むき出しの尻をそっと撫でられる。
 僚は息を詰めた。
 卑語は口に出来ない。もうすべて知ってる男だが、だからしたくない。
 両手は拘束されており、自分で抱えて広げる事も出来ない。
 困り果てた末、僚は一杯に首を曲げて振り返り、して、と訴えた。
 熱く濡れた響きが、男の鼓膜を甘く犯す。
 目を見合わせると、僚ははっとしたように眉根を寄せ、すぐに正面を向いた。
 今にも乱暴に組みかかろうとしてどうにか思いとどまり、神取は持ち上げた両手でそっと彼の肩に触れた。

「は……」

 布越しにじわりと沁み込んでくる手のひらの熱がたまらなく心地良くて、僚は込み上げてくる思いをため息に交えて吐き出した。
 どうか早くとじれったく身を震わせる。後ろがしようもなく疼いた。
 沈黙にさえ感じてしまう自分が恥ずかしくて、だのに震えが止まらないほど気持ち良くて、今にもいってしまいそうだった。身体のあちこちが張りつめて痛い。そのじんじんとした痛みさえ心地良かった。
 神取は己のものを支えて背に覆いかぶさった。ひくひくと息づく小さな口にあてがい、ゆっくり押し込む。

「あぁ、あっ…んん」

 ぐぐっと腰を進めると、高く、間延びした声が僚の口から零れた。それは根元まで押し込むまで止まらなかった。

「……ああ」

 硬く漲った男のものが、自身の内部を一杯に満たした時、僚はため息にも似た声をもらした。ぎりぎりまで開かされた後孔にぴりぴりとした痛みが走り、腰が抜けそうになる。
 神取はしばらく動かずにいた。彼の口の中もいいが、ここは格別だ。熱くぬめって、きゅうきゅうと絶妙な力で締め付けてくる。早く、我を忘れて力強く抉り貪りたいが、こうしてじっと味わっているのもいい。
 じれったい感覚に自然と唇が緩んだ。
 始めはゆっくりと、ごくわずかな抜き差しを繰り返し、馴染んできた頃合いに大きく腰を動かす。

「ああ、あぅ…んん……あぅ」

 最奥に達する度、何とも言えぬたまらない喘ぎが上がった。まだ少し苦しそうだが、奥にしっとりと甘さを含んでいる。甘さがもっと増すように、神取は決して乱暴にはせず動いた。どうしても反射的に逃げてしまう腰を無理には追わず、彼の好きな最奥に刺激を送り込む。
 やがて、望み響きが僚の口からぽろぽろととめどなく溢れた。

「あぁあ……や、おく……んんん!」

 うなだれ、仰け反り、受ける快感に僚は素直に身悶えた。

「ここがいい?」
「うん…うん……あっ、いい…そこ」
「ここにもっと欲しい?」
「うん…して、おねがい」
「僚は素直ないい子だね」
「ああぁ……」

 流し込まれる甘い低音と、後ろからの快感とがあいまって、僚はおこりのようにぶるぶるとわなないた。
 腰の両側をしっかり掴む手がたまらない。音がするほど叩き付けられ、力強さに腰が抜けそうになる。

「あ、やっ……!」

 時々気まぐれに乳首を摘ままれ、前を扱かれる。もっと続けてほしいのに、男はすぐに手を離した。
 ぐずる響きで僚は喉を鳴らした。
 すると背後で男が笑う。

「だって、触られるのは嫌なのだろう?」
「っ……」

 つい弾みで言ってしまうのを意地悪く咎められ、切なさに首を振る。

「だって……」

 言葉に詰まる。その間も男は腰を動かし続けた。数度浅い箇所をくすぐり、数度より深いところまで抉ってくる。
 どれもたまらない刺激で、されるほどにしようもないほどの愉悦が積み重なって、もっともっと欲しくなってゆく。
 両手が自由なら、きっと自分で触ってしまっていた。男の突き込みに合わせて自身を擦り、乳首を苛めて、恥ずかしい声を上げていた事だろう。
 でも今は。

「た……たかひさ」

 切なく男に縋る。
 向かってくる視線をあえて無視して、神取は前に伸ばされた僚の腕をたどるようにしてさすった。拘束された手はきつく握りしめられていた。それを自身の手で包み込む。
 それからようやく、間近で、目を見合わせる。

「もっと触っていい?」

 大きく腰をうねらせる。
 力強く抉ってくる熱塊にわなわなと唇を震わせながら、僚は頷いた。

「もっと触ってほしい?」
「……おねがい」
「いやらしい子だね、僚は」

 からかい交じりの笑い声に、僚は喉の奥で呻いた。抗議を表しきつく眉根を寄せる。しかしそれも、男が腰を使うと呆気なくほどけた。低い呻き声も、すぐに甘いそれにとって代わる。
 僚はソファーを掴んだ手の甲に額を押し当て、背後から途切れなく与えられる愉悦に思うまま声をあげた。
 神取はしばらくとろけるような快感を与えると、おもむろに口を開いた。

「そんないやらしい子にはお仕置きしないと」

 言い終わると共に僚の尻を平手で打つ。

「あっ!」

 反射的に声が弾け、反射的に身体がびくりと強張り、強張りは内部にまで及んでいた。
 締め付けてくる内襞をかき分けるようにして、神取は深奥を捏ねた。
 咳き込むような声で僚は頭を反らせた。
 反応に満足し、神取は執拗に衝撃と快感を繰り返した。

「あぁっ……こんな、こんな……!」

 腰が抜けそうな、毒々しいほどの甘い痛みに声が止まらない。
 叩かれ、甘く責められる。
 一回ごとに妖しい官能が身体じゅうを駆け抜け、身体が自然と動いてしまう。力強く抉ってくる男に、無意識の内に腰を擦り付けていた。叩かれた瞬間は反射的に逃げても、その後にやってくる脳天が痺れるほどの愉悦を欲して、僚は腰をうねらせた。

「気持ちいい?」
「ん、ん……!」

 僚はうなだれたまま、がくがくと首を振った。

「自分の口で言ってごらん」
「あ、あぁ……たかひさ」
「ほら……気持ちいいと言ってごらん」

 動きの激しさとは裏腹の、優しく甘い囁きが鼓膜を震わせた。指の先まで痺れる錯覚に見舞われる。
 僚はひっひっと喉を引き攣らせた。
 気持ちいい、ああ鷹久、気持ちいい。もうだめ。

「もうだめ――!」

 何度目になるかわからない弾けるような衝撃の後、凄まじいほどの快感が一気に膨れ上がり、弾けた。
 僚はソファーの背を強く握りしめ、四肢を強張らせた。

「く、う……」

 射精を促すような強い絞り込みに見舞われ、神取は思わず呻いた。どうにか受け流し、彼が満足しきるまで奥を突いて、深くで止める。ぞわぞわと蠢く内襞がたまらない。しばし目を瞑って浸る。
 僚はうなだれたまま何度も何度も大きく喘ぎ、少しずつ息を鎮めていった。

「ああ、あぁ……」

 かすれた声をもらす僚に背後で薄く笑い、神取は身体の前面を撫でさすった。服の裾から手を潜り込ませて敏感な突起を摘まむと、たちまち身体がびくりと強張る。
 僚はいやいやと大きく首を振った。

「触ってほしいのだろう」

 くすくすと笑い声を交えて囁く。
 鼻を啜り、僚は頷いた。

「そう、なら……泣いても嫌がっても、やめてあげないよ」
「え、あ…だめ……!」
「駄目じゃない」
「ま……て!」

 冷ややかな宣言に背筋がぞっと引き攣った直後、強烈な突き上げに襲われる。絶頂の余韻に浸る間もなく再び追いつめられ、僚は揺さぶられるまま声を上げ続けた。
 音がするほど強く腰を打ち込みながら、神取は摘まんだ突起を絶妙な力でひねり、舐めるように指の腹を擦り付けた。力の加減を変えると、その度僚の口から上がる嬌声が変化する。

「ああ、あぁあ……ちくび、だめ……きもちい」
「そう、好きだね。こちらも可愛がってあげるよ」
「んん! だめぇ!」

 制止の声を無視して、神取は下腹をやんわり包み込んだ。一度いっただけでは満足できないとばかりに、硬く反り返っている。驚くほどの熱さに半ば無意識に頬を緩め、手を上下させる。

「や、あぁ……おかしくなる…い、い……!」
「いきたい?」
「うっ……いく、い……ああいっちゃう……あぁ!」
「いいよ。我慢せず出しなさい」

 身体中愛撫され、最奥を嫌というほど突かれ、あっという間に追い詰められる。
 もう我慢出来ないと、僚は激しく髪を振り乱した。男の手の動きに合わせて妖しく身悶える。

「ああぁ――!」

 大きく仰け反り、僚はきつくきつく硬直した。神取は全て搾り取るように手を動かし、やがてそっと離した。静かに自身を引き抜く。瞬間、小さな呻きがもれた。
 男の手が離れると同時に、僚は膝立ちの足を崩し、ずるずると力なくうずくまった。それでも手はソファーの背を掴んで、マフラーが汚れるのを拒んでいた。すっかり脱力しきっても、そこだけは譲れぬと頑固な彼を見て、神取は笑いが込み上げるのを止められなかった。
 ゆっくり屈み込み、耳朶に口付ける。ぴくりと僚の身体が反応する。少しして、のろのろと身体を起こした。
 僚は何度も瞬きを繰り返して涙を追い払い、男の顔を見ようとした。どうにか目が合うと、男はふと笑った。

「まだだよ」

 いっそ穏やかな声に僚はうっとりと頬を緩ませた。嗚呼…まだ苛められるんだ。息も出来ないほど溺れる、早く。早く沈めてほしい。
 ソファーから降りるよう誘導され、僚は少しふらつきながら自分の足で立った。
 その前に身体を割り込ませて神取はソファーに座ると、腰に腕を回して引き寄せた。

「あ……」

 自分の上にまたがれと目線で促す男に僚はごくりと唾を飲み込んだ。
 男は自身のものを片手で支え待ち構えていた。思わず目がそちらにいってしまう。釘付けになる。
 また喉を鳴らし、僚は身を寄せた。男の首にかけるようにして拘束された手を回し、抱き合う形になる。

「腰を下ろして……いいよ」

 言われるまま、恐る恐る足の力を抜く。再び男のものが身体を割って入ってくる。一度目よりもっと深く入ってくる男に、脳天が激しく痺れた。
 ぺたりと尻がつくまで、僚は聞く方が恥ずかしくなってしまうほど甘い嬌声を上げ続けた。

「ああ……かたい」

 気付けば呟いていた。僚ははっとなって息を飲み込み堪えようとした。しかしどうにも我慢出来ず、欲望に突き動かされるまま、男を咥え込んだ腰をうねらせた。
 神取もまた、形良い少年の尻を掴み押し上げるようにして抉った。耳元で絶え間なく喘ぎが零れる。吐息がくすぐってきて興奮。何もかもが近い。息遣いや体温が直に伝わって、触れてきて、気持ちがどこまでも昂る。

「いいかい?」
「うん…いい、すごく」

 僚は抱き付き、頬をすり寄せるようにして頷いた。それから少し離れ、目を見合わせてから接吻する。男とは数え切れないほど身体を繋げているが、何度味わっても尽きる事無く甘くて、頭の芯がびりびりするほど痺れた。
 男を受け入れて一杯に広がったそこを、意識して締め付ける。そのまま腰を上下させると、全身が熱くなるほどの快感に見舞われた。
 積極的な僚の様子に神取は頬を緩め、しばし貪るままに任せた。
 気持ちいい。うっとりとした呟きがもれる。自分もだと返し、健気な様子を見せる後孔に指で触れる。

「あっ!」

 高い声を上げ、僚はびくりと肩を弾ませた。
 彼の弱いところの一つ。
 こうしてぷっくりと盛り上がった縁をなぞると、中がきゅうきゅうと締め付けてくるのだ。
 やだ、やめて…僚は濡れた声で身を捩った。
 神取は制止の声を無視して尚も弄った。刺激にひくひくと震える後孔を、触れるか触れないかの絶妙さでそっと舐める。

「やだぁ……」

 僚は震える声をもらした。全身が痺れ、力が抜けてしまいそうになる。だからお願いだから止めてくれと訴える。

「もう……も…いじめないで」
「言ったろう…泣いても嫌がっても、やめてあげないよ」
「ああ…鷹久」
「ほら、もっと感じてごらん」
「いや……いや」

 首を振りたくリ、僚は愚図るように腰を揺すった。
 神取は抱き直してあやし、またじっくりと指先で舐めた。

「嫌じゃない。こうされるのが、好きだろう」
「ああいや、やだ……あ。あ、いい……気持ちいい」
「そう、もっと言ってごらん」

 より高みへ追いつめようと、神取は腰を使って突き上げた。始めはゆっくり揺さぶり、次第に動きを大きくして激しく突き込む。その間も手は休めず、片手を後ろに、もう一方で前を扱き追い上げる。
 僚の喉がひっひっと引き攣れ、激しい喘ぎを紡ぎ出す。

「あ、ああ! 気持ちいい……!」
「……私もいいよ。燃えるように熱く…絡み付いてきて」
「あ、あ…鷹久! 出そう、出そう……いく!」

 切羽詰まった声を聞き分け、神取は直前で動きを急変させた。わざと責めをゆっくりしたものに変えて焦らす。
 当然僚は髪を振り乱して抗議した。低い唸り声を、神取は楽しげに受け止めた。
 しばらくそうして中を擦り、とうとう腰の動きを止める。前を扱くのも止めて、拡がった後孔をそっと撫でたり、首筋を吸ったり。その度に中が締まった。

「あ…あああ……いやぁ…鷹久、いかせて」

 僚は啜り泣きにも似た声をもらし、男にきつく抱き付いた。
 頭がおかしくなるほど責められて、だのに寸前で取り上げられるなんて堪えられない。泣きたくなるほど切ない気持ちが込み上げてくる。その片隅で、男にいいように遊ばれる惨めな自分が情けなくて…気持ち良かった。

「おねがい」
「……いい声だね、どんな顔をしているか、見せてごらん」

 身体を起こそうと手があてがわれる。僚は首を振って抵抗するが、最後まで貫けなかった。

「私好みの、いやらしい顔をしているね」

 悔しさに歯噛みしてそっぽを向く。しかしどんなに強がっても、男が少し腰を揺するだけで呆気なく崩れてしまう。見せてやるものかと反発しても、すぐに男の好きな顔になってしまう。

「気持ちいい?」

 肉体的なものだけを言っているのではない。真意を読み取り、僚は首を振りかけて負け、頷いた。
 言葉が口をついて出る。

「く、う……変態」
「そうだね、でも違うよ」
「知ってる…知ってる」

 嗚呼腹が立つ、忌々しい。睨み付ける。そんな自分を面白がってる余裕たっぷりの態度がますます腹立たしい。どうしてくれようと僚は思いめぐらせ、浮かぶまま男の鼻先に噛み付く。それでも柔らかい、包み込んでくる微笑は変わらない。
 途端に申し訳なくなり、詫びを込めて鼻先に唇を押し当てる。次いで唇に触れる。もう一度、今度は深く。互いの舌と息遣いとが絡み合う。下品な音を立てて下唇に吸い付く。甘食みする。舐める、飲み込む。
 何度も息継ぎしてはまた貪る内、いきたくてたまらなくなる。
 我慢出来なくなりついには自分から腰を上下し始める。
 神取はしっかりと背を抱いて尚も接吻に耽った。
 荒い息の合間に告げる。

「いいよ…いい締め付けだ」
「く、う……気持ちいい?」
「ああ、君の身体、……たまらない…っ、……もういきそうだ」

 何度も頷くと、僚は今にも泣きそうな顔で笑った。
 眦までうっすらと朱に染まった、匂うほど色気のある表情が胸に迫ってくる。

「じゃ、あ…いっしょに……」

 僚ははあはあと喘ぎながら目を覗き込んだ。
 神取は尻を掴むと、何度も何度も己のものを突き込んだ。
 僚の唇から何度も何度も、短い叫びが零れる。若い男の子らしい、少し高めの張りのある声。時々ぞっとするほど甘く、時々苦しさに歪む。どちらも背筋がぞくっとする。
 彼の声は嗚呼なんて心地良いのだろう。急速に射精欲がせり上がってくる。
 自身の内部で一段硬さを増した男のものにおののいたように震え、僚はより強く男に縋り付いた。

「あぁもういくっ!」

 自ら腰をくねらせて貪る。神取は更に追いつめるべく前を擦る。
 きゅうきゅうと絞り上げてくる後孔を最後の最後まで責め抜き、最奥で熱を開放する。

「あぁ――ああ!」

 薄いゴムに包まれた男のものが自分の体内でびくびくとのたうっている。頭の中にくっきりと思い浮かべた瞬間、白い光が弾けた。

「あ、あ、あ……ああ――!」

 男の手の中で、僚は思いを弾けさせた。しばらくの間背筋を痙攣させ、絶頂に酔い痴れる。
 二人は抱き合ったまま、余韻に浸った。荒い呼吸はやがて鎮まっていった。
 少しして、僚が離れる素振りを見せる。神取は身体を支えて助けた。同時に、彼の手首に絡み付いていたマフラーを解きにかかる。
 彼が気にするより先に折りたたんで傍の背にかけ、改めて腕を取り丁寧に撫でさする。

「……だいじょうぶだよ」

 ぼそりと呟きがもれた。神取は頷き、もうしばらく撫でた後、自分の首に回させ抱きしめた。
 僚もすぐに抱き返し、事後の心地良い気だるさを共有する。
 冬着の厚い生地を通して、男の鼓動が伝わってくる。始めはかなり早く、それだけ興奮した証だと思うにつけ、頬がにやにやと緩んだ。
 それも段々と鎮まってゆき、それにつれて眠気に似たまどろみが漂ってきた。
 窓の外で降りしきる雪をぼんやり眺めながら、聞こえてくる男の鼓動に心地良く浸る。
 雪があんなに降って…外は凍えるような寒さだろう。でもここは暖かい。
 男の腕の重みや力強さが心に沁みてくるようだ。

「もっと……」
 ぎゅってして

 半ば無意識に呟く。
 微かにもれた響きをしっかり聞き取り、神取は優しく背中を撫でさすった。すると、抱き付いてくる腕により力がこもった。

「……好き」

 この上ない大切なものを綴る響きで、僚は言った。
 私もだという穏やかな響きと共に頭を撫でられる。しっかりと身体を抱く男の腕に、僚は心行くまで浸った。

 

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